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時根の手記  作者: 時根脱才 


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デートじゃない

デートじゃない


 今日はミドリと出かけた。


 この前、約束したやつだ。


 仕事ではない。


 少なくとも、待ち合わせをして顔を合わせた直後に、ミドリからそう念を押された。


「今日は本当に仕事の話しないでね」


「分かってるって」


「前もそう言った」


「今日は大丈夫」


「本当に?」


「資料持ってきてない」


「当たり前でしょ!」


 いきなり怒られた。


 そこまで怒ることだろうか。


「で、どこ行くの?」


「この前、ゲームセンターって言ってたでしょ」


「あれ本気だったの?」


「あなたが言ったんじゃない」


「そうだけど」


「嫌なの?」


「嫌じゃないよ。久しぶりだなと思って」


 高校の頃には、ミドリたちとゲームセンターへ行ったこともある。


 でも、大人になってからはほとんど行っていない。


 漫画家になってからは特にそうだ。


 遊びに行く時間があるなら描く。


 疲れたら寝る。


 起きたらまた描く。


 だいたいそんな生活になった。


「じゃあ行こ」


「おう」


 というわけで、今日は久しぶりにゲームセンターへ行った。


     ◇


「何する?」


「何でも」


「またそれ」


「じゃあ格闘ゲーム」


「いきなり勝負?」


「負けるの怖い?」


 ミドリがこっちを見る。


「言ったね?」


「何が?」


「絶対勝つ」


「その自信どこから来るの」


「高校の頃、俺の方が強かっただろ」


「いつの話してるの?」


「だから今も俺の方が――」


     ◇


 負けた。


「弱くなったね」


「昔はもっとできたんだよ」


「言い訳?」


「漫画家はゲームする時間ないんだよ」


「昨日何時間寝た?」


「それ関係ある?」


「ある」


「……五時間」


「寝なさい」


「締め切りあるんだよ」


「今日は仕事の話禁止」


「お前が振ったんだろ!」


 ミドリが笑っている。


 悔しいのでもう一回やった。


 また負けた。


「……何で?」


「私だってゲームくらいやるから」


「編集者って暇なの?」


「喧嘩売ってる?」


「ごめんなさい」


 三回目はやめた。


 勝てる気がしない。


 次はクレーンゲーム。


 ミドリが一つの台の前で止まった。


 中には、丸いぬいぐるみが入っている。


「これ、かわいくない?」


「まあ」


「欲しい」


「やれば?」


「取って」


「何で俺が?」


「こういうときは取ってくれるものでしょ」


「誰が決めたんだよ」


「いいから」


「自分でやればいいじゃん」


「格闘ゲーム二回負けたんだから、いいところ見せてよ」


「関係ある?」


「ある」


「さっき俺が同じこと言ったら怒っただろ」


「いいから」


 仕方なくやってみた。


 一回目。


 持ち上がらない。


「……これ無理じゃない?」


「まだ一回」


 二回目。


 少し動いた。


「ほら!」


「何がほらなんだよ。取れてないぞ」


「あとちょっと」


「それが店の罠なんだよ」


 三回目。


 もう少し動く。


「もう一回!」


「お前、完全に店の罠にかかってるぞ」


「あとちょっとじゃん!」


「その『あとちょっと』で金使わせるんだよ」


「漫画家なのに夢がない」


「漫画家関係ないだろ」


 四回目。


 駄目。


 五回目。


「……取れた」


「やった!」


 ミドリが本気で喜んでいる。


 景品を取り出して渡した。


「ほら」


「ありがとう」


「これ、普通に買った方が安かったんじゃない?」


「そういうこと言わないの」


「でも――」


「言わない」


「はい」


 ミドリはぬいぐるみを抱えて、満足そうにしている。


 まあ。


 喜んでいるならいいか。


     ◇


 ゲームセンターの中を歩いていると、またクレーンゲームが並んでいた。


 そのうちの一台を見て、俺は足を止めた。


「……あ」


「今度は何?」


「キッド」


 景品の棚。


 見覚えのある姿がいた。


『ビーストギア』のキッドだ。


 ぬいぐるみになっている。


「こんなの出てるの?」


「知らなかったの?」


「知らない」


「原作者なのに?」


「全部のグッズ把握できるわけないだろ」


 近づいて見る。


 かなり丸い。


 頭が大きい。


 手足が短い。


 俺の描いたキッドとは、だいぶ印象が違う。


「かわいい」


 ミドリが言った。


「キッドってこんな丸かったっけ」


「ぬいぐるみだから」


「俺、こんなの描いてないぞ」


「当たり前でしょ」


 その隣には、怪人のぬいぐるみまで入っていた。


「怪人までかわいくなってる」


「子供向けでしょ」


「こいつ、本編だと結構ひどいことするんだけどな」


「ここで説明しないで」


「でも、すごいな」


 何となく見入ってしまった。


 俺が怖く描いた怪人が。


 今は頭が大きくなって。


 手足が短くなって。


 クレーンゲームの中で、キッドの隣に並んでいる。


「取る?」


「いらない」


「即答」


「見本でもらえるかもしれないし」


「そういうところだけ原作者の特権使うんだ」


「金使って取れなかったら悔しいだろ」


「夢がないなあ」


「現実的と言ってくれ」


 そのとき。


 隣から大きな声がした。


「配信開始!」


 思わず振り向く。


 小学生くらいの男の子が二人いた。


 一人はキッドのぬいぐるみ。


 もう一人は怪人のぬいぐるみを持っている。


「いいねよろしく!」


 キッドのぬいぐるみが、怪人へ突っ込んでいった。


 怪人役の子が、


「うわー!」


 と倒れる。


 すぐに立ち上がって、今度は怪人のぬいぐるみをキッドへぶつける。


「またいる」


 俺が言った。


「何が?」


「真似してる子」


「もう珍しくないでしょ」


「そうだけど」


 この前は玩具のベルト。


 今日はぬいぐるみ。


 本当にいろいろなところへ広がっている。


 子供たちは俺たちには気づかない。


 当然だ。


 原作者の顔なんて知らないだろう。


 楽しそうに遊んでいる。


「……あれ見ると、やっぱり嬉しいな」


 俺が言うと、ミドリがこっちを見た。


「素直になった」


「別に前から嬉しいよ」


「前は『変な感じ』ばっかり言ってた」


「今も変な感じはする」


 自分が描いたものがテレビになって。


 玩具になって。


 漫画になって。


 今度はぬいぐるみになって。


 知らない子供がそれを持っている。


 そして、俺が考えた台詞を叫んでいる。


 たぶん何度見ても、完全には慣れないと思う。


「そのうち慣れるよ」


 ミドリが言った。


「そうかな」


「もっともっと有名になれば」


「これ以上?」


「嫌なの?」


「仕事増える」


「そこ?」


「大事だろ」


「普通はもっと喜ぶところでしょ」


「喜んでるよ。でも仕事は増やしたくない」


「わがまま」


「漫画描く時間なくなるんだよ」


 ミドリが笑った。


     ◇


 ゲームセンターを出たあと、少し歩いた。


 昼飯を食べるらしい。


 今日はミドリが店を決めていた。


「ここ?」


「うん」


「また俺一人じゃ入らない感じだな」


「いいでしょ、別に」


「いいけど」


 席につく。


 注文する。


 料理を待っている間。


「ねえ」


 ミドリが言った。


「何?」


「こうやって二人で出かけるの、何回目だっけ」


「高校の頃から数えるの?」


「今の話」


「さあ」


「覚えてないの?」


「何回か」


「何回か……」


「何?」


「別に」


「最近本当に『別に』と『何でもない』多いな」


「誰のせいだと思ってるの」


「俺?」


「そう」


「何した?」


「それ」


「何が?」


 ミドリがため息をついた。


「もういい」


「よくないだろ。俺のせいなんだろ?」


「いいの」


「分からないんだけど」


「分からなくていい」


 なら、どうしろというのか。


 料理が来た。


 しばらく食べる。


 今日は約束通り、仕事の話はしていない。


 俺としては、かなり頑張っている。


「俺、今日仕事の話してないよな?」


「それ確認した時点で仕事のこと考えてるじゃない」


「厳しすぎない?」


「普通です」


「そうかな」


「そうです」


「じゃあ何話す?」


「何でもいいでしょ」


「さっき俺が『何でも』って言ったら怒ったじゃん」


「そういう何でもじゃない!」


「難しいな……」


 それでも、話すことは意外とあった。


 さっき見た映画の話。


 高校の頃の話。


 最近食べたもの。


 昔の同級生。


 学校の近くにあった店がなくなったこと。


 ミドリが俺の知らない間に行った場所の話。


「高校の頃から思ってたけど」


 ミドリが言った。


「何?」


「あなた、漫画以外のこと本当に知らないよね」


「知ってるよ」


「例えば?」


「ゲーム」


「今日二回負けたけど」


「それは関係ない」


「他は?」


「映画」


「今日見たね」


「特撮」


「仕事に戻ってる」


「じゃあ……」


 考える。


「飯」


「それ趣味なの?」


「食べないと死ぬ」


「もういい」


 また笑われた。


 でも。


 仕事とは関係ない話をこんなに長くしたのは、久しぶりだった気がする。


 悪くない。


 飯も美味かった。


     ◇


 店を出る。


「今日は楽しかった?」


 ミドリが聞いた。


「うん」


「本当?」


「何で毎回確認するんだよ」


「じゃあ、また行く?」


「いいよ」


「今度はどこがいい?」


「どこでも」


「またそれ!」


「じゃあ……」


 少し考える。


「動物園?」


「え?」


「嫌?」


「嫌じゃない」


「じゃあそこ」


「本当に?」


「何で?」


「いや……」


 ミドリが少し笑った。


「じゃあ、今度は動物園ね」


「おう」


 次の予定が決まった。


 動物を見るのは悪くない。


 漫画にも使えるかもしれない。


 そこまで考えて。


 口に出すのはやめた。


 今日のミドリに言ったら、たぶん怒られる。


     ◇


 家へ帰ってから気づいた。


 今日は一日、仕事をしていない。


 漫画も描いていない。


 打ち合わせもしていない。


 資料も読んでいない。


 それなのに。


 街の中には『ビーストギア』がいた。


 ゲームセンターの景品。


 キッドのぬいぐるみ。


 怪人のぬいぐるみ。


 それを持って遊ぶ子供たち。


「配信開始」


「いいねよろしく」


 俺が机の前で考えた言葉を、知らない子供たちが当たり前のように使っている。


 俺が仕事をしていなくても、『ビーストギア』は勝手にそこにいる。


 少し前なら。


 自分の手から作品が離れていくようで、もっと変な気分になったかもしれない。


 今は。


 まあ、いいかと思う。


 作品って、そういうものなのかもしれない。


 作った人間の手を離れて。


 知らないところへ行って。


 そこで誰かのものになる。


 今日の子供たちにとって、あのキッドは俺のものじゃない。


 あの子たちのヒーローなんだろう。


 それでいい。


 そういえば。


 今日は新聞を見なかった。


『ビーストギア』関連の小さな記事も見ていない。


 だから、たぶん何も起きていない。


 ……いや。


 見なかったから何も起きていない、というのは変か。


 まあいい。


 ミドリが言っていた。


 今のところ気にしなくていい。


 なら、気にしない。


 次は動物園だ。


 動物を見るのも、漫画の資料になるかもしれない。


 ……やっぱり、これはミドリには黙っておこう。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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