第58話 作戦会議
「それじゃあ、お話合い、しましょっか♪」
実にノリノリなペコニアであるが、勇者パーティーはその真逆をいく重い表情だ。
どの顔にも「何でこんなのと卓を囲まないといけないのか」と書き込まれている。
実際、魔族と手を組み、王国転覆を謀るなど狂気の沙汰だ。
しかも、魔王を倒した勇者パーティーがである。
やむを得ない事情があるとは言え、とても前向きになれる話でもない。
唯一、モロコスだけが前のめりであるが、こちらはテンプル騎士団を潰された事への報復であるため、前のめりであっても前向きな思考ではない。
そのモロコスが口を開いた。
「で、ペコニアよ、今後の動きはどういう感じになるのだ?」
「先程、インジェヌオ伯爵の下屋敷に魔王様が到着したわ。明日にはシャルル様の“御息女”として王宮に参内し、王太子フィリップ殿下とご対面。そこで婚約が発表される事になっているわ」
「そこは前に聞いた通りだな。そこで一騒動起こすと言う事か?」
「ええ。王宮内に紛れ込んだ暴漢がジャン王を襲撃し、そこで暗殺される。そして、暴漢達は『これは義挙である!』と声高に叫び、国王暗殺を正当化。その証拠として不正の数々の網羅した“裏帳簿”を公表する」
「それも前に言っていた、接待やら賄賂やらの件か」
「まあ、こっちも“徴税官”としての立場を利用して、役所からあれこれ証拠をかき集めましたからね。結構、苦労しましたよ」
ペコニアは不気味な笑みを浮かべて嘲りの言葉を漏らす。
“金欲”の二つ名を持つ魔族として、人々の金銭欲を操り、破滅させる事を何よりの喜びとしてきた。
そして、近日中には王国をひっくり返す。
50年に渡る長き戦いの末に、魔王は勇者に討たれ、敗北した。
しかも、転生の秘術に失敗し、力なき少女の姿となった魔王。
それをひっくり返せるのが、今回の計画だ。
平和と言うぬるま湯に浸り、しかも魔王すら支配下に置いて使役しようと言う不遜なるジャン王を、その読み違えによって逆に滅ぼす。
おまけに最大の仇敵である“勇者”でさえ、その計画に加担させるという意趣返し。
これで笑うなと言う方が難しい。
「そんで、だ。俺達はどういう動きになる?」
上機嫌に笑うペコニアに、デビィドが尋ねた。
ピタリと笑い声を止めたが、不気味な笑みはそのままに、ペコニアは視線を嘗め回すように勇者パーティーを見回す。
「あなた達にもその場に居合わせてもらう。何しろ、暗殺を成功させるためには王の周囲を固めている“近衛騎士団”をどうにかしないといけないからね」
「俺らにその露払いをしろと!?」
「そう言う事! デビィドちゃんのおじいちゃんの古巣。武芸に長じ、鋼の忠誠心を備えた最強の騎士団! 数でこそ神殿騎士団に劣るけど、同数同士での戦いなら、まず近衛騎士団の勝ちに私は賭ける」
「それについては全面的に賛同するな」
デビィドとしても、祖父の実力は一番理解していると自負している。
祖父リヒテンより剣術を習い始めた時は、すでに引退している歳ではあったが、その技量は一切損なわれていなかった。
その剣技を余すことなく習得できたからこそ、冒険者として大成し、ついには魔王をも倒したと考えていた。
そんな祖父がいたのが“近衛騎士団”だ。
純粋な剣技だけでは苦戦は必至だが、そこは仲間達がいる。
モロコスもかなりレベルを戻して来たし、前衛としては十分に戦える。
スオーラの回復及び補助の術は、集団戦でこそ活きる。
何より重要なのはティエラの存在だ。
王宮と言う狭い空間では、大魔術は使い辛い。
むしろ重要なのは“先手必勝”だ。
速度こそ最重要。
そう言う意味においては、ティエラが転職した“怪盗”は最適解と言える。
「なあ、ティエラ、お前さ、もしかしてこの作戦を先読みしていた!?」
「当然でしょ。陛下に手を出すには、王宮に入る必要がある。王宮には近衛騎士団が控えているし、戦う場所としても狭い。地の利はあちらにある。こちらに有利な点があるとすれば、それは“奇襲”よ」
「不意討ちで相手の態勢が整う前に押し切ろうって事か!」
「そう言う事よ。大魔導士みたいな大火力はいらない。魔王に通じなくとも、人間に通じる魔術はいくらでもあるし、そうなると威力よりも速度が重要。先手先手で動き回り、相手に主導権を渡さないようにする」
「その最適解が“怪盗”だったか!」
相変わらず頭が切れるなと、ティエラの先見性に周囲は感心した。
それはペコニアも同様であったらしく、パチパチと拍手を贈った。
「さすがは勇者パーティーの頭脳担当。こちらがいちいち説明しなくても、ちゃんと理解していましたか」
「んで、その作戦だと、あたしらも王宮に入る必要があるわけだし、その辺りも考えてあるわよね?」
「もちろんよ♪」
パチンとペコニアが指を鳴らすと、机の上に4人分の衣装が現れた。
煌びやかなドレスが2着、さらに“道化師”の服が2着。
合計4着の衣装だ。
「これを着てもらうわ。男組は“道化師”、女組は“侍女”として、明後日の参内に帯同してもらう事になるわ」
「おいおい、俺とモロコスがよりにもよって“道化師”かよ! お祭り騒ぎじゃねえんだが!?」
「表面的には、そのお祭りなのよ? 王太子フィリップ殿下と伯爵令嬢リボンちゃん様の御披露目式と婚約発表。当然、その後はめでたい門出を祝う宴席が催される」
「ああ、それもそうか。こちら視点だと政変の計画だけど、表面的には普通にお祭りだったわ。裏事情を知らない連中からすれば、王太子と伯爵令嬢の婚約御披露目式になるな」
「だから、賑やかしの“道化師”が紛れていても、特に問題視されないわ。小道具の中に得物も潜ませておくから、斬り合いになったらよろしくね♪」
すべてにおいて抜かりなし。
王宮への潜入方法もバッチリであった。
「そうなると、こっちはドレスを着て、その時が来るまでしおらしくって感じか」
「ティエラ、お前、できんのか?」
「ちょっと、勇者様! それ、どういう意味ですか!?」
「礼儀作法が全然なってないからな。口を開かない方がいいぞ」
「そう言われると辛い。御貴族様の作法なんて、習ってないしな~」
貴族や、それに仕える従者と言う者は、礼儀作法に通じているものだ。
貴族は貴族で庶民以上に階級社会であり、格上の貴族に対してはとにかく礼を通すのが当たり前だ。
ましてその“高貴な血筋”の中で最上位である“王族”が今回の相手だ。
ボロが出ては怪しまれ、気取られる可能性がある。
「まあ、そこは大丈夫よ。どうせ、侍女になんて誰も話しかけてこないし、リボンちゃん様に侍っていればいいだけ」
「顔はどうするの? 道化師と違って、仮面や濃すぎる化粧もなしよ?」
「そこは薄布で顔を覆っておきましょう。あとは、スカートの中に小杖を仕込んでおけば、事が起こればすぐ仕掛けられるわ」
「それが無難ね」
それで納得したティエラであったが、横にいたデビィドがプフゥ~ッと吹き出す。
「おいおい、薄布っつったら、“処女”の装いだぜ。本来は処女のみ着用が許されている。純白のドレスも含めてな」
「だから、色付きのドレスじゃない!」
「まあ、それもそうか。スオーラはともかくとして、ティエラは……」
「茶化すな!」
そして、ティエラの蹴りがデビィドの向こう脛に入る。
ただ、余裕のノーダメージだ。
レベル51の勇者と、そこまでレベルを上げられていない怪盗では勝負にすらならない。
ただ、いつものようにスオーラとモロコスから乾いた笑いが起こる。
これこそいつもの勇者パーティーだと言わんばかりに。




