第1話 特撮化決定
第1話 特撮化決定
今日、『ビーストギア』の特撮化が正式に決まった。
こうして文字にしてみても、まだ実感がない。
担当から連絡を受けたときも、最初に口から出た言葉は、
「……本当に?」
だった。
我ながら、もう少し気の利いたことを言えなかったのかと思う。
でも、仕方がない。
だって。
『ビーストギア』だ。
あの『ビーストギア』が。
俺が何度も何度も描き直して。
設定を作っては捨て。
キャラクターを作っては悩み。
ようやく形にした漫画が。
特撮番組になる。
人が演じる。
スーツが作られる。
怪人が動く。
俺が紙の上に描いてきたものが、本当に動いて、戦って、テレビから流れてくる。
そんなことがあるのか。
いや。
あるから連絡が来たんだけど。
まだ頭が追いついていない。
◇
思えば、『ビーストギア』は最初から難産だった。
今だから言える。
本当に。
めちゃくちゃ苦労した。
最初に考えたときは、もっと単純な話だった。
変身するヒーローがいて。
怪人がいて。
戦う。
それだけ。
子供のころから、そういう作品が好きだった。
だから、自分でも描いてみたかった。
最初は、それだけだった。
ところが。
いざ自分で描こうとすると、全然うまくいかない。
格好いいヒーローを描いたつもりなのに、どこかで見たような姿になる。
新しい能力を考えたつもりなのに、翌日読み返すと、
「これ、本当に面白いか?」
となる。
設定を増やせば増やすほど、今度は自分でも分からなくなる。
机の上には、使いかけの消しゴム。
何度も芯を入れ替えたシャープペン。
書いては消した跡で、すっかり汚くなったノート。
丸めて捨てた紙が、ゴミ箱から溢れたことも一度や二度ではない。
ノートは増えた。
ボツも増えた。
机の周りだけ見れば、何かものすごい大作を作っている人間みたいだった。
実際に完成しているものは。
ほとんどなかった。
思いついて。
描いて。
違うと思って。
消す。
また考える。
また描く。
また消す。
その繰り返しだった。
描けない夜もあった。
机に向かったまま、何時間も白い紙を見ているだけの日もあった。
頭の中には何かがある。
なのに。
それを形にしようとした途端、逃げていく。
そんな感覚だった。
一度、本気で全部やめようと思ったこともある。
向いていない。
自分には無理なんじゃないか。
そう思った。
描きかけの原稿を机の隅へ追いやって。
もう見ないことにしようとした。
それでも。
何日かすると、また気になった。
あのキャラクター。
あの設定。
あの世界。
もう一度だけ。
ここを変えれば。
もしかしたら。
そんなことを考えて、結局また机に向かっていた。
捨てられなかった。
理由は、自分でもよく分からない。
ただ。
どうしても。
この作品だけは、ちゃんと形にしたかった。
◇
そうやって残ったのが。
『ビーストギア』だった。
最初に頭の中にあったものとは、ずいぶん違う。
でも。
たぶん、それでいい。
何度も描き直した。
何度も考え直した。
これでいいと思っても、翌日には変えたくなった。
登場人物一人作るだけでも悩んだ。
どういう人間なのか。
どういう言葉を使うのか。
何を大切にしているのか。
何を怖がるのか。
そして。
どうして戦うのか。
ヒーローだから戦う。
それだけにはしたくなかった。
変身できるから戦うわけでもない。
力があるからといって、その人間が戦えるとは限らない。
怖いかもしれない。
逃げたいかもしれない。
間違えるかもしれない。
負けるかもしれない。
それでも戦わなければならない瞬間が来たとき。
その人間は、どうするのか。
そんなことを考えているうちに。
気づけば。
最初に考えていた単純なヒーロー漫画とは、ずいぶん違うものになっていた。
だから。
連載が決まったときも嬉しかった。
最初の原稿が本になったときも嬉しかった。
書店で自分の作品を見つけたときなんて、意味もなくその棚の前を何度も通った。
買わなかった。
自分の本だから。
いや。
一冊買った。
記念だから仕方ない。
そんな作品が。
今度は。
特撮になる。
◇
特撮化。
改めて考える。
俺の描いたキャラクターを、誰かが演じる。
俺が描いたビーストギアを、誰かが実際に身につける。
漫画の中なら一コマで済ませることもできる変身を。
音楽と。
映像と。
光と。
音で。
見せる。
俺がペン一本で描いていた怪人を。
誰かが立体として作る。
俺が紙の上で描いた戦いを。
俳優やスーツアクターが身体を使って演じる。
「…………」
見たい。
ものすごく見たい。
同時に。
ものすごく怖い。
自分の頭の中にしかなかったものを、他人が形にする。
考えてみれば、すごいことだ。
俺とは違う人間が。
『ビーストギア』を読んで。
考えて。
自分なりに理解して。
映像にする。
当然。
俺が描いたものと、まったく同じにはならない。
漫画と特撮は違う。
できることも違う。
見せ方も違う。
漫画だから成立する表現もあれば、映像だからこそできる表現もある。
変更されるところだってあるだろう。
分かっている。
頭では。
ちゃんと分かっている。
それでも。
「変なことになったらどうしよう……」
声に出してから、自分で少し笑った。
さっきから。
嬉しい。
楽しみ。
怖い。
この三つがずっと頭の中を回っている。
楽しみだと思った直後に、不安になる。
不安になった直後に、やっぱり見たいと思う。
たぶん。
放送が始まるまで続く。
いや。
もしかしたら、放送が始まってからのほうがひどいかもしれない。
◇
そういえば。
担当から、
「先生の作品が実際に動くんですよ」
と言われた。
そのときは普通に笑った。
そうですね。
楽しみですね。
確か、そんなふうに答えたと思う。
でも。
帰ってきてから、その言葉が妙に頭に残っている。
――俺の作品が、実際に動く。
漫画家なら。
一度くらい夢見ることなのかもしれない。
自分の描いた人物が動く。
声を出す。
戦う。
笑う。
怒る。
そして。
生きているみたいに。
「…………」
生きているみたいに。
か。
我ながら。
ちょっと気持ち悪い書き方をした。
まあいい。
誰かに見せるものでもない。
これは日記――。
いや。
毎日書く自信はないから。
手記。
そういうことにしておこう。
今日みたいに。
何か残しておきたいことがあった日に書く。
嬉しかったこと。
腹が立ったこと。
変なこと。
忘れたくないこと。
そのとき、自分が何を考えていたのか。
書いておけば。
何年かあとに読み返したとき、少しくらいは面白いかもしれない。
それなら続けられると思う。
たぶん。
とにかく。
今日。
『ビーストギア』の特撮化が正式に決まった。
あれほど苦労して生み出した作品が。
今度は俺の手を離れて。
たくさんの人の手で。
新しい形になる。
楽しみだ。
本当に。
楽しみだ。
放送が始まったら。
また書こうと思う。
そのときの俺が。
今日のこれを読んで。
「心配しすぎだったな」
と笑えていたらいい。
今は。
心からそう思っている。
◇
後書き
『時空の手記』第1話をお読みいただき、ありがとうございます。
本作は、そのタイトルどおり「手記」という形式を通して物語が進んでいきます。
今回描かれたのは、『ビーストギア』の特撮化が正式に決まった日。
苦労して生み出した自分の作品が、自分の手を離れ、多くの人の手によって実写作品になっていく。
漫画家にとって大きな出来事である一方、嬉しさだけではなく、不安や怖さもある。
そんな始まりの一日です。
そして、この時点のジゴにとって。
「自分の作品が実際に動く」という言葉は、ただの比喩にすぎません。
この手記に、これから何が記されていくのか。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、基本設定および各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




