第95話 王の願い (1)
「納税は国民の義務だ!」
有無を言わさぬジャンの強烈な意志が示された。
稼ぎが生じればそこに税が課せられ、規定額を納める。
それが国民の義務であり、国家の有様であると断言した。
もちろん、ごっそりと持っていかれる身の上としては、たまったものではないが、義務は義務である。
以前とは違い、“税金の使い道”に理解が深まっているため、あまり突っ込めない。
もし、ジャンが自身の享楽のために税金を無駄遣いしているのであれば、糾弾の口上などいくらでもできるが、それが一切ないのが目の前の王様だ。
明確な目的意識があり、そのための工程や支出を明確に考え、無駄なく予算や人員を配置していく。
文句の付けようもない、“有能な君主”なのがジャンだ。
「まあ当然、色々と不満はありそうだな、デビィド」
「いや、まあ、さすがにこれだけごっそり持っていかれたらね」
「そうは言うが、今までは“不公平な税制”がまかり通っていたのだ。これを修正するのは容易ではない。むしろ、シャルルの謀反が奇貨となって、ようやく“不輸不入権”に手を加える好機が訪れたのだ。最大限利用させてもらう」
「その尖兵が今の勇者パーティーでしょ? なら、もうちっと報酬を弾んでくれてもいいんじゃないですか?」
「であるから、デビィド個人はかつての刑事罰案件を握り潰してやったし、ティエラの実家は男爵号を得て規模を拡張したし、報酬は現金収入以外の部分でちゃんと補填しているぞ」
まさにその通りであるから、デビィドも続く言葉が浮かばない。
今のデビィドは正真正銘の英雄であり、民衆の希望の星なのだ。
一般庶民出身のデビィドが魔王を倒し、今は鼻持ちならない御貴族様をボコボコにしているのだ。
新聞の見出しにその活躍ぶりが載るのも珍しくはなく、デビィドが活躍して悪い貴族を懲らしめる姿は、もはや庶民の娯楽の一つにもなっている。
分かりやすい“勧善懲悪”は、誰もが好きなのだ。
そのため、勇者の過去の瑕疵は極力消されており、完全無欠の正義の味方として、デビィドの名声は不動のものとなっていた。
「 (=゜ω゜)ノ アタチラハ? 」
「処断されんだけマシだと思っていろ」
「 ヾ( ⑉・ᯅ・)ノシ ヤッパリオウボウダ!! 」
リボンちゃんは不満タラタラで、暴れまくるがどうしようもない一面もある。
契約により『勇者に従え』となっているので、下手な行動はできない。
本当に不満を口にするだけで精一杯だ。
「まあ、その点は我慢すると致しましょう。しかし、王様にはお聞きしておきたい事があります」
「許す。ペコニアよ、何を聞きたいかね?」
「あなた様の“願望”です」
「ほう、“願望”ときたか」
「人は誰しも何かをやろうと言う思いを持っています。ただそれを“欲望”と呼ぶか、“願望”と呼ぶかは差異がありますが」
「飾ったところで意味はないからな。ただ、人はやりたいようにやりたいと言うだけの話だ。無論、王としてな」
「で、税がその表現であると」
「そうだ。余に言わせれば、“税金”とは即ち“王の願い”なのだから」
いつになく熱量の籠るジャンの言葉に一堂に緊張が走る。
王の本質を、あるいは根幹の部分を拝めるまたとない好機であると、誰もが感じたためだ。
静まり返り、次の言葉を待つ。
特にペコニアには興味津々だ。
“勇者”と言う道具を用いたとはいえ、魔王を滅ぼしたのは間違いなく、リシャールとジャンの2代に渡る王の功績なのだ。
だからこそ、その本質を知りたくもある。
皆が期待を寄せる中、ジャンが口を開いた。
「統治におけるもっとも重要な要素は2つ。それは“公平な税制”と“公正な法律”、この2つだ」
「その両輪を作り出す事を望まれていると」
「正直に言えば、我が国にはそれが欠けている。貴族共は税金をろくに払わず、こちらの目の届かぬところでは小悪事に耽る。これで健全と言えるか?」
「少なくとも、“公平”でも“公正”でもないですわね」
「そうだ。それ故に我が願いはそれを確立する事だ。法治を隅々まで行き渡らせ、皆がキッチリと税を納め、それを循環、還元するシステムを構築する」
「それがあなたの“願望”ですか」
「そうだ。法律であれ、税金であれ、それは“願い”なのだ。こうあって欲しいと願うからこそ、法律を作り、行きたい方向に向かうように指向性を持たせる。こうありたいと思うからこそ、それの実現のために費用を計算し、実際に税金と言う形でそれらを集める。金が無くては何も出来ないからな」
「仰る通りです。法を定め、税と言う形で道具を用意し、あがりを目指して道を舗装する、と」
「まさにそれなのだ。ゆえに、後世に戒めねばならない。いかに貴族共が強欲でかつ怠惰であったのかを。そして、その報いを受けた結果、どうなっていったのかを克明に記録せねばならない」
「それがあなたの目指すゴールですか」
「いいや。それすら過程でしかない」
「では、ジャン王にとっての目標とは?」
「そんなものは決まっている。魔王が滅んだその時からな」
ジャンはそこで一旦、言葉を止め、大きく呼吸をする。
次の言葉を紡ぐには大きな力がいる、そう言わんばかりに。
これこそ、目の前の王様の本性が現れると、皆が息をのむ。
そして、ジャンはそれを吐き出した。
「余の目標、それは余自身が“魔王”になる事だ」




