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時根の手記  作者: 時根脱才 


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 締切



 締切


今日は書ける。


朝、目を覚ました時には本気でそう思っていた。


予定を確認して、今日中にやることも確認した。机の上も一応片づけて、飲み物も用意した。


あとは座って原稿を進めるだけ。


完璧だった。


少なくとも、午前九時までは。


午前九時十三分。


電話が鳴った。


特撮版『ビーストギア』の脚本について、確認したい箇所があるという。


質問に答えて、電話を切る。


午前九時四十分。


また鳴った。


今度は怪人のデザインについてだった。


原案ではこうなっているが、実際に着ぐるみにすると動きにくいらしい。腕の形を変えていいかと聞かれたので、能力を使う時の見せ方だけは残してほしいと伝えて了承した。


午前十時十五分。


今度はミドリから連絡が来た。


「原稿、進んでる?」


「今から進む」


「朝もそう言ってなかった?」


「朝から仕事してる」


「原稿は?」


「今からやる」


電話が切れた。


なぜか最後にため息が聞こえた。


午前十一時。


また別の確認。


昼には資料が届き、午後一時には雑誌用のコメントを一つ頼まれた。


午後二時には、テレビ側から次回の打ち合わせについて連絡が来る。


そして午後三時。


俺はようやく気づいた。


今日、まだ原稿を一文字も書いていない。



「おかしい」


机の前で呟いた。


特撮化が決まった時、少しだけ思っていたことがある。


俺が原作を書く。


それをテレビの人たちが映像にしてくれる。


だったら、俺の仕事は多少減るんじゃないか。


実際には増えた。


明らかに増えた。


脚本が来る。


設定の確認が来る。


怪人のデザインが来る。


小道具の確認が来る。


雑誌からコメントを求められ、取材の話まで来る。


その間にも、俺の原稿の締切は普通にやってくる。


どういう仕組みなんだ。


「特撮化したら、俺の仕事減るんじゃなかったのか……」


「誰がそんなこと言ったの?」


声がして振り返ると、ミドリが立っていた。


「いつ来た?」


「今」


「鍵は?」


「開いてた」


そうだったらしい。


ミドリは部屋へ入ると、机の上を見た。


原稿用紙に資料、特撮版の脚本、怪人の設定画、雑誌。


その横には、朝からほとんど進んでいない原稿がある。


「で?」


「何が?」


「誰が仕事減るって言ったの?」


「俺」


「じゃあ、言った人が間違ってるわね」


「そうか」


「納得するの?」


「実際増えてるからな」


ミドリがため息をついた。



「それで、原稿は?」


「これから」


「締切、いつだっけ?」


「知ってる」


「言ってみて」


「……」


「ジコン?」


「明日」


「今日よ」


「え?」


時計を見る。


日付も見る。


念のため、もう一度確認した。


「……今日だな」


「今日よ」


おかしい。


昨日までは明日だった。


「時間って早いな」


「そういう問題じゃないでしょう!」


ミドリが机まで来て原稿を見る。


「どこまでできてる?」


「頭の中では最後まで」


「紙の上では?」


「……」


「どこまで?」


仕方なく指を差す。


ミドリが原稿を見る。


「これだけ?」


「これだけとは失礼だな」


「何ページ?」


「ページ数で作品の価値は決まらない」


「締切の場合はかなり重要よ」


正論だった。



ミドリは机に積まれた特撮版の脚本を手に取った。


「これ、今日確認したの?」


「ああ」


「こっちは?」


「怪人の修正」


「これは?」


「次の打ち合わせ資料」


「じゃあ、これは?」


「雑誌のコメント」


ミドリが机の上を見渡す。


「全部今日?」


「だいたい」


しばらく黙ったあと、ミドリが俺を見る。


「いや……ちゃんと仕事はしてたのね」


「失礼だな」


「原稿から逃げてるだけかと思った」


「俺を何だと思ってる」


「締切直前になると急に部屋の掃除を始める人」


否定できなかった。


「今回は違う」


「それは分かった」


ミドリは机の上を少し整理しながら、特撮版の資料を一か所へまとめた。


「テレビが始まってから、本当に増えたわね」


「だから言っただろ」


「仕事が減ると思ってた人が?」


「それはもういい」


俺は椅子へ座り直した。


作品が一つだった頃は、描けばよかった。


今は違う。


俺の描いたものを元に、いろんな人が動いている。


脚本を書く人がいる。


演じる人がいる。


怪人を作る人がいて、撮影する人もいる。


そして、それを確認する俺がいる。


確認している間にも、次の原稿を書かなければならない俺もいる。


「売れるって大変だな」


思わず言うと、ミドリが少し笑った。


「今さら?」


「知らなかった」


「普通は売れてから知るものよ」


「そうなのか」


「たぶんね」



ミドリが冷蔵庫を開けた。


「何か食べた?」


「食べた」


「何を?」


考える。


朝にパンを食べた。


たぶん。


「パン」


「何時?」


「朝」


「お昼は?」


「まだ」


「もう夕方よ」


時計を見る。


本当だった。


「時間って早いな」


「二回目」


ミドリが買ってきた袋を机へ置いた。


「食べなさい」


「原稿がある」


「食べながら考えれば?」


「締切もある」


「倒れたらもっと遅れる」


それも正論だった。


最近、ミドリの正論が多い。


いや。


昔からだったかもしれない。



食べながら、次の原稿を考える。


頭の中にはある。


キッドが動く。


怪人が動く。


台詞もあるし、場面も見えている。


問題は、それを紙に出す時間がないことだった。


「なあ」


「何?」


「今日、あと何時間ある?」


「締切まで?」


「そう」


ミドリが時計を見る。


「それ聞いて安心する?」


「しないと思う」


「じゃあ、聞かない方がいいわ」


「分かった」


食べ終えて、また書く。


少しずつ原稿が進む。


ミドリは横で別の資料を確認していた。


しばらくは、ペンの音と紙をめくる音だけが部屋に続いた。



「ジコン」


「何だ?」


「明日、打ち合わせあるからね」


手が止まった。


「何の?」


「特撮」


「聞いてない」


「言った」


「いつ?」


「三日前」


覚えていない。


「原稿終わってから寝るつもりだったんだけど」


「寝てから来て」


「終わったらな」


「終わらせるの」


「今やってる」


ミドリが俺を見る。


「ねえ、少しくらい休んだら?」


「締切終わったら休む」


「その次の締切は?」


「……ある」


「テレビの打ち合わせは?」


「ある」


「確認作業は?」


「たぶん来る」


「じゃあ、休みは?」


考えた。


「どこにある?」


「私が聞いてるのよ」


分からなかった。



「まあ、今はいい」


俺は原稿へ目を戻した。


「よくないでしょう」


「仕事あるし」


「そういうところよ」


「何が?」


ミドリは何か言おうとして、少しだけ黙った。


「……別に」


「そうか」


また書き始める。


しばらくして、ミドリが呟いた。


「息抜きくらい、した方がいいと思うけど」


「してる」


「いつ?」


「漫画読む」


「仕事の資料じゃなくて?」


答えない。


「映画は?」


「特撮の参考に」


「散歩」


「背景見る」


「買い物」


「資料探す」


ミドリが黙った。


「何だ?」


「あなた、息抜き下手ね」


そうなのかもしれない。



夜。


原稿は少しずつ進んでいた。


まだ終わってはいない。


それでも朝よりは、確実に終わりへ近づいている。


ミドリは帰る前に、明日の打ち合わせ資料を机の端へ置いた。


「これ、忘れないでね」


「ああ」


「原稿」


「やる」


「食事」


「する」


「寝る」


「努力する」


「努力じゃなくて寝るの」


「分かった」


ミドリが玄関へ向かう。


「じゃあ、また明日」


「ああ」


扉が閉じると、部屋は急に静かになった。


机を見る。


書きかけの原稿。


テレビの資料。


明日の打ち合わせ。


そして、その先には次の締切もある。


俺はもう一度ペンを持った。


「特撮化したら仕事減ると思ったんだけどな……」


今度は誰も答えない。


仕方ない。


書こう。


結局、俺にできるのはそれだけだった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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