第88話 復活のペコニア
「さてと。それでは次にこいつを復活させるか」
そう言うジャンの目の前にはペコニアの死体が転がっていた。
竜形体のまま死亡したため、いつもの見慣れた悪魔形体ではなく、大きな金色の体がドンッと視界を塞いでいる。
リボンちゃん以上に復活させて良いものかと、勇者パーティーは悩む。
「暴れませんか、これ?」
「そのために魔力で生成した鎖でぐるぐる巻きにしているし、何よりこの部屋は頑丈だ。どうとでもなる」
「分かりました。では、【蘇生】!」
再びスオーラは蘇生の術式を用いて、今度はペコニアを復活させた。
デビィドから受けた傷もみるみる塞がり、迷える魂も肉体へと戻る。
そして、意識を取り戻したペコニアは目を見開くなり、案の定、暴れ出した。
「ぐ、ぐぉぉぉ! 離せぇぇ!」
鎖で雁字搦めにされているとは言え、何と言ってもこの巨体である。
軽く寝返りを打とうとするだけで、地響きレベルだ。
そんなペコニアの鼻先に、勇者の蹴りが入る。
「暴れんな! 暴れんなよ……!」
「お、おのれぇぇぇ!」
「黙れ! 今度はお前が負債を払う番なんだよぉぉぉ!」
そう言って、執拗に蹴りを入れるデビィド。
さらに、モロコスとティエラも加わり、これでもかと足蹴にする。
「どだいお前一人じゃ勝てなかったって事だよなぁ、ペコニア!」
「ペコニアよ、煮え湯を飲まされたお礼参り、きっちり受けてもらうぞ!」
「4人に勝てるわけないでしょ!」
「 ((((;゜Д゜)))) ガクガクブルブル 」
さらに蹴りまくる3人。
さらにダメージを食らうペコニア。
なお、足蹴に参加していないスオーラは、魔力を活性化させて、さらに鎖を締め上げるという一番ドギツイ事をやっていたりする。
そして、怯えるリボンちゃん。
「……くっ、殺せ!」
「 :(´◦ω◦`): クッ コロセ! 」
「さっき1回殺したが、もう1回殺そうか?」
「このような辱めを受けるくらいなら、死んだ方がマシだ!」
「 ((( ꒪꒫꒪; ))) マシダ!」
「じゃ、遠慮なく……」
「ダメですって、勇者様」
槍で二人をぶっ刺そうとしたデビィドを、ティエラが慌てて止めに入った。
「いいですか、勇者様。『くっ、殺せ! このような辱めを受けるくらいなら、死んだ方がマシだ!』ってのは、女騎士や女幹部が虜囚になった際にまずもって叫ばなくてはならない、歴史と格式と伝統のある“決め台詞”なんです!」
「いやいやいや、決め台詞ってのは、必殺技が炸裂したり、とどめを刺す際に言うべきものであって、この場合は“捨て台詞”とか“負け惜しみ”に分類されるんじゃ?」
「いいから、そう言う事にしておいてください! 前も魔王が断末魔を上げる最後の台詞を、強制キャンセルして台無しにしちゃったじゃないですか! もう少し空気読んでくださいよ!」
「ああ、そんな事もあったな」
「それよ、今回の原因は!」
そう言ってペコニアがデビィドを睨んできた。
「本来、魔王様は“不滅の魂”を有し、転生の秘術で次の生を得る事ができる。だが、お前が最後の捨て台詞を……、断末魔を上げている最中に無粋な蹴りを入れたせいで、術式が不完全に発動し、転生に失敗してしまったのよ!」
「あ、それで魔族の赤ん坊じゃなくて、石像に“緊急避難”したってわけか」
「さすがに依り代が一切ない状態で、しかも勇者パーティーにやられた後では、霊体のままで彷徨うのはリスクが大き過ぎる。なので、瓦礫に紛れていた”邪神の神像”に魂を入れ、誰かがそれを拾うのを待っていたの」
「んで、ライブツアーを満喫して帰って来たお前が、それを拾ったと」
「そうよ! 全部、勇者デビィド、あんたが悪いんだからね」
「まあ、計算通りだな。さすが、俺!」
「勇者様、絶対嘘ですよね!?」
さらにもう一発ずつペコニアに蹴りを入れるデビィドとティエラ。
これでようやく観念したのか、ペコニアも沈黙した。
「なるほど、そういう状況だったのか。ようやく魔王の魂が石像に入っていた理由を知る事が出来た」
そう言って、前に出てくるジャンは、これ見よがしの“邪神の神像”を見せ付けた。
魔王そのものを人質に獲っていると言わんばかりの態度だ。
本来なら炎で焼き尽くしていやりたいところだが、縛られていては身動きが取れず、しかもデビィドとモロコスが執拗に蹴ってくるため、これもまた痛い。
そんな哀れな魔王軍幹部に、ジャンは意味深な笑みを浮かべる。
どちらが悪魔かと思わせるほどに。
「まあ、“わからせ”はこのくらいにしておいて、スオーラ、鎖を解いてよいぞ」
「よろしいのですか?」
「構わん。ただし、ちょっとでもおかしな真似をしたら、遠慮はいらんからもう一度殺してやれ。当人の願い通りな」
「分かりました。では、鎖を解きます」
「それと鬱陶しいから、ペコニア、竜から魔族にチェンジしとけ」
そして、鎖は消えてなくなり、ペコニアとリボンちゃんは戒めより解き放たれた。
大人しく竜形体から悪魔形体に戻り、“正座”でちょこんと座る。
勇者パーティーとジャンにより取り囲まれ、さながら圧迫面接のようであった。
なにしろ、これからやらかした案件に関する“総括”が始まるのである。
ペコニアも、リボンちゃんも、冷や汗のかきっ放しであった。
「さてと、勇者パーティー諸君、この2羽の雌鶏をどうしてやろうか?」
「もう一回殺す!」
「同意……! 圧倒的同意……!」
「いっそ、“石化刑”とかなんてどうかな? 魔王、ペコニア、リボンちゃんの3点セットをどこぞに飾っておくとか」
「それより浄化して、天国に送りましょう。悪魔にはそれが一番効果的ですわ」
「魔女裁判よりひどい即決結審!?」
「 オネガイユルチテ _(;ω;`」_) コノトオリ 」
容赦のない判決に、二人は怯えるばかり。
その間も足蹴にされ、まさに“総括”だ。
ただ、この場には同情する者など一人もなく、そのまま勇者パーティーによる結審からの即処刑コースが実行されるかのような雰囲気だ。
ジャンの笑みだけが、ある意味唯一の救いであり、実際、この王様は勇者パーティーを制した。
「まあ、殺すのは簡単だが、それでは“留飲”を下げただけで、精神的な充足感しか得られない。余はわがままな上に、強欲でな。物質的な充足感も得たいのだよ」
「んじゃ、陛下、こいつら、やっちゃいますか!? 肉欲的な意味で!」
「いくら美女であっても、中身が竜では抱く気になれんし、そこはお前に譲る」
「では、早速……」
「 (´・ω・`)・ω・`) キャー
/ つ⊂ \ コワーイ」
「余裕だなこいつら! やっぱり殺した方がいいじゃないか!(憤怒)」
デビィドは槍を構え、穂先を2人の鼻先にチラつかせる。
今の状態ではどう足掻いても勝ち目はないので、二人揃って瞬時に土下座だ。
「すいません! 許してください! 何でもしますから!」
「 : (_;・꒳・;) :_ ナンデモイウコトヲキイチャウリボンチャンダヨ~!」
「ん? 今、なんでもするって言ったな?」
言質を取ったと言わんばかりに、ジャンは満足そうに頷く。
折角、魔王そのものを人質に取り、しかも魔王軍幹部を生け捕りにできたのだ。
利用価値はこの上なく高い。
利用するだけ利用して、あとはボロ雑巾になるまで使い潰すだけ。
悪魔にすら勝る奸智が今、花開こうとしていた。




