俺の描いたやつ
俺の描いたやつ
「これ、確認お願いします」
ミドリが机の上に箱を置いた。
「何?」
「サンプル」
「何の?」
「開ければ分かるわよ」
原稿を書く手を止めて箱を開けると、中から見覚えのあるものが出てきた。
ベルト。
正確には、特撮版『ビーストギア』でキッドが使っている変身ベルトを、子供向けに商品化したものだった。
「……できたのか」
「とっくにできてるわよ」
「じゃあ何で今来た?」
「新しい仕様のサンプル」
なるほど。
手に取ってみると思っていたより軽い。
当然か。本物と同じような重さだったら、子供が腰につけるには大変だ。
「ここ押してみて」
ミドリに言われてボタンを押す。
『配信開始!』
「……」
もう一度押す。
『配信開始!』
「ジコン」
「何?」
「楽しい?」
「確認してる」
「顔がちょっと楽しそうだけど」
「気のせいだ」
もう一度押した。
『配信開始!』
ミドリが笑った。
◇
サンプルはベルトだけではなかった。
メモリー、キッドのフィギュア、怪人の小さな人形、文房具、菓子、服、キーホルダー。
知らない間に、いろんなものが増えていた。
「こんなにあるの?」
「もっとあるわよ」
「何で?」
「売れてるから」
最近、その言葉をよく聞く。
売れている。
人気がある。
話題になっている。
俺には、いまだによく分からない。
原稿を描いている場所は変わっていない。
机も同じ。
椅子も同じ。
締切に追われているのも同じ。
なのに、俺が紙に描いたものだけが勝手に外で増えている。
「これ、俺の絵よりかわいくない?」
小さな怪人の人形を手に取って言うと、ミドリが覗き込んだ。
「子供向けに調整してるんでしょう」
「俺の怪人なのに」
「かわいくなって不満?」
「いや。これはこれでいいな」
机に置く。
ちょっと欲しい。
サンプルだから、たぶんもらえる。
あとで聞こう。
◇
「それで、これも」
ミドリが紙を一枚出した。
イベントの写真だった。
大勢の人が写っている。
「何?」
「先週のイベント」
「へえ」
写真をよく見る。
キッドがいる。
いや、キッドの格好をした人がいる。
隣にもいる。
その向こうにもいる。
「……キッド多くない?」
「コスプレ」
「知ってる」
「本当に?」
「それくらいは知ってる」
写真をさらに見る。
変身後のキッド。
変身前の衣装。
怪人。
中には、かなり細かいところまで作り込んでいる人もいる。
「すごいな。これ、自分で作ったの?」
「そういう人もいるみたい」
「何で?」
「好きだからでしょう」
好きだから、自分で服を作る。
小道具を作る。
着る。
写真を撮る。
そこまでやるのか。
「俺だったら描いた方が早いな」
「あなたはそうでしょうね」
ページをめくる。
またキッド。
怪人。
知らない人たちが、俺の描いたものになっている。
◇
次の写真で手が止まった。
「サクラ」
「やっぱり多いわね」
サクラのコスプレ。
一人ではない。
何人もいる。
テレビ版の放送後、かなり増えたらしい。
「衣装、よく作ったな」
「そこ?」
「細かいところまで合ってる」
原案のデザイン。
テレビ版で少し変わった部分。
それも再現されている。
「サクラ役の子の影響も大きいみたいよ」
「やっぱり」
「ほら、また」
「何が?」
「昨日からずっと、人気の理由を役者に持っていくでしょう」
「実際人気なんだろ?」
「人気だけど、それだけじゃないって話」
また始まった。
俺は写真を見る。
サクラ。
キッド。
怪人。
確かに、役者本人がいないところでも、こうやってキャラクターの格好をしている人がいる。
「……変な感じだな」
「嫌?」
「いや」
嫌ではない。
むしろ、少し面白い。
「俺の描いたやつが歩いてる」
「言い方」
「だってそうだろ」
紙の上にいた。
俺が描いた。
それがテレビになった。
今度は、知らない人が着ている。
「怖いな」
「喜びなさいよ」
ミドリが笑った。
◇
午後、打ち合わせのため外へ出た。
駅前を歩いている途中、子供が目に入った。
腰には見覚えのあるベルト。
手にはメモリー。
「配信開始!」
音が聞こえた。
子供が指を鳴らそうとしている。
うまく鳴らない。
何度かやってみるが、それでも鳴らない。
本人は気にしていないらしく、そのままキッドの真似をしてポーズを取った。
俺は思わず足を止めた。
「どうしたの?」
ミドリが聞く。
「あれ」
「ああ」
「売れてるんだな」
「だから、ずっとそう言ってるでしょう」
「本当にいるんだ」
「何が?」
「買った人」
ミドリが呆れた顔をした。
「商品なんだからいるでしょう」
分かっている。
理屈では。
でも、写真と数字で見るのと、目の前で見るのは違った。
子供がもう一度言う。
「配信開始!」
今度も指は鳴らなかった。
それでも楽しそうに走っていく。
俺はしばらく、その後ろ姿を見ていた。
「嬉しい?」
ミドリが聞く。
「……まあ」
「まあ?」
「ちょっと」
ミドリが笑った。
「素直じゃないわね」
「何が?」
「別に」
◇
打ち合わせが終わった帰り。
今度は別の店の前で足が止まった。
『ビーストギア』の菓子。
大きくキッドが描かれている。
その隣には怪人。
「これも?」
「売ってるわね」
「知らなかった」
「あなた、自分の作品の商品展開に興味なさすぎない?」
「原稿で忙しい」
「それは知ってる」
一つ買う。
「食べるの?」
「味が気になる」
「子供向けよ?」
「俺が食べちゃ駄目なのか」
「駄目とは言ってない」
もう一つ買う。
「二つ?」
「保存用」
ミドリが俺を見る。
「何だ?」
「結構気に入ってるじゃない」
「資料だ」
「お菓子が?」
「商品展開の」
「はいはい」
なぜ信じない。
◇
家に戻る。
机の上には、朝届いたサンプルが並んでいた。
ベルト。
メモリー。
小さな怪人。
その横に、買ってきた菓子を置く。
少し前まで、ここにあるのは原稿ばかりだった。
俺が描く。
ミドリが持っていく。
雑誌に載る。
それで終わり。
今は違う。
テレビになって。
玩具になって。
服になって。
誰かがコスプレをして。
子供がベルトを巻いている。
俺が知らないところで、『ビーストギア』がどんどん大きくなっている。
「……すごいな」
誰もいない部屋で言った。
今度は、役者のおかげだとか、テレビのおかげだとか。
そういう言葉は、少しだけ出てこなかった。
机の上のベルトを見る。
ボタンを押した。
『配信開始!』
「……」
もう一回。
『配信開始!』
少し楽しい。
原稿をやろう。
その前に。
もう一回だけ。
『配信開始!』
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




