第68話 最終打ち合わせ
御披露目式自体は滞りなく行われた。
インジェヌオ伯爵シャルルと共に参内したリボンちゃんは型通りの挨拶とお披露目を済ませ、王太子フィリップとの婚約を成立させた。
居並ぶ列席者から祝福の拍手が送られ、若き王太子と伯爵令嬢の新しい門出に大いに喜んだ。
「まあ、俺らの視点で見たら、度し難いレベルの茶番なんだがな」
式典が行われている広間の隅には、道化師の衣装に身を包んだデビィドら、勇者パーティーが控えていた。
今はまだ出番ではないが、その内、大広間から宴の間へと場所を変え、祝宴が催される事になっている。
そこで何かが起こる。
少なくとも、リボンちゃんによる“奉納剣舞”が行われ、その合間に喜劇調の演劇が挟まれる事になっていた。
ピエロ(半分怪物)姿のデビィドとモロコスが演舞中のリボンちゃんに襲い掛かり、それをフィリップ殿下が助けるというあからさまな芝居だ。
「あ~、マジで今から帰りたいわ~」
「我慢しろ、デビィド。おそらくだが、その時に仕掛けるのではないか?」
「……多分、な。何しろ、“剣”を持った状態で席近くで舞うんだ。いきなり斬りかかる事も考えられるし、あるいはフィリップ殿下を人質にするという手もある」
「バレずに、武器を宮中に持ち込んだ時点で、すでに勝負あり、か」
「モロコス、お前なら、素手でもやっちまいそうだがな」
「まあ、椅子をこん棒の代わりにはできるぞ」
「武器が無かったらそうしてたが、そちらはクリアのはず。問題はあいつらだな」
デビィドの視線先には王族の身辺を警護する“近衛騎士団”がいた。
祝賀の式典と言う事もあって、それらが着込む甲冑は白で統一されており、見栄えは見事なものだ。
数としては30名と言ったところだが、誰も彼も手練れなのは間違いなかった。
「装備品はどれも良質。王族の側に武器の携帯を認められて侍っている事から、信頼を勝ち得る程に忠誠心にも篤い。何かあったら、即座に身を投げ出してでも止めに来るのは確実だ」
「デビィドの祖父の古巣だったな。レベルはどんな感じだ?」
「戦士系の上級職“守護騎士”ばっかりで、レベルは30前後と言ったところだな。稀に40超えもいるって、爺さんから聞いた事がある」
「なるほど。となると、強敵だな」
現状、モロコスは“木こり”への転職によって、レベルが下がっている。
ステータスは“聖戦士”であった時よりも大幅に落ちており、“近衛騎士団”を相手にするには少々厳しい。
しかも、あちらが完全武装なのに対して、こちらは小道具やら献上品に紛れ込ませた小ぶりな武器ばかりだ。
しかも、道化師の服は動きが悪い上に、防御性能はないに等しい。
ちなみに、現在の勇者パーティーのレベルは、デビィドが51(勇者)、モロコスが15(木こり)、ティエラが21(怪盗)、スオーラが47(大神官)だ。
まともにやり合えば、質で対抗できるのはデビィドとスオーラだけ。
しかも、数は“近衛騎士団”の方が多い。
まず、勝ち目のない戦いだ。
「だからこそ、私がここにいるのよ~」
話しかけてきたのはペコニアだ。
普段の黒長衣ではなく、今は紺色の服にヒラヒラ付きの純白のエプロンと、標準的なメイド服に身を包んでいる。
分厚い眼鏡は相変わらずだが、魔族を示す“角”は魔術で消していた。
「安心してね~。武器の搬入は成功。シャルル様の護衛が入り口を封鎖して、増援は防ぐ手筈になっているから、見えているあれらだけが最後の障壁になるわ」
「そりゃ結構。だが、その最後の壁が分厚いんだよな~」
「そこは何とかしてもらわないとね。そうよね、ティエラちゃん?」
気が付くと、少し離れた所にいたティエラとスオーラが寄って来ていた。
「大丈夫よ。こっちも“搬入”には成功したわ」
「あら、何か持ち込んだの?」
「スカートの中。何発か、“催眠玉”が入っている」
“催眠玉”は錬金術で作られた消費アイテムで、投げ付けて破裂させると催眠ガスが噴出するようになっていた。
催眠耐性のないモンスターはかなり多いので、割と重宝するアイテムだ。
「【催眠】を使っても良かったんだけど、魔力で抵抗される可能性も高いから、こっちを用意したわ」
「それをばら撒くって事ね」
「まず、剣舞を始める。台本通り、勇者様とモロコスがリボンちゃん様に演技で襲い掛かる。そして、フィリップ殿下が助けに入ったところで、私が“催眠玉”を投げつけるから、発生した催涙ガスを勇者様の【風舞】で、ガスをジャン陛下や“近衛騎士団”のいる方に誘導させる」
「なるほど。眠らせてしまえば、あとはどうとでもできるわね。了解したわ」
そう言って、ペコニアはにこやかな笑みと共に離れていった。
姿が人込みに消えるのを待ってから、デビィドはティエラに耳打ちした。
「作戦は理解したが、室内で“催眠玉”をばら撒くと、こっちにまで影響が出るぞ。【風舞】で誘導するのにも限度がある」
「最悪の場合は、モロコス、【遮断】を使って、ガスを止めて」
「可能ではあるが、聖戦士の時より更に短い時間しか展開できないぞ」
「ガスの無い方に逃げる時間だけでも稼いでくれるだけでいいわ」
「難しいが、なんとかしよう」
レベル低下、装備や道具の質、どれもこれも制限が厳しい。
精鋭中の精鋭の“近衛騎士団”を相手にするには、難しいと言わざるを得ないが、それでも“奇襲効果”というものがある。
“王宮内”で、“祝宴の最中”に、賊に襲われる。
場所と時間、どちらも普段なら絶対に襲撃が起こらないはずなのだ。
だからこそ、瞬時の判断力が鈍る。
その鈍っている間に大多数を“催眠玉”で眠らせれるかどうか、そこが勝負の分かれ目となる。
難しくはあるが、決して不可能ではない。
綱渡りではあるが、渡り切れる可能性は十分にある。
あとはいつも通り、勇者パーティーとして連携を取れれば、勝ちは拾える。
そうやって何度も視線を潜り抜けてきたからこそ、面構えが違うのだ。
臆病とは無縁であり、魔王軍と結託しているのでやる気はイマイチではあるが、これをやり切らねば明日はない。
デビィドの借金(納税残高)も、300人の孤児も、すべてが破滅へ一直線だ。
臆せず前へと進む、それだけだ。
「にしても、ティエラ、よく運び込めたな、“催眠玉”」
「ここには勇者様と違って、スカート捲りするような変態さんがいなかっただけです。案内係の人、みんな礼儀正しく紳士的でしたよ?」
「おいおい、俺がいつ、ティエラのスカートをめくったよ!?」
「……ノー●ンしゃぶしゃぶ」
「ブフォ! まだ蒸し返すか、それ!」
「事ある毎に言い続けますから♪」
ティエラの顔は不機嫌そのものだ。
デビィドとしては一生ものの弱みを握られたので、何も言い返せない。
やれやれとモロコスも苦笑いだ。
「はいはい、そこらで終わりましょう。宴の間に移動するみたいですし、喧嘩の続きは夜の寝台の上でお願いしますね」
身も蓋もないスオーラのツッコミに、デビィドもティエラも頭をかいて誤魔化す。
とにかく、これからの茶番劇を上手く切り抜けなければ、何もかもが終わるのだ。
魔王を倒した英雄達が、復活した魔王と手を組んで王国そのものを乗っ取るか?
それとも失敗して、稀代の愚か者として断罪されるのか?
それはやってみなければ分からない。
勇者パーティーもまた、移動する人に紛れて大広間を後にした。




