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時根の手記  作者: 時根脱才 


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17/22

第十七話 最初のネーム

第十七話 最初のネーム


 今日。


 例の子供向け『ビーストギア』の、最初のネームを見た。


 先に感想を書いておく。


 面白かった。


 それから。


 かなり腹が立った。


     ◇


 編集部へ着くなり。


 ミドリが一冊の封筒を、俺の前へ置いた。


「来たよ」


「何が」


「忘れたの?」


「何を」


「監修するって自分で言った漫画」


「…………」


 忘れていたわけではない。


 ただ。


 思っていたより早かった。


「もう描いたのか」


「ネームだけね」


「見せて」


「その前に」


 俺が封筒へ手を伸ばすと。


 ミドリが上から押さえた。


「何だよ」


「一つ約束」


「嫌だ」


「まだ何も言ってない」


「大体分かる」


「じゃあ言ってみて」


「細かいところまで口を出すな」


「半分正解」


「半分?」


「自分の絵と違うって理由で直させない」


「…………」


 言おうとしていた。


 危ない。


「言わない」


「今、間があった」


「言わないって」


「本当に?」


「俺を何だと思ってる」


「面倒臭い原作者」


「帰るぞ」


「はいはい。どうぞ」


 封筒を差し出された。


 帰るのはやめた。


     ◇


 中からネームを取り出す。


 表紙をめくった。


 一ページ目。


「…………」


 そこで。


 手が止まった。


「何?」


「いや」


「もう何かあるの?」


「違う」


 キッドがいた。


 もちろん。


 俺の描くキッドとは違う。


 前に企画書で見た絵よりも。


 さらに。


 子供向けの漫画として整理されている。


 線が柔らかい。


 表情が大きい。


 動きが分かりやすい。


 一つのコマを見ただけでも。


 キッドが今、何をしているのか。


 何を感じているのか。


 すぐに分かる。


「読みやすいな」


 口から出た。


 ミドリが笑った。


「でしょう?」


「何でお前が得意そうなんだ」


「企画した側だから」


「描いたのは新人だろ」


「その新人を見つけたのは編集部」


「はいはい」


 続きを読んだ。


     ◇


 物語の大筋は知っている。


 当たり前だ。


 俺が作った話だから。


 でも。


 同じではなかった。


 場面の順番が変わっている。


 説明が短い。


 怖い場面は抑えられている。


 その代わり。


 人物が何を考えているのかを。


 表情や台詞で、かなりはっきり見せている。


 特に。


 キッド。


 俺の漫画では。


 顔。


 動き。


 間。


 それで読者に察してもらうことが多い。


 でも。


 こっちは違う。


「ここ」


 俺が指を止めた。


「何?」


「この台詞」


 怪人を前にしたキッドが。


『怖いけど、逃げたらもっと怖いことになる!』


 と言っている。


「俺、こんな台詞書いてない」


「知ってる」


「でも」


「駄目?」


「いや」


 もう一度読む。


「分かりやすい」


「でしょ」


「腹立つな」


「何でよ」


「俺なら書かない」


「だから別の漫画家に頼んでるんでしょ」


「それは分かってる」


「じゃあ何で腹立つの」


「分かりやすいから」


「理不尽」


 自分でも。


 そう思う。


     ◇


 俺の漫画なら。


 多分。


 キッドの顔を描く。


 拳を握らせる。


 ほんの少し。


 間を作る。


 それで。


 怖くても行くんだ。


 と読者に感じてもらう。


 こっちは。


 言う。


 ちゃんと言う。


 でも。


 説明臭くない。


 その年齢の子供が読んだ時。


 キッドが何を怖がって。


 それでも何で戦うのか。


 すぐに分かる。


「…………」


 なるほど。


 これが。


 子供向けということなのかもしれない。


 前に。


 テレビ版を見た時にも思った。


 削るんじゃない。


 伝わる形へ。


 置き換える。


 原作の中にあるものを。


 別の言葉で。


 別の絵で。


 もう一度組み立てる。


     ◇


 ページをめくる。


 怪人が出てきた。


「…………」


「どう?」


「怖くない」


「駄目?」


「いや」


 怖くない。


 でも。


 弱そうでもない。


 牙。


 爪。


 大きな身体。


 ちゃんと。


 敵だと分かる。


 ただ。


 俺の漫画みたいに。


 夜になって思い出した時。


 ちょっと嫌な気分になるような顔ではない。


「子供が見るなら、このくらいなのか」


「多分ね」


「俺ならもっと影を入れる」


「入れないで」


「まだ言ってない」


「顔に書いてある」


「最近みんな俺の顔読みすぎだろ」


「みんなって誰」


「お前」


「一人じゃん」


「…………」


 そうだった。


     ◇


 読み進める。


 途中。


 キッドが転んだ。


「…………」


 転んだ。


 もう一度見る。


 やっぱり。


 転んでいる。


「ここ何」


「転んでる」


「見れば分かる」


「じゃあ何」


「キッド、こんな転び方しないだろ」


「出た」


「何が」


「監修」


「監修だろ」


「違う。細かい原作者」


「ここは大事だ」


「何が大事なの」


「キッドは格闘をやってるんだぞ。こんな足のもつれ方はしない」


「小学低学年向け漫画の一コマだよ?」


「だから何だ」


「転んだ方が面白いじゃん」


「それで設定を曲げるのか」


「設定を曲げるほどのこと?」


「曲げる」


「…………」


 ミドリが。


 頭を抱えた。


     ◇


「じゃあどうするの」


「攻撃を避けて、着地したところで何かに引っかかる」


「結局転ぶじゃん」


「違う」


「何が?」


「本人の技量不足で転ぶのと、不可抗力で転ぶのは違う」


「子供そこまで見る?」


「見るかもしれない」


「見ないかもしれない」


「俺は見る」


「あんたが読むための漫画じゃない!」


「監修だぞ!」


「そうだけど!」


 揉めた。


 かなり。


     ◇


 最終的に。


 転ぶところは残った。


 ただし。


 怪人が投げた物を避けた直後。


 後ろに置かれていた箱へ足を引っかける形になった。


「これなら」


「結局転ぶけどね」


「意味が違う」


「はいはい」


「分かってないだろ」


「分かってる。あんたが面倒臭いことは」


「そうじゃない」


 でも。


 これならいい。


 笑えるところは残る。


 キッドの技量も壊れない。


 多分。


 こういうのが監修なんだ。


 きっと。


     ◇


 そのあとも。


 何か所か。


 気になるところがあった。


「この怪人、この距離でその攻撃は届かない」


「漫画なんだからちょっとくらい」


「駄目」


「ここのメモリーの持ち方が逆」


「本当?」


「本当」


「この台詞、キッドは言わない」


「何で?」


「言い方が違う」


「意味は同じだよ?」


「意味じゃなくて言い方」


「それはさすがに好みじゃない?」


「違う」


「本当に?」


「…………」


「今、止まった」


 ミドリの顔が。


 どんどん疲れていった。


     ◇


「ねえ」


「何」


「本当に全部言うの?」


「全部じゃない」


「もう十二個あるけど」


「十二個しかない」


「十二個もあるの」


「ネーム一話分だぞ」


「新人漫画家が泣くよ」


「泣かせたいわけじゃない」


「じゃあ少し減らして」


「駄目なものは駄目だろ」


「その“駄目”の中に、あんたの好みが混ざってない?」


「…………」


 言われた。


 俺は。


 修正を書き込んだ紙を見る。


 一つ目。


 これは設定。


 二つ目。


 これも。


 三つ目。


「…………」


 これは。


 俺ならやらない。


 だけかもしれない。


     ◇


 もう一度。


 最初から見直した。


 キッドの表情。


 俺なら。


 ここまで大きく描かない。


 でも。


 間違ってはいない。


 怪人の動き。


 俺なら。


 もっと重くする。


 でも。


 この漫画なら。


 こっちの方が読みやすい。


 台詞。


 俺なら。


 もっと短くする。


 でも。


 対象が低年齢なら。


 考えていることが伝わる方がいい。


「…………」


 赤を付けたところを。


 一つ消した。


 もう一つ。


 消す。


「何してるの」


「減らしてる」


「珍しい」


「うるさい」


     ◇


 どこまでが。


 設定を守るための監修で。


 どこからが。


 ただの俺の好みなのか。


 考える。


 思っていたより。


 難しい。


 俺が全部直してしまえば。


 俺の漫画に近づく。


 でも。


 それなら。


 この人に描いてもらう意味がない。


 前に。


 俺自身が言った。


 全部俺の言う通りに描かせるなら。


 俺が描けばいい。


「…………」


 自分で言ったことは。


 結構。


 自分に返ってくる。


     ◇


 結局。


 残したのは。


 本当に設定へ関わるところ。


 メモリー。


 能力。


 怪人の習性。


 キッドの身体能力。


 人物の根っこ。


 物語の芯。


 そこは。


 変えてほしくない。


 でも。


 見せ方まで。


 俺と同じにする必要はない。


「……これくらい」


 俺は修正をまとめた。


「六個」


 ミドリが数えた。


「半分になった」


「結構減らしただろ」


「偉い偉い」


「子供扱いするな」


「原作者扱いすると大変だから」


「何だそれ」


     ◇


「でも」


 ミドリがネームをめくりながら言った。


「思ったよりちゃんと見てたね」


「何を」


「自分と違うところ」


「当たり前だろ」


「前だったら、違うだけで引っかかってた気がする」


「…………」


 それは。


 否定しづらい。


「特撮のおかげかな」


「知らない」


「モズキャッチャーのおかげ?」


「何でもモズキャッチャーにするな」


「ぬいぐるみ買ったくらい好きなのに」


「それは関係ない」


「セミスピーカーも買う?」


「…………」


「買うんだ」


「まだ決めてない」


「顔」


「読むな」


     ◇


 帰る前。


 もう一度。


 ネームを最初から読んだ。


 今度は。


 監修としてではなく。


 ただ。


 一人の読者として。


 面白い。


 やっぱり。


 面白い。


 そして。


 悔しい。


 俺が作った物語なのに。


 俺には描けない見せ方がある。


 俺が何日も考えた場面を。


 この人は。


 違う角度から。


 別の面白さに変えている。


「この人」


「うん?」


「上手いな」


 ミドリが。


 少し驚いた顔をした。


「ちゃんと言えるじゃん」


「何が」


「人を褒められるんだ」


「俺を何だと思ってる」


「面倒臭い漫画家」


「さっきからそればっかりだな」


「事実だから」


「じゃあ訂正しろ」


「何を?」


「面倒臭いけど人を褒められる漫画家」


「余計面倒臭い」


     ◇


 でも。


 一つ。


 気になることがあった。


「本人、今日いないのか」


「え?」


「描いた人」


「会いたい?」


「監修するなら」


「うん」


「一度ちゃんと話したい」


 ミドリが。


 少し笑った。


「分かった。今度、予定合わせる」


「別に説教するつもりじゃないぞ」


「誰も言ってない」


「今、そういう顔した」


「顔読むなって言った人、誰だっけ」


「…………」


 負けた。


     ◇


「何を話すの?」


 ミドリが聞いた。


「まだ決めてない」


「設定を延々説明する?」


「しない」


「本当に?」


「多分」


「多分なんだ」


「必要なところは話す」


「うん」


「あと」


「あと?」


 俺は。


 ネームを見た。


「何でこう描いたのか、聞きたい」


「…………」


 ミドリが。


 少しだけ。


 意外そうな顔をした。


「何だよ」


「いや」


「何」


「ちゃんと監修になってきたなと思って」


「最初から監修だ」


「最初は赤ペン先生だったけど」


「うるさい」


     ◇


 家へ帰ってからも。


 ネームのことを考えていた。


 もう一つの漫画。


 前に企画を聞いた時は。


 俺の『ビーストギア』が。


 もう一本増える。


 そう思っていた。


 今日。


 少し違うと思った。


 俺の漫画を。


 小さくしたものじゃない。


 俺の漫画から。


 必要なものを拾って。


 別の方向へ伸ばしている。


 特撮とも違う。


 原作とも違う。


 でも。


『ビーストギア』。


     ◇


 机の上に。


 今日も。


 モズキャッチャーがいる。


「…………」


 最近。


 こいつがいるのが。


 普通になってきた。


 慣れというのは怖い。


 俺はノートを開いた。


 今日のネームで。


 少し気になったところを。


 もう一度書く。


 修正じゃない。


 俺の方の漫画で。


 使えそうな考え方。


「…………」


 まただ。


 テレビを見て。


 子供を見て。


 ファンを見て。


 今度は。


 別の漫画家のネームを見て。


 俺が。


 何かを持ち帰っている。


     ◇


『ビーストギア』を。


 外へ出したら。


 自分のものが減るような気がしていた。


 前は。


 少し。


 そんなふうに思っていたのかもしれない。


 誰かが違うものを作れば。


 俺の『ビーストギア』が。


 薄くなるような。


 でも。


 逆だった。


 外へ出すたびに。


 何かが。


 戻ってくる。


 俺一人では。


 思いつかなかったものが。


 俺のところへ戻ってきて。


 また。


 何かになる。


     ◇


 ただ。


 監修の仕事は。


 思ったより大変そうだ。


 今日だけで。


 結構時間を使った。


 今の連載。


 特撮。


 子供向け漫画。


 そして。


 さっきミドリから連絡が来た。


『今日の原稿、進んでる?』


「…………」


 まだ。


 返信していない。


 どうしよう。


     ◇


 とりあえず。


『進んでる』


 と送った。


 すぐ返ってきた。


『何ページ?』


「…………」


 怖い。


 幼なじみなのに。


 怖い。


 俺は。


 原稿用紙を見た。


 今日。


 ほとんど進んでいない。


 ネームを見ていたから。


 監修だ。


 仕事だ。


 遊んでいたわけじゃない。


 だから。


『監修は進んだ』


 と送った。


 すぐ。


 電話が鳴った。


「…………」


 出たくない。


 でも。


 出ない方が。


 多分もっと怖い。


「はい」


『原稿は?』


 第一声だった。


「今から」


『ほら!』


「監修も仕事だろ!」


『分かってる! だから原稿もやって!』


「やるよ」


『いつ?』


「今」


『本当に?』


「本当」


『カブトムシ考えない?』


「考えない」


『ファンの写真見ない?』


「見ない」


『モズキャッチャー眺めない?』


「眺めない」


『セミスピーカーのぬいぐるみ調べない?』


「…………」


『今、調べようと思ったでしょ』


「思ってない」


『間があった』


「いちいち間を数えるな」


『じゃあ原稿』


「分かったよ」


     ◇


 電話を切った。


 ペンを持った。


 今日は。


 本当に。


 原稿をやる。


 多分。


 いや。


 絶対。


 その前に。


 一つだけ。


 今日のネームの作者について。


 ノートへ書いておいた。


『ちゃんと話すこと』


 俺とは違う『ビーストギア』を描く人間。


 どんな奴なのか。


 何を見て。


 何を考えて。


 あのキッドを描いたのか。


 少し。


 いや。


 結構。


 楽しみになってきた。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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