変えない方法
変えない方法
今日はテレビの人たちと、サクラについて話をした。
最近、サクラの話ばかりしている気がする。
本人はもう番組から退場したのに、いなくなってからの方が名前を聞く回数が増えている。
変な話だ。
打ち合わせには、俺とミドリ。
それからテレビ版のプロデューサーや脚本を担当している人たちが集まった。
議題は、最初から決まっている。
「サクラの人気に、どう応えるか」
だった。
「まず確認しておきたいんですが」
プロデューサーが資料を見ながら言った。
「本編の展開そのものを変更する、という方向はやはり難しいですか?」
「難しいというか……」
俺は少し考えてから答えた。
「そこだけ変える、っていうのができないんですよ」
「やはりそうですよね」
「サクラのところを変えたら、その後も変えなきゃいけなくなるので」
脚本の人もうなずいた。
そこは理解してくれているらしい。
テレビ版の『ビーストギア』だって、俺の原作をそのまま一コマずつ映像にしているわけじゃない。
そもそも漫画とテレビでは作り方が違う。
一話に使える時間も違う。
見せ方も違う。
順番を整理した部分もある。
テレビ用に省いたところもあれば、逆に膨らませた部分もある。
それは別に構わない。
媒体が違えば、同じ見せ方にはならない。
俺だって、そのくらいは分かっている。
でも。
物語の骨組みまで変えてしまえば、それは別の話だ。
「人気が出たのは、もちろん嬉しいです」
俺は言った。
「これだけサクラを好きになってもらえたなら、何かできることがあるならやりたい。でも、本編を変えるのとは分けて考えたいです」
「そこは我々も同じ考えです」
少し安心した。
昨日ミドリから話を聞いたときには、
『人気が出たので、次からまたサクラを出しましょう』
くらいのことを言われるんじゃないかと警戒していた。
「私たちも、そこまで無茶は言いませんよ」
プロデューサーが笑った。
「顔に出てました?」
「少し」
隣でミドリも笑う。
「昨日からずっと警戒してましたから、この人」
「余計なこと言うなよ」
「本当でしょ?」
「まあ、本当だけど」
そこから、いろいろな案が出た。
まずは、これまでのサクラの場面をまとめた特別企画。
「総集編みたいなものですか?」
「それも一つですね」
悪くはない。
すでに放送した内容を振り返るだけなら、本筋を変える必要はない。
ただ、やり方によっては今進んでいる物語の流れを止めてしまう。
「本編の間に入れるなら、場所は考えた方がいいですね」
脚本の人が言った。
「急に総集編が入ると、流れが切れるので」
「ですよね」
次に出たのは、回想。
「必要な場面なら普通に入れていいと思います」
俺は答えた。
「ただ、人気があるからって理由だけで回想を増やすのは嫌です」
「そこまで駄目ですか?」
「話に必要ならいいんです。でも、サクラを出すためだけに無理やり思い出すのは……何か違うでしょう」
主人公が突然、
『そういえばサクラは……』
と毎週思い出し始めたら、さすがにおかしい。
「では夢は?」
「何でもできるやつじゃないですか」
俺が言うと、ミドリがすぐに横から入ってきた。
「それ一番危ないと思います」
「そうですか?」
「夢なら何をやっても最後に『夢でした』で終われるので」
「便利ではありますね」
「便利すぎるんですよ」
ミドリが言った。
「困ったら夢、ってなったら終わりです」
「厳しいですね、編集者さん」
「この人を長年見てますので」
「高校の頃からな」
「そこまで言わなくていいから」
「何で?」
「何でもない」
またよく分からないことを言う。
そのあとも案は続いた。
サクラ役の女優本人に、番宣や関連番組へ出演してもらう。
雑誌でサクラの特集を組む。
インタビューを増やす。
イベントへ出演してもらう。
作品本編とは別に、これまでのサクラを振り返る企画を作る。
こうして並べてみると、本編そのものへ手を入れなくてもできることは意外と多い。
途中で休憩になった。
「これでいいんじゃない?」
ミドリが紙コップを持ちながら言った。
「どれ?」
「イベントとか、雑誌とか」
「うん」
「本編を変えなくても、サクラが好きな人には嬉しいでしょ」
「役者さんの予定もあるけどな」
「そこはテレビの人が考えること」
「急に投げたな」
「私たちが勝手に出演日決められないでしょ」
「それはそう」
「本筋を壊さずにできることをやる。これでいいと思う」
俺もうなずいた。
結局、打ち合わせはその方向でまとまった。
本編の物語は変えない。
人気があるからという理由だけで、無理にサクラを登場させる場面も作らない。
その代わり、本編の外側でできることを探す。
雑誌。
インタビュー。
イベント。
特別企画。
これまでのサクラを振り返るもの。
そういう形なら、作品の流れを壊さずに、サクラを好きになってくれた人たちにも応えられる。
打ち合わせが終わる頃には、俺もかなり気が楽になっていた。
帰り際、プロデューサーから言われた。
「原作者の方って、もっと柔軟に内容を変えたがるものかと思っていました」
「逆じゃないですか?」
「そうですか?」
「俺なんて、一回描いた原稿を後から見ると、直したいところだらけですよ」
「では、やっぱり変えたい?」
「駄目です」
「どっちなんですか」
「描き直していいって言われたら、全部描き直したくなるからです」
一瞬、静かになった。
それから、みんなが笑った。
でも、半分くらい本気だ。
昔の原稿なんて見れば見るほど、
『ここ、もっと何とかできただろ』
『このコマ直したい』
『この台詞、今なら違う言い方にする』
そんなところがいくらでも出てくる。
だから、どこかで終わりにしなければならない。
完成した。
発表した。
読んでもらった。
その時点で、作品はもう自分一人だけのものではなくなる。
後から反応があるたびに全部直していたら、いつまで経っても完成しない。
◇
打ち合わせのあと。
俺とミドリは駅へ向かって歩いていた。
「意外とちゃんとまとまったね」
ミドリが言う。
「もっと揉めると思ってた」
「俺も」
「テレビの人たちに失礼じゃない?」
「お前も同じこと思ってただろ」
「私はちょっとだけ」
「俺より失礼じゃん」
「あなたみたいに顔には出してないもん」
「顔に出てたのか……」
「出てた」
しばらく歩いたところで、前から子供が二人走ってきた。
片方の腰に何か巻いてある。
見覚えがあった。
玩具の変身ベルトだ。
「配信開始!」
子供が大きな声を出した。
もう一人が笑いながら構える。
そのまま二人で戦う真似を始めた。
俺とミドリは、何となく足を止めた。
「……本当にいるな」
「何が?」
「変身の真似してる子」
「だから言ったでしょ」
「初めてちゃんと見た」
「原作者なのに?」
「原作者だからって毎日公園で子供観察しないだろ」
「それやったら別の意味で心配されるね」
「だろ」
子供たちは俺たちのことなど気にもしない。
当然だ。
原作者の顔なんて、普通は知らない。
俺の横を走り抜けながら、一人がまた叫んだ。
「いいねよろしく!」
「そこまでやるのか」
「ちゃんと見てるんだね」
「細かいな」
少しだけ嬉しかった。
テレビの視聴率がいい。
玩具が売れている。
子供向けのコミカライズが増刷された。
社会現象だと言われている。
そういう話は何度も聞いている。
でも、数字や報告だけではどうしても実感が薄い。
目の前で知らない子供が、自分の作ったヒーローの真似をしている。
その方が、ずっと分かりやすかった。
俺が机の前で考えた言葉を、知らない子供が叫んでいる。
変な感じだ。
でも。
悪くない。
「嬉しそう」
ミドリが言った。
「そう見える?」
「ちょっと」
「じゃあ、ちょっと嬉しいんだろ」
「素直じゃないなあ」
「普通だよ」
また歩き始める。
少しして、ミドリが言った。
「ねえ」
「何?」
「このあと時間ある?」
「あるけど」
「じゃあ、ご飯食べて帰らない?」
「いいよ」
「……本当?」
「何で驚くんだよ」
「いや、別に」
「ちょうど腹減ったし」
「……そう」
「それに、さっきの打ち合わせの整理もしたいし」
「…………」
ミドリが黙った。
「何?」
「何でもない」
「またそれ?」
「何でもないって」
最近、よくこういう顔をする。
よく分からない。
「どこ行く?」
「今日は仕事の話は禁止」
「何で?」
「禁止」
「じゃあ何話すんだよ」
「何でもあるでしょ!」
そう言われても困る。
ミドリとは高校の頃からの付き合いだ。
今さら、仕事以外で何を話すか考えてから会うような相手でもない。
「最近読んだ漫画」
「仕事に近い」
「映画」
「それならいい」
「特撮」
「ビーストギア以外なら」
「条件多いな」
「あなた放っておいたら、結局仕事の話しかしないでしょ」
「そんなことない」
「じゃあ何話す?」
「……映画」
「今私が言ったやつじゃない!」
そんな話をしながら駅へ向かった。
途中。
駅前の売店に並んでいる新聞が目に入った。
端の小さな見出しに、『ビーストギア』という文字があった。
昨日ミドリが見せてきたような、あの手の記事だろうか。
「また何かあったのかな」
俺が言うと、ミドリも少しだけ新聞を見る。
「また子供が真似したとかじゃない?」
「だろうな」
「買ってく?」
「いいよ」
「いいの?」
「腹減った」
「じゃあご飯優先ね」
そのまま通り過ぎた。
昨日なら、少しくらい気になったかもしれない。
でも今日は、実際に変身の真似をしている子供を見たばかりだった。
あれだけ人気が出れば、同じようなことがあちこちで起きる。
その中の一つが、たまたま新聞に載る。
そう考えれば、何も不思議ではない。
それより。
今日は一つ、決めたことがある。
人気が出ても、物語そのものを簡単には変えない。
だからといって、人気を無視するわけでもない。
変えずにできることを探す。
言葉にすると当たり前だ。
でも、たぶんこれから先も必要になる。
『ビーストギア』は、もう俺一人が机の上で描いているだけの作品じゃない。
テレビを作る人がいる。
漫画を描く人がいる。
役者がいる。
玩具を作る人がいる。
そして、それを見る人がいる。
だからこそ。
守るところと。
広げていいところを。
ちゃんと分けなければならない。
今日は、それを少しだけ覚えた日だった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




