打ち合わせ
打ち合わせ
原稿は間に合った。
正確に言えば、間に合わせた。
何時に終わったのかは覚えていない。気づいた時には机の上に完成した原稿があり、窓の外が明るくなり始めていた。
そして今、俺は特撮版『ビーストギア』の打ち合わせに来ている。
眠い。
ものすごく眠い。
「ジコン、起きてる?」
隣からミドリの声がした。
「起きてる」
「目、半分閉じてるけど」
「考えてる」
「何を?」
「どうやったら目を開けたまま寝られるか」
「寝てるじゃない」
小声で突っ込まれた。
目の前では、スタッフが次回以降の資料を準備している。
監督、脚本、制作、造形。それ以外にも何人かいて、最初の頃はこれだけの人数に囲まれて自分の作品について話すこと自体が妙な感じだった。
最近は少し慣れた。
眠気に負けそうになるくらいには。
「寝ないでよ」
「寝ない」
「昨日寝た?」
「少し」
「何時間?」
「時間で数えるほどじゃない」
「それ、寝てないって言うのよ」
たぶんそうなんだろう。
◇
「では、始めます」
資料が配られた。
今回の中心は、今後登場する怪人についてだった。
原案の絵、テレビ用のデザイン案、実際に着ぐるみとして制作する場合の修正案。その三つが並んでいる。
「ここなんですが」
造形担当が原案を指した。
「この腕の形をそのまま立体化すると、かなり動きが制限されます」
「やっぱり?」
俺も原案を見る。
描いた時は気にしていなかった。絵なら、俺が動かそうと思えばどんな関節でも動く。
着ぐるみはそうはいかない。
「こちらが修正案です」
腕が少し細くなり、関節の位置も変わっている。
「これならアクションできます」
俺は二つを見比べた。
見た目は多少変わる。
「能力を使う時、ここは残せます?」
俺が指した部分を造形担当が確認する。
「ここですか」
「はい。原案だと、ここが開いて能力を使うんです」
少し考えてから答えが返ってきた。
「形を調整すれば可能だと思います」
「だったら大丈夫です」
隣でミドリが俺を見る。
「いいの?」
「何が?」
「原案と変わるけど」
「着ぐるみなんだから仕方ないだろ」
動けない怪人を作っても意味がない。
俺が描いた絵を、そのまま立体にする必要はない。テレビで動くなら、テレビで一番いい形にすればいい。
◇
次は脚本だった。
「この場面についてなんですが」
脚本担当が資料を開く。
原案では、怪人との戦闘前に少し長めの会話がある。それをテレビ版では短くしたいらしい。
「子供が見る時間帯なので、ここで少しテンポが落ちるのが気になっています」
俺は原案と脚本を見比べた。
確かに漫画なら読者が自分の速度で読めるが、映像は違う。会話が三分続けば、本当に三分かかる。
「削っていいです」
「よろしいですか?」
「ただ、この台詞だけ残してください」
一か所を指した。
「理由は?」
「この後につながるからです」
その場では大した言葉に見えない。
でも、後で意味が変わる。
「ここを消すと、後の話で急に出てきたように見えると思います」
脚本担当は少し考えてから頷いた。
「では、この台詞を残したうえで前後を整理します」
「お願いします」
横でミドリが小さく笑った。
「何だ?」
「別に」
「何かあるだろ」
「こういう時はちゃんと原作者なのね」
「普段は何なんだ」
「締切に追われてる人」
否定できなかった。
◇
打ち合わせは続いた。
怪人の登場時間、戦闘の長さ、変身シーン、撮影できる場所、予算、子供に分かりやすい見せ方。
原案を書いている時には考えなかったことが、次々と出てくる。
最初は、正直少し嫌だった。
自分の描いたものが変わる。
台詞が変わり、場面が減り、デザインも変わる。
そのたびに、俺の話じゃなくなるんじゃないかと思った。
でも、実際にテレビで動いているキッドを見て、少し考えが変わった。
漫画とテレビは違う。
同じものを作ろうとする方が、たぶん無理なんだ。
「ジコンさん」
監督に呼ばれた。
「はい」
「ここなんですが」
次の資料が出てくる。
また原案とは違う。
俺は内容を読んで、少し考えた。
「こっちの方がいいですね」
スタッフが少し驚いた。
「原案では逆ですが」
「テレビなら、こっちの方が分かりやすいです」
「変更しても?」
「はい」
ただし、変えてはいけないところもある。
そこだけは、ちゃんと言う。
それが今の俺の仕事なんだと思う。
◇
休憩に入った。
俺は机に突っ伏した。
「五分寝る」
「駄目」
ミドリが即答した。
「何で」
「五分で起きないでしょう」
「起きる」
「昨日も『少し寝る』って言ってたでしょう」
「寝た」
「何時間?」
「だから、時間で数えるほどじゃない」
「それ寝てないの」
紙コップのコーヒーを渡されたので、一口飲む。
苦い。
「砂糖」
「入ってる」
「足りない」
「子供みたいなこと言わないの」
もう一つ入れる。
少し良くなった。
ミドリが向かいに座る。
「でも、最初よりテレビ版に口出さなくなったわね」
「そうか?」
「前は『原案では』ってよく言ってた」
言われてみれば、そうだったかもしれない。
「別物だからな」
「別物?」
「原案は原案。テレビはテレビ。俺の話をそのまま映像にしても、たぶん面白くならない」
「そんなことないと思うけど」
「なるよ」
漫画には漫画のやり方がある。
テレビにはテレビのやり方がある。
「俺はテレビ作ったことないし、だったら作れる人に任せた方がいい」
ミドリが少し黙った。
「意外」
「何が?」
「もっと頑固かと思ってた」
「失礼だな」
「昔から自分の漫画だけは譲らなかったでしょう?」
「あれは俺が描くから」
自分で描くものなら、自分で決める。
でもテレビは、俺一人で作るものじゃない。
「ただ、変えちゃ駄目なところは言う」
「さっきの台詞みたいに?」
「ああ。そこまで変えたら別の話になる。それは困る」
ミドリは少しだけ笑って、コーヒーを飲んだ。
◇
休憩が終わり、打ち合わせが再開した。
次は変身後のキッドの動きについて。
アクション担当から出された案は、原案よりかなり派手だった。
俺は頭の中で映像を想像する。
「いいですね」
「ここから、この動きにつなげたいんですが」
「できるんですか?」
「役者本人がかなり動けるので」
「へえ」
キッド役は若手の俳優だ。
最近、名前を見る機会が増えた。
『ビーストギア』が始まる前から注目されていたらしいが、俺は芸能人に詳しくないので、ミドリに教えられるまで知らなかった。
「本人ができるなら、やってもらっていいです」
「分かりました」
役者ができること。
着ぐるみでできること。
映像だからできること。
そういうものが少しずつ、俺の描いた『ビーストギア』とは違う形を作っていく。
それでいい。
むしろ、それがテレビ版なんだと思う。
◇
打ち合わせが終わった頃には、眠気より腹の方が限界だった。
「終わった……」
俺が呟く横で、ミドリが資料をまとめる。
「まだよ」
「何が?」
「帰ったら原稿の直し」
「聞いてない」
「昨日言った」
「いつ?」
「あなたが『時間って早いな』って二回目に言った後」
覚えていない。
「ミドリ」
「何?」
「人間には休息が必要だと思う」
「昨日、私が言った」
「そうだったか?」
「そうよ」
俺は少し考えた。
「じゃあ、今日は休むか」
ミドリの手が止まった。
「……え?」
「何だ?」
「今、何て?」
「休む」
なぜかミドリの顔が少し明るくなった。
「だったら――」
「帰って漫画読む」
その表情が止まった。
「資料じゃないやつ」
「そういうことじゃない!」
何が違うんだ。
よく分からなかった。
ただ、打ち合わせは終わった。
テレビ版は、俺の原案とは少しずつ違うものになっている。
でも、それは悪いことじゃない。
テレビには、テレビの『ビーストギア』がある。
最近は、そう思えるようになっていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




