次の原稿
次の原稿
机の上が狭い。
少し前までは、原稿と資料くらいしかなかったはずなのに、今では特撮版『ビーストギア』の脚本、次回の打ち合わせ資料、怪人のデザイン案、雑誌、ファンレター、商品のサンプルまで並んでいる。
その中には、キッドの変身ベルトや小さな怪人人形、先日ミドリから返された高校時代の古いノートまであった。
「……増えたな」
何がとは言わない。
仕事も、物も、俺の知らない人たちとのつながりも。
『ビーストギア』に関わるものが、いつの間にかどんどん増えている。
◇
次の原稿を描く。
頭の中には、もう話がある。あとは紙に出していくだけ。
そのはずなのに、机の端に置いてあったファンレターが目に入った。
何通か編集部から渡されたものだ。
読むつもりがなかったわけではない。ただ、原稿や打ち合わせ、締切に追われているうちに、まだ全部は読めていなかった。
一通取ってみる。
子供の字だった。
キッドが好き。
変身がかっこいい。
自分も強くなりたい。
短いけれど、ちゃんと俺に向けて書いてある。
次の手紙は大人からだった。
子供と一緒に見ていて、昔、自分が特撮を見ていた頃を思い出したらしい。
その次はサクラが好き。
次は怪人が好き。
さらに次は、メモリーが欲しい。
「それは玩具買ってくれ」
思わず言った。
誰もいないので、当然返事はなかった。
◇
今まで、読者というものはどこか数字に近かった。
アンケート。
売上。
部数。
順位。
人気がある。
人気がない。
もちろん手紙が来たこともあるし、感想をもらったこともある。
それでも最近は、少し違って感じる。
テレビが始まったからなのか。
グッズが出たからなのか。
街で実際にキッドのベルトを巻いた子供を見た。
俺の描いたキャラクターの格好をした人たちもいる。
写真でしか見ていない人もいるけれど、それでも確かに存在している。
「……読んでるんだな」
当たり前のことを口にした。
漫画なんだから、誰かが読む。
だから雑誌に載る。
そんなことは最初から分かっていた。
つもりだった。
◇
電話が鳴った。
ミドリだった。
「原稿どう?」
「今やってる」
「本当に?」
「本当」
「珍しい」
「失礼だな」
「締切覚えてる?」
「覚えてる」
「いつ?」
答える。
少し沈黙があった。
「……合ってる」
「何で驚く?」
「成長したなって」
「子供扱いするな」
電話の向こうで笑っている。
「何してたの?」
「ファンレター読んでた」
また少し沈黙。
「珍しいわね」
「何で?」
「いつも原稿で時間ないって言ってたから」
「今もない」
「じゃあ何で読んだの?」
考える。
何でだろう。
「目に入ったから」
「そう」
「何だ?」
「別に」
最近、ミドリの「別に」が多い。
◇
「なあ」
「何?」
「これ、全部返事書くもの?」
「無理しなくていいわよ。数もあるし、仕事止まるでしょう」
確かに。
「でも、読んでくれたら喜ぶと思う」
「俺が?」
「あなた宛てなんだから、他に誰が読むのよ」
それもそうだ。
「じゃあ読む」
「原稿終わってからね」
「今読んでた」
「ジコン」
声が低くなった。
「原稿やる」
「よろしい」
電話を切る。
◇
原稿へ戻った。
キッドを描き、怪人を描き、戦わせる。
台詞を書く。
いつもと同じだ。
高校の頃から、何年もやってきた。
ただ、今日は少しだけ違った。
この原稿も、終われば誰かが読む。
雑誌で。
単行本で。
そして、いつかテレビになるかもしれない。
子供が見るかもしれないし、誰かがこのキャラクターを好きになるかもしれない。
そこまで考えたところで手が止まった。
「……やりにくいな」
余計なことを考えた。
今まで通りでいい。
自分が面白いと思うものを描く。
結局、それしかできない。
◇
机の上の変身ベルトが目に入った。
少し前なら、ただのサンプルだった。
今は、あれを腰に巻いて遊んでいる子供が本当にいることを知っている。
ボタンを押す。
『配信開始!』
「……」
やっぱり少し楽しい。
もう一度押そうとして、やめた。
先に原稿をやろう。
少し成長した。
◇
夜になっても描き続けた。
ページが少しずつ増えていく。
途中、高校時代のノートが目に入った。
昔の俺が描いた下手な絵と、ぐちゃぐちゃな話。
それでもミドリは読んでいた。
今は、もっとたくさんの人が読んでいる。
不思議なものだ。
そのまま描き続け、最後のページへたどり着く。
台詞を入れ、最後のコマを仕上げて、ようやくペンを置いた。
「できた」
時計を見る。
締切まで、まだ少し余裕がある。
「……すごいな」
自分で驚いた。
◇
ミドリに電話する。
「できた」
『何が?』
「原稿」
沈黙。
「もしもし?」
『嘘』
「何でだよ」
『締切前よ?』
「知ってる」
『本当に?』
「本当に」
また沈黙。
「持ってけばいい?」
『待って。明日、雪降る?』
「知らない」
『槍は?』
「もっと知らない」
失礼だ。
「とにかくできた」
『分かった。明日取りに行く』
「ああ」
電話を切ろうとして、ふと思った。
「ミドリ」
『何?』
少し考える。
「……いや」
『何よ』
「何でもない」
『気になるでしょう』
「明日でいい」
そう言って電話を切った。
◇
言おうとしたのは、たぶん「ありがとう」だった。
高校の頃からずっと読んでくれて。
今も、最初に読んでくれる。
でも、電話で急に言うのも変な気がした。
明日でいい。
たぶん。
◇
改めて机を見る。
完成した原稿。
ファンレター。
テレビの資料。
グッズ。
古いノート。
全部、俺が漫画を描いてきた結果だ。
そう考えると、まだ少し落ち着かない。
でも、前よりは分かる。
俺が描いたものを待っている人がいる。
だったら、次も描く。
面白いかどうかは、描いてみないと分からない。
売れるかどうかも分からない。
それでも、俺は描く。
◇
翌朝。
ミドリが原稿を取りに来た。
「本当にできてる……」
「昨日から失礼だな」
「だって、締切前よ?」
「たまにはある」
「初めてじゃない?」
「そんなことないだろ」
たぶん。
ミドリが原稿を受け取る。
俺は昨日言いかけたことを思い出した。
「なあ」
「何?」
「……今まで」
そこまで言ったところで、ミドリのスマートフォンが鳴った。
「あ、ごめん」
電話に出る。
仕事の話らしい。
俺は終わるまで待った。
「ごめん。何だった?」
「忘れた」
「何それ」
「大したことじゃない」
「そう?」
「ああ」
また今度でいい。
時間はある。
たぶん。
◇
ミドリが原稿を持って帰り、俺は机へ戻った。
さて、次は何を描こう。
そう考えた瞬間、スマートフォンが鳴った。
ミドリからメッセージ。
『次の締切、○日だからね』
「……早くない?」
誰もいない部屋で言った。
返事を書く。
『分かった』
少し考えて、もう一つ。
『今度は忘れない』
送信。
すぐに返ってきた。
『本当に?』
信用がない。
仕方ない。
次の原稿を始めよう。
結局、俺にできるのはそれだけだ。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




