第92話 新生・勇者パーティーのお仕事 (3)
「さて、オウロ侯爵よ、何か弁明しておく事でもあるか?」
椅子に腰かけ、尊大に振る舞い、発見された金塊を見せ付けるように弄ぶ。
とても侯爵に対してするべき態度ではないが、今のデビィドにはそれが余裕で許される。
国王の命を受け、税を滞納し、不正な蓄財を行う不貞な貴族を懲らしめている最中で、その言動には容赦の文言はない。
不正の証拠である“裏”の帳簿類に加え、隠し部屋と、そこに保管されていた記載のない金塊。
もはや言い逃れのできる状況ではなかったが、それでも“弁明”を聞いてやろうと言う実に寛大な措置だ。
もっとも、その寛大な措置を以てしても、重ねた罪を拭い去れるだけの弁舌を披露する事はできない。
ずらりと並ぶ不正の証拠を前に、オウロ侯爵はただ狼狽するだけだ。
「お、おのれ……。王家にも縁故のある我が侯爵家に対する無礼の数々、ただで済むと思うなよ、勇者!」
「その勇者を派遣してきたのが、国王ジャン陛下だと言う事を忘れんなよ?」
「あんな若造に何ができる! 王国は我ら栄えある伝統を守る貴族こそその要だ! それを蔑ろにするなど!」
「そっちこそ口を慎めよ、侯爵。この場に陛下がいたら、即刻、打ち首もんだぜ? それとも、王家の縁故のあるって事だし、インジェヌオ伯爵シャルルの後追いでもやってみるか?」
「ええい! 黙れ、黙れ! もはやこれまで! 出会えェ、出会えぇぇぇい!」
侯爵の声が部屋の外にも飛び出し、待機していた兵士の耳に届くと、次々と室内へとなだれ込んできた。
剣や槍を握り、命令一つで勇者パーティーに襲いかかろうとする姿勢を見せる。
やれやれ面倒だなと言わんばかりに、デビィドは席を立ち、腰に帯びていた剣の柄に手を置く。
いつでもやるぞと、逆に威圧を返した。
「侯爵、一応言っておくと、こちらは“徴税官”だ。悪いが“納税者”に対して監査や行政代執行中は無敵状態になるのだが、それを知っているか?」
「百も承知だ! だから、ここの兵士は私の妻の弟の友人の従弟が伝手で雇い入れた者達ばかりだ!」
「なるほど。そこまで離れていると“赤の他人”という事で、無敵状態も発動しないか。別に考えなしの暴走ってわけでもないのは褒めといてやるよ」
デビィドは特に焦るでもなく、冷静に剣を鞘から抜く。
愛用する伝説の剣『空の裂く者(償却資産登録済)』を手にし、周囲を威圧する。
「やれやれ、やはり荒事になりましたか」
「みたいだな。てなわけで、ペコニア、頼む」
「【全能力向上】! 【魔力抵抗】! 【運気将来】! 【超鋼障壁】! 【自動再生】! 【術式極大化】!」
強化魔術の多重掛けで、デビィドは能力を向上させた。
ただでさえ最強の勇者が、悪魔の加護を受け、さらに強くなる。
だが、それでも侯爵は引き下がる姿勢を見せない。
なにしろ、集めた傭兵は300人にも上り、数で押せると判断したためだ。
「 (´・ω・`)・ω・`) キャー
/ つ⊂ \ コワーイ」
「ティエラ、リボンちゃん、お前らの出番はねえ。俺一人で十分だ」
「 キャ~ステキ~!! d(*≧ω≦)人(*≧ω≦)b ヤッチャッテクダサイ!! 」
勇者パーティーの面々は余裕の態度を見せ付ける。
ペコニアに至っては、追加で発生するであろう“罰金刑”の計算まで始めてしまう余裕ぶりだ。
「ええい、ふざけた真似を! ここで貴様らを始末すれば、余計な報告は中央にまでは届かん!」
「仮にそうなったとしても、俺らが王都に戻らなかったら、侯爵さんよ、あんたが怪しまれんぜ?」
「旅の途中で蒸発するのはよくある話だ! 安心してあの世へ旅立て!」
「やれやれ。マジで引いてくれた方がこちらも楽なんだけどな」
「お前ら、この4人の不届き者をさっさと始末しろ! 討ち取った者には約束した報酬の10倍出してやる! 何なら当家への士官も世話してやるぞ!」
「侯爵、威勢が良いのは結構だが、その“当家”がこれから無くなるんだよ!」
そして、戦闘は始まった。
そもそも戦闘と呼べるのかも怪しいほどの“蹂躙”で、完全に一方的な展開が繰り広げられた。
欲に目のくらんだ傭兵が次々と襲い掛かるが、勇者の一撃で間合いに入った瞬間に剣が振るわれ、命を落とす。
鎧を着ていようがお構いなしに、まるでハサミで紙を切るようなものだ。
「デビィドちゃ~ん、あんまし“建物”は壊さないでね。資産差し押さえの際に、評価額が落ちちゃうから~」
「 ボッシュ~!! (☆ω☆)人(☆ω☆) ワライガトマラナイ!! 」
「どう足掻いても、事故物件だけどな!」
勇者も、観戦する他3名も、阿鼻叫喚の地獄絵図を前に余裕の態度を崩さない。
首が飛び、腕が舞い、血飛沫と臓物がぶちまけられようともお構いなしだ。
なにしろ、“財務監査中”に“納税者(滞納者)”が“徴税官”に“武力行使”をしてきたのだから、容赦する理由など欠片もない。
むしろ、罰金刑の分、没収する金額が上乗せされるのを喜ぶくらいだ。
はっきり言えば、笑いが止まらない状態だ。
国王ジャンからの依頼で各地の貴族家を回っているが、目の前の侯爵のような態度を取る御貴族様ばかりであり、報酬額がモリモリ上がっている。
役得、報酬として、差し押さえた金額の内、“3割”が保障されている。
なのでむしろ、抵抗される方が美味しいのだ。
そして、一人また一人と命を散らせ、倒れていく。
何十人分の死体が量産され、屠畜場よりも酷い有様だ。
にも拘らず、デビィドの疲れの色は見えない。
差し押さえの金額計算をしながらも、ちゃんと回復魔術を怠らずにかけていた。
「しっかし、今更ながら、ペコニアはサポート役としちゃマジで優秀だな!」
「それはどうも。あ、それとデビィドちゃん、あそこの壁際に置いてある壺、かなりの値打ち物ですから、絶対に割らないように注意してね」
「了解!」
勇者の猛威は更に増し、ついには命あっての物種だと、傭兵達も壊走する。
兵がいなくなり、侯爵もまた逃げ出そうとするが、そこはティエラが素早く回り込み、これを捕縛した。
こうして“また”歴史と伝統ある貴族家が一つ、潰える事となった。
そして、それは文句を言う貴族や富豪がいなくなるまで続いていく事となる。




