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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第81話 モロコスの苦悩

 宴の間における死闘は片付いた。


 ティエラはただちに閉鎖空間を解除すると、雪崩を打って人々が入って来た。


 中で何が行われていたかが分からず、駆け付けた王宮の衛兵も手が出せず、ただただ封じられた扉が開くのを待っていた。


 そして、その扉がようやくに開いたのだ。


 大慌てで駆け込む衛兵達は、中の光景を見てさすがに立ちすくんだ。


 そこかしこに死体が転がり、しかも内装もグチャグチャ。


 どれほどの激しい戦闘が行われていたのかは一目瞭然であった。


 ただ、主君である国王のジャンと、勇者パーティー全員の姿を確認できたため、ひとまずは安心する事が出来た。



「陛下! ご無事でしょうか!?」



「問題ない。それより、フィリップは大丈夫か?」



「ハッ! 殿下は催眠ガスを少々吸ってお眠りになられておりますが、特に問題はありません!」



「ならばよし。すぐに“竜”と“顔無し”以外の死体を片付けろ。眠らされている騎士や衛兵には“精神汚染”がないか検査した後、健康に問題が無ければ原隊復帰させよ」



「かしこまりました!」



「それと、シャルルとその私兵はひとまず牢にぶち込んでおけ。謀反人には、“痛覚”を持って生まれてきた事を後悔しながら、惨めな死出の旅に招待してやろう」



 そう言って、ジャンは部屋の隅で怯えているシャルルを睨みつけた。


 駆け込んできた衛兵に取り囲まれ、早速身柄を拘束された。


 そして、惨めな最後の抵抗を見せる。



「い、いやだぁ! 離せ! 離せぇ!」



「無益な哀願などしてくれるな、シャルル。これはお前が望んだ結末だ」



 ジャンの瞳はこれ以上になく冷ややかだ。


 醜悪な汚物でも眺めているかのような、哀れみなど一切ない怒りと蔑みを同居させたような視線を浴びせた。



「シャルル、お前は今朝までは(・・・・・)良い友人であった。例えそれが上辺のものであったとしてもな。だが、その全てを台無しにしたのはお前自身だ。甘んじて処分を受けろ。なぁに、高々インジェヌオ伯爵家の一族郎党の族滅と、財産の全没収くらいで勘弁しといてやる」



「そ、そんな……!」



「お前は余から全てを奪おうとしたのだ。逆の事をされても文句はあるまい」



「い、命だけは、命だけはお助けください!」



「却下だ。ああ、もう、見苦しいな。さっさと連れていけ」



 ジャンの命に従い、衛兵達は暴れるシャルルを抱え、退出していった。


 それからしばらく室内の片付けが行われたが、一通り片付いたところですぐに人払いをジャンは命じた。


 残ったのは、ジャンと勇者パーティー4名と“竜”と“顔無し”の死体だけとなった。


 むしろ、ここからが本番だ。


 なにしろ、勇者パーティの中に“裏切り者”がいたのである。


 これをどうするかを決めねば、後の話が続かない。


 せめて人払いで人目を気にしなくて話せるようにしたのは、ジャンとしての最大限の気遣いだ。



「さて、モロコスよ、敢えて聞くが、何か申し開きをする事はあるか?」



「ございません」



 即答での肯定。


 ペコニアと通じていた事を、モロコスはあっさり認めた。


 デビィドやスオーラはまだ信じられず、目を丸くして驚いた。


 だが、ティエラだけは何となく察してはいたのか、ため息を吐き出す。



「まあ、でしょうね、とは思う。再会してからのモロコス、らしくない動きが目立っていたからね」



「そうなのか?」



「勇者様は途中参加でしたから微妙だったかもしれませんけど、そもそも“結婚による養子縁組”なんて手段を言い出したのは、モロコス自身だもの。これってなんか、らしくない(・・・・・)



 それにはスオーラも同意し、デビィドも納得した。


 モロコスは巨躯に反比例して、どちらかというと控えめな方だ。


 戦闘においてはガンガン前に出て、盾役として敵の攻撃からパーティーを護って来たが、戦闘時以外は逆に後ろに控えている事が多い。


 仲間内で談笑している時ならいざ知らず、他と話す時は基本的に物静かだ。


 しかし、ここ最近はどうにも“前のめり”で話している場面が多々あった。


 まるで何かにせっつかれているかのような印象を受けていたのが、他パーティーメンバーの偽らざる感想だ。


 ただ、デビィドとスオーラは色々と面倒事が重なっているし、モンスターと戦うのとでは勝手が違うし、色々と思うところはあるのだろうと流していた。


 ティエラにしても違和感を感じてはいたし、普段なら有り得ない勇み足が見られたが、特に確証足り得る証拠もなかったため、心に留め置くだけにした。


 まさか本当に最初からペコニアに通じていたとは、誰も考えてはいなかった。


 ただ一人、ジャンを除いて。



「ちなみに、陛下はなんでモロコスが裏切っていると知ってたんですか?」



 ティエラの問いかけに、デビィドもスオーラも頷いて見せる。


 接していた仲間が気付かず、離れているはずのジャンが気付く。


 何か理由があるはずだと考えたためだ。



「なに、簡単な話だ。ティエラよ、今回の騒動、その発起点は何だと考えている?」



「そりゃあれでしょう。テンプル騎士団の解散でしょ。裏金やら、人身売買やら、ヤバい案件が目白押しで、お取り潰しにした件」



「そうだ。それが今回の騒動の始まりだ」



 実際、この事件の影響は大き過ぎた。


 モロコスとスオーラは居場所を失い、大量の孤児の行く末に悩んだため、ティエラに助けを求めた。


 社会的にも、パーティーメンバー内でも、途轍もない影響を及ぼした事件だ。


 なお、完全に蚊帳の外であったデビィドは、まだ自堕落な生活を続けていた時期であり、仲間からの手紙にすら気付かずにいた。


 なお、その後にペコニアの襲撃を受け、“国民の義務”という名の税金の重みに圧し潰されはしたが、こちらは完全に自滅行為であり、意図されてのものではない。


 むしろ、騎士団の案件の方にこそ、人の意志が関わっている。



「実のところ、騎士団の強制捜査の決め手となった“内部告発者”というのが、モロコスの事だったのだ」



「そうだったんですか!?」



「ああ。余も騎士団の腐敗については前々からの懸念事項であり、戦争終結を契機に内部監査を進めていたのだ。そこへ横槍を入れてきたのがペコニアだ」



 そう言って、ジャンは足元に転がっていたペコニア(竜)の死体を足蹴にする。


 性格の悪さか、はたまた恨みの感情の発露か、ゲシゲシと何度も踏みつけた。



「順を追って説明すると、まず、モロコスが今回の魔王討伐の功績もあって、従士から騎士に格上げされたというのが始まりだ。孤児出身で正式な騎士に任じられるなど、異例も異例だからな。それだけ功績が高く評価されたという事だ」



「まあ、働きへの評価としては当然ですよね」



「階位が上がったという事は、“奥の院”への道が開けた事を意味する。さて、そこでの光景はなんであったろうな?」



 ジャンにそこまで言われて、皆が唸る。


 裏金、淫行、正義の騎士団とは思えぬ腐敗ぶりが展開されていたのだ。


 普通の感性の持ち主であれば、まず眉をひそめる。


 ましてや正義感の塊のようなモロコスならば、さらに踏み込んだ対応をするのは目に見えていた。



しがらみ(・・・・)があるので訴えにくいけど、だからと言って放置する気にもなれない。しかし、“内部告発”の手筈を整えられるほど、知恵があるわけでもない。そこでペコニアの出番というわけですか」



「そういう事だ。“内部告発”にはどういった手順が有効か、それを指南レクチャーしたというわけだ。ちなみに、この話はペコニア自身から聞いていた。もちろん、内部告発者は誰なのかは伏せられていたが、事前に騎士団内に潜伏させていた間諜から、告発者はモロコスだというのは把握していたがな」



「なるほど。それで陛下はモロコスの動向を掴んでいたというわけですか」



「だからこそ、不自然に気付いた。脳筋・・戦士が急に知恵が回り始め、立ち回りに知性を感じる様になれば、何者かの入れ知恵でもあるのだろうかな、と。そして、その知恵が回って騎士団を潰したいと考える者の中で、モロコスと密かに接触できそうな者となると、もうペコニアしかいない」



「結構前から、ペコニアって動いていたんですね。しかも、その動きさえ陛下の察する事になっていたなんて」



 一体裏でどのような暗闘、知恵比べが行われてきたのか。


 そう考えただけで寒気を覚える勇者パーティーであった。


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