第89話 新たなる契約
「さて、それでは新たなる契約を結ぶとするか」
ジャンは満面の笑みを浮かべ、正座待機するペコニアとリボンちゃんを見下ろす。
どんな契約を結ぶのか、勇者パーティーも興味津々であるし、悪魔2人も冷や汗をかきながら何を言われるのかと息をのむ。
そして、ジャンは少し勿体ぶりながらも口を開いた。
「ペコニア、実のところ、余は君の働きに感謝している。腐臭漂うテンプル騎士団を解体し、神殿勢力へも十分過ぎる牽制を入れる事が出来た。不穏貴族の暴発を誘発させ、その始末も行う事が出来た。それもこれもお前のおかげだ」
「はい……」
無論、これらはペコニアは意図して引き起こした事だが、それによって生じた利益や状況は全てジャンに持っていかれた。
なにしろ、貴族や聖職者と言ったいわゆる“特権階級”に介入する、その口実を得たに等しい。
政治改革を志すジャンにすれば、即位から僅か一年でそれを得られた事は、とてつもなく大きい。
ペコニアの悪辣な頭脳と辣腕の手管があればこそだ。
「なので、余はお前の“能力”を買っている。“性格”や“業”は二の次で、とにかくその“頭脳”を利用したい」
「仕事を任せる、と言う意味でよろしいでしょうか?」
「そう、仕事だ。これから仕事に出てもらう。モロコスとスオーラは予定通り、余に侍り、中央に残ってもらう。次の仕事は、デビィド、ティエラ、ペコニア、リボンちゃんの“新生・勇者パーティー”で行ってもらう」
仕事内容はまだ不明であるが、新しいパーティー編成で出かけるものらしいと言うのは全員が理解できた。
実際、スオーラは王妃に内定しているため、出かける事はできないし、モロコスは“謎の仮面戦士”として王太子フィリップの傅役を任されている。
この二人は王都より離れる事ができないため、その穴埋めをペコニアとリボンちゃんに任せると言うのが、ジャンのプランであった。
「ただ、何の縛りもなしに出発させると、どうせ逃亡するだろうから、新たな契約を1つだけ結び、それから出かけてもらう事にする」
「その契約とは?」
「実に単純明快。それは『勇者に従え!』だ」
分かり易く、そして、恐ろしい契約であった。
単純故に、曲解する事ができない。
勇者の命令通りに動く必要がある。
しかも、デビィド個人ではなく、“勇者”にかけたところが狡い。
もしデビィドの他に、次なる勇者が現れると、今度はそちらに従う事にもなる。
勇者が継続的に登場するのであれば、ペコニアもリボンちゃんも決して逃れる事ができない。
複雑な契約を無数に重ねるよりも、最強の存在である“勇者”に支配権を与え、勝手な振る舞いをできないように縛り付ける。
しかも、その明晰な頭脳をそのまま使役する事もできる。
ジャンが考えた末に出した結論がこれであった。
「あ、陛下、ひとつ質問いいですか?」
「なんだ、デビィドよ」
「エッチな命令って許可されますか?」
「却下ぁぁぁ!」
デビィドの脇腹にティエラの回し蹴りが直撃する。
だが、効果は薄い。
レベル52の勇者にレベル21の非力な怪盗の一撃では、効果的なダメージを通しにくいのだ。
せいぜい、軽く撫でられてくすぐったい程度の感触であった。
「陛下! 新パーティーは危険です! 勇者様の多頭飼いパーティーになりかねません! ご再考を!」
「かと言って、お前とデビィドのつがいパーティーでは、色々と別の意味で危なっかしいと思うのだがな」
「未成年略取(ロリコン死すべし)、その意味を軽く考えないでください」
「リボンちゃんはそもそも投影魔人なんだし、同年齢程度に設定を変えれば余裕で行けるだろ。おい、6歳児から16歳児に設定変更な」
「 o( ̄ ◇ ̄)b ガッテンショウチ! 」
リボンちゃんは気合の一声と共に、その姿がみるみる大きくなった。
幼女から少女へ。
少女から淑女へと、見る見るうちに大きくなっていった。
髪型は元の波打つ豪奢な金髪のままだが、身長がティエラと同じくらいに伸び、スラっとした細身の美しい女性へと変じた。
とはいえ、体が大きくなったため、6歳児のドレスでは寸法が合わず、ビリビリに破けて素っ裸になったのは完全に計算外だ。
当のリボンちゃんは特に無反応であったが、スオーラは慌てて男性陣との間に割って入り、ティエラはマントをリボンちゃんに巻いてどうにか取り繕った。
なお、男性陣の反応は露骨なほどい分かりやすい。
デビィドはゲラゲラ下品に笑い、モロコスは顔を赤らめながら明後日の方向を向き、ジャンはこれと言った反応を見せない。
「よし! リボンちゃん! 親睦を深めるために、寝台行こう! な! な!」
「 カエレ!! ヽ(#゜Д゜)ノ┌┛Σ(ノ=Д=)ノ 」
リボンちゃんの蹴りが炸裂し、吹っ飛ぶデビィド。
ザマァ見ろと言わんばかりに、女性陣から蔑みの視線が突き刺さる。
「なかなかの威力ね! 許す! 勇者様は甘い顔をすると、すぐにつけ上がるから、ビシッとやっちゃっていいからね!」
「 (*^∀゜)b イエッサ~! 」
「にしても、勇者様を蹴飛ばせるって事は、まだ“徴税官”の権限が活きているってことよね。リボンちゃん、ちょっとカード見せて」
「 ( ≧з≦)っ⌒■ ハーイ! 」
ティエラは提示されたリボンちゃんの『個人証明札』を、ティエラは覗き込むと思いがけない事が書き込まれていた。
「あ! リボンちゃんの職業、“姫君”になってる! 仕事は前のまんま“徴税官”だけど」
「おそらくは、シャルルとの養子縁組の際に、商人から姫君に変わったんだろうな。条件が整うと、上級職や特殊職に勝手に切り替わる事がある」
「でも、お姫様が徴税業務ってどうなんでしょうか?」
「面白そうなので、このまま続行だ」
ジャンもカードを覗き込むが、より注目すべき記述を発見した。
それは習得済のスキル欄に【常時発動・魅了Lv5】があった事だ。
「おいおい、これ、超強力じゃねえか! 姿を見ただけで虜になり、軽く話すだけで相手の好感度を爆上げする能力だ! 国が傾くぞ!」
「元々持っていた能力に、“姫君”の魅力値上昇が重なって、スキル強化されちゃったかな? って、勇者様、さっきの無作法すぎる誘いって、まさか……!」
「…………、リボンちゃん可愛い! 結婚しよう!」
「目を覚ませぇぇぇ!」
ティエラの平手打ちがデビィドの頬を直撃した。
さらに足蹴にして、デビィドに追撃の連打を叩き込んだ。
「 ( *¯ ꒳¯*) カワイイッテツミ 」
「ドヤッててないで、さっさと元の6歳児に戻りなさい!」
「 ┓(‘ = з =)┏ ヤレヤレ ネタミ? 」
「ケツの穴に小杖突っ込んで、【地獄の轟雷】撃ち込んであげようか?」
「 (*˘ーωー˘*) MPナイクセニ」
などと言いつつ、リボンちゃんも元の6歳児の姿に戻っていった。
「陛下! 問題だらけです、新パーティーは!」
「そのようだが、これも仕事の内と思って諦めよ、ティエラ」
「つ~か、この問題だらけの集団にどんな仕事をやらせようと!?」
「これからの国作りに必要な事だ」
そう言うと、ジャンは再び“邪神の神像”を取り出した。
魔王の魂が封じ込められており、ペコニアが是が非でも取り戻したい代物ではあるが、現状では絶対に不可能だ。
それを強調するために、敢えて見せびらかしているとも言える。
「この部屋を更に強固にし、ここを魔王封印の地とする。表向きは戦争の戦没者を祀る慰霊の礼拝堂とし、ここの管理の最高責任者にはスオーラを指名しておく」
「まあ、王妃となった“元”神職ともなれば、それも妥当な仕事ですわね」
「予算も人手もいくらでも出すから、表も裏もきっちり仕上げておけ。モロコスも助力を頼むぞ」
「拝命いたしました」
「仰せのままに」
スオーラとしても、モロコスとしても、これは絶対にやらねばならない仕事だ。
かつて、魔王軍の襲撃を受け、村を焼け出され、家族を失い、孤児となった記憶が二人にはある。
それを防ぐためには、もう魔王など目覚めない方が良い。
自分達がしっかりと封印しておけば、その心配もなくなるというものだ。
やる気を見せた二人に、ジャンは満足そうに頷く。
そして、“新生・勇者パーティー”の面々をなめるように見渡した。
なお、デビィドはなおも床に突っ伏したままだ。
「先程のは会心の一撃だったかな?」
「知りません!」
「まあ、そうカリカリするな。仕事についてこれから話すが、これは本当に重要な事だ。国にとっても、お前達個人にとってもな!」
「……本当に儲かるんですか?」
「ああ。これ以上になくな」
そして、ジャンは仕事の内容を話す。
それは“狂気”と“驚喜”を融合させたこれ以上にない仕事であると、パーティーメンバー全員が歓喜するほどの内容であった。




