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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第77話 信じる道

 壁に突き刺さる槍。


 魔王の体すら貫いた竜殺槍『アスカロン』。


 旅先で手に入れ、モロコスが使い続けていた伝説の槍だ。


 数多のモンスターを倒し、聖戦士パラディンモロコスの名と共に、新たな伝説を刻んできた。


 この場に勇者の持つ剣『空の裂く者(チェイロ・マニポーラ)』がない以上、文句なしの最強の武器だ。


 だが、モロコスは手を伸ばさない。


 何かに引っ掛かっているように、槍を手にする事に躊躇う。



「何してんだ、モロコス! さっさとやっちまえ!」



 敵兵を薙ぎ倒す勇者の声が部屋中に広がるが、モロコスの反応は薄い。


 何かに怯えている、そんな感じだ。


 すぐ側にいるスオーラも、あるいはティエラも、焦燥と困惑の入り混じった目でモロコスを見つめるが、やはり動かない。


 ただジッと立つだけだ。


 取るべきか、取らざるべきか、迷いは手の震えとなって如実に表れる。



「聞けぇい、モロコス!」



 鳴り響く剣戟の中、ジャンの声がそれらを掻き消すのように響く。


 その威風堂々たる声に、シャルルは元より、シャルルの私兵すら思わず止まってしまうほどだ。


 王者の威、そう表現すべき“気”がジャンより溢れ出る。



「モロコスよ、お前の秘密にしている事は、とうの昔に承知している! 今回の一連の騒動、その発起点はお前である事を! そして、ペコニアと(・・・・・)通じていた事(・・・・・・)もな!」



 ジャンより発せられたこの台詞は、モロコス以外のパーティーメンバーにこれ以上にない衝撃を与えた。


 デビィドも、スオーラも、「まさか!?」と驚きと困惑の表情を浮かべつつ、モロコスに視線を向ける。


 ただ、ティエラだけは妙に納得してしまっている。


 それぞれの反応を見つつ、ジャンはなおも叫ぶ。



「貴様の立場や感情も分からんではないが、己自身が矛盾した言動を繰り返しているとなぜ気付かんのだ!? 真面目過ぎるがゆえに、悪魔の囁きに魅入られるのだ、この痴れ者め!」



「ならば、それがしはどうすれば良かったのですか!?」



 ついにたまらずモロコスが声を上げる。


 叫びというよりかは、もはや嘆きに等しい。


 怒りが、悲しみが、虚しさが、まるで負の感情を煮詰め、それをぶちまけるかのような声だ。


 手の震えが止まらない。


 やってしまった事への後悔、これからの暗雲立ち込める未来、否応なくモロコスを圧し、重くのしかかる。


 やって悔やむか、やらずに悔やむか、非情な選択肢。


 そして、モロコスはやってしまった(・・・・・・・)


 後悔するのを分かっていながら、それを選択し、苦しみもがく。


 仲間の前では平然と振る舞おうとも、時折“それ”が漏れ出る。


 抑え込んでも、消し去ろうとしても、影のようについてくる。


 ああ本当にどうしようもない、と。



「この愚か者! 考える頭もないのに、無駄に考えるから惑うのだ! 初心に帰れ! 思い出せ! お前は、何のために魔王軍と戦う事を決意したのか!」



 ジャンの叫びはモロコスに突き刺さる。


 そして、ゆっくりと後ろを振り向く。


 そこには心配そうにモロコスを見つめるスオーラがいた。


 誰よりも心優しき女神官。


 子供達の未来を切り開くために、魔王と戦おうと決意したのは彼女だ。


 そして、それに感化され、その聖なる乙女を護らんと、武器を手に取ったのが、モロコスにとっての旅の始まりだ。


 時に盾となって守り、時に槍となって敵を穿つ。


 ただそれだけをやっていれば良かった。


 スオーラが、デビィドが、ティエラが、笑っていた。


 些細な話題で盛り上がり、それほど強くもない酒で潰れ、その巨躯を3人がかりで運ばれた事など、1度や2度ではない。


 思い出はせないが、人は腐る。

 

 だからこそ、モロコスはその矛盾に耐えかねた。


 どうすればいい?


 どうすれば、人は救われるのか?


 答えを求め、何も得られず、そして、悪魔ペコニアと再会した。



「罪には罰を。堕落には制裁を。それをあなたの手でやるべきでは? 見て見ぬふりは、英雄の名が廃る。不寛容に寛容である者は、自らもまた不寛容に染まるもの。あなたは沈黙を、いえ、“黙認”を続けるつもりかしら? “あれ”に染まる事を良しとするのかしら?」



 モロコスは頭を抱えて唸る。


 再会したペコニアから受けたささやきだ。


 矛盾、何もかもが矛盾している現実。


 自分が魔王軍と必死で戦っている時、騎士団の幹部達は私腹を肥やし、連れて来た少年少女を慰み者として弄んでいた。


 口では正義と寛容を説きながら、裏では狂宴で貪り食う。


 初めて踏み込んだ“奥の院”の光景は、天国に擬態した地獄だった。


 醜悪、それ以外の言葉が浮かばす、モロコスは絶望した。


 本当にどうしようもない。


 どうしようもないから、何もかも潰れてしまえと願い、実際潰した。


 それでもなお、モロコスはなお闇の中を進む。


 そんな迷える巨人に、そっとスオーラが手を添える。


 背中を押す、というほどの力ではなく、ほんのささやかに添えただけだ。



「モロコス、あなたが何に苦しめられていたのか、今更ながらに気付いてしまったわ。そうとは知らず、私は視野も見識も未熟の極みだわ」



「そんな事はない! スオーラはいつだって真っ直ぐ進んできた! 道を間違えたのは、それがしだ!」



「ならば、一緒に行きましょう。私達の旅は、最初からそうだった。『下手な考え休むに似たり』と古の賢者が述べたように、深く考えずどんどん前へと進んでいくのが、あなたのいつものやり方では?」



「スオーラ……」



「ただ真っ直ぐに、あなたの信じる道を行きましょう」



 スオーラの言葉がモロコスの道を示す。


 無意識に槍に手が伸び、それを掴んだ。



「前へ、ただ前へ!」



 モロコスの剛腕と共に槍が払われ、一番近くにいた敵兵のが吹き飛ぶ。


 今回の戦闘、その初めて出た戦死者だ。


 モロコスはすぐに動き、その返り血を浴びた。


 戦化粧などという事もなく、ただ単に、側にいたスオーラに返り血を浴びさせないようにするためだ。



「聖女に返り血は似合わない。そのすべてを受け止める。そう誓ったのだからな」



 それこそ聖戦士パラディンモロコスの戦闘スタイルだ。


 全てを受け止め、全てをはじき返し、全てをほふる。


 盾と槍を構え、ただ前へと進み出る。


 どんな攻撃にも耐え、パーティーの盾役として常に前に出た。


 無明無常の荒野を彷徨う一人の戦士が、今ようやく立ち返った。


 本来の、自分の立つべき場所に。


 そして、手にした槍の穂先をペコニアに向ける。



「滅びよ、悪魔め。再び“甘言”を弄さぬよう、その口を塞いでくれる!」



 もう止まらない。


 モロコスは槍を構え、前へと進み出た。


 敵兵が幾人阻もうともお構いなし。


 ただ真っ直ぐにペコニアに向けて歩み始めた。

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