第65話 魔王の生態 (2)
「魔王を倒しても意味がない」
突如としてティエラから告げられた驚くべき事実。
一体どういう事なのかと、他3名の視線が集まった。
そして、ティエラは重々しく口を開く。
「言ったまんまの意味ですよ。魔王は死なない。何度でも蘇る」
「それって、あれか? 転生の秘術の事か?」
「そう。魔王は倒されても、転生の秘術を使い、次の生を得る事ができる不滅の魂の持ち主。だから、“倒す”というのは肉体の消失に過ぎず、本体である霊体は決して滅びる事はない。その内、次の肉体に転生して復活する。それが“魔王の生態”」
「転生の秘術って、そんなホイホイ使えるものなのか!?」
「少なくとも、図書館で閲覧した古文書には、魔王が復活する記述がいくつもあったから、それほど苦労なく使えると思うのよ」
「マジか……。際限なく蘇るのかよ」
「蘇るじゃないですよ。一度死んで、自動的に次の生に繋がるんです」
「かぁ~! 面倒くさいな、それは!」
頑張って倒した魔王が、何度でも復活する。
リボンちゃん状態の愛くるしい姿に騙されていたが、確かにそう考えると脅威だと認識を改めたデビィト。
頭をかきむしり、唸り声をあげ、報われないかつての死闘に思い悩んだ。
「まあ、そうですね。“魂”とは大河の流れそのものであり、世界を循環していると言います。現世における魂は、その大河より弾けた飛沫のような存在だとも」
「スオーラの言う通り。魔術的な要素からの魂や精神の考え方がそれ」
「私の使う【蘇生】は意識、魂がその大河に飲み込まれる前に呼び戻す術だとするなら、魔王の使う“転生の秘術”は大河の川面を歩く感覚かしらね」
「沈む事なく、勝手に浮かび上がり、一切のペナルティも対価もなしに蘇る。せいぜい、完全復活までに多少のタイムラグがあるくらいかしら」
「あらゆる生物は死を迎えると、その大河に再び飲まれ、世界と合一する。そして、魂の浄化と共に再びこの世界に生を受ける」
「そうそう。それが正しい魂の循環であり、世界の理。そして、魔王と言うのはその摂理を逸脱した存在だと言う事。転生とは、言ってしまえば、前世のケガレをそのままにして、次の生に進むという意味になる」
「これ以上にない神への冒涜。死をもって魂が浄化され、正常なる世界が保たれると言うのに、魔王はその魂の循環の輪を逸脱しているという事ね?」
「それ! 常軌を逸した存在、ケガレを現世に常駐させる特異点、それが“魔王”」
思い知らされた、あまりに重すぎる現実。
あれほど苦労して倒した魔王が、ごくごく簡単に蘇ってくると言う絶望感。
さしもの勇者パーティーも、その重さに圧し潰されそうになって来た。
「でも、今回はその転生に“失敗”したんだよな?」
「理由は分からないけど、そうなったみたいですね。だからこそ、魔王軍の残党であるペコニアが、策を弄して時間稼ぎをしていると思うのよ」
「つまり、魔王がリボンちゃん状態であっても、力を奮える程度には力を取り戻し、再度の転生の秘術を使うまでって話か」
「ペコニアもそれが最初から分かっていたから、ジャン陛下やシャルル様に取り入って時間稼ぎをしつつ、厄介な勇者組と不戦協定まで結んだんでしょうね」
「今更、約束を反故には?」
「できないわよ。魔族との約束は“絶対”。不戦協定を結んだ今となっては、ペコニアがこちらを攻撃できないように、こちらもあちらを攻撃できない」
「そうだよな。ティエラが契約を早まったった言ったのはそう言う事か」
「転生の秘術、もっと複雑困難な術かと思っていたんだけど、封印されていた過去の文献を見る限り、お気軽お手軽に使っているふしがあるのよね」
実際、ティエラは図書館で館長から見せてもらった古文書には、かつての魔王についての記述が多く見られた。
だったら魔王を討伐する前に見せてよと、本気で思ったほどだ。
「死んでリセットして、次へってズルいよな。それこそ、魔王を倒せる勇者が出てきたとしても、転生しまくって、相手の寿命が尽きるのを待てばいいんだし」
「だからこそなんでしょうね。少なくとも、50年前まではその魔王は“封印”されていたんだし」
「ああ、そう言えばそうか。倒してもキリがないから、倒さずに封印する。ある意味、合理的な判断だな」
「やり方も不明だしね。どうやって、魔王を封印したんだか」
肝心な部分が記されていなかったものの、作戦の見直しが迫られている状況である事だけは確定していた。
魔王は倒す事なく、何らかの方法で拘束しなければならないという事に。
「ティエラよ、そう考えると、最大の好機を逃した事になるのか?」
「モロコスの言う通り。それこそ、強引にでもいいから、リボンちゃんを拘束しておくべきだったわ。できれば、ペコニアも一緒に」
「しかし、契約がある」
「だから、しばらくは惰性で進むしかない。次に好機があるとすれば、リボンちゃんが転生の秘術を使い、本当の意味で魔王が復活した後よね」
「それだと、契約が切れているはずだしな!」
「互いに手出しできないのは、本当に早まったわ」
ティエラは机に突っ伏し、大きくため息を吐く。
選択肢が限られていたとはいえ、最悪の札を引かされた気分だ。
契約には必ず“裏”や“穴”がある。
警戒していながらやられてしまった。
最重要の情報を掴めていなかった自分の落ち度だと、ティエラは苦悶の表情を浮かべ、机に拳を振り下ろす。
まんまとしてやられた、時間稼ぎの猶予を与えてしまった、と。




