増えている・前編
増えている・前編
今日、編集部へ行ったら。
ミドリが新聞を並べていた。
一紙ではない。
二紙でもない。
何日分かの新聞が、机いっぱいに広がっている。
しかも、ただ読んでいるという感じではなかった。
何かを探して、見つけたところへ印までつけている。
「何してるの?」
「調べもの」
「珍しい」
「失礼ね」
「俺の担当って、新聞切り抜く仕事だったっけ」
「あなたのせいでやってるんだけど」
「俺?」
何もした覚えがない。
締め切りは守っている。
たぶん。
「何かやった?」
「その聞き方やめて。心当たりあるみたいだから」
「ないよ」
「じゃあ、こっち来て」
ミドリに呼ばれて机へ近づく。
「ほら」
指さされたところを見る。
小さな記事。
その中に、見覚えのある言葉があった。
『ビーストギア』
「ああ」
最近、何度か見たような記事だ。
「また?」
「また」
地方版の三面記事。
しかも、その中でもかなり小さい。
数行程度しかない。
『人気特撮番組「ビーストギア」の登場人物を模した衣装姿の児童が公園で騒ぎとなり――』
「これがどうしたの?」
「次」
ミドリが別の新聞を指さす。
『ビーストギア風のマスクを着用した少年らが商店街で――』
「次」
さらに別。
『ヒーロー番組をまねた子供の大声に住民から苦情――』
「これ、ビーストギアって書いてないじゃん」
「本文には書いてある」
「よく見つけたな」
「仕事だからね」
「俺なら絶対飛ばしてる」
「でしょうね」
「断言するなよ」
「あなた新聞読むとき、漫画の資料になりそうな記事しか見てないでしょ」
「それは新聞を読んでるって言うんだよ」
「言わないと思う」
ミドリは次の新聞を見せる。
『手製の変身ベルトを着用した児童が――』
「いや」
俺は記事を読む。
「これは普通じゃない?」
「私もそう思う」
「じゃあ何で取ってあるの?」
「一応」
「その『一応』が分からない」
ミドリが椅子へ座った。
「編集部でね、ちょっと話になってるの」
「何が?」
「こういう記事、増えてない? って」
「増えてる?」
「だから並べてるの」
「なるほど」
改めて机の上を見る。
一つだけなら何とも思わない。
二つでも偶然だろう。
そもそも、どの記事も大きな事件ではない。
でも、こうやって何日分かをまとめて並べられると、それなりの数に見える。
「いつから?」
「ここ最近」
「特撮始まってから?」
「それは当然でしょ」
「何で?」
「放送前からビーストギアの真似してる子供がいたら怖いでしょ」
「……確かに」
それは怖い。
「もっと正確に言うと、人気が一気に上がってからかな」
「ああ」
それなら、むしろ普通な気がする。
テレビを見る人が増えた。
子供向けの漫画も売れた。
玩具も売れている。
実際、街で変身の真似をしている子供も見た。
見ている子供が増えれば、真似をする子供も増える。
真似をする子供が増えれば、その中には少しくらい騒ぎになる子もいる。
母数が増えた。
それだけの話じゃないだろうか。
「当たり前じゃない?」
「私もそう思ってる」
「じゃあ終わりじゃん」
「編集部の人が、一応原作者にも見せておいた方がいいんじゃないかって」
「何で?」
「作品名が出てるから」
「俺にどうしろと」
「別に何もしなくていいと思うけど」
「だよな」
「ただ、何かあったときに『知りませんでした』よりはいいでしょ」
「それはそうか」
俺は新聞を一枚取った。
一番古そうなものから読んでみる。
ビーストギアのヒーローらしい格好をした子供が走り回った。
近所の人から苦情。
親が迎えに来た。
終わり。
「平和だな」
「新聞記事にすることかな、とは思うけどね」
「地方版って、こういうのも載るんじゃない?」
「まあね」
次。
玩具のベルトをつけた小学生が、友達とヒーローごっこをしていた。
誰がキッド役をやるかで揉めたらしい。
最終的に、近くの店の商品を倒した。
「これ、弁償大変だっただろうな」
「見るところそこ?」
「大事だろ」
「まあ、大事だけど」
「ヒーローごっこで店壊したら駄目だろ」
「当たり前です」
「キッドもそんなことしない」
「そこは原作者っぽい」
「どういう意味だよ」
次。
商店街で変身ポーズ。
通行人と接触。
「これは危ない」
「でしょ?」
「怪我は?」
「軽いみたい」
「ならよかったけど」
俺は少し考える。
「親御さん、ちゃんと見ててほしいな」
「ちょっと責任感じてる?」
「責任っていうか」
記事をもう一度見る。
「真似してくれるのは嬉しいけど、それで怪我したら嫌だろ」
「まあね」
「番組でも『危険な真似はしないでね』とか出せないの?」
「もうやってる」
「早いな」
「当然でしょ」
「知らなかった」
「あなた本当に見てる?」
「見てるよ!」
「じゃあ何で知らないの?」
「本編終わったら気が抜けるんだよ」
「最後まで見なさい、原作者」
「はい」
どうやら、できることはすでにやっているらしい。
危険な真似はしないよう注意する。
玩具も安全を考えて作られている。
それでも子供が遊べば、何か起きることはある。
「じゃあ、できることはやってるじゃん」
「そう」
「それ以上は無理だろ」
「だから、基本的には気にしなくていいって話になってる」
「じゃあ」
俺は机の上いっぱいの新聞を見る。
「何でこんなに並べたの?」
「私がちょっと気になったから」
「何が?」
ミドリが、その中から一枚を取った。
「これ」
渡される。
読む。
『住宅街で、ビーストギアを模した衣装姿の少年が大声を上げ、近隣住民が驚いて通報――』
「これも普通じゃん」
「うん」
「何が気になったの?」
「大声」
「子供なんだから大声出すだろ」
「そうなんだけど」
ミドリは別の記事を出す。
「こっちも」
『公園でヒーローごっこをしていた児童の声が大きすぎるとして、周辺住民から苦情――』
「だから子供は大声出すって」
「そうだよね」
「変身するときなんて、むしろ小声の方が嫌だろ」
「何で?」
「想像してみろよ」
俺は少し声を落とした。
「……配信開始」
ミドリが吹き出した。
「何それ」
「嫌だろ?」
「嫌っていうか、元気ない」
「だろ?」
「体調悪そう」
「だから大声でいいんだよ」
「近所迷惑にならない程度にね」
「それはそう」
自分でやっておいて、少し恥ずかしくなった。
「何か怖いこと言いたいの?」
俺が聞く。
「別に」
「じゃあやめてくれよ」
「何で?」
「無駄に気になるだろ」
「あなた、こういうの気にしないタイプじゃなかった?」
「気にしないよ」
「今、気にしてる」
「お前が新聞並べるからだろ」
「じゃあ忘れて」
「簡単に言うな」
ミドリが笑った。
俺も、もう一度記事を見る。
大声。
騒音。
変身ごっこ。
着ぐるみ。
マスク。
手製のベルト。
別に、つながってはいない。
場所も違う。
子供も違う。
起きたことも違う。
強いて共通点を挙げるなら、全部『ビーストギア』の人気が原因というだけだ。
「何かさ」
「何?」
「こうやって並べると、都市伝説みたいだな」
「都市伝説?」
「各地で謎のビーストギア少年が出現」
「同じ子じゃないでしょ」
「分かってるよ」
「じゃあ……」
ミドリも少し考える。
「夜な夜な現れる謎のキッド」
「そうそう」
「目撃すると次の日、変身ベルトが家に届く」
「怖いな」
「ベルトをつけると人格が変わる」
「もっと怖い」
「午前零時に鏡の前で『配信開始』って三回言うと、本物のキッドが――」
「子供が夜更かしするからやめろ」
「そこ?」
「大事だろ」
「都市伝説に教育的配慮を求めないでよ」
「俺の作品名使うなら求める」
「原作者だねえ」
「当たり前だ」
二人で笑った。
さっきまで少しだけ気になっていた新聞の山も、急に馬鹿馬鹿しく見えてきた。
そうだ。
都市伝説みたいなものだ。
人気作品には、よく分からない噂がつく。
撮影現場に幽霊が映った。
存在しない放送回がある。
深夜にだけ見られる最終回がある。
役者が本当に怪人を見た。
そういう話。
「そのうち本当に出そうだな」
「何が?」
「ビーストギアの都市伝説」
「もうネットにはあるんじゃない?」
「あるの?」
「知らない」
「何だよ」
「今度調べる?」
「仕事増やすな」
「嫌ならいいけど」
「でも、ちょっと見たい」
「どっちなの」
「面白そうなのだけ教えて」
「注文多いなあ」
ミドリは笑いながら新聞をまとめ始めた。
「これ、捨てるの?」
「一応取っておく」
「また一応」
「何かあったときに確認できるでしょ」
「何かって?」
「例えば、大きな事故になったりしたら」
「ああ」
それなら分かる。
今は笑い話でも、怪我人が出れば話は変わる。
作品を真似した結果、大きな事故が起きた。
そうなれば、テレビ側も出版社側も対応を考えなければならない。
「じゃあ、そのときは教えて」
「分かった」
「今のところは?」
「気にしなくていい」
「了解」
ミドリは新聞の束をまとめて、机の端へ置いた。
これで、この話は終わり。
少なくとも今のところは。
各地で起きているのは、人気番組を真似した子供たちの小さな騒ぎ。
俺もミドリも、そう考えている。
新聞の山を見れば、確かに少し不気味に見える。
でも、一つずつ読めば笑えるような話ばかりだ。
人気作品には噂がつく。
真似する人も出る。
そのうち都市伝説だって生まれるかもしれない。
それくらい有名になった。
今は、それだけのことだ。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




