第5話 税金の使い道
税金ってなんなのか?
今まで特段気にしなかった事ではあるが、いざ多額の徴税をされると気になるものである。
まして、金持ちが税金を払っていないとなると、なおさらに腹が立つ。
デビィドの中で急速に王国政府や、富豪、貴族への不信感が芽生えていった。
しかし、それをやんわり諭すのもまた、富豪の娘だ。
「勇者様、納得いかないって顔、してますね?」
「当たり前だろ!? ティエラの実家みたく、金持ちが税金払ってないなんて、なんかおかしいだろ!?」
「まあ、そうなんですけどね。でも、ちゃんと理由はあるんですよ」
「どんな!?」
「あたしの実家に限らず、農場経営者は優遇されてます。理由は2つあるんですよ。その1つは“安定した食料供給”」
「食料……」
「人間、生きていたら食べなきゃダメ。その食料を作っているのは誰? 農家、漁師、畜産家、狩人、こういった職業が無いと食料が無くなって、みんなが飢える事になるのよ? 優遇されて当然だわ」
ぐうの音も出ない正論であった。
普段、何気なしに食べているパンや野菜、肉や魚、それら全ては“誰か”が作ったり、獲ったりしてきた物だ。
もし、食料の安定供給が滞れば、飢餓が発生し、治安は一気に悪化する。
そう言う意味では、食料生産の担い手は優遇されて当然と言える。
「それに勇者様だって、冒険始めた初期の頃、冒険者組合からの斡旋で、“小鬼退治”のクエスト、かなりこなしたでしょ?」
「あ~、そんな事もあったな」
「あれ、農村や農場経営者が依頼主なのよね」
「そうなの!?」
「ゴブリンは大した事のない妖魔だけど、繁殖力が凄まじいですからね。放っておいたらすぐに個体数を増やすから、そうなると農夫じゃ手に負えなくなる。農村付近で1匹、2匹でも見つけると、すぐに駆除の依頼が組合に持ち込まれるわ」
「ゴブリンの巣穴見つけて、潰して回った事もあったな~、駆け出しの頃は」
「その依頼にかかる費用は、依頼主が出す事になる。これが結構痛いのよ。害獣、妖魔対策の補助金制度もあるけど、それだけじゃ賄いきれないしね」
「あ、“税金”って、そんなところで使っているのか!」
「ようやく理解しましたか」
ティエラとしては、ヤレヤレという思いだ。
国の税金が高い事は認めるが、何も王侯貴族が贅沢をするためだけに使っているのではない。
その事をちゃんと認識していた。
実家が農家であるからこそ、どういう風に税金が使われているのかを、身近に見る事が出来たのだ。
駆除依頼の補助金もそうであるし、街道などのインフラ整備もそうだ。
食料を生産しても、消費地である人口集約地“都市”に効率よく運び入れるためには、道や橋などが無くては運搬できない。
そうした部分にも税金が投じられている。
普段何気なしに使っている公共の設備は、すべてが“税金”が元手なのだ。
それを認識できているかで、税金と言うものへの感情が大きく違ってくる。
「んで、農場経営者が優遇されているもう1つの理由が、“失業・難民対策”よ」
「なんだそりゃ?」
「魔王軍との戦いで、町村が被害を受けるのは日常茶飯事。当然、村や町が焼き払われると、そこで暮らしていた人の生活基盤が失われる。一時的な食糧支援や、復興事業で元に戻せればいいけど、そうでない場合もある」
「それこそ、“転職の神殿”にでも駆け込めばいいんじゃね?」
「そう。その職業斡旋先が“農家”なのよ」
「じゃあ、ティエラの実家にいた大量の小作人は!?」
「お察しの通り、元は戦で焼け出された難民よ。“転職の神殿”経由でウチが小作人として囲い込んだの」
「体のいい奴隷労働者じゃねえか!?」
「まあ、そういう見方もあるけど、囲い込んだ小作人に対しては、主人が保護する義務が生じるからね。昔の奴隷と違って、鞭打ちなんて厳禁だし、衣食住の提供は必須よ。そもそもの雇用形態としては“年季奉公”なんです」
「年季奉公って事は、決められた期間を働いたら、御役御免って事か?」
「だいたいは10年、15年くらいの長期契約になるけど、そこまで働けば自由に動けるようになるわ」
「つまり、戦争で失業者や難民になった連中を農場に囲い込む。その雇用期間の間は衣食住が保証される。経営者にしても農業従事者を確保できる。“安全”と“労働力”の交換契約って感じか」
「ついでに言っておくと年季奉公を終えた元難民には、ある程度の土地が無償提供されるの。それと、無利子での融資も銀行から受けられる仕組みになっているわ」
「そこも“税金”か」
普段意識していなかった分、税金の使い方にも色々とあるのだなと、デビィドは感心した。
ごっそり持っていかれるのは気に食わないが、それでも社会を動かしていくのには必要な措置だと、渋々ながら納得する事とした。
「あ、でも、難民云々って事は、スオーラやモロコスはそうなのか?」
デビィドが視線を向けた先にいる二人の仲間は、元々は戦災孤児だ。
戦火で家族を失い、孤児院で育った過去がある。
この二人はどうなのだろうかと、今まで意識していなかった分、興味がわいた。
「私の場合は“魔力持ち”でしたからね。それも一級品の。そうした場合は、養子に欲しがる魔術師が買い取っていったりしますわ」
「買い取り!? それこそ奴隷じゃ!?」
「養子縁組の手続きの経費、支払われる金銭の名目がそうなりますわ。まあ、魔術師の養子なんて滅多にないですし、良縁と言えば良縁ですわ。私の場合はその手の話が来なかったので、そのまま神職になってしまいましたが」
「なるほど。そういう流れか」
職業選択の自由はあるため、誰でもどの職業に就く事はできる。
しかし、何事にも適性が存在する。
魔力の弱い人間が“魔法職系統”になったところで、高が知れているというものだ。
その点においては、一級品の魔力持ちであったスオーラは才能を活かせた職業に就いた事になる。
「んじゃ、脳筋戦士のモロコスは?」
「酷い枕詞だな。……それがしの場合は、神殿騎士団の幹部に見出されて、騎士修道会に入った形になりましょうか」
「こっちも才能を認められたってところか」
「体格は良かったですからな。幹部の方に見出されてなければ、それこそ農場送りになっていたでしょう」
「ティエラの実家みたいな農場の小作人か」
「それだとまだマシな方です。より過酷な鉱山労働者や、辺境地の防人になった孤児院出身者もいますし」
「命があるだけマシ、ってところか」
「女性の場合ですと、それこそ悪い斡旋者に騙されて、娼館行きなんて話も聞いた事がありますね」
「マジかよ。“転職の神殿”、最低だな!」
孤児と言うだけあって、やはり大変だなと思うデビィドであった。
ティエラほど裕福な家ではなかったが、デビィドはそれなりといったところだ。
両親を流行病で失うも、祖父が親代わりに育ててくれので、孤児になる事はなかったのは幸いであった。
その祖父が剣術道場の師範でもあったので、武芸を学ぶ事が出来たのも、冒険に出るための下地にもなっていた。
そう言う意味においては、実に恵まれた環境と言える。
そして、4人の視線は黙って話を聞いていたジャンに向いた。
こうした下々の話を聞いてどう思ったのか、その感想が知りたかったのだ。
それを察してか、ジャンも一度首肯してから口を開いた。
「まあ、悪徳業者の摘発は今後の課題だな。とはいえ、魔王軍との戦いに勝利したのだし、難民、孤児の数も自然と減ってこよう」
「そりゃそうですね。それらを生み出す原因がなくなったんですから」
「そう言う事だ。なので、今後はお爺様の逆を行くつもりだ」
「逆ですか?」
「そうだ。お爺様は『コンクリートから人へ!』を標語に、集めた税金を人材育成や難民対策に使われた。私は当面、税率は特に弄らず、方針を逆転させ、『人からコンクリートへ!』を打ち出す」
「つまり、戦争で損傷したインフラ整備や、建造物の復旧に資本を集中させると?」
「そこに雇用を生み出す。平和になって街道も整備されれば、物流や人の往来も活発になるし、経済も伸張しよう」
「それは結構な話なんですけど、しばらくまだ、高い税金は続くってわけですか」
「安定して来れば、徐々に税率は下げる。それは確約しよう」
「お願いしますよ。たっぷり稼いでも、その分、取られたんじゃね」
「分かっている。取り過ぎた税金などというものは、制度化された強盗と同義であるからな」
結局、金はいかに集めるかよりも、いかに使うかが重要だとジャンは語る。
昨日までは正解であった税金の使い道も、明日には状況が変わって悪手になっているかもしれない。
絶えず世情を把握し、適切に運用してこその税金である、と。
高い税金であっても、その使い道が有用有益であれば、納税者も納得する。
為政者として、それをよくよく弁えておかねばとならない。
次期国王として、ジャンはそう述べた。
勇者パーティーも納得し、丁寧に拝礼してから執務室より辞去した。




