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時根の手記  作者: 時根脱才 


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2/11

放送開始

第2話 放送開始


 今日。


 ついに『ビーストギア』の放送が始まった。


 正確には。


 始まって。


 終わった。


 第1話が。


 たった今。


「…………」


 テレビでは、もう次の番組が始まっている。


 さっきまで怪人とヒーローが戦っていた画面で、今はまったく別の出演者たちが笑っている。


 なのに俺は。


 まだリモコンを握ったまま、ソファから動けずにいた。


 別にショックを受けているわけじゃない。


 むしろ逆だ。


「……すげえ」


 ようやく口から出た言葉が、それだった。


 語彙が死んでいる。


 一応、漫画家なのに。


 でも。


 仕方がないだろう。


 すごかったんだから。


     ◇


 放送開始の一時間前から。


 俺は、どうにも落ち着かなかった。


 原作者なのだから、当然内容は知っている。


 脚本も確認した。


 打ち合わせにも参加した。


 デザインも見た。


 撮影現場だって、一度見学させてもらった。


 つまり。


 今日テレビから何が流れてくるのか。


 俺は普通の視聴者より、ずっとよく知っている。


 知っている。


 知っているのに。


 落ち着かない。


 時計を見る。


 まだ早い。


 机の上に置いてある原稿へ目を落とす。


 集中できない。


 諦めて、もう一度時計を見る。


 二分しか経っていない。


「…………」


 こんなに時間って進まなかったっけ。


 仕方がないのでコーヒーを淹れた。


 湯を沸かす。


 カップを用意する。


 コーヒーを淹れる。


 できるだけゆっくりやったつもりだった。


 これなら少しは時間も――。


 時計を見る。


「まだか……」


 自分で笑った。


 子供か、俺は。


 いや。


 たぶん子供のころだって、ここまでそわそわしていなかった。


 新しい特撮番組の第1話を楽しみにして、テレビの前で待ったことはある。


 でも。


 今日流れるのは。


 自分の漫画だ。


 自分の漫画がテレビになる。


 しかもアニメではない。


 特撮だ。


 実在する人間が衣装を着て。


 実際に作られたビーストギアを身につけて。


 俺が描いた怪人と戦う。


 撮影現場で見たときにも思った。


 変な感じだった。


 漫画なら。


 線だ。


 俺が引いた線。


 俺が塗った黒。


 俺が描いた背景。


 俺がペン先で作った世界。


 それが現場では。


 立っている。


 歩いている。


 喋っている。


 目の前を横切っていく。


 初めてスーツを間近で見たときなんて、スタッフの説明を聞きながら、半分くらい別のことを考えていた。


 ――これ。


 ――本当に作ったんだ。


 ――俺が描いたやつ。


 ――立体になるんだ。


 当たり前のことなのに。


 ずっと、そんなことを考えていた。


 撮影現場ですら、そうだった。


 なら。


 完成した一本の番組として見たら。


 俺は、どう思うんだろう。


     ◇


 そして。


 放送時間になった。


 時計の針が、その時刻を示す。


 テレビからCMが消える。


 画面が暗転する。


 番組が始まった。


「…………」


 無意識に。


 リモコンを握る手に力が入っていた。


 タイトルが出る。


『ビーストギア』


「…………!」


 知っているタイトルだ。


 当たり前だ。


 俺がつけたんだから。


 原稿用紙にも。


 単行本にも。


 何度も何度も書いてきた名前。


 それなのに。


 テレビ画面いっぱいに表示された瞬間。


 自分のものではなくなったような。


 いや。


 もっと大きなものになったような。


 妙な感じがした。


 音楽が流れる。


 物語が始まる。


 知っている台詞。


 知っている登場人物。


 知っている場面。


 なのに。


 全部が新しい。


「ああ、ここ、こうしたんだ」


 思わず声が漏れた。


 漫画では数コマだったところが、少し長くなっている。


 逆に。


 原作では時間をかけた場面が、映像では短くなっている。


 台詞も少し違う。


 最初に脚本を読んだときには、少し気になっていた部分だ。


 でも。


 実際に役者が口にするのを聞くと。


「……こっちのほうが自然だな」


 悔しい。


 いや。


 別に勝負しているわけじゃないけど。


 なんとなく悔しい。


 そして。


 面白い。


 漫画なら、読者がページをめくる速度は読者自身が決める。


 映像は違う。


 こちらが見せたい速度で、場面が進んでいく。


 だから。


 同じ物語なのに。


 呼吸が違う。


「なるほどなあ……」


 気づけば。


 完全に原作者の顔になっていた。


 いや。


 原作者なんだけど。


 映像を見る。


 原作との違いを見つける。


 どうして変えたのか考える。


 演出を見る。


 役者の芝居を見る。


 カメラの位置まで気になってくる。


 そのうち。


 怪人が出た。


「おお……」


 知っている。


 デザイン画も見ている。


 撮影現場でも見た。


 スーツを間近で見たときには、細かい造形まで確認した。


 それでも。


 完成した映像の中で現れると。


 まるで違った。


 照明。


 カメラ。


 音。


 編集。


 そして。


 役者たちの反応。


 全部が合わさって。


 ちゃんと。


 怪人になっている。


 撮影現場では。


 どうしても「怪人のスーツ」だった。


 今は違う。


 画面の中にいるのは。


 俺が漫画の中で描いた。


 あの怪人だった。


     ◇


 そして。


 いよいよ。


 あの場面が来た。


 ビーストギア。


 変身。


「…………」


 ここだけは。


 俺も黙って見ていた。


 漫画で描いた変身。


 何度も描き直した。


 格好よく見せたい。


 でも。


 複雑すぎても駄目だ。


 何をしているのか読者に分からなければ意味がない。


 変身前。


 動作。


 変化。


 そして完成。


 どこを一枚絵にするか。


 どこを細かく見せるか。


 散々悩んだ。


 その変身が。


 今。


 音になる。


 光になる。


 動きになる。


 俺が紙の上に描いたものが。


 数秒間の映像として。


 つながっていく。


 そして。


 完成した姿が画面に現れた。


「…………」


 格好いい。


 いや。


 自分で言うのもどうかと思うけど。


「……格好いいな」


 言ってしまった。


 一人だからいいだろう。


 誰も聞いていない。


 そこから戦闘が始まった。


 これも。


 漫画とは違う。


 漫画なら。


 一番格好いい瞬間を、一枚の絵にできる。


 拳が当たる瞬間。


 敵が吹き飛ぶ瞬間。


 必殺技を放つ瞬間。


 その一瞬だけを切り取って。


 一ページ。


 時には見開き全部を使って。


 読者の目を止められる。


 映像では。


 その前も。


 その後もある。


 踏み込む。


 避ける。


 殴る。


 蹴る。


 倒れる。


 立ち上がる。


 また構える。


 全部が。


 一つの流れとしてつながっている。


 だから。


 漫画とは別の格好よさがある。


 気づけば俺は。


 原作との違いを探すのをやめていた。


 演出について考えるのも。


 カメラを見るのも。


 いつの間にか忘れていた。


 普通に。


 見ていた。


 一人の視聴者として。


     ◇


 そして。


 第1話が終わった。


 エンディング。


 音楽が流れる。


 スタッフロール。


 たくさんの名前が流れていく。


 その中に。


 自分の名前があった。


「…………」


 知っていた。


 もちろん知っていた。


 原作者なのだから。


 名前が出るのは当たり前だ。


 それでも。


 テレビ画面に表示された自分の名前を見ると。


 妙な感じがした。


 少し恥ずかしい。


 でも。


 嬉しい。


 かなり。


 嬉しい。


「……終わった」


 そう呟いた。


 そこで。


 少し考える。


 いや。


 違うな。


 終わったんじゃない。


 始まったんだ。


『ビーストギア』という特撮番組が。


 今日。


 始まった。


     ◇


 ここからは。


 見終わった直後の感想を残しておこうと思う。


 まず。


 心配しすぎだった。


 第1話を書いた日の俺へ。


 大丈夫だったぞ。


 ちゃんと『ビーストギア』だった。


 もちろん。


 原作とは違う。


 台詞も。


 演出も。


 見せ方も。


 俺の漫画そのままではない。


 でも。


 違うから駄目なんじゃない。


 違う形で。


 ちゃんと同じものを作ってくれていた。


 漫画には漫画の『ビーストギア』があって。


 特撮には特撮の『ビーストギア』がある。


 今日見て。


 ようやく、それが分かった気がする。


 それと。


 自分が考えたヒーローをテレビで見るのは。


 思っていたより。


 ずっと恥ずかしい。


 変身した瞬間なんて。


 格好いいと思いながら。


 同時に。


「これ、俺が考えたんだよな……」


 と思ってしまった。


 なんだろう。


 自分で書いた漫画を。


 大勢の人の前で音読されているのに近い。


 いや。


 違うか。


 でも。


 なんとなく。


 そんな感じだ。


     ◇


 あと。


 一つだけ。


 変なことがあった。


 大したことではない。


 たぶん。


 放送を見ている途中。


 一瞬だけ。


「……あれ?」


 と思った場面があった。


 台詞が違う。


 とか。


 演出が違う。


 とかではない。


 脚本にもあった場面だ。


 俺も確認している。


 撮影されたことも知っている。


 だから。


 おかしいところなんてない。


 なのに。


 その場面だけ。


 妙に。


 見覚えがあった。


 原作者なんだから当たり前だろう。


 そう思う。


 俺もそう思った。


 でも。


 漫画で描いたから知っている。


 脚本で読んだから知っている。


 撮影現場で見たから知っている。


 そういう。


 頭で知っているという感じではなかった。


 もっと。


 変な感じ。


 テレビの中の場所を見た瞬間。


 匂いまで知っているような気がした。


 そこに吹いている風も。


 足元の感触も。


 次にどこから音がするのかも。


 知っている。


 そんな。


 ありもしない感覚。


 まるで。


 自分が。


 そこにいたことがあるような。


「…………」


 書いていて馬鹿らしくなってきた。


 たぶん。


 完成した映像を見て。


 今まで頭の中で何度も想像していた場面と重なっただけだ。


 漫画家なんだから。


 自分の描いた世界を、頭の中で何度も歩き回っている。


 そういうこともあるだろう。


 うん。


 ある。


 たぶん。


     ◇


 それより。


 来週だ。


 第2話。


 今日、第1話を見て。


 少し安心した。


 だから次からは。


 もう少し普通に楽しめると思う。


 原作者としてじゃなく。


 一人の視聴者として。


 ……無理かな。


 たぶん。


 また原作との違いを探す。


 台詞が変わっていたら理由を考える。


 演出が変わっていたら感心する。


 自分の描いたものが出てきたら。


 たぶん、また少し恥ずかしくなる。


 でも。


 それも含めて。


 楽しみだ。


『ビーストギア』は。


 今日。


 俺の漫画とは別の場所でも。


 動き始めた。


 次にこの手記を書くのがいつになるかは分からない。


 毎週感想を書くつもりはない。


 そんなことを始めたら。


 これは『時空の手記』じゃなくて。


『原作者によるビーストギア視聴日記』になる。


 それはそれで。


 ちょっと面白そうだけど。


 まあ。


 やめておこう。


 何か。


 書いておきたいことがあったら。


 また書く。


 今日は。


 これで十分だ。


 ――『ビーストギア』第1話。


 面白かった。


 原作者が言うのも。


 どうかと思うけど。


     ◇


後書き


『時空の手記』第2話をお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、ついに放送を迎えた特撮版『ビーストギア』第1話を、原作者であるジゴ自身が見る一日を描きました。


自分が紙の上で生み出したキャラクターが、役者やスーツアクター、スタッフたちの手によって現実の映像になって動き出す。


嬉しさと恥ずかしさ、そして原作者だからこそ気づく漫画と映像の違い。


第1話で抱えていた不安も、実際の放送を見たことで少しずつ期待へと変わっていきました。


ただ。


放送の途中でジゴが感じた、ほんの小さな違和感。


知っているのではなく、まるで「そこにいたことがある」ような感覚。


今のジゴ自身は、漫画家ゆえの錯覚だと考えています。


この感覚が何を意味するのか。


手記には、これからもジゴ自身が経験したことが記されていきます。


【人間×生成AIによる合作作品】


企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才


文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)


本作品の世界観、キャラクター、基本設定および各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。


本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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