偶然って何回まで?
偶然って何回まで?
読まない。
比べない。
気にしない。
この前、そう決めた。
三面記事も探さない。
都市伝説も調べない。
昔の設定ノートまで引っ張り出して、現実に起きたことと自分の漫画を比べたりもしない。
あんなことをしていたら、原稿が進まない。
だから今日は、ちゃんと仕事をしていた。
編集部へ行って。
原稿を見せて。
ミドリと打ち合わせをして。
それで帰る。
そのはずだった。
「ねえ」
打ち合わせが一段落したところで、ミドリが言った。
「何?」
「これ見た?」
嫌な予感がした。
ミドリが持っているのは新聞だった。
「見ない」
「何で?」
「この前言っただろ。もう気にしないって」
「何を?」
「ビーストギアの記事」
「ああ」
ミドリが笑う。
「でも、これは見た方がいいと思うよ」
「何で?」
「だって、これ」
新聞を俺の前へ置く。
「完全にセミスピーカーだから」
その一言で。
結局、見てしまった。
◇
三面記事だった。
今まで見た一行、二行の記事よりは少し大きい。
写真まで載っている。
それでも、一面に載るような事件ではない。
地方で起きた、ちょっと変わった騒ぎ。
扱いとしては、その程度だった。
見出しには、
『セミのような怪人姿の人物、住宅地で騒ぎ』
とある。
「……本当だ」
「でしょ?」
ミドリが横から記事を覗き込む。
「これ、どう考えてもセミスピーカーの真似だよね」
「セミで」
「うん」
「スピーカーみたいなものが付いてる」
「うん」
「怪人みたいな着ぐるみ」
「そのまんまじゃない」
記事を読む。
住宅地に、奇妙な姿をした人物が現れた。
全身はセミを思わせる外見。
身体には、スピーカーのようなものが付いている。
目撃者の一人は、
『テレビに出てくる怪人みたいだった』
と話しているらしい。
「よく作ったな」
「写真あるよ」
「どれ?」
「これ」
ミドリが指さす。
小さな写真。
鮮明ではない。
少し離れた場所から撮られたらしい。
そこに、人型の何かが写っている。
「……セミだな」
「セミだね」
「ここ、スピーカーか?」
「そう見える」
「これ、もうセミスピーカーじゃん」
「だから言ったでしょ」
ミドリは面白そうに笑っている。
「怪人側までコスプレする人、出てきたんだね」
「前からいたんじゃない?」
「いたかもしれないけど、新聞に載るほど本気なのは珍しいんじゃない?」
「新聞に載った理由はコスプレじゃなくて騒ぎ起こしたからだろ」
「それはそう」
俺も最初は、普通に感心した。
よく作ったな、と。
キッドを真似する子供がいる。
玩具のベルトを巻いて変身する子がいる。
子供向け漫画も売れている。
ゲームセンターにはぬいぐるみまであった。
だったら。
怪人を好きになる人がいても、何もおかしくない。
むしろ、今まで怪人側の話があまり出なかった方が不思議なくらいだ。
「すごいな」
「原作者として嬉しい?」
「怪人まで真似してもらえるとは思わなかった」
「そこ?」
「普通はヒーローの方やりたいだろ」
「怪人好きな人だっているでしょ」
「俺は嬉しいよ」
「じゃあいいじゃない」
「ただ、近所迷惑は駄目だけどな」
「それはそう」
ここまでは。
本当に。
ただのコスプレ記事だと思っていた。
続きを読むまでは。
◇
「……待って」
「何?」
途中で、指が止まった。
『怪人姿の人物は、その場で突然、大音量を発した』
「音?」
ミドリが記事を見る。
「ああ、スピーカー付いてるんでしょ?」
「まあ」
「そこまで再現したんだ」
「…………」
続きを読む。
突然響いた大音量に驚き、周囲にいた人たちは一斉に耳を塞いだ。
近隣住民からも騒音についての苦情があった。
さらに。
『音の振動により、周辺の建物の窓ガラスが激しく震えたとの証言もある』
「…………」
「すご」
ミドリが笑った。
「本当にスピーカー積んでたんじゃない?」
「これ」
「何?」
「セミスピーカーの能力、そのままじゃないか」
「だから再現したんでしょ?」
あっさり返された。
「見た目だけじゃなく?」
「好きな人ならやるんじゃない?」
「ガラスが震えるほど?」
「そこは記事が盛ってるかもしれないし」
「でも、周りの人が耳塞いだって」
「大音量なら塞ぐでしょ」
「それはそうだけど」
ミドリには、何も不思議ではないらしい。
記事を読みながら、むしろ感心している。
「名前がセミスピーカーなんだから、音まで出したかったんじゃない?」
「…………」
「セミの着ぐるみ着て、スピーカー付けて、無言で立ってたら何か違うでしょ」
「それは違うけど」
「じゃあ、再現度の高いコスプレ」
「コスプレで済ませていい音量なのか?」
「それは駄目」
「だよな」
「近所迷惑だから」
「そっち?」
「他に何があるの?」
「…………」
ない。
普通なら。
それだけだ。
セミスピーカーのコスプレをした人間がいた。
どうせやるなら能力まで再現しようと、大きなスピーカーを仕込んだ。
音を出した。
うるさすぎて苦情が来た。
ガラスが震えたという証言は、多少大げさに書かれた。
あるいは、たまたま別の振動が重なった。
終わり。
全部説明できる。
「これ、テレビ側にも連絡行ってるのかな」
ミドリが言った。
「何で?」
「作品の怪人そのままじゃない」
「ああ」
「危険な真似はしないでください、ってまた注意出すかもね」
「それは出した方がいい」
「今度は『怪人の真似も危険です』?」
「当たり前だろ」
「ヒーローだけじゃなくて、怪人まで注意される時代か」
「社会現象なんだろ」
「あ」
ミドリが笑う。
「認めた」
「今だけ」
「言質取った」
「取るな」
俺も少し笑った。
笑ったんだけど。
もう一度、記事を見る。
セミ。
スピーカー。
着ぐるみ。
大音量。
耳を塞ぐ人たち。
震えるガラス。
「…………」
そこまで。
再現するか?
◇
そのあと。
普通に打ち合わせをした。
テレビの話。
子供向けコミカライズの話。
サクラ関連の企画。
そして、俺への取材。
「それ断って」
「また?」
「漫画描かせて」
「全部は断れません」
「何で?」
「社会現象の原作者だから」
「さっきの取り消す」
「遅いです」
「一回言っただけだろ」
「聞きました」
「忘れて」
「嫌です」
いつもの話だ。
ミドリは、もう新聞の記事なんて気にしていない。
途中で新聞を畳んで、机の端へ置いてしまった。
それで終わり。
ミドリにとっては。
完成度の高いセミスピーカーのコスプレをした人間が、大音量を出して近所迷惑になった。
ちょっと笑える三面記事。
それだけだ。
俺も。
そう思えばいい。
◇
家へ帰った。
原稿を描いた。
ちゃんと進んだ。
今日は都市伝説を調べていない。
新聞も探していない。
昔の設定ノートも開いていない。
それなのに。
頭の中には、昼間の記事が残っている。
セミ。
スピーカー。
着ぐるみ。
大音量。
耳を塞ぐ。
ガラスが震える。
「…………」
似ている。
いや。
似ていて当然だ。
セミスピーカーを真似したんだから。
見た目が似ているのは当たり前。
スピーカーを付けるのも当たり前。
音を出すのも。
まあ。
分かる。
でも。
「……能力まで?」
口に出した。
セミスピーカーは、セミとスピーカーを組み合わせた怪人だ。
大音量を出す。
周囲の人間が耳を塞ぐ。
音が空気を震わせる。
そこまで含めて、俺が作った。
今日の記事は。
そこまで似ている。
「…………」
いや。
違う。
能力を知っていたから再現した。
それだけだ。
原作を読んだ。
テレビを見た。
セミスピーカーが何をする怪人なのか知っていた。
だったら、見た目だけじゃなく能力まで真似しようと考える人間がいてもおかしくない。
大きなスピーカーを用意した。
音を鳴らした。
近所迷惑になった。
それだけ。
何もおかしくない。
何も。
◇
夜。
ミドリからメッセージが来た。
『原稿進んだ?』
『進んだ』
『今日は都市伝説調べてない?』
『調べてない』
『えらい』
『子供か』
少し考えてから。
『昼の記事』
と送った。
『セミスピーカー?』
『うん』
『あれ面白かったね』
やっぱり。
ミドリには、それだけだ。
『能力まで再現してた』
送る。
返事はすぐに来た。
『ファンってすごいね』
それだけ。
「…………」
そう。
それで説明できる。
ファンが再現した。
それだけだ。
俺だって、そう思う。
思うんだけど。
これまでの小さな記事を、また思い出した。
大声。
怪人。
着ぐるみ。
動物と機械。
本物のキッド。
変身。
そして今日。
セミとスピーカーを組み合わせた怪人。
大音量。
耳を塞ぐ人たち。
震えるガラス。
一つずつなら。
全部説明できる。
ミドリの言う通りだ。
人気になった『ビーストギア』を、誰かが真似している。
だから似ている。
それだけ。
俺が気にしすぎている。
漫画家だから、関係のない出来事を勝手につなげている。
それも分かっている。
この前、自分で決めたばかりだ。
読まない。
比べない。
気にしない。
それなのに。
向こうから記事がやってきた。
そして。
また一つ。
共通点が増えた。
そんなふうに思ってしまった。
偶然じゃない。
真似だから似ている。
そう考えればいい。
そう考えるのが、一番自然だ。
ただ。
見た目だけじゃなく。
能力まで同じだった。
そのことだけが。
どうしても、少しだけ引っかかっている。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




