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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第86話 婚儀成立

 ジャンによるまさかの嫁取り宣言。


 告られたスオーラは困惑するが、相手が王である以上、拒む事は難しい。


 デビィドに軽はずみに告られたとか、そういうのではない。


 ここは慎重に問い質さなくてはと、深呼吸をしてからジャンを見つめた。



「しからばお尋ねいたしますが、私を娶りたいと仰られる理由はなんでしょうか?」



「有り体に言えば、“席を埋めておく事”だな」



「……つまり、誰でも良いから王妃の後添えを冊立しておきたいと?」



「誰でも良いと言うわけではない。後添えを娶る条件的に、聖女スオーラが最適であったと言う話だ」



 ジャンの受け答えに、さしものスオーラも少々カチンときた。


 相手が国王でなければ、叱責の一つでも飛ばしていたところだ。


 とはいえ、ここはまず我慢だと言い聞かせ、話を続けた。



「ちなみに、私が“都合の良い女”だという理由はなんでしょうか?」



「決まっている。お前が孤児であり、余計な外戚が増えんでいいからだ」



「なるほど。そういうお考えでしたか」



「王妃を冊立すると、その一門が影響力を行使するようになるからな。多少の事なら目を瞑るが、歴史上、“多少”で済まなかった例があまりに多い」



「その点、私は孤児ですから、そうした心配もないというわけですか」



「貴族が信用できんのは、今回の一件で再確認されたからな。いずれ締め上げるにしても、だからこそ熱心に一門の娘を後添えにと進めてくるだろう。いちいち、断り文句を考えるのが面倒になって来た」



 実際、ジャンはうんざりと言った表情を浮かべており、何件もそうした婚姻の話が出ている事を伺わせるのには十分であった。


 すでに数年、やもめ暮らし(・・・・・・)をしており、対外的には格好が付かない。


 それを危惧する声と、それに合わせて婚姻の話を持ってくる貴族も多くなっているのが実情だ。


 焦らすとかそう言うのではなく、本当に興味がないからこそ適当に流してきたのが現在のジャンだ。


 今回の騒動を期に、貴族との関係を考え直す良い機会と考えた上での、スオーラとの婚儀であった。



「ですが、そうなりますと貴族が反発しないでしょうか? 『王妃がどこの馬の骨とも知れない女が占めるなど、伝統と格式を軽んじられるか!?』という批判があるかと思われますが?」



「だからこそ、“聖女”の肩書がいる。何か文句を言って来ても、『魔王を倒した聖女を馬の骨扱いする気か!?』と返せる」



「それならば、私などよりもティエラの方が良いのでは? 魔王を倒した勇者パーティーの一員でありますし、その明晰な頭脳はお役立ちすると思いますが?」



「礼儀作法がなっていない。一から教育する手間がかかる。あと、発酵済み(・・・・)だとバレてしまうと面倒くさいことになりかねない」



 いきなりの顔面パンチ級の不意討ちに、ティエラが「ブフォッ!」は吹き出す。


 まさか自分の“高尚な趣味”をジャンに把握されていた事など、完全に想定外だ。



「ちょちょちょっ! なんで陛下があたしの趣味を知ってるんですか!?」


 

「諜報部から報告が上がって来ている」



「だから、何やってんですか諜報部は!?」



「国内の不穏人物の監視。『身分証明札マインカード』は紐づけされているからな。カード決済・銀行引き落としすれば、購入履歴は残る。何を買ったか、一目瞭然だぞ」



「なんであたしらが過激派テロリストみたいな監視対象扱いなんですか!?」



「随分とまあ“悟りの書(笑)”をたっぷりと購入して、ご満悦だな。ちなみに、最近の傾向としてはガチムチ受けの美少年攻めが多いな」



「全部筒抜けになってるぅぅぅ!」



 ティエラは頭を抱えて絶叫し、自分の事が丸裸にされている事に戦慄した。


 もちろん、それは“同じ被害者”であるデビィドも同じだ。



「勇者様! これは非常にマズい傾向です!」



「だな。国王が私的な理由を元に、情報で脅してきやがる!」



「あたしらにとったら、魔王よりも厄介ですよ!」



「貴族がカード決済嫌っている理由ってこれのせいか!?」



「税金逃れの件もありますけど、決済の購入履歴を見れば、色々と情報が透けて見えますもんね!」



 どうやら目の前の王様は、想像以上に悪辣な性格をしていると思い知らされたデビィドとティエラであった。


 色々と“口に出してはいけない買い物やサービス”をやってきただけに、ジャンの諜報能力は決して侮れない。


 しかし、何らやましい事のないスオーラやモロコスは完全スルーだ。



「……とまあ、こういう具合に、同じ勇者パーティーの一員と言えど、脛に傷のあるこのバカ二人は政権中枢に置いておけん。お前たち二人が最適というわけだ」



「貴族の横槍を防ぎ、外戚もなく、作法にも通じた“本当に都合の良い女”というわけですか」



「それと、見栄えも重要だ。普段は地味な装いや神官服に身を包んでいるが、今の姿は実に美しい。凛とした立ち振る舞いの中に、温和な雰囲気をかもしつつ、笑顔を振り撒ける。ほぼ満点と言えるだろう」



 実際、スオーラはドレスに身を包んでいるが、これがまた実に美しい。


 騒動が起こるまでは顔を薄布ヴェールで上手く誤魔化していたが、今はそれが外れて見目麗しい顔立ちを見せてくれている。


 その点では女性に関して目が肥えているデビィドも納得しており、何度も頷いてスオーラの端麗な容姿を褒めた。


 ティエラとしては複雑な感情を抱くが、こればかりは太刀打ちできないと半ば諦め状態だ。


 嫉妬よりも称賛の文字が先に来てしまう。


 条件的にも、見栄え的にも、ジャンにとってスオーラは完璧な王妃候補であった。



「ですが、陛下、一つ問題があります」



「神職ゆえに結婚は厳禁。そう言いたいのであろう? であるから、さっさと還俗して、世俗に戻れ」



「そうは仰いますが……」



「王妃になれば大きく予算を付けるぞ。先程も言ったが、解散したテンプル騎士団に成り代わり、王家の名義で慈善事業を執り行う。お前が王妃となり、その旗頭として事業展開すれば、より多くの貧者や子供達を救えると思わんのか?」



「ただちに還俗し、陛下に忠を尽くします」



 まさに電光石火の決断だ。


 スオーラは跪き、ジャンに頭を垂れ、恭しく拝礼した。


 神の御許より旅立ち、衆生を救う道を選んだ。


 聖女は決してブレない(・・・・)


 飾り立てられた言葉よりも、具体的な行動と成果を求めた。


 それをジャンより示された以上、手を伸ばして掴まざるを得ない。



「判断が早いな、スオーラ!」



「勇者様、何と言うべきか、初心の目的から一切ぶれる事なかったのって、あたしらの中でスオーラだけでは!?」



「だな。本当に聖女と呼ぶに相応しい。立場は変われど、その目的はただ、“子供達の明るい未来のために”か」



「俗人のあたしにゃ無理だわ」



 などと言って、デビィドとティエラは祝福の拍手を贈る。


 本当に首尾一貫していると素直に感心しながら。



「でもさ、スオーラ、やっぱしペコニアに言われた事、気にしているの?」



「そうですわね。たかだか300人の孤児を救ったからと言って、それですべてが救われたわけではありません。私自身、その程度で満足し、傲岸になっていたのかもしれません。これは良い機会と考えたからこそ、陛下の言葉に従ったまでです」



「相変わらず背負い込み過ぎな気もするけどね」



「予算が潤沢な分、色々とやれることも増えますわ。だから私は、全てを救ってみせます。皆が笑って暮らせる世を築くために」



 まさに王妃であり、聖女でもある女性に相応しい言葉だ。


 やはり自身の目に狂いはなかったと、ジャンも満足そうに頷く。


 そして、スオーラの手を取り、同時にモロコスの肩にも手を置いた。



「さて、物のついでに、両人に非公式な仕事を与えておきたい」



「何でございましょうか?」



「我が継嗣フィリップの傅役もりやくを命じる。二人で協力し、次代の育成に励んでくれ」



 まさかの命令に、二人は目を丸くして驚いた。


 庶民の娘と謀反の片棒を担いだ戦士に、子供みらいを託してきたのである。


 これで驚くなと言う方が無理であった。



「陛下、正気ですか!?」



「正気も正気。貴族は信用ならんと言っただろう? 余に忠誠を誓う“近衛騎士団アヴァン・ギャルド”は別にして、奴らの手には息子を触れさせたくない。乳母や近侍も解任し、その後の人事も二人に一任する」



「そこまで言われますか」



「何より、お前達二人を結ばせる事が出来なかった。モロコスはこれから戸籍上は死亡扱いになるしな。ならばせめて子育てくらいは一緒にやっても罰は当たるまい?」



「陛下……!」



「なんなら、モロコスよ、どのみち偽名を名乗って生きていく事になるし、その名を“ランスロ”とでもしておくか?」



「縁起でもない! 伝説に語られる最強の騎士であると同時に、王妃に横恋慕して国を割ってしまった者の名ではありませんか!」



「それは残念だ。では、今後はよろしく頼むぞ、“名無権兵衛(ジョン=ドゥ)”」



 どこまで本気なのか判断しかね、モロコスもスオーラも苦笑いするしかない。


 ただ、本当にスオーラの事は王妃として冊立するが、女性としては扱うつもりはないようで、モロコスと手を結ばせた。


 気恥ずかしくも顔を赤らめるモロコスとスオーラは、改めてジャンに対して拝礼し、忠を尽くすと誓った。


 ここに二重の意味での仮面夫婦が誕生したのである。

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