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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第93話 いつかどこかで見た光景

 地方巡業(?)を終えた“新生・勇者パーティー”が王都に帰還すると、民衆は歓声を叫びながらこれを出迎えた。


 さながら、魔王討伐を成し得て帰還した時のような熱烈歓迎だ。


 すでに現在の勇者が何を行っているのかは、国民の誰しもが知っている。


 今まで不当に税を納めていなかった貴族や富豪を徹底的に監査し、極めて紳士的かつ理知的に説得を試みて、払うべきを払わせている。


 そういう話になっていた。


 そして、支払われた税金は滞納による超過金や、あるいは何かしらの事情で発生した罰金刑の分も一度国庫に納められ、それから国民に還元されている。


 それは道や橋、水路や堤防などのインフラ整備に使われ、人や物の行き来が以前に比べて格段に改善されていった。


 また、王妃となった聖女スオーラの始めた慈善事業や福祉政策も徐々にだが効果が出始め、それも人気を博している。


 そうした政策や事業の原資は御貴族様のお財布であり、今までどんだけ税金の未納があったのかと、民衆は呆れ返ったほどだ。


 当然、それらを知らしめた国王ジャンと、滞納金の回収に勤しむ勇者デビィドは、民衆から絶大な支持を受け、その徳を讃える声は鳴りやまない。


 勇者を歓声を上げて出迎えるのも、そうした事情があればこそだ。


 ちなみに、大通りを進む中、デビィドとティエラは愛想よく手を振っているが、ペコニアとリボンちゃんは息苦しそうにしている。


 そもそも魔族は人間の“負の感情”を糧としているため、その真逆の“正の感情”である歓呼の礼はとにかく苦手なのだ。


 そんなこんなもあって、さっさと王城へ赴き、ジャンへの“事業報告”をせねばならないし、何より“報酬”だ。


 今回の地方巡業は王国東部に赴き、そこの貴族や富豪から税金を回収してきたので、その金額は膨大。


 国庫が潤い、その潤沢な予算でさらに経済政策と福祉事業が充実していくと言う、好循環になっているのが今の国内事情だ。


 その恩恵に与れるのであるから、デビィドも笑いが止まらない。


 さっさと報告をして報酬を受け取り、また豪遊する気満々だ。


 もっとも、“女遊び”に関してはティエラが目を光らせているので、そっち系のお店には行けそうもなかったが。


 そうして、王宮に参内してみると、案内されたのは例の事件のあった宴の間だ。


 今は礼拝堂に改装され、戦没者慰霊の場となっているが、それは表向きな話。


 本当は“邪神の石像”に封じられた、魔王リボーの魂を閉じ込めておく封印装置の役目を担っていた。


 あえてこの場での会見をする事により、一応従順な姿勢を見せているペコニアやリボンちゃんへの牽制を意味を込めている。


 実にジャンらしい嫌なセッティングをしてきたというわけだ。


 なお、礼拝堂は人払いがなされ、その場にいるのは事件の関係者のみ。


 席順など何もなく、大きめの円卓と、人数分の椅子があるだけ。


 デビィド、ティエラ、ペコニア、リボンちゃんはそれに腰かけた。


 それ以外の顔触れは国王ジャン、王妃スオーラ、そして、“謎の仮面の大男”だ。



「って、モロコス、まだその仮面付けたまんまかよ。どうせここにゃ関係者しかいないんだし、外したらどうだ?」



 デビィドとしても、戦友がずっと仮面のままだと言うのは若干忍びないと感じてしまっている。


 だが、仮面の大男は首を横に振り、外す事を拒否した。


 この場での騒動の後、モロコスはずっと“仮面の大男”として過ごしてきた。


 人前では必ず仮面を装備し、しかも一言も言葉を発しない。


 ただ、態度や姿勢でのみ、相手に意思を伝える。


 それでも、王族の警護やら王太子フィリップの武芸の指南役として、それなりに多忙な日々を過ごしていた。


 その巨躯からその正体は宮中の人々の中では公然の秘密となっているが、世間的にはペコニアとの戦いの中で相打ちと言う事になっている。


 そのため、人前では決して素顔を晒さないと誓い、今もまた実行中だ。



「まあ、こいつの好きなようにさせている。余自身、あの日以来、こいつの素顔は拝んでおらんからな。それこそ、人払い中であろうとも」



「律義だね~」



「とは言え、この巨躯では正体がバレバレだがな。だから、誰も口に出さないが、正体は知っている。“テンプル騎士団の生き残り”も事情を察して、再雇用に応じてくれたのは上々だった」



「あ、幹部連中以外の正規の騎士、処遇が決まったんですか?」



「腐敗と堕落の象徴であったテンプル騎士団は解体されたとはいえ、処刑した幹部連中以外は生き残っているからな。そこをモロコスが説得して回り、新しい組織として生まれ変わった」



「へ~、そんなんですか」



「医療に従事する慈善団体という形で収まったよ。名義上の団体の代表はスオーラではあるが、創設に携わったのはモロコスだ。“木こり”でもあるモロコスの功績を讃えると言う意味で『丸太マルタ病院ホスピタル騎士修道会』」を名乗っている」



「まあ、そっちも片付いたんならよかったですね」



「テンプル騎士団は騎士、従士合わせて1万人は下らないからな。全員をずっと拘束しておく事も、公職追放しておくのも現実的ではないからな。利用できるものは利用できるし、騎士団の汚名を雪ぐ意味でも、今は熱心に働いているよ」



 国内の懸念材料が一つ解消されたと言う事もあって、ジャンは上機嫌だ。


 実のところ、モロコスを処断しなかった理由はこれなのだ。


 幹部連中を全員処刑し、かつ民衆からの支持を失った騎士団は確実に騒乱の火種となる。


 それを防ぐ意味でも、何かしらの結合剤が必須であった。


 それをモロコスとスオーラが担ったというわけだ。


 そういう意味においては、ジャンの予想がピシャリとハマった事を意味する。


 国内の安定化のためには経済の発展と雇用の確保が最優先であり、それに水を差しかねない“内乱”の目は徹底的に潰して起きたのもジャンの思惑だ。


 もちろん、“新生・勇者パーティー”が行っている地方巡業もその一環だ。


 中央政府の目が届かない地方では、なお貴族や富豪が好き放題にやっている事が多々ある。


 シャルルの謀反を契機に、それを一気解消に動いたのが今の動きだ。


 シャルルは国内の安定と中央集権体制を目指して、デビィドは(若干落ちた)自身の名声と報酬のために、強固な協力体制にある。


 利害の一致こそ、同盟、協調の決着剤だ。



「そんな事より、陛下! 今回の報酬、いただきましょうか!」



「やれやれ。相変わらず現金な事だな」



「そりゃあもう、あっちへこっちへ赴いて、聞き分けの悪い御貴族様や富豪連中をのして来ましたからね!」



「その働きには満足している。報酬ももちろん、かねてからの“約束通りの満額”を支払うつもりでいるぞ」



「へへ、そりゃ結構なこって!」



「ほれ、受け取れ」



 そして、王家の家紋が焼き印された箱が登場する。


 たっぷり報酬を受け取り、しばらくはまた豪遊ができると、喜々としてデビィドは蓋を開けた。


 その中身は使い捨ての現金給付カードに書類が2枚。


 それは“いつかどこかで見た光景”だ。


 まさか、と思いつつも、書類の中身を慌てて確認した。


 そして、愕然とした。


 そこにはこう記されていた。



「既定の税率により、報酬の“75%”を源泉徴収しておく」



 それは勇者パーティーを唖然とさせるに十分だった。



「「「75%ってなんだよぉぉぉ!?」」」



「 Σ( ̄ロ ̄lll) ガーン」



 デビィドも、ティエラも、ペコニアも、リボンちゃんも、悲鳴を上げる。


 まあ当然だなと、ジャンはニヤニヤとその光景を眺めるのであった。

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