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時根の手記  作者: 時根脱才 


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似ているだけ



似ているだけ


 気にしないことにした。


 この前の都市伝説の話だ。


『ものすごい声だった』


 あの一行が、少しだけ引っかかった。


 でも、考えてみれば何もおかしくない。


 キッドの真似をする子供がいる。


 変身するときに大声を出す。


 それを見た誰かが、少し大げさにネットへ書く。


 終わり。


 それだけだ。


 だから気にしない。


 そう決めた。


 決めたのに。


 今日、仕事場で昔の原稿を探していたら、別のものを見つけた。


「……これか」


 初期の設定ノート。


 今の『ビーストギア』になる前から使っていたものだ。


 表紙もかなり傷んでいる。


 中身はもっとひどい。


 キャラクター。


 怪人。


 戦い方。


 思いついた台詞。


 没にした設定。


 使わなかった名前。


 意味の分からない落書き。


 とにかく、思いついたものを何でも書いてある。


 仕事で必要だったのは別の資料だ。


 だから閉じればよかった。


 でも。


 何となく、ページをめくった。


「……何て書いてるんだ、これ」


 自分で書いたのに読めない。


 昔の俺は、もう少し丁寧に字を書けなかったのか。


 ページをめくる。


「ああ、これ没にしたやつか」


 懐かしい。


 今見ると、何でこんなものを思いついたのか分からない案もある。


 逆に、


『これ、今なら使えるんじゃないか』


 と思うものもある。


 そんなことをしているうちに、怪人についてまとめたページが出てきた。


 動物。


 機械。


 日用品。


 生き物の習性。


 それぞれの特徴。


 複数のものを組み合わせて、一体の怪人へ落とし込む。


 今では当たり前にやっている。


 でも最初の頃は、かなり試行錯誤していた。


 動物だけ。


 機械だけ。


 それだと何か足りない。


 だったら別のものを足してみる。


 そこから能力を考える。


 戦い方を考える。


 見た目を考える。


 そうやって怪人を作っていた。


 そこで。


 この前見た都市伝説を思い出した。


『怪人みたいなものを見た』


 別の書き込みには、


『動物みたいな変な格好だった』


 と書いてあった。


「…………」


 いや。


 待て。


 動物っぽい怪人なんて珍しくない。


 俺だけが考えたものでもない。


 ヒーロー番組の怪人に動物モチーフなんて、いくらでもいる。


 そもそも『ビーストギア』という名前だ。


 それを真似するなら、動物っぽくなるのは当然だ。


「何考えてるんだ、俺」


 ノートを閉じた。


 探していた資料を見つけて、仕事に戻った。


     ◇


 戻れなかった。


 一時間くらいして。


 俺はまたノートを開いていた。


「……気になるなら確認すればいいだけだろ」


 誰に言うでもなく、そう言った。


 別に怖いわけじゃない。


 何かが起きていると思っているわけでもない。


 ただ。


 気になって仕事が進まない方が困る。


 だったら、一回確認する。


『ほら、やっぱり何でもなかった』


 そう思えば終わる。


 それだけだ。


 この前見た都市伝説を探した。


 すぐに出てきた。


『本物のキッドを見た』


『怪人がいる』


『ものすごい声だった』


 改めて読む。


 やっぱり大したことは書いていない。


 証拠もない。


 誰が見たのかも分からない。


 その中に、


『着ぐるみみたいだった』


 という言葉があった。


「着ぐるみ……」


 これも普通だ。


 怪人の格好をするなら、着ぐるみみたいになる。


 テレビの怪人だって、実際の撮影では人がスーツに入っている。


 むしろ着ぐるみっぽくなかったら、何を着ていたんだという話になる。


 何もおかしくない。


 次。


『動物と機械を混ぜたみたいだった』


 指が止まった。


「…………」


 これも。


 ビーストギアを真似しているなら、当たり前だ。


 俺の怪人がそういう作りなんだから。


 動物。


 機械。


 時には別のものも組み合わせる。


 それを見た人間が怪人の真似をする。


 似る。


 当然だ。


 次。


『声が変だった』


「変?」


 開く。


 詳しい説明はない。


『普通の人間の声じゃないくらい大きかった』


 それだけ。


「……大声」


 まただ。


 新聞。


 都市伝説。


 大声。


 怪人。


 着ぐるみ。


 動物と機械。


 並べる。


 並べると。


 少しだけ。


 それらしく見える。


「…………」


 いや。


 逆だ。


 俺が並べたから、それらしく見えるんだ。


 関係ありそうなものだけ拾って並べれば、何だって意味があるように見える。


「やめよう」


 画面を閉じた。


 今度こそ仕事へ戻った。


     ◇


 午後。


 ミドリから電話が来た。


「原稿どう?」


「やってる」


「本当に?」


「やってるよ」


「何か声変じゃない?」


「別に」


「寝てない?」


「寝た」


「何時間?」


「今日はそれ聞くな」


「やっぱり寝てないんじゃない」


「寝たって」


「じゃあ何してたの?」


「…………」


「何?」


「都市伝説調べてた」


 少し沈黙した。


「何で?」


「気になったから」


「気にしなくていいって言ったじゃない」


「分かってるよ」


「じゃあ何で調べてるの?」


「だから、気になったから」


「原稿は?」


「やってる」


「止まった?」


「……ちょっとだけ」


 電話の向こうで、深いため息が聞こえた。


「あなたさ」


「何?」


「自分で自分を怖がらせてない?」


「怖がってない」


「じゃあ何?」


「似てるんだよ」


「何が?」


「記事とか、都市伝説とか」


「何に?」


「俺の漫画に」


 少し沈黙した。


 それから。


「……当たり前じゃない?」


 言われた。


「え?」


「ビーストギアの都市伝説なんでしょ?」


「そうだけど」


「ビーストギアを真似した人の話なんでしょ?」


「まあ」


「じゃあ、ビーストギアに似てるでしょ」


「…………」


 何も言えなかった。


 正しい。


 あまりにも正しい。


「ほら」


 ミドリが続ける。


「あなたが描いた」


「うん」


「それがテレビになった」


「うん」


「人気になった」


「うん」


「真似する人が出た」


「うん」


「だから似てる」


「……うん」


「何がおかしいの?」


「何もおかしくない」


「でしょ?」


「……そうだな」


 電話の向こうで笑われた。


「漫画家って、想像力ありすぎるのも大変だね」


「馬鹿にしてる?」


「ちょっと」


「担当編集だろ」


「担当編集だから言ってるの」


「何を?」


「都市伝説調べてないで原稿描いて」


「はい」


「締め切り忘れてないよね?」


「覚えてる」


「都市伝説は逃げないから」


「別に追いかけてないよ」


「調べてたじゃない」


「……はい」


「仕事」


「はい」


 電話が切れた。


 正論だった。


 俺が描いた。


 テレビになった。


 人気が出た。


 誰かが真似した。


 だから似ている。


 それだけ。


「……俺、何やってるんだ」


 少し恥ずかしくなった。


     ◇


 原稿を描いた。


 今度はちゃんと進んだ。


 ミドリに言われたからではない。


 締め切りがあるからだ。


 たぶん。


 夕方。


 休憩しようと思って机から離れた。


 そのとき。


 開いたままにしていた設定ノートが目に入った。


 何となく見る。


 昔書いた怪人の案。


 動物。


 機械。


 音。


 声。


「…………」


 またか。


 そう思った。


 すぐに、自分で否定した。


「違う」


 俺が描いたものを、誰かが真似している。


 だから同じになる。


 順番はちゃんとしている。


 現実が俺の漫画に似てきたんじゃない。


 俺の漫画を見た人間が、現実で真似している。


 だから似ている。


 何もおかしくない。


 ノートを閉じた。


 今度こそ、机の引き出しへ入れた。


     ◇


 夜。


 ミドリから短いメッセージが来た。


『原稿進んだ?』


『進んだ』


『都市伝説は?』


『見てない』


『えらい』


『子供か』


『じゃあ締め切り守ってね』


『分かってる』


 それで終わった。


 ミドリにとっては。


 本当に、それだけの話なんだと思う。


 俺だって、そう思う。


 そう思いたい――なんて書くと、大げさすぎる。


 そんな話じゃない。


 ただの偶然。


 いや。


 偶然ですらない。


 真似しているんだから、似ていて当然。


 それが一番正しい。


 俺が勝手に関係ありそうな言葉を拾って。


 並べて。


 そこに意味があるような気になっているだけだ。


 漫画を描くときと同じ。


 ばらばらのものをつなげて、一つの話にしてしまっている。


 だから。


 これ以上、三面記事や都市伝説を自分の漫画と比べるのはやめる。


 仕事にもならない。


 時間の無駄だ。


 次に変な記事を見つけても。


 読まない。


 比べない。


 気にしない。


 そう決めた。


 たぶん。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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