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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第55話 魔王との交渉 (2)

「やはり頭が冴えているな、大魔導士よ。ペコニアが警戒していた通りだ」



 リボンちゃんは笑顔と共にパチパチと拍手でティエラを褒める。


 もちろん、ティエラは全然気分も良くならないし、照れなどというものもない。


 可愛らしい少女の影には魔王がいる。


 そんな者からの賞賛など、とても素直に受ける気にもなれない。



「なので、こちらの提示する条件としては、『魔王が転生の秘術を使うまでの不戦』としたいわね」



「おいおい、転生した途端に勇者パーティーから狙われるのか。それはちと厳しい」



「待ってやるだけ、有難く思いなさい。この場であんたを消し炭にするわよ?」



「おいおい。まだ(・・)何の罪を犯していない幼気いたいけな少女を消し炭とは、本当に容赦がないな」



「ステータスが落ちたから、【滅びの炎(メギド・フレア)】の威力も弱くなっているけど、女の子一人を黒焦げにするくらいは余裕よ」



「先程も言ったが、【強制帰還リエントロ・カーザ】がかかっているからな。こちらを殺そうとすれば、そちらも破滅だ」



「あたしかスオーラ、どちらかを生贄にすれば、実行可能だと言う事をお忘れなく。そして、もう“覚悟”を固めている事も、ね」



 冗談でもなんでもなく、本気で実行する気でティエラは言い放つ。


 レベルダウンしたとはいえ、最強クラスの攻撃魔術はまだまだ使えるティエラ。


 魔族にとっては厄介な聖属性の術が使えるスオーラ。


 どちらかが全力を出せば、目の前の魔王を仕留める事は可能だ。


 あとは、生贄になった者以外のメンバーを、【強制帰還リエントロ・カーザ】の範囲外に出てから殺せばよい。


 そうすれば、被害を最小にして魔王を倒し、かつ“殺人罪”も回避できる。


 そんな強気な姿勢で交渉に臨むティエラの姿勢に、リボンちゃんは感銘を受け、また拍手をする。



「結構結構、大いに結構! それくらいの胆力や知恵がある方が、こちらとしてもやり易い。臆病者では、まとまる話もまとまらんからな!」



「なぁ~に、間の抜けた事を喋ってんだか。あたしらに負けたのは、どこのどちら様でしたっけ?」



「生まれ変わったから忘れた!」



「もう一回、生まれ変わらせてあげましょうか?」



「ちゃんと術式が組み上がってからな! いくら体に馴染んできたと言っても、所詮は人間の体。魔力の蓄積も遅いし、術式を組み上げるのにも時間がかかる」



「で、それが完成するまでの間はこっちと休戦でしょ?」



「そちらは“国”を売り飛ばす事を代償にしてな」



「売ってないわよ。奪われたものを取り返すだけよ」



「“金”と“尊厳”をかね?」



「それに加えて、“居場所”をね」



 とにかく現状、勇者パーティーは肩身が狭すぎる。


 勇者は借金取り(徴税官)に追い回され、モロコスとスオーラはテンプル騎士団の解散の影響をモロに受けた。


 それに救いの手を差し伸べたのがティエラだが、結果として“不穏分子のたまり場”という根も葉もないレッテルを貼られ、数々の不利益を被った。


 これらの状況をひっくり返すのは容易ではない。


 だからこそ、消極的とは言え、魔王と結ぶ事を決めたのだ。



「そちらの要求は“不戦”である事は分かったけど、こっちの要望もいいかしら?」



「何が望みだ? まあ、おおよそ察しは付くが」



「まずは勇者様の納税額の減額。まあ、これは王室の機密費から払ってもらいましょうか」



「もう成功する気満々か。おまけに、徴税官に向かって、税金を誤魔化せとは」



「誤魔化せなんては言ってないわよ。代わりに払っておいてって言ってるだけ」



「十分図太いぞ」



「あと、勇者様の追徴課税と罰金分もよろしくね♪」



「この魔術師、“強欲”と呼ぶに相応しい! 新生魔王軍の幹部にならんか!?」



「魔王からそう言ってもらえるのは、悪い気分じゃないわね。考えとくわ」



 落ちるところまで落ちたものだと思いつつも、ティエラは既に開き直っている。


 ちらりとデビィドに視線を向けると、こちらも納得して首を縦に振る。


 とにかく、まだかなりの額の税金が未納金として残っており、これをどうにかしない事にはどうにもならないのが勇者の立ち位置だ。


 それを解消してくれるのであれば、文句の出しようもない。


 

「あと、孤児院を再開させて、予算もキッチリつけてもらうわよ」



「そちらはどうとでもなるな。入れ物は既にある事だし、予算と人手をこちらで揃えればよい」



 これも魔王の了承を得た。


 孤児の数はそれなりの数に上るが、勇者パーティーを懐柔できると言うのであれば、安い出費と言える。


 スオーラにしても、それがそもそもの目的であるため、孤児の未来が保障されるのであれば、特に問題はなかった。


 魔王と手を組む事には引け目もあるが、背に腹は代えられない。


 こちらも頷いて賛意を示した。



「あとはモロコスだけど、何か要望はある?」



「とにかく王に報いを受けさせる。それだけだ」



「騎士団の再興だとか、もう少し前向きになれないの?」



「今更、騎士団の復活は無理だ。ああも腐敗ぶりが表に出てしまったのだからな」



「まあ、それもそうなんだけどね~。脱税、汚職、おまけに少年少女への略取と来てるし、これはもうどうしようもないわね」



 それこそ、新たに立ち上げた方が早いくらいだと、ティエラもモロコスの不貞腐れぶりに納得せざるを得なかった。


 仮にモロコスを騎士団長としても、看板が完全に汚れ切っている。


 そう考えると、新規にしろ、再建にしろ、厳しく縛りを設けてきそうな国王ジャンが邪魔な存在となる。


 それの無力化、ないし完全な排斥こそモロコスの望み。


 これはむしろ、魔王側と最も利害が一致している要求と言えた。



「どうやら、それぞれの願いは出揃ったみたいだな」



「まあね。んじゃ、最終確認だけど、魔王リボンちゃんはインジェヌオ伯爵シャルル様の養子になり、そこから王太子のフィリップ殿下に輿入れって流れでいいわね?」



「うむ。そして、頃合いを見てジャン王を排斥し、フィリップ王子を即位させ、シャルルを摂政として王国の新体制を発足させる」



「シャルル様は摂政として国の実権を、魔王リボンちゃんは転生の術式が組み上がるまでの安全を、勇者組あたしらはそれぞれの願いを成就させる」



「そう言う流れになるかな」



 互いに納得した内容であり、その場の顔触れは色々と思惑はありつつも、表面上は頷いて応じた。




「あ、待て。強欲の魔術師よ、聞き忘れていた」



「何を?」



「お前の願望を聞いていない」



「あ~、そっか。あたしのはささやかなもんよ」



「そのささやかな願いとは?」



「えっとね~。まず、勇者様との結婚でしょ。そのためにモロコスとさっさと離婚して、仮面夫婦を解消しないといけないわね。丁度王都に行くんだし、戸籍管理やってる民部省と魔法省に行かなきゃダメね」



「ふむふむ」



「あと、新婚生活を営むために、立派な屋敷が欲しいでしょ~。それと、開墾した土地は全部あたしの私有地にしたいでしょ~」



「……おいおい」



「もちろん、税金なんて払いたくないから、あたしと勇者様の愛の楽園(スイートホーム)には“不入不輸の権”を付与してもらいましょうか」



「……やっぱこの大魔導士、その性質は“強欲”だ」



「“愛情”の成せる業よ」



「愛情と言えば聞こえはいいが、とどのつまり“執着”なのだぞ?」



「好いた惚れたは人の勝手。欲しいもの、望む状況の為ならば、こうして魔王とだって握手するわよ」



 すでに覚悟を固めている以上、罪は背負ったも同然だ。


 そこを臆する段階はとうに過ぎた。


 こうなっては貰えるものは全部貰って、デビィドと添い遂げるだけだと断じる。


 その強欲にして、ともすれば淫蕩とも呼べる姿勢は、魔王にとっても好ましいものであった。


 ここに魔王軍と勇者パーティーとの間に契約が交わされた。


 互いに欲するものがあるからこそ、それに向かって肩を並べて歩んでいける。


 なお、ゴールに到着した瞬間に排撃する事を前提とした極めて不安定な同盟であり、この段階でどう出し抜くかを互いに模索していたりする。


 いつ裏切るのか?


 それへの対策は?


 そんな事を考えながら、魔王リボンちゃんは勇者パーティーの前から去り、予定取りに輿入れの準備に取り掛かった。

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