増えている・後編
増えている・後編
この前、編集部で新聞を何枚も見せられた。
各地で起きている、『ビーストギア』に関係する小さな騒ぎ。
結論から言えば、
「今のところ気にしなくていい」
という話になった。
だから、今日は別の話を書く。
……と言いたいところだけど。
少しだけ、あの記事のことが頭に残っている。
別に怖いわけではない。
気になるというほどでもない。
ただ、あれだけ並べて見せられたせいで、
『ビーストギア』
という文字が新聞に載っていると、前より目につくようになった。
人間、一度気にすると駄目らしい。
今までなら読み飛ばしていたものまで見つけてしまう。
今日も駅で新聞を見たとき、
『ヒーロー姿の少年――』
という小さな文字が目に入った。
思わず続きを探しかけた。
でも、やめた。
ミドリに、
「気にしなくていい」
と言われたばかりだ。
自分から気にしにいく必要はない。
たぶん、また子供が変身の真似でもしたんだろう。
◇
今日は、子供向けコミカライズの話をした。
相変わらず好調らしい。
「また増刷だって」
ミドリが言った。
「また?」
「また」
「何回目?」
「そこまで知りたい?」
「いや、別に」
「じゃあ聞かないでよ」
「何となく聞いただけ」
「そういうところあるよね」
「何が?」
「何でもない」
まただ。
最近、ミドリの「何でもない」が増えた気がする。
それはともかく。
子供向けの『ビーストギア』は、俺が思っていた以上に大きくなっている。
この前、書店で実際に欲しがっている子供も見た。
テレビから入った子。
子供向け漫画から入った子。
玩具から知った子。
たぶん、いろいろいる。
「今度、合同で何かやりたいって話も出てるよ」
「合同?」
「あなたの原作版と、子供向け版」
「何するの?」
「まだ決まってない」
「じゃあ決まってから教えて」
「興味なさすぎない?」
「あるよ」
「見えない」
「決まってない話を聞いても、俺にできることないだろ」
「現実的だなあ」
「締め切りあるからな」
「それを言われると弱い」
ミドリは資料を一枚めくった。
「例えば、同じ怪人をそれぞれの漫画家が描くとか」
「それはちょっと面白そう」
「ほら、興味あるじゃない」
「決まったら教えて」
「結局そこに戻るのね」
俺の描く怪人と、子供向け漫画の人が描く怪人。
同じ設定でも、かなり違うものになると思う。
少し見てみたい。
俺が描くと、どうしても怖くなる。
子供向け版では、特徴を残しながら怖すぎない形へ整理している。
どちらが正しいという話ではない。
同じものを見ても、描く人間が違えば違うものになる。
最近、その違いが少し面白くなってきた。
前なら、
「俺の作品なのに」
という気持ちの方が強かったかもしれない。
今は、
「俺ならこうするけど、この人はこうするのか」
と思える。
それは、たぶん悪い変化ではない。
◇
サクラ関係の企画も進んでいる。
本編の物語を変えずに、その外側でできることをやる。
前に話し合った通りだ。
「サクラ役の子、また雑誌の表紙決まったって」
「すごいな」
「今度は単独」
「本当に売れたな」
「本人に『売れた』って言わないでよ」
「言わないよ」
「あなた、たまにそのまま言いそうだから」
「俺だってそれくらい分かる」
「本当に?」
「たぶん」
「そこは絶対って言って」
サクラを演じたことで彼女が注目されて。
彼女が注目されたことで『ビーストギア』を見る人が増えて。
作品を見た人がサクラを好きになって。
また彼女に注目が集まる。
今でも、その循環は続いているらしい。
本人が番組から退場したあともだ。
キャラクターがいなくなっても、人気まで一緒になくなるわけではない。
当たり前と言えば当たり前だけど。
自分の作品で実際に起きると、不思議な感じがする。
「そういえば、あなたにも取材依頼増えてるよ」
「断って」
「即答しない」
「漫画描きたい」
「原作者の仕事もしてください」
「漫画描くのが原作者の仕事だろ」
「今はそれだけじゃないの」
「何でだよ」
「作品がこれだけ大きくなったから」
最近、本当によく言われる。
テレビの打ち合わせ。
脚本の確認。
企画の監修。
雑誌の取材。
イベント関係。
俺が最初に想像していた「漫画家の仕事」から、どんどん離れていく。
「……有名になるの面倒だな」
「今さら?」
「漫画だけ売れて、俺は知られないのが一番いい」
「難しい注文ね」
「作者の顔なんて知らなくても漫画読めるだろ」
「読めるけど、今は原作者の話も聞きたいって人が多いの」
「何聞くんだよ」
「どうやってビーストギアを思いついたんですか、とか」
「描きたかったから」
「それで取材終わるよ」
「楽でいいじゃん」
「向こうが困るの!」
ミドリが頭を抱えた。
「もう少し何かあるでしょ」
「何かって?」
「影響を受けた作品とか」
「いっぱいある」
「創作するときに大切にしてることとか」
「面白くする」
「もうちょっと!」
「難しいな」
「あなた、本当にインタビュー向いてないね」
「だから断ってって言ってる」
「それとこれとは別」
別らしい。
面倒だ。
◇
資料を片づけていると、ミドリが言った。
「そういえば」
「何?」
「今度いつ空いてる?」
「取材?」
「違う」
「テレビ?」
「違う」
「打ち合わせ?」
「仕事から離れて!」
「じゃあ何?」
ミドリが少し黙った。
「この前、また行くって言ったでしょ」
「ああ」
思い出した。
「飯?」
「…………」
「映画でもいいけど」
「……そうね」
「何でその顔?」
「何でもない」
「またそれ?」
「いいから予定」
手帳を見る。
「今週なら、この日」
「空けといて」
「分かった」
「仕事入れないでね」
「急ぎなら仕方ないだろ」
「入れないで」
「分かったよ」
ミドリの機嫌が少しよくなった。
たぶん、こいつも最近仕事が多くて疲れているんだと思う。
俺を外へ連れ出すついでに、自分も息抜きしているんだろう。
そう考えれば分かる。
この前も映画と飯だった。
俺も楽しかった。
だから別に構わない。
「どこ行く?」
「まだ決めてない」
「また映画?」
「映画じゃなくてもいいけど」
「じゃあ本屋」
「仕事から離れてって言ってるでしょ!」
「本屋って仕事なの?」
「あなたの場合は仕事になるの!」
「じゃあゲームセンター」
「……それはちょっと面白そう」
「決まり?」
「まだ」
「じゃあ決まったら教えて」
「またそれ言う」
何が悪いのか分からない。
◇
家へ帰ってから。
この前ミドリに見せられた新聞の記事を、また少し思い出した。
各地で『ビーストギア』の真似をする子供たち。
変身ベルト。
マスク。
着ぐるみ。
大声。
通報。
こうして言葉だけ並べると、確かに少し変だ。
でも、実際の記事を一つずつ読めば、どれも大した話ではない。
子供が遊んでいた。
少し騒ぎすぎた。
近所の人が困った。
それだけだ。
だから、気にしなくていい。
たぶん、本当にその通りだ。
むしろ。
『ビーストギア』がここまで広がった証拠なんだろう。
昔なら、子供が『ビーストギア』の真似をして騒いだって、誰も記事になんかしなかった。
そもそも誰も『ビーストギア』を知らなかった。
今は違う。
作品名を見出しに入れるだけで、読んだ人に通じる。
それだけ有名になったということだ。
テレビ。
漫画。
玩具。
雑誌。
子供たちのごっこ遊び。
新聞の小さな記事。
いろいろなところに『ビーストギア』がいる。
そのうち、
『ビーストギアの怪人を見た』
とか。
『夜中にキッドが屋根の上を走っていた』
とか。
『誰もいない公園から「配信開始」と聞こえた』
とか。
本当に都市伝説みたいな話まで出てくるかもしれない。
もし出てきたら。
面白いやつは、こっそり漫画のネタにしてやろうと思う。
もちろん、そのまま使ったりはしない。
ミドリに怒られる。
そういえば今日。
駅で見かけた新聞に、
『ヒーロー姿の少年――』
という小さな見出しがあった。
あれも『ビーストギア』だったのかもしれない。
内容までは読んでいない。
読む必要もないと思った。
どうせまた、誰かが真似をしたとか。
そんな話だろう。
この前、ミドリと二人で笑ったばかりだ。
人気作品には、噂もつく。
変な話も増える。
そのうち都市伝説になる。
今のところは。
それくらいに考えておけばいい。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




