第98話 宴は続く
“新生・勇者パーティー”は勇者の自宅に戻って来た。
報酬が税金によってごっそり持って行かれたとはいえ、十分に遊ぶ金はできた。
そのため、今や勇者宅は宴会場と化していた。
「 ヽ(*・ω・)o□☆□o(・ω・*)ノ カンパーイ♪ 」
出前で頼んだ料理がずらりと並び、酒も色々と揃えられている。
並々と注がれたジョッキを一気に飲み干し、デビィドはご満悦の気勢を上げる。
「くはぁ~! やっぱり一仕事を終えた後の酒は美味いな!」
「なぁ~に、言ってんですか、勇者様。そもそも、こっちが潜入やら聞き込みやっている間、酒飲んで待機してたりしたでしょうが」
「そりゃティエラとペコニアの立てた作戦に従って、注目が集まるように露骨に目立つ姿をさらしていただけ。仕事中に飲む酒よりも、断然こっちだぜ! 仲間内で杯を交わすのが一番だよ」
「はいはい」
ティエラはそう言って、空いたデビィドのジョッキに麦酒を注ぐ。
そしてまた、豪快に飲み干す。
デビィドは酒に強く、この程度では全然平気だ。
なお、目の前ではすでにリボンちゃんが酔い潰れていたりする。
「 ฅ(ºㅁº ฅ) ՞՞ ココハドコ? アタシハダレ?」
「弱い、弱すぎる! ていうか、6歳児に飲ませるなって、何度言わせんだよ!」
「16歳児に変身させてから飲ませるべきでしたわね」
「そういう問題か!?」
「しゃ~ない。寝かしつけてくるわ」
ティエラは酔って前後不覚のリボンちゃんを抱え、寝室へと向かった。
そんな光景をニヤニヤ眺めているデビィドであったが、案外、ティエラが気を利かせてくれたのかもしれないと考えた。
ジョッキを机の上に置き、残ったペコニアに視線を向ける。
「なあ、ペコニア、さっきの態度は本気か?」
「ジャン王に拝礼した件ですか?」
「そうだ。魔族のお前が心底、王様に忠誠を誓うとは思えなくてな」
「ああ、そういう話ですか。ならば、答えは簡単です。魔王リボー様、その魂がどうやらジャン王に住み着いてしまったようです」
「なんだと!?」
意外な答えであり、同時に警戒すべき案件でもあった。
ペコニアは本来、リボンちゃんを用いて王家内部に入り込み、王太子フィリップを傀儡にして王国を乗っ取ろうとしていたのだ。
だが、ジャンの機転と旧・勇者パーティーによって阻まれた。
より直接的な方法として、ジャンを魔術的に操ろうとしているのではないかと考えるに十分すぎる事態であった。
「……まあ、そういうあからさまな事を言うのだから、何かしらの含みがあるんだろ? 遠慮はいらんから、言っちまえよ」
「予測になるけど、あれはジャン王と魔王様、この二つが融合したのが、今のジャン王ではないかと」
「融合? そんな事があるのか?」
「推察ですけど、おそらくは例の“邪神の神像”が関係あるのかと」
「あ~、魔王が一時的に魂の避難場所として入り込んだあれか。確か、テンプル騎士団の査察の際、お前がわざと仕込んで、囮として使ったって」
「ええ、そうよ。どうもジャン王は簡単な封印を施した後、肌身離さずずっと持ち歩いていたみたいなのよ」
「まあ、危険物だから、手元に置いて置こうって話だわな」
「その際、魔王様と波長が良かったのか、両者の魂が引っ付いてしまったというのが私の考え」
突飛ではあるが、決して有り得ない話でもない。
そもそも、魔王リボーは転生の秘術を用い、制止を繰り返してきた存在だ。
もし、丁度よい器があれば、石像のままでいるよりも、そちらに引っ越してしまっても可笑しくはない。
「問題があるとすれば、魔王がジャン陛下を食らったのか、それともジャン陛下が魔王を飲み込んだのか、それが問題だ」
「どちらにしても危険な状態だと判断して、退治に行かないのですか?」
「行かねえよ。少なくとも現段階では何の問題行動を越していないどころか、むしろ有能な王様だからな。そんなのに手を出すのは“勇者”のやり方じゃねえよ」
わざとらしく肩を竦めるデビィドに、ペコニアがクスリと笑う。
「勇者らしくないって、勇者宅で久々の再会した時なんて、本気で勇者失格だったくせに」
「忘れろ。ていうか、忘れて。もう追い回される生活は御免だぜ」
「フフッ、今じゃ再び英雄の名声と共に脚光を浴びてますからね。人生、何が起こるか分からないものです」
「同感だ。かつて死闘を演じていた敵同士が、今じゃ卓を囲んで酒盛りだからな」
「お嫁さんが妬いちゃうわよ~」
「ま~、急に忙しくなったから、役所に書類一枚提出しただけで、結婚したっていう実感、湧かね~よ」
「ティエラちゃんは盛大に式を挙げたかったみたいだけどね」
「金はともかく、時間がない。次の御貴族様がお待ちかねだからな」
「相手は来るなって言ってそうだけど」
「知らねえよ! 不当に貯め込んでいた方が悪い!」
事実、勇者パーティーは次から次へと貴族の邸宅に押し入っては、監査を続けている。
その中には不正と呼べるもののない貴族もいて、そちらは軽いあいさつ程度でさっさと監査を終わらせたりしている。
なにしろ、王国内には貴族家と呼ばれるものが500家は存在するのだ。
対する監査チームはたったの一組。
移動時間やジャンへの報告などを考えると、休んでいる時間はない。
ジャンは数々の改革を打ち出し、スオーラはこれ見よがしに慈善事業の手を広げていて、予算がどんどん削られて行っているのが実情だ。
これで財政破綻をしないのは、次から次へと貴族の不正を暴き、滞納分に追徴課税を上乗せして、搾り上げているからに他ならない。
これまで搾り上げてきた額は、すでに年間国家予算に匹敵する。
つまり、勇者パーティーが休んだ瞬間に、国家財政が破綻すると言うとんでもない状況だ。
「まあ、あと十年はこの稼業を続けられそうだが、それまでには陛下も何とかするだろう」
「特に、無制限に垂れ流しているスオーラの慈善事業、あれを統廃合させて蛇口を制御しないと、無駄金が発生しかねないわ」
「そうだな~。その内に事業仕分けやるんだろうけど、それで夫婦喧嘩にならなきゃいいけどな」
ちなみに、ジャンとスオーラは結婚こそしているが、特に夫婦としてあれこれやっているというのはない。
完全に仕事上のパートナーとして割り切っていた。
「ケケケ、何というか、結局、最初から最後まで変わらなかったのは、スオーラだけだな。子供達の未来のためにって言って、今も昔も戦っている」
「初志貫徹、素晴らしいですわね。そういう意味では、ジャン王もですね」
「ほんと、魔王に取り込まれてなきゃいいがな」
「私としては、その方が良いのですけどね」
かつての死闘が嘘のように談笑する二人。
今ではかけがえのない仕事仲間であり、国の未来を担う英雄だ。
もっとも、ペコニアは英雄になどなるつもりもなく、むしろ真っ平御免なのだが、貯め込んだ財産を没収される御貴族様の哀れな姿を拝み、笑い飛ばす事を何よりの楽しみとしているため、それなりに刺激的な日々を過ごせている。
なにより、魔王の苗床になったかもしれないジャンの行く末を見届けると言う別の楽しみも生じたため、それはそれで面白く感じてしまう。
当面は勇者と一緒に“強制監査”を楽しもうと。
そこにティエラが戻って来る。
「あ~、ヤバかった。リボンちゃん、マジ勘弁」
「何があった?」
「完全に酔っぱらっちゃって、次々と今日会った人に姿を変えちゃってさ」
「ほほう。と言う事は、スオーラの素っ裸も」
「モロコスの素っ裸の方が良くない?」
「筋肉モリモリ男の裸を見て何をしろと!?」
「色々と妄想が捗るわよ?」
「そりゃお前の趣味だろうが!」
やいのやいのとやり合うデビィドとティエラ。
この賑やかな雰囲気はずっと変わらない。
旅をする仲間がモロコスやスオーラから、ペコニアとリボンちゃんに変わろうとも、何も変わらない。
どこまでも我が道を行く。
昔は魔王を求めて旅を続け、今は自称・魔王の命を受け、税金滞納者を求めて旅をしている。
この二人の旅が終わる事はない。
悪魔が囁くのだ。
目的がある限り、税の滞納がある限り、いつもどこかを巡回する事になる。




