第51話 乗っ取り計画
モロコスはすでに魔王と握手する事に躊躇いはない。
自分から何もかもを奪ったのは国王ジャンであり、それの排除が出来るのであれば、文字通りの意味で悪魔との契約さえする。
そんな意気込みすら感じさせた。
「まあ、確かに俺達は“報われた”とは言い難い状況だわな」
「勇者様の場合は自業自得でしょ?」
「はい、本当にスイマセン」
机の下では、ティエラの蹴りがゲシゲシとデビィドに突き刺さる。
なお、“レベル1・農夫”の蹴りであるため、“レベル50・勇者”には全くのノーダメージだ。
ただ、精神的にチクチク刺さるだけだが、それが殊更デビィドには効く。
一生言われ続ける弱み、それが付与された攻撃だ。
「んで、その口ぶりだと、勇者様も魔王の誘いに乗るつもりなの?」
「正直、現状では国王陛下に睨まれた生活が続くしな。税金で素寒貧になってしまったし、かと言って冒険者稼業ももう先が無い」
「まあ、魔王と陛下の契約がある以上、先細りは目に見えているものね」
ティエラとしても、デビィドの意見には頷かざるを得ない。
魔王リボンちゃんと国王ジャンの間では、すでに不可侵条約(穴は開いてる)が結ばれており、魔王軍残党の鎮定がその条件に含まれている。
50年に渡って魔王軍と戦ってきた冒険者や傭兵はお払い箱となり、今や転職ブームが湧き起こっている。
冒険者稼業を諦め、別の稼ぎ口を求めて職を変えている人々が“転職の神殿”に詰め掛けているのを見て来たのだ。
しかも、『コンクリートから人へ!』を標榜していた先王リシャールが亡くなり、インフラ整備や復興事業を打ち出す現国王ジャンは『人からコンクリートへ!』を声高に叫び、予算も土木関連中心に流れている。
今までのような冒険稼業への助成金も減り、そもそも仕事もなくなっていくのだ。
スオーラがやっている“パワーレベリング業”が時流を得ているのも、その転職ブームに乗る事が出来たからだが、ブームが過ぎればどうなるかは未知数。
不安定な状況はそのまま生活に直結する。
「自分達だけならどうとでもなるけど、子供達の事を考えるとね~」
「まあ、ティエラもスオーラも、それが最大の問題点だわな」
「食い扶持稼ぐだけでもかなり難しい。本来、300人からの孤児の面倒なんて、普通に公的機関の案件だもの」
「余計な横槍がないんなら、このまま農地開拓でも良いとは思うぞ。ただ、これまでのジャン陛下の動きを考えると、色々と枷をハメてきそうだわな」
「実際、レベルダウンさせられたもんね、ほぼ強制的に」
「その点ではここの領主であるシャルルも同様だな」
「陛下の片棒を担いで、今はぼろ儲け中だもんね。ほぼ確実に色々要求して来るでしょうよ」
どう考えてもお先真っ暗だなと、デビィドとティエラも深いため息を吐き出す。
本当に平和な時代の“かつての英雄”は、邪魔にしかならないのだと痛感した。
力を持っている、この一事だけで平和の敵となる。
無力化させられたのも、治世を統べる王の観点から言えば正解だ。
ただ、負債と代償の不均衡、それが勇者パーティーの不満を高めていると言う点では失敗と言えたが。
「少なくとも、抗議の声を上げるだけでも良いのではないかな? 『こちらを蔑ろにするのも程がある!』と」
「魔王はあくまで順法闘争で進める気か?」
「そりゃな。“文明国の民”が手順をすっ飛ばして、武断的な直訴と言うわけにはいくまい? まずは抗議の声を上げて、どう出るかの反応を見る。まずはそこだ」
「などと言いつつ、実はエグい手を考えてるんじゃないか?」
「考えているのはペコニアだがな。ええっと、これだったかな? (゜Д゜≡゜Д゜) 」
リボンちゃんはごそごそと書類の山から、一巻の“巻物”を取り出した。
開いてみると、それは“家系図”であり、かなりの数の人名が書き込まれていた。
「ん~、名前から察するにこれはシャルル様の……、インジェヌオ伯爵家の家系図かしらね?」
「さすがに自分のところの領主であるし、すぐに気付くか」
「まあ、伯爵家の一族が経営している商会とかとも付き合いはあるしね。それで、この家系図がどうかしたの?」
「これ ( • ̀ω•́ )っ ミトケヨミトケヨ 」
そう言って魔王が指さした箇所。
そこには“リボンちゃんの一家”について書き込まれていた。
しかも、この書き込まれた家系図をそのままに信じると、リボンちゃんの父親はインジェヌオ伯爵シャルルと“はとこ”にあたる事になる。
「まさか、家系図を捏造したの!?」
「ペコニアが書き加えたそうだ。しかも、新たに書き加えたのを誤魔化すために、かなり丁寧に【風化】を施してな。 ( ̄▽ ̄)ゞドヤッ 」
「古くて新しい家系図って事!? よくもまあ、こんな手の込んだ事を」
「つまり、家系図の上では、転生魔王は伯爵家の関係者となる。まあ、親戚と呼ぶにはちと遠いが、全くの縁故がないと言うわけではないという微妙なライン」
「なるほどね。となると、何となく読めたわ」
「ほう。さすがは“元”大魔導士。目端が効くな」
「まあね。要するに、リボンちゃんをシャルル様と養子縁組して、それからジャン陛下の息子に輿入れって感じじゃない?」
「正解! この家系図を見せただけで、よくぞそこまで閃くものだ」
パチパチと拍手をするリボンちゃん。
実際にティエラの機転の速さには感心しており、その評価は高い。
ペコニアが特に警戒して、真っ先に無力化を図る事を画策しただけはあると素直に感じた。
「今、ジャン陛下の息子であるフィリップ王子はたしか5歳。リボンちゃんと“外見年齢”は釣り合う。婚姻を交わし、王家と伯爵家の関係を盤石にするのに最適。ただ、シャルル様には娘がいないので、縁者から養子縁組をする必要がある」
「それが魔王というわけだ」
「かぁ~! 魔王が未来の王妃様とか、考えただけで頭が痛くなるわ!」
「だが、ここで先程の状況が活きてくる。ジャン王はリボンちゃんの正体を知っている。一方、シャルルはそれを知らない」
「ペコニアが仕込んだ刺客、とでも言い含めておくつもりね!」
「そう。ジャン王は自然な形で魔王を身近に置き、その力を利用する。一方のシャルルには、頃合いを見てジャンを始末するための刺客だとしておく」
「なるほど……。ジャン陛下の視点で見れば、“契約”で縛られていると勘違いしているわけだから、リボンちゃんが暗殺を仕掛けてくるというのは逆に盲点。一方、シャルル様はジャン陛下亡き後の“幼い娘夫婦”の後見役として宮廷に乗り込み、摂政として権力を握るって形になるわね」
「それがシャルルに話したペコニアの計画だ。ただし、“契約”で縛られているのはペコニアだけで、魔王は契約の外。隙を晒した瞬間に、娘であるリボンちゃんに狩られると言うわけだ。人生の絶頂から真っ逆様! 哀れ、伯爵の野望は三日天下で終わる! ああ、笑いが込み上げてくるな、この落差は! ( *¯ ꒳¯*)クククッ」
魔王の薄ら笑いが不気味に響く。
人の感情を何より好む魔族らしい反応だ。
絶頂から絶望へ、まさに最も楽しいシチュエーション。
魔王の反応は魔族の反応としては至極当然ではあるが、人間側の視点で見れば愉快な道理がない。
冷ややかな視線が魔王に突き刺さる。
ただ、ティエラだけは冷静にその状況を分析した。
「国王に加えて、勢いのある伯爵まで失われるとなると、王国は大混乱。乗っ取ると言う点では好機かしらね」
「そうだ。混乱の間隙を突いて、『勇者パーティー』が登場。混乱する王国を鎮めるため、英雄が再び立ち上がると言うわけだ。残された若き王子と姫君を補佐する立場に滑り込むと言う形でな」
「まあ、他の御貴族様がうるさく言って来るかもしれないでしょうけど、そこは王妃になったリボンちゃんの鶴の一声で解決」
「それに『勇者』の看板が加われば完璧だ。多少の混乱はあるだろうが、十分に国を乗っ取れる。さあ、どうするかね? (๑° ꒳ °๑)サアエラベ」
魔王の口から悪魔の計画が示された。
このまま英雄らしからぬ燻ぶり続ける生活を続けるのか?
それとも魔王の計画に乗って、王国を乗っ取り、富貴を求めるのか?
勇者パーティーは決断を迫られた。




