第69話 リボンちゃんの剣舞 (1)
大広間での御披露目式も終わり、場所を宴の間に移して、祝宴が催された。
上座には、本日の主役であるフィリップ王太子と、その婚約者であるインジェヌオ伯爵令嬢リボンの二人が座する。
まだ互いに5歳、6歳という年少ながら、将来を誓う婚約がなされた。
今日と言うめでたい日を祝うべく、王家、あるいは伯爵家と縁深い貴族の幾人かが顔を見せ、二人の若き王子と姫君に祝辞を述べる。
また、その横に座する国王のジャンや、伯爵のシャルルにも祝いの言葉で王国の未来を祝福した。
一級品の酒が用意され、あるいは料理人が腕を振るって最高級の食材を使った御馳走の数々が机の上に並ぶ。
宴の出席者は大いに飲み食いし、上機嫌に歌い出す者まで出てきたほどだ。
シャルルのたっての願いとあって、今日は“無礼講”と決まっていた。
「堅苦しいのは抜きにしましょう! 大いに飲んで、大いに食べて、高らかに歌う。新たな門出を祝うのには、それがよろしいかと」
そんなわけで、貴族の列席のみならず、大道芸人や道化師まで宴の席に参上し、様々な芸を披露する。
大道芸人がド派手な芸を披露する度に拍手が沸き起こる。
それを上座から眺めている二人の主役も拍手で忙しいくらいだ。
そんな喧騒の中、適当に太鼓を叩いておどける道化師が一人。
化粧や衣装で変装した勇者デビィドだ。
芸をするふりをして場所を次々と変え、警備に当たっている“近衛騎士団”の配置をつぶさに観察していた。
(宴の間の中に30人。内、陛下と殿下の周囲にいるのは20人ってとこか。こいつらは“催眠玉”でどうにかなるだろう。後は……)
デビィドの視点は出入り口の扉に向けられる。
今日は少々お寒い日なので、窓は全部閉じられており、密閉された空間になっているので、“催眠玉”の効力を発揮するには最適な状況と言える。
しかし、警備は国王と王子の周囲だけではない。
扉付近にも配置され、そこに10人。
しかも、王宮内であるから、騒ぎが起これば衛兵が集まるのは明白。
唯一の勝機は本当に“奇襲効果”だけだ。
(配置に着いたな。ティエラはさり気なく怪しまれない程度に王族の席へ近付き、いつでも“催眠玉”を投げ込める状態だ。出入り口の扉付近にはスオーラが立っている。これもよし。あとは俺とモロコスが動き出すだけだ)
予定ではこの後、リボンちゃんによる“奉納剣舞”が始まる。
ある程度剣舞を披露したところで、“斬られ役”としてデビィドとモロコスが登場する事になっていた。
そして、ピンチになったリボンちゃんをフィリップ王子が助ける、と言う流れだ。
その瞬間こそ仕掛けるタイミングだ。
(狙いは並んで座っているジャン陛下とフィリップ殿下が離れる瞬間! そこにティエラが“催眠玉”を投げ込み、俺が風魔術で陛下と周辺の騎士を催眠ガスの中に沈める。これでこちらは無力化)
そして、もう一度、扉の方を振り向く。
(扉の付近にはスオーラがいる。増援を防ぐために、伯爵家の随伴兵と“壁”を作る事になるが、練度、装備共に劣る。そこはスオーラの回復魔術と強化魔術で実力差を埋める! これがギリギリの策だ! モロコスが加勢すれば、どうにか持ちこたえられるだろう)
モロコスはレベルダウンして魔王と戦った時より弱くなっているが、それでも十分な戦力になるし、スオーラに至って“パワーレベリング業”のおかげでずっと戦い続けていた事もあって、レベルアップすらしている。
モロコスと伯爵家の兵士達で壁を作り、そこをスオーラの援護が入れば、持ちこたえてくれるだろうと言う目算だ。
そして、最後にペコニアに視線を向ける。
(最大の問題はどう考えてもこいつ。ペコニアは確実に裏切る。裏を突いてくる。問題は、いつこちらを裏切るかだ)
計画通りに行けば、ジャンを排除し、その正統性を“不正の証拠”と共に披露。
あとはこの場にいる幾人かの貴族を抱き込み、政変が正当な行為である事を認めさせれば無事終了。
世界がひっくり返る。
問題があるとすれば、ひっくり返った後にシャルルを殺す事でもう一度ひっくり返し、勇者パーティーと魔王軍で王国を裏から操ろうというのが、最終的な着地点だ。
勇者パーティーが今後荒れるであろう人心を鎮め、王妃となった魔王リボンちゃんがペコニアと共に王国を差配し、乗っ取り完了。
あとは転生の秘術が組み上がるまで勇者と魔王が互いに牽制し、完成して発動してから第2ラウンド開始と言うのが、交わされた約束だ。
だが、悪魔は約束を守っても、契約に抵触しない範囲で確実に裏切る。
どう出て来るかは不明なままだが、ろくでもない事になることだけは確実だ。
(ペコニアの裏切るタイミング、それは“昨夜”聞かされた。いくつかのパターンがあると言っていたが、さて、どうなるか)
予想は立てたが、一つに絞るのには情報が足りていない。
勇者パーティーも難しい立ち位置に苦慮する。
「え~、皆様、ただいまより、伯爵令嬢のリボン様による“奉納剣舞”を執り行います。是非、ご覧あれ」
ついに開始の合図が発せられた。
上座に腰かけていたリボンちゃんは席を立ち、近くに控えていたペコニアから一振の剣を受け取る。
三日月と思わせる反り返った剣で、デビィドはそれが“ファルシオン”と呼ばれる種類の件である事を知っていた。
宴の間の中央に立ち、リボンちゃんは上座にいるジャンとフィリップに拝礼。
そして、構える。
とても6歳の幼女とは思えぬ立ち振る舞いに、周囲からざわめきが起こる。
なにしろ、中身は魔王なのだ。
しかも、勇者から税金を搾り取る事で、ある程度のレベルアップできた。
ただの幼女ではない。
そして、舞いが始まる。
それは誰にとっての死出の舞いとなるか。
いよいよ騙し騙されての狂気の宴が始まりを告げた。




