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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第67話 パレード

 王都ロンデニオンはその日、特別な賑わいを見せる事となった。


 理由は王太子であるフィリップの婚約についてだ。


 フィリップはまだ幼く、5歳になったばかりの幼子であったが、父親である現国王ジャンの強い要望を受け、早々と婚約が成立した。


 幼い王子のお相手は、インジェヌオ伯爵シャルルの御令嬢リボン。


 と言っても、一族の娘を養子縁組して、それから婚約と言う感じだ。


 婚姻によって貴族同士の関係を強化する事はままあるのだが、都合よく年頃の娘がいるとは限らないため、時にこうした養子の話があったりする。


 一族の娘を貴族家の本家に養子とし、そこから輿入れという流れだ。


 シャルルにはフィリップ王子と釣り合う年頃の娘がいなかったため、今回のような話となった。


 伯爵家の下屋敷から馬車に乗って出立し、王宮まで続く大通りを進む。


 沿道にはお姫様を、未来の王妃となる少女を見るために、人々が詰めかけていた。


 馬車に乗るシャルルとリボンは愛想よく笑顔を振りまき、手を振ると、その度に歓声が上がる。


 魔王リボーとの戦いに決着がつき、新たな時代が到来する。


 王太子と伯爵令嬢の婚約は、まさに時代を象徴する出来事であると人々の目には映っていた。



「ただ、その伯爵令嬢が魔王の生まれ変わりだってのを知らないんだよな~」



 などとぼやくのは勇者デビィドだ。


 何しろ、今回の婚約話の裏事情を知る者であり、その視点からみると、欺瞞以外の何ものでもないのだ。


 やっと魔王が倒れたと民衆は喝采を上げながら、その魔王リボンちゃんの新たな門出に祝福しているのだ。


 喜劇コメディとしても、悲劇トラジェディとしても、出来が悪すぎる。



「表面的には王太子と伯爵令嬢の婚約御披露目だしな。事情を知らない人々からすれば、普通に祝い事だ」



「まあ、モロコスの言う通りだ。さっき、王宮から結構な数の酒樽が運び出されたからな。城下で振る舞われる祝い酒だとさ」



「本当にお祭りだな」



「俺達は強制参加だけどな」



 そして、デビィドとモロコスは互いの姿を見てため息を吐き出す。


 なにしろ、今の二人は“道化師ピエロ”に扮している。


 面が割れているので、変装の意味もあるが、これ以上になく滑稽だ。


 化粧やあるいは仮面で顔を誤魔化し、動く度にシャンシャンうるさい鈴のついた衣装が、余計に神経を逆撫でしてくる。


 特に、モロコスは体躯が良く、身長が2mを超えているので、ちょっとしたモンスターだ。


 ちなみに、この二人がいるのは城門前。


 パレードは馬車とその周囲を固める護衛の騎士で行われ、その他の侍女や従者などは城門前で合流し、それから入城と言うのが今日の流れだ。


 少し離れた所には、ドレスで着飾り、薄布ヴェールで顔を隠したティエラやスオーラがいる。


 その他にも、王家や伯爵家の関係者が揃い、馬車の到着を待っていた。



「しかもあれだろ? 式典の演目に“伯爵令嬢による奉納剣舞”があるんだぞ」



「少女の剣舞と聞けば、まあ、多少は見栄えはするでしょうが」



「そこで俺ら、やられ役だぜ? これ、台本書いたの、絶対ペコニアだわ」



 デビィドとしてはそこが特に嫌だった。


 なにしろ、自分達は魔王を倒した勇者パーティーである。


 その復活した魔王リボンちゃんに剣舞の途中で、斬られる役を演じなければならない。


 かつての意趣返しを、こういう場面でしてくるかと不満タラタラだ。



「絶対あいつ、ノリノリで台本書いたと思うぞ」



「こちらは完全に道化だしな」



「演技なんかした事ねえよ、こちとら」



「剣術道場でそういうのは?」



「ない。うちの道場はガッチガチの実戦形式だから、わざとやられるとかそういのはない。常にガチンコだ」



「身も心も、モンスターになれと言う無言の提示だろうか?」



「あちらの思惑に乗るつもりはない。隙を晒した瞬間に返り討ちだぜ」



 実際、これから行われる御披露目式は完全な茶番だ。


 国王ジャンは、リボンちゃんとペコニアと契約しており、両者を使役しているつもりでいる。


 だが、案の定と言うか、悪魔は契約の穴や隙をついてくる。


 「重税を課し、民を塗炭の苦しみに沈める暴君を討つ」という大義名分を立て、「王国に仇なす存在として、国王ジャンを排斥する」という理論を構築。


 謀反を正当化してみせるつもりだ。


 王国に仇なす存在にならないよう契約をしたつもりでいて、契約者である国王自らを仇なす存在へと変えて見せた。



「おまけに、“徴税官タックス・コレクター”の立場を利用して、国庫や王室の財務状況をつぶさに調べ上げ、糾弾する材料まで用意したって言うしな」



「ジャン陛下を暗殺。その後に証拠を公表して、王国の改革を訴える。その旗振り役に“幼い国王と王妃”の後見役として、シャルル様が摂政となる」



「これで王国の実権はインジェヌオ伯爵が強奪。ひでぇ話だ」



「まあ、その伯爵も長くはないけどな」



 そこもまたペコニアの悪辣な部分だ。


 なにしろ、シャルルは自分が養子縁組した一族のということになっているの正体を知らない。


 ペコニアからは仕立て上げた刺客だと説明を受けているが、その中身が魔王である事を知らないのだ。


 シャルルもまたペコニアを契約によって縛り、使役しているように思っているが、魔王リボンちゃんと“契約していない”というとんでもない大穴が空いている。


 ジャンを暗殺し、返す一撃でシャルルも亡き者にする。


 そして、“英雄”の登場だ。



「王国を折半する。そして、勇者組おれらは富貴を手にする。魅力的な話ではあるが、問題は貴族を抑え込めるかだよな?」



「まあ、そこもペコニアが“表沙汰にできない案件”を握っているそうだし、抑え込む気だろうな」



「こちらとは契約を結び、互いに攻撃できなくなっている以上、協力は不可欠」



「どうしてこんなハメになったんだろうな?」



「さあな。今更言っても、泣き言や戯言でしかないないよな~」



 なんとも投げやりなデビィドに、モロコスも頷かざるを得ない。


 ほんの一年前までは、魔王を倒した英雄として讃えられた勇者パーティー。


 それが些細な狂いから大渦を生み出し、今は王国転覆を目論む不穏分子だ。


 ただ、表面的には糊塗されているため、良からぬ裏事情を知る者以外からはまだ英雄のまま。


 作られた虚像、これ以上にない虚しさを感じるモロコスであった。



「ま、俺は税金の方を何とかできれば、後はどうでもいいけどな」



 完全に開き直っているデビィドが羨ましいと、モロコスはついつい考えてしまう。


 自分ももっと大胆に、あるいは大雑把に生きてれば良かったのではないか、と。


 そんな二人に、同じく待機していたティエラから蹴りが入る。


 こちらはスオーラと同じくドレスを着こみ、お姫様の侍女として式典に参加する予定だ。



「来たわよ。そろそろ腹を括りましょう」



 沿道の歓声が徐々に近づき、そして、大通りを進む馬車が視界に入って来た。


 もう後戻りはできない。


 城内での式典が始まれば、あとは突っ走るだけだ。


 ただし、それぞれの思惑は異なる。


 一体“誰”が“何”を手にするのか?


 走り出し、ゴールに到達するまで、それは誰にも分かりようもなかった。

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