第94話 それでも税金って払わないとダメなの?
「これは酷い……!」
「いくらなんでも取り過ぎ!」
「情けも容赦もあったものではないですね」
「 凸(:ω;凸) オウボウダ~ 」
見事に報酬を“75%”も削られたのである。
“新生・勇者パーティー”は怒りと絶望の悲鳴を上げる。
だが、ジャンは平然として、むしろニヤリと笑い、神経を逆撫でしてくる。
「陛下! これは酷いでしょう! 前は“20%”でしたよね!? なんで“75%”も持って行くんですか!?」
「ん~、お前らは知らんかもしれんが、税率が変わったのだ」
「マジで!?」
「まあ、ざっくり言うと、現物での納税を一切禁止し、必ず政府指定の銀行を介して納税するか、税務署やら国税局なんかの窓口から納付するように法改正した」
「それはいいとして、この“75%”は!?」
「もちろん、“累進課税”だよ。冒険者に採用していた“レベル累進課税”を全体でも用いる事にした。今までほぼ一律であった所得税を“累進課税”とし、収入が多い者ほど税率が高くなるようにしてな」
「なんですとぉぉぉ!?」
「具体的な数字を出せば、年収1億マネイを超える者や、特別報奨金などで8000万マネイを一括で受け取った者は、最大で“75%”を納める事になっている」
「マジですかぁぁぁ!?」
気付かない間に税率の変更がなされ、ごっそりと持っていかれる。
これは完全に想定外であり、不満も出ようと言うものだ。
「ええっと、全体を100として、こちらが受け取る分が30%。そこから更に75%を税引きしてっと」
「100の内の7.5がこちらの取り分ね」
「 (´°ω°`) スクナスギル!! 」
「うん。“快く納税した分”の金額の7.5%だから、報酬金額は合っているわ」
「罰金は別腹ですしね」
「 (╬ ̄ー ̄) ムシロコッチガバッキンケイ!! 」
「つ~か、それだと、一人頭2%もないじゃない!」
「ごっそり持って行きますわね~」
「 Σ(TωT*) ソンナ~ 」
呆然とする勇者を後目に、あれこれ計算する他メンバーも呆れ半分怒り半分だ。
よくもまあ、ここまで税金でごっそり持って行ってくれたものだと。
「不服かね?」
「不服と不満以外、無いんですけど!?」
「一人頭が2%だとしても、個人には過ぎたる額だと思うが?」
実際、その通りだ。
なにしろ、貴族の財産を没収するだけで、国庫が潤う金額なのだ。
それを個人の財布に入れるだけでも、途轍もない金額になる。
元の数字が大きい分、報酬が“没収金額全体の7.5%”と言えども侮れない。
実際、税引き後の金額でも、余裕で億単位の報酬は残っている。
ジャンは「成功報酬ではあるが、億を超える報酬はあるぞ」というかつての言葉を、ちゃんと約束は守っていたりする。
なので、ジャンには後ろ暗い事が何一つないのだ。
「だが、それもこれも今までろくに税金を払っていなかった“上級国民”のせいでもあるからな。一般庶民の留飲を下げる意味でも、この税率はしばらく変えるつもりはないので、このまま継続するぞ」
「……じゃあ、その“上級国民”からもっと絞ってもいいんですよね!?」
「構わんよ。むしろ、こちらとしても願ったり叶ったりなのだよ。お前達はこれからも“財務監査”を続け、貴族や悪徳業者を締め上げろ。報酬も規定通りに支払うし、そこは大丈夫だ」
「税率75%ですけどね!」
「だが、一度の地方巡業で億単位の金が入るのだぞ? 下手な商売をやるよりかは余程に儲かると思うが?」
「少なくとも、“貯金箱”がいる間はそうでしょうね!」
「だが、悪事の種は尽きる事はない。こう言っては何だが、法律ができても、必ず抜け穴を見つけたり、あるいはバレないように隠したりする。今までもそうであったし、これからも変わるまい。いわばイタチごっこだ」
「それを俺らがやっていけと!?」
「そのために結成された“新生・勇者パーティー”であるからな」
実際、純粋な戦闘力としては前のパーティーの方が強い。
リボンちゃんは戦闘がそれほど得意ではないためだ。
だが、“監査”という点ではむしろ最強であったりする。
ティエラとペコニアが練った監査の手法は以下の通りだ。
***
【手順1】
監査対象に対して数日後の監査の“事前告知”を行う。
【手順2】
事前告知を受けた“標的”は、ヤバい代物は絶対に隠そうとするので、変装(変身)のできるティエラとリボンちゃんが『潜入捜査』として現場にこっそり入り込み、裏帳簿や隠し部屋の位置を把握。
【手順3】
ペコニアは【甘言】を、リボンちゃんは【常時発動・魅了Lv5】を用いて聞き込み調査をしておき、情報を収集する。
【手順4】
裏で動いている事を悟らせないため、デビィドは分かりやすい場所で宿を取り、これ見よがしに豪遊して耳目を集めておく。
【手順5】
事前に収集していた不正の情報を元に、納税者を脱税ないし滞納容疑として糾弾。
【手順6】
ほぼ確実に激発するので、デビィドがこれを撃滅し、罰則金も課しておく。
【手順7】
上記の状況をジャンに報告し、御貴族様を改易ないし財産差し押さえを行う。
***
この手法が“新生・勇者パーティー”の必勝の戦法であり、これがものの見事に的中した。
改易された貴族家は10は下らず、残りも大きく財産を目減りさせ、かつての勢力を失っていた。
シャルルの謀反の件もあるので、“謀反の嫌疑を晴らす”という名目で勇者パーティーによる財務監査を受け入れざるを得ず、しかも受け入れたら百発百中でこれまでの不正を暴かれるのである。
謀反のかどで家門をお取り潰しか、過去にさかのぼっての滞納金を搾り上げられて財産を失うか、二者択一である。
貴族や富豪からすればたまったものではない。
庶民にとっては正真正銘の英雄であっても、上級国民視点では勇者デビィドとその仲間達はまさに“破滅”そのものだ。
この“新生・勇者パーティー”の活躍あってこその状況であり、そこの事を踏まえて今少し報酬はどうにかならないのかと言うのがデビィドの言い分だ。
もっとも、ジャンはあくまで“規定通り”で通して、取り合うつもりはなかったが。
「なので、陛下! 一つ伺っておきたいのですが!?」
「聞こうか」
「俺ってさ、魔王倒しましたよね?」
「そうだな」
「シャルルの謀反の件も、未然に防ぎましたよね?」
「見事な活躍であったぞ、ノー●ンしゃぶしゃぶ系勇者よ」
「まだそれ言いますか!?」
「生涯言い続けてやるぞ」
「あ~、それと御貴族様を締め上げて、国庫も充実させていますよね!?」
「没収されるために貯め込んでいたと考えると、ある意味哀れではあるがな」
「つまり、なんやかんやで俺って3度も世界を救ったり、傾く国を助けているわけですよね!?」
「凄い働きである事は認めるぞ」
「それでも税金って払わないとダメなの?」
いくら何でも持って行きすぎ。
働きに対して、報酬が少なすぎやしないかと言う勇者の叫びだ。
だが、ジャンは容赦しない。
「愚問だな、勇者デビィドよ。その問いに関する答えは常に一つだ」
「……それは?」
そして、ジャンは何の抑揚もなく、決まりきった言葉を吐き出した。
「納税は国民の義務だ! しっかり励め! そして、勇者として、皆の範となれ!」
反論の余地なし。
勇者って辛いな~、と感じてしまうデビィドは苦笑いするしかなかった。
もちろん、そんな愚痴は口には出さない。
銀行口座の預金残高には億単位の預金がある上に、正義のヒーローとしてちやほやされるのが、この上なく気持ちよい。
マイナス分を余裕で相殺できてしまえるのだ。




