第五話 サクラ
第五話 サクラ
朝から、ミドリの機嫌がいい。
俺には理由が分からなかった。
「何かあった?」
「見てないの?」
「何を?」
「昨日の放送」
「ああ」
特撮版『ビーストギア』。
もちろん見た。
自分の原作がどう変わったのか確認する必要があるし、単純に完成した映像にも興味がある。
「見たよ」
「だったら分かるでしょう?」
「何が?」
ミドリは少し黙ってから、スマートフォンを俺の前へ出した。
画面には大量の文字が並んでいる。
「……何これ」
「反響」
「何の?」
「サクラよ」
俺は画面を見る。
サクラ。
昨日放送された回で、大きく扱われたキャラクター。
原作漫画では、もうずいぶん前に描いた話だった。
◇
画面を動かしていく。
サクラについて書かれた感想が、次から次へと出てくる。
『サクラがよかった』
『泣いた』
『もう一度出てほしい』
『このまま終わりじゃないよね?』
『復活してほしい』
似たような言葉が大量に並んでいた。
「すごいでしょ」
ミドリが言う。
「そうだな」
「編集部にも来てるわよ」
「何が?」
「問い合わせ。ファンレターも増えてる」
「へえ」
「へえ、じゃないでしょう」
俺はもう一度画面を見る。
確かに、予想していたよりずっと大きな反響だった。
「サクラ役の子、人気あるんだな」
ミドリの動きが止まった。
「……そこ?」
「違うのか?」
「違わないけど」
サクラ役に起用されたのは、今かなり期待されている新人女優らしい。
俺は芸能人に詳しくない。
キャスティングが決まった時に名前を聞いても分からず、ミドリに説明されて、ようやく「そういう人なのか」と知ったくらいだ。
実際、演技はよかった。
俺が紙の上で作ったサクラとは少し違う。
でも、映像の中ではちゃんとサクラだった。
「演技、よかったしな」
「それはそうね」
「だったら、その影響も大きいんじゃないか」
「それだけだと思ってる?」
「キッド役も今かなり人気なんだろ?」
「人気よ」
「じゃあ、二人が出てるから話題になった部分もあるだろ」
ミドリは俺を見た。
何か言いたそうだった。
◇
「ジコン」
「何?」
「あなた、自分の話が面白かったからって可能性は考えないの?」
「もちろんあるだろ」
「あるの?」
「少しくらいは」
「少しくらい……」
何が問題なんだ。
作品は一人で作っているわけじゃない。
特にテレビ版はそうだ。
脚本、監督、役者、アクション、音楽、撮影。
いろんな人間が関わっている。
「俺だけのおかげじゃないだろ」
「誰も『あなただけのおかげ』なんて言ってないわよ」
「じゃあ合ってるじゃないか」
「そうじゃなくて。どうして自分の分だけ小さくするの?」
「小さくしてない」
「してる」
「役者がよかったのは事実だろ」
「それも事実。話がよかったって言われてるのも事実」
俺はスマートフォンを見る。
「そうなの?」
「読んでないの?」
「多すぎる」
「そこにいっぱい書いてあるでしょう」
いくつか読んでみる。
確かに、演技の話だけではない。
サクラというキャラクター。
キッドとの関係。
話の流れ。
台詞。
結末。
そういうものについて書かれた感想も多かった。
「……まあ、テレビの脚本がよかったんじゃないか」
ミドリが俺を睨んだ。
「何でそうなるのよ!」
「違うのか?」
「原作があるでしょう!」
「あるけど」
「その原作を書いたの誰?」
「俺」
「でしょう?」
「でも、テレビ用に直したのは脚本の人だし」
ミドリが大きく息を吐いた。
なぜ怒られているのか、よく分からない。
◇
「それより、これどうするんだ?」
俺は画面を指した。
「何が?」
「復活してほしいってやつ」
そこだけは気になった。
一件や二件ではない。
サクラをもう一度出してほしい。
助けてほしい。
復活させてほしい。
そんな声が並んでいる。
ミドリの表情も少し変わった。
「テレビ側にも、かなり届いてるみたい」
「だろうな」
「どう思う?」
「どうって言われてもな……」
原作漫画では、もうこの先まで描いている。
サクラとヨミの話がどう進むのかも、原作を読んでいる人なら知っている。
テレビ版から『ビーストギア』を知った視聴者にとっては昨日の出来事でも、原作の読者にとっては、とっくに通り過ぎた話だ。
「テレビだけ見てる人には、何も言えないな」
「そうね。余計なこと言ったらネタバレになるし」
「だったら、『サクラはもう出ません』って言えばいいか」
ミドリが俺を見た。
「それは違うでしょ」
「何が?」
「あなた、原作者でしょう?」
「そうだけど」
「原作読者も見るのよ、そのコメント」
「ああ」
そうだった。
原作漫画では、もう先まで話が進んでいる。
そこで俺が「サクラはもう出ません」などと言えば、ネタバレを避けるどころか、原作を読んでいる人には明らかにおかしな発言になる。
「じゃあ、『今後の放送を見てください』」
「それでいいの」
「最初からそう言ってくれ」
「普通は自分で分かるのよ!」
また怒られた。
「でも、テレビ版はどうするんだ?」
「何が?」
「原作と同じように進めるのか?」
「まだ、そこを変えるって話は出てないわよ」
「ならいいけど」
テレビはテレビ。
原作は原作。
そう思っている。
だから、テレビ版で多少違う展開になること自体は構わない。
ただ、サクラだけを人気が出たからという理由で変えるなら、その後も全部考え直す必要がある。
サクラだけではない。
ヨミもいる。
キッドもいる。
一つの出来事が、その先につながっている。
「人気が出たから、そこだけ変えればいいって話でもないんだよな」
「そうね」
ミドリが頷いた。
「でも、これだけ先を気にしてもらえるキャラクターを作れたのは、すごいことだと思うけど」
「女優がよかったんだろ」
「またそこに戻る!」
「実際よかったじゃないか」
「だから、それだけじゃないって言ってるの!」
今日のミドリはよく怒る。
◇
昼を過ぎても、サクラの話題は増えていた。
雑誌からコメントがほしいという連絡まで来た。
「何て答えればいい?」
俺が聞く。
「原作者なんだから自分で考えて」
「『見てくれてありがとうございます』」
「その先」
「『今後の放送を見てください』」
ミドリが少し驚いた顔をした。
「ちゃんと言えるじゃない」
「さっき教えられたからな」
「そこは自慢するところじゃないわよ」
問題は、俺がこの先を知っていることだった。
原作漫画を読んでいる人たちも知っている。
でも、テレビだけを見ている人たちは知らない。
だからこそ、俺が余計なことを言うわけにはいかない。
「原作者って、知ってることを話せない仕事なんだな」
「今さら?」
「描く時は全部書いてるのに」
「発表する順番ってものがあるでしょう」
「面倒だな」
「売れた作品の原作者なんだから諦めなさい」
またそれだ。
売れた。
人気が出た。
話題になった。
まだ、あまり実感がない。
俺はいつも通り机に座って、いつも通り描いているだけなのに、外では知らない人たちがサクラのこれからを心配している。
◇
夜。
ミドリが帰ったあと、もう一度だけ感想を眺めた。
サクラ役の女優がよかった。
キッド役との掛け合いがよかった。
映像がよかった。
音楽がよかった。
そして、話がよかった。
最後の一つで、少し手が止まった。
俺が描いた話だ。
正確には、テレビ版ではいろんな人が手を入れている。だから全部が俺のものじゃない。
それでも元は、俺が描いた。
少しだけ変な感じがした。
嬉しいのかもしれない。
たぶん。
でも、そのまま自分への評価として受け取るのは、何となく落ち着かなかった。
「役者がよかったからな」
誰もいない部屋で言ってみる。
当然、誰も反論しない。
少し安心した。
もう少し感想を見ていると、テレビ版から入った視聴者とは少し違う書き込みも混じっていた。
『原作読んでるから何も言えない』
『テレビから入った人は、この先そのまま見てほしい』
『ここから先のサクラも見てほしい』
原作の読者たちだ。
当然、この人たちは先を知っている。
だからこそ、テレビ版から入った人たちの反応を見ながら、余計なことを言わずにいるらしい。
「……ちゃんとしてるな」
原作者の俺より、よほどネタバレに気を遣っている気がする。
さっき危うく「サクラはもう出ません」と言おうとした人間としては、何も言えなかった。
俺は画面を閉じて、原稿へ戻った。
原作では、サクラの話はもう先へ進んでいる。
その先を知っている読者もいる。
テレビから『ビーストギア』を知った人たちは、まだ知らない。
その人たちが、この先を見た時に何を思うのか。
それは少しだけ、気になった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




