第十六話 変身ごっこ
第十六話 変身ごっこ
最近。
街でキッドをよく見る。
もちろん。
本物じゃない。
そんなに何人も本物がいたら困る。
子供だ。
◇
今日。
編集部へ向かう途中、公園の前を通った。
別に寄るつもりはなかった。
でも。
「配信開始!」
聞こえた。
足が止まった。
「…………」
聞き間違えるわけがない。
俺が考えた言葉だ。
公園を見る。
子供が三人いた。
一人は腰にキッドの玩具のベルトを巻いている。
一人は。
なぜか四つん這い。
もう一人は。
木の枝を持っていた。
「いいねよろしく!」
ベルトの子が叫ぶ。
そして。
ポーズ。
「…………」
俺は。
公園の外から。
しばらく見てしまった。
◇
「怪人め!」
「グオオオ!」
四つん這いの子が怪人らしい。
何の怪人なのかは。
分からない。
少なくとも。
俺が作った怪人ではない。
「俺はライオン怪人だ!」
知らない。
やっぱり。
俺のじゃない。
「くらえ!」
「うわあ!」
キッドが吹き飛ばされた。
自分で。
「強い!」
「俺はライオンだからな!」
理屈は分からない。
でも。
楽しそうだ。
◇
三人目の。
木の枝を持っている子は。
何をしているんだろう。
そう思っていたら。
「キッド!」
「何だ!」
「新しいメモリーだ!」
「よし!」
枝を渡した。
「…………」
メモリー?
木の枝が?
「これは?」
「カブトムシ!」
「よし!」
キッド役の子が。
枝をベルトへ差すふりをする。
「カブトムシ!」
そして。
両手を頭へ。
角。
らしい。
「パワーアップ!」
「ずるい!」
「ずるくない!」
「さっきまで持ってなかった!」
「今もらった!」
「…………」
正しい。
多分。
◇
キッド役の子が突進する。
ライオン怪人。
吹き飛ぶ。
もちろん。
自分で。
「ぐわあ!」
「やった!」
「まだだ!」
「え?」
「ライオンは強いからまだだ!」
「…………」
強いな。
ライオン。
俺の設定より。
多分。
◇
見ていたら。
笑ってしまった。
子供たちは。
テレビの『ビーストギア』を、そのまま再現しているわけじゃない。
キッドはいる。
ベルトもある。
台詞も使っている。
でも。
怪人は自作。
メモリーも自作。
話も。
全部。
その場で作っている。
昨日まで。
ファンが勝手に考えた怪人を見て。
「俺も考えてない」
と思っていた。
今日は。
もっとすごい。
木の枝一本で。
新しいメモリーが生まれた。
◇
「次、俺キッド!」
「駄目!」
「ずっとお前じゃん!」
「ベルト俺のだもん!」
「貸せよ!」
「やだ!」
急に。
現実的な問題が発生した。
「…………」
変身ベルトの所有権。
そこまでは。
俺も設定していない。
◇
「じゃんけん!」
「ベルト俺の!」
「じゃんけん!」
「俺のだって!」
「じゃんけんしろ!」
怪人役まで。
キッドになりたいらしい。
結局。
じゃんけんが始まった。
持ち主の権利は。
失われた。
子供の世界は厳しい。
◇
そのまま見ていたら。
遅刻しそうになった。
「まずい」
時計を見て。
公園を離れた。
でも。
歩きながら。
少し考えていた。
カブトムシ。
「…………」
悪くない。
いや。
待て。
子供の遊びから怪人を考えるのは。
何か違う気がする。
でも。
カブトムシ。
能力。
角。
力。
装甲。
飛行。
「…………」
悪くない。
◇
編集部へ着いた。
「遅い」
ミドリがいた。
「間に合ってる」
「二分前」
「間に合ってるだろ」
「いつもはもう少し早いじゃん」
「公園見てた」
「…………」
「何だよ」
「公園?」
「子供が遊んでた」
「それを見てたの?」
「そう」
ミドリが。
一歩。
俺から離れた。
「何で離れる」
「一応」
「何の一応だ」
「知らない子供を公園の外からずっと見てたんでしょ」
「言い方!」
「事実じゃん」
「キッドごっこしてたんだよ!」
「ああ」
やっと。
納得した顔をした。
「それを先に言って」
「言う前に離れただろ」
「だって怪しかったし」
「幼なじみを何だと思ってる」
「締切前に公園を眺めてる漫画家」
「最悪だな」
「事実じゃん」
「うるさい」
◇
「それで」
ミドリが資料を出しながら聞いた。
「何して遊んでたの?」
「キッドと怪人」
「普通じゃん」
「怪人はライオンだった」
「ライオン怪人いたっけ?」
「いない」
「じゃあオリジナル?」
「多分」
「へえ」
「途中でカブトムシメモリーも出てきた」
「それは?」
「木の枝」
「…………」
ミドリが笑った。
「いいじゃん」
「何が」
「子供らしくて」
「まあな」
「で?」
「何が」
「カブトムシ、使うの?」
「…………」
「考えたでしょ」
「考えてない」
「嘘」
「考えてない」
「顔に書いてある」
「何でも顔で分かると思うな」
「カブトムシの能力、今頭の中で考えてるでしょ」
「…………」
幼なじみというのは。
本当に。
面倒臭い。
◇
打ち合わせが始まっても。
少しだけ。
頭の端に残っていた。
カブトムシ。
角。
装甲。
怪力。
飛べる。
近接戦向き。
いや。
でも。
そのままだと分かりやすすぎる。
「聞いてる?」
「聞いてる」
「今、どこ見てる?」
「資料」
「その資料、逆さまだけど」
「…………」
直した。
ミドリが溜息をつく。
「絶対カブトムシ考えてたでしょ」
「考えてない」
「じゃあ今何考えてた?」
「……装甲」
「ほら!」
「カブトムシとは言ってない」
「同じでしょ!」
◇
打ち合わせが終わって。
帰宅した。
原稿を始める。
つもりだった。
ノートを開く。
「…………」
カブトムシ。
書いた。
「違う」
消した。
原稿をやる。
十分くらい。
描く。
また。
ノートを見る。
「…………」
カブトムシ。
もう一度書いた。
◇
角。
装甲。
怪力。
飛行。
夜行性。
樹液。
「…………」
樹液は。
別にいらないか。
いや。
使い方によっては。
「…………」
何をしているんだ。
結構ある。
使える。
いや。
だから。
使うとは決めていない。
ただのメモだ。
資料。
そう。
資料。
◇
しばらくして。
電話が鳴った。
ミドリ。
「何」
『カブトムシどう?』
「何で分かるんだよ!」
笑われた。
『やっぱり考えてた』
「考えてない」
『今何してた?』
「原稿」
『本当に?』
「…………」
『カブトムシ?』
「……ちょっとだけ」
『ほら』
「うるさい」
◇
『でも』
ミドリが言った。
『悪いことじゃないんじゃない?』
「何が」
『子供が遊んでたの見て、あんたが新しいこと思いつくの』
「…………」
『この前もファンの絵見て何か描いてたでしょ』
「見てたのか」
『あんたが自分で言ってたじゃん』
「そうだっけ」
『そうだよ』
少し前まで。
俺から始まっていた。
俺が怪人を考える。
漫画を描く。
それを誰かが読む。
それだけだった。
今は。
少し違う。
◇
俺が作った『ビーストギア』で。
誰かが遊ぶ。
その遊びを見て。
今度は。
俺が何かを思いつく。
「…………」
変な循環だ。
俺から始まったものが。
外へ出て。
誰かの中で変わって。
また。
俺のところへ戻ってくる。
◇
少し前まで。
俺は。
原作者だから。
俺が一番『ビーストギア』を知っていると思っていた。
今も。
設定なら。
多分。
一番知っている。
当たり前だ。
俺が作ったんだから。
でも。
遊び方は。
俺が一番知っているわけじゃない。
子供は。
木の枝一本で。
俺の知らないメモリーを作る。
ファンは。
俺の描いていない怪人を作る。
着ぐるみにして。
自分で着る人までいる。
俺には。
できない。
◇
それでいいのかもしれない。
俺は。
漫画を描く。
テレビの人は。
テレビを作る。
玩具の人は。
玩具を作る。
ファンは。
好きなように楽しむ。
子供は。
木の枝を。
メモリーにする。
全部。
『ビーストギア』。
◇
ただ。
一つ。
今日。
公園で聞いて。
ちょっとだけ。
気になったことがある。
「配信開始!」
あの子。
かなり。
声が大きかった。
公園中に響いていた。
そのあと。
「いいねよろしく!」
もっと大きかった。
「…………」
俺が考えた台詞を。
知らない子供が。
全力で叫んでいる。
嬉しい。
嬉しいんだけど。
何というか。
むずがゆい。
◇
多分。
これが。
流行るということなんだろう。
自分の知らない場所で。
自分の書いた言葉が使われる。
自分の作ったものが。
遊びになる。
俺がいなくても。
『ビーストギア』が。
勝手に動いている。
公園で。
家で。
学校で。
もしかしたら。
俺の知らない町でも。
子供がベルトを巻いて。
「配信開始!」
と叫んでいるのかもしれない。
「…………」
想像すると。
やっぱり。
少し恥ずかしい。
◇
机の端。
モズキャッチャーのぬいぐるみ。
その隣。
ノート。
そこには。
カブトムシ。
「…………」
まだ。
採用するとは決めていない。
本当に。
ただ。
もし使うなら。
角だけじゃ。
面白くない。
飛ぶなら。
重量感と速さをどう両立させる。
装甲を厚くしたら。
弱点はどこに置く。
怪力だけなら。
他の動物でもできる。
「…………」
俺は。
新しいページを開いた。
気づけば。
もう。
怪人として考えている。
◇
多分。
あの子たちは。
明日には。
別のメモリーを作る。
木の枝が。
クワガタになるかもしれない。
石が。
カメになるかもしれない。
落ち葉が。
何かになるかもしれない。
子供は。
多分。
そういうことを。
何も考えずにやる。
その自由さが。
少し羨ましい。
◇
漫画を描いていると。
理屈を考える。
設定を考える。
能力に理由を付ける。
矛盾しないようにする。
それは必要だ。
俺は。
そうやって『ビーストギア』を作ってきた。
でも。
最初の一歩くらいは。
あの子たちみたいでも。
いいのかもしれない。
「カブトムシだから強い!」
まず。
それで始める。
そのあと。
俺が。
どう強いのかを考える。
「…………」
悪くない。
◇
電話が。
もう一度鳴った。
ミドリ。
『原稿進んだ?』
「進んだ」
『何ページ?』
「…………」
『何ページ?』
「怪人が一体」
『それ原稿じゃない!』
「まだ採用してない」
『もっと駄目じゃん!』
「でも結構いいぞ」
『知らない! 今は原稿やって!』
切られた。
「…………」
担当編集というのは。
創作意欲に理解がない。
いや。
締切前なら。
多分。
正しい。
◇
カブトムシのページを閉じた。
今度こそ。
原稿を始める。
ペンを持つ。
モズキャッチャーが。
こっちを見ている。
「分かってるよ」
何となく。
答えた。
でも。
原稿用紙へ向かう直前。
ノートへ。
一行だけ。
追加した。
『カブトムシ――候補』
候補だ。
まだ。
本当に。
それだけだ。
原稿は。
そのあと。
ちゃんとやった。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




