放送開始
第2話 放送開始
今日。
ついに『ビーストギア』の放送が始まった。
正確には。
始まって。
終わった。
第1話が。
たった今。
「…………」
テレビでは、もう次の番組が始まっている。
さっきまで怪人とヒーローが戦っていた画面で、今はまったく別の出演者たちが笑っている。
なのに俺は。
まだリモコンを握ったまま、ソファから動けずにいた。
別にショックを受けているわけじゃない。
むしろ逆だ。
「……すげえ」
ようやく口から出た言葉が、それだった。
語彙が死んでいる。
一応、漫画家なのに。
でも。
仕方がないだろう。
すごかったんだから。
◇
放送開始の一時間前から。
俺は、どうにも落ち着かなかった。
原作者なのだから、当然内容は知っている。
脚本も確認した。
打ち合わせにも参加した。
デザインも見た。
撮影現場だって、一度見学させてもらった。
つまり。
今日テレビから何が流れてくるのか。
俺は普通の視聴者より、ずっとよく知っている。
知っている。
知っているのに。
落ち着かない。
時計を見る。
まだ早い。
机の上に置いてある原稿へ目を落とす。
集中できない。
諦めて、もう一度時計を見る。
二分しか経っていない。
「…………」
こんなに時間って進まなかったっけ。
仕方がないのでコーヒーを淹れた。
湯を沸かす。
カップを用意する。
コーヒーを淹れる。
できるだけゆっくりやったつもりだった。
これなら少しは時間も――。
時計を見る。
「まだか……」
自分で笑った。
子供か、俺は。
いや。
たぶん子供のころだって、ここまでそわそわしていなかった。
新しい特撮番組の第1話を楽しみにして、テレビの前で待ったことはある。
でも。
今日流れるのは。
自分の漫画だ。
自分の漫画がテレビになる。
しかもアニメではない。
特撮だ。
実在する人間が衣装を着て。
実際に作られたビーストギアを身につけて。
俺が描いた怪人と戦う。
撮影現場で見たときにも思った。
変な感じだった。
漫画なら。
線だ。
俺が引いた線。
俺が塗った黒。
俺が描いた背景。
俺がペン先で作った世界。
それが現場では。
立っている。
歩いている。
喋っている。
目の前を横切っていく。
初めてスーツを間近で見たときなんて、スタッフの説明を聞きながら、半分くらい別のことを考えていた。
――これ。
――本当に作ったんだ。
――俺が描いたやつ。
――立体になるんだ。
当たり前のことなのに。
ずっと、そんなことを考えていた。
撮影現場ですら、そうだった。
なら。
完成した一本の番組として見たら。
俺は、どう思うんだろう。
◇
そして。
放送時間になった。
時計の針が、その時刻を示す。
テレビからCMが消える。
画面が暗転する。
番組が始まった。
「…………」
無意識に。
リモコンを握る手に力が入っていた。
タイトルが出る。
『ビーストギア』
「…………!」
知っているタイトルだ。
当たり前だ。
俺がつけたんだから。
原稿用紙にも。
単行本にも。
何度も何度も書いてきた名前。
それなのに。
テレビ画面いっぱいに表示された瞬間。
自分のものではなくなったような。
いや。
もっと大きなものになったような。
妙な感じがした。
音楽が流れる。
物語が始まる。
知っている台詞。
知っている登場人物。
知っている場面。
なのに。
全部が新しい。
「ああ、ここ、こうしたんだ」
思わず声が漏れた。
漫画では数コマだったところが、少し長くなっている。
逆に。
原作では時間をかけた場面が、映像では短くなっている。
台詞も少し違う。
最初に脚本を読んだときには、少し気になっていた部分だ。
でも。
実際に役者が口にするのを聞くと。
「……こっちのほうが自然だな」
悔しい。
いや。
別に勝負しているわけじゃないけど。
なんとなく悔しい。
そして。
面白い。
漫画なら、読者がページをめくる速度は読者自身が決める。
映像は違う。
こちらが見せたい速度で、場面が進んでいく。
だから。
同じ物語なのに。
呼吸が違う。
「なるほどなあ……」
気づけば。
完全に原作者の顔になっていた。
いや。
原作者なんだけど。
映像を見る。
原作との違いを見つける。
どうして変えたのか考える。
演出を見る。
役者の芝居を見る。
カメラの位置まで気になってくる。
そのうち。
怪人が出た。
「おお……」
知っている。
デザイン画も見ている。
撮影現場でも見た。
スーツを間近で見たときには、細かい造形まで確認した。
それでも。
完成した映像の中で現れると。
まるで違った。
照明。
カメラ。
音。
編集。
そして。
役者たちの反応。
全部が合わさって。
ちゃんと。
怪人になっている。
撮影現場では。
どうしても「怪人のスーツ」だった。
今は違う。
画面の中にいるのは。
俺が漫画の中で描いた。
あの怪人だった。
◇
そして。
いよいよ。
あの場面が来た。
ビーストギア。
変身。
「…………」
ここだけは。
俺も黙って見ていた。
漫画で描いた変身。
何度も描き直した。
格好よく見せたい。
でも。
複雑すぎても駄目だ。
何をしているのか読者に分からなければ意味がない。
変身前。
動作。
変化。
そして完成。
どこを一枚絵にするか。
どこを細かく見せるか。
散々悩んだ。
その変身が。
今。
音になる。
光になる。
動きになる。
俺が紙の上に描いたものが。
数秒間の映像として。
つながっていく。
そして。
完成した姿が画面に現れた。
「…………」
格好いい。
いや。
自分で言うのもどうかと思うけど。
「……格好いいな」
言ってしまった。
一人だからいいだろう。
誰も聞いていない。
そこから戦闘が始まった。
これも。
漫画とは違う。
漫画なら。
一番格好いい瞬間を、一枚の絵にできる。
拳が当たる瞬間。
敵が吹き飛ぶ瞬間。
必殺技を放つ瞬間。
その一瞬だけを切り取って。
一ページ。
時には見開き全部を使って。
読者の目を止められる。
映像では。
その前も。
その後もある。
踏み込む。
避ける。
殴る。
蹴る。
倒れる。
立ち上がる。
また構える。
全部が。
一つの流れとしてつながっている。
だから。
漫画とは別の格好よさがある。
気づけば俺は。
原作との違いを探すのをやめていた。
演出について考えるのも。
カメラを見るのも。
いつの間にか忘れていた。
普通に。
見ていた。
一人の視聴者として。
◇
そして。
第1話が終わった。
エンディング。
音楽が流れる。
スタッフロール。
たくさんの名前が流れていく。
その中に。
自分の名前があった。
「…………」
知っていた。
もちろん知っていた。
原作者なのだから。
名前が出るのは当たり前だ。
それでも。
テレビ画面に表示された自分の名前を見ると。
妙な感じがした。
少し恥ずかしい。
でも。
嬉しい。
かなり。
嬉しい。
「……終わった」
そう呟いた。
そこで。
少し考える。
いや。
違うな。
終わったんじゃない。
始まったんだ。
『ビーストギア』という特撮番組が。
今日。
始まった。
◇
ここからは。
見終わった直後の感想を残しておこうと思う。
まず。
心配しすぎだった。
第1話を書いた日の俺へ。
大丈夫だったぞ。
ちゃんと『ビーストギア』だった。
もちろん。
原作とは違う。
台詞も。
演出も。
見せ方も。
俺の漫画そのままではない。
でも。
違うから駄目なんじゃない。
違う形で。
ちゃんと同じものを作ってくれていた。
漫画には漫画の『ビーストギア』があって。
特撮には特撮の『ビーストギア』がある。
今日見て。
ようやく、それが分かった気がする。
それと。
自分が考えたヒーローをテレビで見るのは。
思っていたより。
ずっと恥ずかしい。
変身した瞬間なんて。
格好いいと思いながら。
同時に。
「これ、俺が考えたんだよな……」
と思ってしまった。
なんだろう。
自分で書いた漫画を。
大勢の人の前で音読されているのに近い。
いや。
違うか。
でも。
なんとなく。
そんな感じだ。
◇
あと。
一つだけ。
変なことがあった。
大したことではない。
たぶん。
放送を見ている途中。
一瞬だけ。
「……あれ?」
と思った場面があった。
台詞が違う。
とか。
演出が違う。
とかではない。
脚本にもあった場面だ。
俺も確認している。
撮影されたことも知っている。
だから。
おかしいところなんてない。
なのに。
その場面だけ。
妙に。
見覚えがあった。
原作者なんだから当たり前だろう。
そう思う。
俺もそう思った。
でも。
漫画で描いたから知っている。
脚本で読んだから知っている。
撮影現場で見たから知っている。
そういう。
頭で知っているという感じではなかった。
もっと。
変な感じ。
テレビの中の場所を見た瞬間。
匂いまで知っているような気がした。
そこに吹いている風も。
足元の感触も。
次にどこから音がするのかも。
知っている。
そんな。
ありもしない感覚。
まるで。
自分が。
そこにいたことがあるような。
「…………」
書いていて馬鹿らしくなってきた。
たぶん。
完成した映像を見て。
今まで頭の中で何度も想像していた場面と重なっただけだ。
漫画家なんだから。
自分の描いた世界を、頭の中で何度も歩き回っている。
そういうこともあるだろう。
うん。
ある。
たぶん。
◇
それより。
来週だ。
第2話。
今日、第1話を見て。
少し安心した。
だから次からは。
もう少し普通に楽しめると思う。
原作者としてじゃなく。
一人の視聴者として。
……無理かな。
たぶん。
また原作との違いを探す。
台詞が変わっていたら理由を考える。
演出が変わっていたら感心する。
自分の描いたものが出てきたら。
たぶん、また少し恥ずかしくなる。
でも。
それも含めて。
楽しみだ。
『ビーストギア』は。
今日。
俺の漫画とは別の場所でも。
動き始めた。
次にこの手記を書くのがいつになるかは分からない。
毎週感想を書くつもりはない。
そんなことを始めたら。
これは『時空の手記』じゃなくて。
『原作者によるビーストギア視聴日記』になる。
それはそれで。
ちょっと面白そうだけど。
まあ。
やめておこう。
何か。
書いておきたいことがあったら。
また書く。
今日は。
これで十分だ。
――『ビーストギア』第1話。
面白かった。
原作者が言うのも。
どうかと思うけど。
◇
後書き
『時空の手記』第2話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、ついに放送を迎えた特撮版『ビーストギア』第1話を、原作者であるジゴ自身が見る一日を描きました。
自分が紙の上で生み出したキャラクターが、役者やスーツアクター、スタッフたちの手によって現実の映像になって動き出す。
嬉しさと恥ずかしさ、そして原作者だからこそ気づく漫画と映像の違い。
第1話で抱えていた不安も、実際の放送を見たことで少しずつ期待へと変わっていきました。
ただ。
放送の途中でジゴが感じた、ほんの小さな違和感。
知っているのではなく、まるで「そこにいたことがある」ような感覚。
今のジゴ自身は、漫画家ゆえの錯覚だと考えています。
この感覚が何を意味するのか。
手記には、これからもジゴ自身が経験したことが記されていきます。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、基本設定および各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




