第99話 後日譚
勇者デビィドは蛇蝎ごとく御貴族様から嫌われた。
なにしろ、“勅命”の名の下にとにかくやりたい放題に振る舞い、恐怖と敵意を一身に受ける事となった。
勇者現れるところにぺんぺん草一本残らないと謳われ、事実、財産をごっそりと奪われ、食うや食わずの生活を強いられる貴族が続出。
勇者による査察は後に『勇者行為』と呼ばれ、この当時の貴族や富豪達から恐怖と破滅の代名詞として恐れられる事となる。
「○月✕日 勇者がやって来た。上手く二重底の壺の中に帳簿を隠していたはずなのに、壺の中までほじくり返すとは目ざといにも程がある」
「△月〇日 勇者襲来。娘の部屋のタンスを開けられまくった。娘が泣いた。あと、隠していた帳簿が見つかって、ワシも泣いた」
「□月△日 勇者が来る! 怖い! 家の中では見つかると考え、家庭菜園の土中に金塊を隠したが、見つかってしまった。どういう嗅覚しているのだ、こいつらは」
「✕月□日 生体認証式の金庫を買った。網膜、静脈、指紋に魔力パターン、あれやこれやが一致しないと開かない。でもさ、何でこんなにすんなり開いちゃうの? なんで部屋の中に私がもう一人いるの!? こんなの絶対おかしいよ!」
このように、監査を受ける貴族達のささやかな抵抗と、勇者パーティーによる容赦なしの状況が赤裸々に日記へ書かれる事数知れず。
『勇者行為』を受けた者の恨みつらみは、後世まで克明に残る事となった。
いくら何でもやり過ぎだと国王のジャンに訴えかけるも、「そもそも税金をまともに払っていなかった方が悪い」と一蹴される始末。
武力もダメで、隠し事も通じず、泣き落としにも応じない。
ついには、国王や勇者に向けて刺客を放つ者まで現れたが、勇者を倒す事は出来ず、ジャンの方も“謎の仮面戦士”がこれを防ぎ、暗殺はことごとくが失敗した。
無論、その後の報復までがセットになってである。
もうこれは全面降伏するしかないと、白旗を上げる貴族が大量に現れた。
「魔王軍の襲撃よりも恐ろしい勇者の訪問。それを指示する王も王。これで伝統ある貴族もおしまいか」
勇者の実力と、“今”という世界を破壊する新たな魔王によって、“既得権益”と言う名の醜悪な怪物が退治されたのだ。
貴族の時代は終わり、経済力をつけてきた庶民が強まって来ると、ジャンは準備していた議会開設の動きを表に出し、王国初の統一選挙が実施。
“庶民院”は選挙で選ばれた議員が顔を連ね、新法の制定や予算の計上を行い、王国は徐々にではあるが、絶対王政から立憲王政へと移行していく。
なお、没落した貴族も“貴族院”に議席が宛がわれ、諮問機関として存続していく事となる。
国王の権利を制限する憲法も徐々にだか形を作られていき、本当の意味で新時代を迎える事となる。
ジャンは税制改革を断行し、特権階級を一掃する事に成功。
王妃スオーラの行った慈善事業の功績も相まって、史上最高の王としての評価を受ける。
『この世で最も慈悲深く聡明な君主』にして、『王の中の王』などと民衆から絶大な信頼と人気を受け、『善良王』の二つ名と共に長らく語り継がれていく事となる。
一方、デビィドの方はと言うと、評価が大きく割れる。
現場で好き放題に振る舞う勇者は強盗に等しく、相方のティエラの実家が男爵号を授与された事もあって、“盗賊男爵”などと忌み嫌われた。
しかし、これは『勇者行為』を受けた者の一方的な評価であり、民衆からは絶大な人気を博した。
なにしろ、勇者が暴れ回る度に、御貴族様や大商会の不正が赤裸々に暴かれるのである。
スオーラの手掛けた福祉事業も、その元手は今まで未払いであった貴族の裏金であり、それを取り立てるのが勇者。
誰しもが知っているので、誰も彼もが勇者の活躍に熱い視線と声援を送った。
なにより、今まで搾取されていた民衆からすれば、庶民出身のデビィドが悪徳貴族をボコボコにするのはとにかく気分が良かった。
完全無欠の清廉なる英雄デビィド。
その名は後世まで轟く事になる。
なお、いくつかある“勇者の不祥事”は、ジャンとティエラとペコニアが全力で消したりした。
それは“秘事”として誰にも伝わる事無く、闇へと消えていくのであった。
英雄はどこまでも英雄。
瑕疵などあって良いはずがないと言わんばかりに。




