第90話 新生・勇者パーティーのお仕事 (1)
「か、勘弁してくれ! 本当にわざとではないんです!」
小太りの男が悲鳴にも似た叫びをあげる。
そこは煌びやかな内装や調度品で彩られた応接間であり、机の上には書類やら帳簿類がびっしりと並ぶ。
それを一つ一つ丁寧に眺めているのは、ペコニアだ。
「オウロ侯爵様、私の目は誤魔化せませんよ。この数字、わざと弄っておりますね? こちらとこちら、計算にズレが生じております」
クイッと眼鏡を動かし、問題の箇所を指摘する。
その横では勇者デビィドが椅子に腰かけ、ものすごく偉そうにふんぞり返る。
「おうおうおうおうおう、侯爵さんよ、王都から地方くんだりに来てみれば、随分とまあ“好ましくない事”をやっているみたいだな!」
「わざとではないと言っているだろうが!」
「わざとじゃないんだったら、この合わない数の金銭はどこに行ってんだよ!?」
「そ、それは……」
「それに聞き込みも終わってんだぜ? 領民からは現金で一部納税させて、帳簿に残さないようにしているのもな!」
バァンと机を勢いよく叩き、さらに圧を駆けるデビィド。
侯爵は怯える一方だ。
なにしろ、相手は魔王を倒した大英雄、勇者であり、相手をするには悪すぎる。
しかも、今は国王ジャンより、勅命で“徴税官”に就任し、王都から離れた貴族の地方領を巡回しているのだ。
もちろん、その職務は“脱税・不正資金の調査”である。
なお、その調査風景はヤクザと何ら変わる事はない。
「隠し事は良くないよなぁ!? ましてや数字弄って、脱税しちゃうのも良くないよな!? 陛下は大変遺憾に思っているんだぞ~。インフラ整備に金がかかるのに、ちゃんと税金を払っていない貴族が多いってな!」
「え、あ、そ、それは……」
「いいか? 何も強盗やっているんじゃないんだよ、こっちは。税金ていうのは、皆が金を出し合い、インフラや各種行政サービス、医療や福祉に還元して国民に送り返す通過儀礼だ。それを不正によって払っていないなんて、ほんと良くない! しかも、皆の範となるべき御貴族様が払っていませんじゃ、示しが付かねえよなぁ!?」
なおも圧力を加えるデビィドに、侯爵はあたふたするだけだ。
デビィドの発言は正論であり、本来納めるべき税を誤魔化しているのが“悪”だ。
容赦の二文字は、“新生・勇者パーティー”にはない。
「そ、そんな事を言われても、誤解だ! 私はそんな事、不正をしていたなどと」
「お黙りなさい! この紋所が目に入りませんか?」
ペコニアは書類に目を通しつつ、懐から“黄金の印籠”を取り出す。
“金貨を乗せた天秤”という徴税官が共有する意匠ではあるが、特別製の黄金の印籠はこれ一つしかない。
ジャンが新たに制定した“脱税・不正撲滅特別徴税官”に与えられたアイテムであり、国中に公布された特別職の名だ。
「すでに公表した事であるが、インジェヌオ伯爵シャルルは国家転覆を謀り、悪魔を我が嫡子フィリップに嫁がせ、国を乗っ取ろうとした! 許されざる所業であり、魔王軍の残党と結託して国家を貶めたる罪は万死に値する! よって、国民には安心して暮らせるよう、徹底した調査を施す事をここに宣言する」
これが特別徴税官が設立された経緯である。
なお、反逆者シャルルの処刑は大々的に行われ、王都を市中引き回しの上、中央広場にて火炙りに処された。
しかも、その黒焦げの遺体はしばらくそのまま晒し者にした挙げ句、インジェヌオ伯爵家は改易が決定された。
領地、財産共に全没収され、伯爵家一門は新たに創設されたフロン男爵家預かりの身となった。
ちなみに、インジェヌオ伯爵家の旧領はその大半が王家の直轄地となり、ティエラの実家がフロン男爵家を叙爵され、当地の代官職も任されていたりする。
貴族と言えども情け容赦なく処断すると見せつけつつ、しっかりと働きのある者は取り立てると、この一件で示したと言える。
デビィドら“新生・勇者パーティー”は、まさにその先鋒を任されたようなものだ。
各地の貴族を巡り、不正を暴き出し、今まで不公平であった税制の改革に大鉈を振るう事をジャンは志した。
そして、その大鉈こそ“新生・勇者パーティー”だ。
魔王を屠った英雄が、今度は国内の不穏分子や不正を行う悪徳貴族や業者にその力を奮う事となった。




