第87話 本来の計画
「さて、こちらの組み合わせは丸く収まったし、次は問題児夫婦の方を片付けるとするか」
そう言ってジャンは視線をデビィドとティエラに向ける。
モロコス・スオーラ組はNTR要素をふんだんに盛り込みながら、ある種の円満解決をしてみせたが、問題はむしろこちらの組であったりする。
能力的には確かなのは、一連の動きで確認できたが、とにかく一癖も二癖もあるのがデビィドとティエラだ。
どう遇するか、かなりの悩みどころであったりする。
「勇者デビィドと大魔導師ティエラ、ではなく、今は怪盗だったな」
「なんか仕事をさせたいんですよね? しかも、会話から察するに地方回りのやつ」
「まあな。中央に置いておくのは厄介事しか生まないような気がしてな、お前らは」
「異議あり! あたし、何の問題行動してませんよ!?」
「旦那の尻拭い、連座、一蓮托生。伴侶になるなら当然ではないか?」
「理不尽!」
「まあ、デビィドのやらかしを有耶無耶にするための地方遠征、くらいに考えておいてくれ」
不満げなティエラの事などジャンは完全に流す構えだ。
デビィドにしても、借金チャラや刑事罰の握り潰しがあるので、もはや選択の余地はない。
多少厳しい内容の依頼であろうとも、借金漬けや牢屋送りにはなりたくないので、背に腹は代えられない。
不安と不満でいっぱいいっぱいの2人ではあるが、ジャンはお構い無しに話を続けた。
「安心しろ。別にお前達にとって、損な話ではない。むしろ、ガッツリ儲けられる話だ。ただし“成功報酬”ではあるがな」
「つまり、頑張った分だけ報酬はモリモリ貰えると?」
「しかも、稼ぎは魔王討伐の時と同じで、“億単位”で入るぞ?」
途端にデビィドとティエラの目がぎらつく。
二人は呼吸ぴったりに挙手し、グイグイとジャンに迫る。
「「億!? やります! やります!」」
「……まあ、成果に対する報酬だから、“努力次第”だがな」
「「鋭意努力します!」」
ジャンの言葉にデビィドとティエラは前のめりになる。
何しろ、魔王討伐の時には、ガッツリと税引きされた上に、通常の所得税までかけられ、かなりの額を削られたのだ。
諸事情があったとは言え、今は素寒貧。
“成功報酬”という条件付きではあるが、かなり魅力な話であり、不満も不安と何処かへ吹っ飛んで行った。
やっぱり現金だなと、モロコスもスオーラも苦笑いだ。
「やる気が出たようで結構! では、早速取り掛かりたいが、その前にやっておかねばならん事がある」
そう言ってジャンは床に転がっている“死体”に目を向ける。
ペコニア(竜)とリボンちゃん(顔無し)の死体だ。
「スオーラ、こいつらを復活させろ」
「え……? よ、よろしいので?」
「もちろんだ。ただし、暴れられんように、縛り付けてからな」
折角倒した魔族を蘇らせろと宣うジャンに、勇者パーティーは困惑する。
とは言え、勅命である。
スオーラは早速それに取り掛かった。
「天より流れ落ちる一条の光、其は邪なる者を縛る鎖なり! 汝、縛に附くべし! 【天鎖緊縛】!」
スオーラの手より生じた輝く鎖が二体の死体を包み、簀巻き状態にした。
小柄なリボンちゃんはともかく、竜形体のペコニアも拘束したため、さすがのスオーラも息切れするほどに消耗した。
「邪神抱く者には強烈な戒めとなる鎖です。抵抗なしで完璧に決まりましたから、復活させても動けません」
「結構。では、復活させてくれ」
「では……。迷える魂よ、我が声に導かれ、肉体へと戻るべし! 【蘇生】!」
スオーラはまずリボンちゃんの方に蘇生魔術をかけた。
そして、すぐに術の影響が出てきた。
モロコスの一撃で消し飛んだ頭部がニョキニョキと生え、一度“顔無し”の状態となり、それからいつものリボンちゃんの顔へと変わっていった。
「 ハッ? Σ(゜Д゜;≡;゜д゜) エッ? 」
意識を取り戻すと周囲を見渡す。
そして、状況を理解したのか、リボンちゃんは泣き出した。
「 ˚‧º·(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )‧º·˚ ウワ~ン!」
「陛下、なんか泣いてますよ?」
「さもありなん。殺したはずの余が平然と二本の足で立ち、勇者パーティーに取り囲まれ、しかも、自分は鎖で簀巻き状態。おまけに側には、ペコニア(竜形体)が死体で転がっているのだ。当然、“作戦失敗”なのは一目瞭然」
「 ウワァァ━━。゜(゜´Д`゜)゜。━━ン!! エロド~ジンミタイニサレル!!」
「なんか、6歳児が口走ってはならない台詞を吐いてますけど?」
「勇者よ、やらんのか? お前の大好きな、グヘヘな展開だぞ? ええっと、えろどうじん、“ウ=ス異本”と言ったか?」
「陛下は俺をなんだと思っているんですか!?」
「…………。この1年間のお前の交際記録、こちらが知らんとでも?」
「はい、すいませんでした。二度としません」
ジャンや仲間からの蔑みの視線がぶっ刺さるデビィドは、ただただ平謝りだ。
これ、一生言われ続けるだろうな~と思いつつ、気持ちを切り替えた。
「と言いますか、こいつが“魔王”じゃないのは分かりましたが、そうなると“本物の魔王”はどこに?」
「ん? それなら、ここにいるぞ」
そう言って、ジャンは服の内側に入れておいた袋を取り出した。
何かを厳重に封印しているのか、袋には何枚もの護符が張られており、危険な代物なのは間違いなかった。
そして、口を開け、袋の中身を勇者パーティーに見せ付けた。
中身は“邪神の神像”。
手のひらに乗るていどの大きさで、形容しがたい邪悪な姿をしていた。
見ているだけで正気を失いそうになるほどだ。
そして、それに見覚えのあったモロコスは目を丸くして驚いた。
「そ、それは確か、テンプル騎士団への強制捜査の際、騎士団長の私室から出てきたという“邪神の神像”では!?」
「そうだ。ペコニアが仕込んだ“罪の証”、それがこれだ」
「では、魔王は転生したのではなく、その像に魔王の魂が入っていると!?」
「どうしてこうなったのかは知らんが、そう言う事だ」
シレッと言うジャンだが、勇者パーティーにとっては驚きに値する事であった。
魔王とペコニアに振り回されていたかと思ったら、実は全てがペコニアの一人芝居。
“顔無し”を用いた人形劇だ。
それが今回の茶番劇の正体であった。
「ペコニアも中々に大胆だろ? 皮肉とも言えるかもしれんが、魔王が封じられた像を囮に使い、騎士団の罪を顕在化させた」
「なるほど。ただの石像であれば、あるいは誤魔化しが利きます。しかし、『本物の魔王』が宿った像であれば、調べれば危険な代物なのはすぐに分かります」
「だからこそ、これが私室から出てきた騎士団長は弁明できなかった。おまけに、『邪悪な魂の宿る像』についての情報を即座に新聞社にリークし、事を炎上させた」
「魔王軍との戦争が終結したばかりで、まだまだ生々しい記憶が国民の中にある。騎士団長や幹部を処断して、人心の安定化を図らざるを得なかった。それがあの苛烈な処分の真相であると!?」
「まあな。騎士団の不正を暴くという点では完璧であったが、こちらの求めていない“騎士団の殲滅”まで押し付けて来た時は、さすがに焦った」
ジャンもわざとらしく肩を竦めるが、今となってはその状況すら利用していたように、周囲の目には映る。
不正を重ねるテンプル騎士団を潰した上に、不穏分子の貴族を炙り出し、しかも魔王軍残党の策を逆用して手玉に取ったのが、ジャンという事だ。
足元でジタバタもがくリボンちゃんは、まさにその結果の表れであった。
「この”顔無し“にしても、わざとモロコスに殺されて濡れ衣を着せ、関係者一同を始末してから復活させれば、王妃として今後は動けるからな」
「そうなれば、その魔王の魂が宿る石像も、取り返すのも容易いと」
「ペコニアの計画通りに進んでいれば、余や勇者パーティーを潰し、口封じとしてシャルルも殺し、あとは国を乗っ取る事ができた」
「その後は悪政を敷いて民衆を絶望に陥れ、国そのものを魔王復活の苗床にするつもりであったと」
「それが今回の騒動の根幹だ。魔族は人々の負の感情を何よりの馳走とする。重税、政治の腐敗、腐臭漂う世界こそ、魔族の望み」
まさにそうなっていてもおかしくなかったのが、ペコニアの計画だ。
まんまと踊らされ、危うくハメられるところだった事を勇者パーティーは実感した。
そして、目の前の王様の綿密な準備と、亡き先王リシャールの遺産がそれを防いだ事も理解するに至った。
4人は王の知性の高さを知り、改めて忠誠を誓うのであった。




