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時根の手記  作者: 時根脱才 


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第五話 サクラ

第五話 サクラ


朝から、ミドリの機嫌がいい。


俺には理由が分からなかった。


「何かあった?」


「見てないの?」


「何を?」


「昨日の放送」


「ああ」


特撮版『ビーストギア』。


もちろん見た。


自分の原作がどう変わったのか確認する必要があるし、単純に完成した映像にも興味がある。


「見たよ」


「だったら分かるでしょう?」


「何が?」


ミドリは少し黙ってから、スマートフォンを俺の前へ出した。


画面には大量の文字が並んでいる。


「……何これ」


「反響」


「何の?」


「サクラよ」


俺は画面を見る。


サクラ。


昨日放送された回で、大きく扱われたキャラクター。


原作漫画では、もうずいぶん前に描いた話だった。



画面を動かしていく。


サクラについて書かれた感想が、次から次へと出てくる。


『サクラがよかった』


『泣いた』


『もう一度出てほしい』


『このまま終わりじゃないよね?』


『復活してほしい』


似たような言葉が大量に並んでいた。


「すごいでしょ」


ミドリが言う。


「そうだな」


「編集部にも来てるわよ」


「何が?」


「問い合わせ。ファンレターも増えてる」


「へえ」


「へえ、じゃないでしょう」


俺はもう一度画面を見る。


確かに、予想していたよりずっと大きな反響だった。


「サクラ役の子、人気あるんだな」


ミドリの動きが止まった。


「……そこ?」


「違うのか?」


「違わないけど」


サクラ役に起用されたのは、今かなり期待されている新人女優らしい。


俺は芸能人に詳しくない。


キャスティングが決まった時に名前を聞いても分からず、ミドリに説明されて、ようやく「そういう人なのか」と知ったくらいだ。


実際、演技はよかった。


俺が紙の上で作ったサクラとは少し違う。


でも、映像の中ではちゃんとサクラだった。


「演技、よかったしな」


「それはそうね」


「だったら、その影響も大きいんじゃないか」


「それだけだと思ってる?」


「キッド役も今かなり人気なんだろ?」


「人気よ」


「じゃあ、二人が出てるから話題になった部分もあるだろ」


ミドリは俺を見た。


何か言いたそうだった。



「ジコン」


「何?」


「あなた、自分の話が面白かったからって可能性は考えないの?」


「もちろんあるだろ」


「あるの?」


「少しくらいは」


「少しくらい……」


何が問題なんだ。


作品は一人で作っているわけじゃない。


特にテレビ版はそうだ。


脚本、監督、役者、アクション、音楽、撮影。


いろんな人間が関わっている。


「俺だけのおかげじゃないだろ」


「誰も『あなただけのおかげ』なんて言ってないわよ」


「じゃあ合ってるじゃないか」


「そうじゃなくて。どうして自分の分だけ小さくするの?」


「小さくしてない」


「してる」


「役者がよかったのは事実だろ」


「それも事実。話がよかったって言われてるのも事実」


俺はスマートフォンを見る。


「そうなの?」


「読んでないの?」


「多すぎる」


「そこにいっぱい書いてあるでしょう」


いくつか読んでみる。


確かに、演技の話だけではない。


サクラというキャラクター。


キッドとの関係。


話の流れ。


台詞。


結末。


そういうものについて書かれた感想も多かった。


「……まあ、テレビの脚本がよかったんじゃないか」


ミドリが俺を睨んだ。


「何でそうなるのよ!」


「違うのか?」


「原作があるでしょう!」


「あるけど」


「その原作を書いたの誰?」


「俺」


「でしょう?」


「でも、テレビ用に直したのは脚本の人だし」


ミドリが大きく息を吐いた。


なぜ怒られているのか、よく分からない。



「それより、これどうするんだ?」


俺は画面を指した。


「何が?」


「復活してほしいってやつ」


そこだけは気になった。


一件や二件ではない。


サクラをもう一度出してほしい。


助けてほしい。


復活させてほしい。


そんな声が並んでいる。


ミドリの表情も少し変わった。


「テレビ側にも、かなり届いてるみたい」


「だろうな」


「どう思う?」


「どうって言われてもな……」


原作漫画では、もうこの先まで描いている。


サクラとヨミの話がどう進むのかも、原作を読んでいる人なら知っている。


テレビ版から『ビーストギア』を知った視聴者にとっては昨日の出来事でも、原作の読者にとっては、とっくに通り過ぎた話だ。


「テレビだけ見てる人には、何も言えないな」


「そうね。余計なこと言ったらネタバレになるし」


「だったら、『サクラはもう出ません』って言えばいいか」


ミドリが俺を見た。


「それは違うでしょ」


「何が?」


「あなた、原作者でしょう?」


「そうだけど」


「原作読者も見るのよ、そのコメント」


「ああ」


そうだった。


原作漫画では、もう先まで話が進んでいる。


そこで俺が「サクラはもう出ません」などと言えば、ネタバレを避けるどころか、原作を読んでいる人には明らかにおかしな発言になる。


「じゃあ、『今後の放送を見てください』」


「それでいいの」


「最初からそう言ってくれ」


「普通は自分で分かるのよ!」


また怒られた。


「でも、テレビ版はどうするんだ?」


「何が?」


「原作と同じように進めるのか?」


「まだ、そこを変えるって話は出てないわよ」


「ならいいけど」


テレビはテレビ。


原作は原作。


そう思っている。


だから、テレビ版で多少違う展開になること自体は構わない。


ただ、サクラだけを人気が出たからという理由で変えるなら、その後も全部考え直す必要がある。


サクラだけではない。


ヨミもいる。


キッドもいる。


一つの出来事が、その先につながっている。


「人気が出たから、そこだけ変えればいいって話でもないんだよな」


「そうね」


ミドリが頷いた。


「でも、これだけ先を気にしてもらえるキャラクターを作れたのは、すごいことだと思うけど」


「女優がよかったんだろ」


「またそこに戻る!」


「実際よかったじゃないか」


「だから、それだけじゃないって言ってるの!」


今日のミドリはよく怒る。



昼を過ぎても、サクラの話題は増えていた。


雑誌からコメントがほしいという連絡まで来た。


「何て答えればいい?」


俺が聞く。


「原作者なんだから自分で考えて」


「『見てくれてありがとうございます』」


「その先」


「『今後の放送を見てください』」


ミドリが少し驚いた顔をした。


「ちゃんと言えるじゃない」


「さっき教えられたからな」


「そこは自慢するところじゃないわよ」


問題は、俺がこの先を知っていることだった。


原作漫画を読んでいる人たちも知っている。


でも、テレビだけを見ている人たちは知らない。


だからこそ、俺が余計なことを言うわけにはいかない。


「原作者って、知ってることを話せない仕事なんだな」


「今さら?」


「描く時は全部書いてるのに」


「発表する順番ってものがあるでしょう」


「面倒だな」


「売れた作品の原作者なんだから諦めなさい」


またそれだ。


売れた。


人気が出た。


話題になった。


まだ、あまり実感がない。


俺はいつも通り机に座って、いつも通り描いているだけなのに、外では知らない人たちがサクラのこれからを心配している。



夜。


ミドリが帰ったあと、もう一度だけ感想を眺めた。


サクラ役の女優がよかった。


キッド役との掛け合いがよかった。


映像がよかった。


音楽がよかった。


そして、話がよかった。


最後の一つで、少し手が止まった。


俺が描いた話だ。


正確には、テレビ版ではいろんな人が手を入れている。だから全部が俺のものじゃない。


それでも元は、俺が描いた。


少しだけ変な感じがした。


嬉しいのかもしれない。


たぶん。


でも、そのまま自分への評価として受け取るのは、何となく落ち着かなかった。


「役者がよかったからな」


誰もいない部屋で言ってみる。


当然、誰も反論しない。


少し安心した。


もう少し感想を見ていると、テレビ版から入った視聴者とは少し違う書き込みも混じっていた。


『原作読んでるから何も言えない』


『テレビから入った人は、この先そのまま見てほしい』


『ここから先のサクラも見てほしい』


原作の読者たちだ。


当然、この人たちは先を知っている。


だからこそ、テレビ版から入った人たちの反応を見ながら、余計なことを言わずにいるらしい。


「……ちゃんとしてるな」


原作者の俺より、よほどネタバレに気を遣っている気がする。


さっき危うく「サクラはもう出ません」と言おうとした人間としては、何も言えなかった。


俺は画面を閉じて、原稿へ戻った。


原作では、サクラの話はもう先へ進んでいる。


その先を知っている読者もいる。


テレビから『ビーストギア』を知った人たちは、まだ知らない。


その人たちが、この先を見た時に何を思うのか。


それは少しだけ、気になった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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