第63話 王立図書館
「これは一体どういう事……?」
膨大な量の書物やら巻物に囲まれながら、ティエラは唸る。
そこは王都にある王立図書館の『最奥部』。
一般人が触れる事ができないレベルの機密情報や古文書、あるいは禁書に指定された書物が“封印”されている場所だ。
許可を得た上級司書が管理しており、普通ならまず立ち入ることができない。
しかし、ティエラはそこへ入り込む事が出来た。
魔王を討伐した魔術師、この肩書が強力であったため、無碍に扱われる事がなかったためだ。
また、王立図書館の館長とは以前、クエストで厄介な仕事を解決した事もあったために顔見知りであった点も大きい。
そのため、特別に許可を得て、いくつかの文献を閲覧する事が出来た。
人への聞き込みではなく、古い記録から“違和感”の答えを求めての事だ。
「今回の一件、それは『テンプル騎士団の不正発覚』から端を発している。その裏で暗躍しているのは、もちろんペコニア。あいつが情報を操作しているのは間違いないんだけど、まだ答えを完全に導き出せない」
閲覧した書物から、今まで感じた“違和感”のいくつかの回答を得るに至った。
その事から、ペコニアが間違いなく“こちらを出し抜こうとしている”のも、確信できるまでに理論を構築する事も出来た。
それでもなお謎の部分が多く、片っ端から読み漁っている状態だ。
「そう、何と言うか、魔王の影が薄い。存在しているはずなのに、存在が恐ろしく希薄。私の考えが正しければ、これはペコニアに一杯食わされたわね。でも、契約を結んだ以上、敷かれた道を進む以外に手立てが……」
早まったかもしれない。
魔王軍と“手打ち”にして、現状の打破に動いたのは早計だった。
ペコニアの薄ら笑いが浮かんで来る思いだ。
苛立ちが無意識に髪をかきむしる仕草に変わる。
そんなティエラの所へ一人の老人が訪れた。
「いかがですかな?」
「あ、館長。これはちょっと御見苦しい姿を見せちゃいまして」
「いやいや、お気になさらずに。そのままそのまま」
やって来た老人は王立図書館の館長であり、機密文書の閲覧をティエラに許可した張本人だ。
いずれは目の前の娘が、この図書館の館長にと考えているだけに、その対応は丁重そのものだ。
もっとも、ティエラを狙っているのは、この老人だけではない。
魔法省の大臣もティエラを幹部として迎え入れたい旨を公表しているし、魔術学校の校長も特別教官として招致したいと発言している。
はっきり言えば、引っ張りだこの状態だ。
ただ、ティエラは現段階ではどの呼びかけにも耳を貸すつもりがない。
勇者デビィドとの関係をどうするかでまだ状況整理がついていないし、何より孤児300人に対する責任と言うものがある。
これらが解決しない限りは、どんな良さげな役職にも就くつもりはない。
それがティエラの意思だ。
「それで探し物はみつかりましたか?」
「何点かは。ただ、全部を知るには不足していますね」
「ホッホッホ~、国内一の図書館に足を運びながら、不足しているとは手厳しい限りですな」
「すべてが書物に残していると言うわけではありませんからね。それこそ、秘伝中の秘伝は“口伝”で後世に残している場合もありますし」
「それではお手上げですな」
「まあ、それでも真実に近付いた事は確かですよ。その点では、さすがは王立図書館だと感謝しておきますね」
事実、いくつかの違和感の謎は解けた。
だが、こちらを出し抜こうとするペコニアを、さらに出し抜くにはなお情報が不足している。
不確定要素は多いが、かなり場当たり的な要素での対応に迫られる。
それでペコニア相手に“知恵比べ”で勝てるかどうか。
それがなにより不安で仕方がない。
そんな不安と不満で満たされたティエラに、館長は微笑む。
「ならば、極秘中の極秘を記した禁書に触れる事も許可いたしましょう」
「え!? いいんですか!?」
「ティエラ殿が読み漁っている文献を見ますに、かなり古い魔王に関するものばかり。そちらの状況も、なんとなしに察しは付きます」
「なら、ここの書物より、より“深い”情報があるって事ですか!?」
「ええ。禁書に触れれば、ですがね」
「見ます! 是非、見させてください!」
ティエラとしては、藁をも掴む思いだ。
見出し切れない答えをえるには、とにかく情報がいる。
世間に流布されている情報なのではなく、歴史の裏に埋もれてしまった情報が。
それが“禁書”という形で残されているのであれば、当然見たくもなる。
飛びつくように館長ににじり寄った。
「ただ、一つ注意点が」
「なんでしょうか?」
「第一に、禁書の内容は“知られたくない”からこその禁書でありますので、口外する事は厳禁です」
「まあ、それは当然ですよね」
「それと、かなり過激な内容ですので、衝撃を受けて逃げ出さない事」
「船が沈むって言うのでしたら、穴を塞いで再び浮かび上がらせますよ」
「大した自信ですな。それでこそ、知識を追い求める大魔導士」
「今は“怪盗”ですけどね」
「おや、それは大変。本、こっそりと失敬しないでくださいね」
「さすがにそこまでの事はできませんし、やりませんよ」
「では、結構。ついて来てください」
そして、ティエラは案内されて、秘密の保管場所へと向かう。
相当に危ない情報なのだが、それだけにより真実に近付けると信じて。




