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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第4話 税引き(?)された報奨金

 三日三晩続いた祭りも終わり、英雄気分をこれでもかと満喫した勇者パーティーは、改めて王城に参内した。


 ただ、一行を出迎えたのは国王リシャールではなく、王太孫のジャンであった。


 ジャンが王の執務室に陣取り、リシャールの姿はどこにもなかった。



「こういうめでたい話をするときに、いささか水を差すようではあるが、お爺様はいよいよ寝台から起き上がれない程になってしまってな。私が執務を代行している」



 そう説明され、メンバーは納得した。


 何しろ、何十年と魔王軍相手に戦い続けてきたのが、リシャール王だ。


 その念願がついに叶い、気が緩んだのだろう事は容易に想像できた。


 仕事一筋に生きてきた者が、定年退職した途端にやる事が無くなって、一気に老け込んだり、あるいはボケ(・・)が加速度的に進行してしまう事もままある。


 リシャール王も悲願であった魔王討伐を達成し、やるべき事を成して神の御許へと旅立つ時が迫っているのだと判断。


 聖女スオーラ、聖戦士モロコスは自然と神に祈りを捧げていた。


 なお、現金な勇者デビィドや大魔導士ティエラは別だ。



「ジャン殿下、お約束通りの報奨金、頂戴しましょうか」



「分かっている。ほれ、受け取るが良い」



 そう言って、ジャンは王家の紋章が焼き印された箱を机の上に置いた。


 待ってましたと言わんばかりに、デビィドが蓋を開けると、そこには1枚のカードと2枚の書類が入っていた。


 その内、デビィドの視線を釘付けにしたのは1枚の書類。


 支払われる報奨金が“10億マネイ”ではなく、“8億マネイ”である事が記されていたのだ。


 当然、これでは約束が違う。



「殿下!? これはどういう事で!?」



「どうもこうも、それがお前達に支払われる報奨金だが?」



「いや、だって、約束では“10億マネイ”でしたよね?」



 予想外の展開に、敬語を使う事さえ忘れてしまった勇者デビィド。


 そんな狼狽するデビィドに、ポンとティエラが肩に手を置く。



「勇者様、その金額、合っています」



「なぜに!?」



「なぜって、そりゃあ“税引き後の金額”だからですよ」



「なんだと!?」



「ほら、こっちこっち」



 そう言って、ティエラはデビィドが釘付けの書類とは別のもう一枚の書類を取り出し、それを見せる。


 そして、最重要な箇所を指さす。


 そこにはこう記されていた。


 “高額報奨金並びに高額所得税”と。


 そして、“規定通りの20%を差し引く”とも。



「なにこれ!?」



「見ての通り、“高額報奨金並びに高額所得税”ですよ」



「だから、それ、何!?」



「ん~、平たく言いますと、『高額の報奨金(一括100万マネイ以上)を受け取ると、税率10%~30%の範囲で源泉徴収される』といった感じで」



「そうなの!?」



「まあ、冒険者組合(ギルド)から貰う報酬で、規定金額を超えるような高額報酬のはなかったですしね。稀に御貴族様からの直接依頼で高額報酬はありましたけど、そこは4人で分割して受け取るように契約して、あれこれ節税・・してましたし」



「そ、そうだったのか」



「一括で100万マネイ以上になりそうなやつは、頭数で最初から割るように計算したり、分割にしてもらったりと、色々額面を操作しましたからね~」


 特に驚く事はないとでも言いたげなティエラ。


 金勘定に疎いデビィドは驚くばかりだ。


 後ろを振り向いても、スオーラもモロコスもウンウンと首を縦に振るばかりだ。



「いや~、それがしも金勘定にはとんと疎くて、ティエラに丸投げしておりましたからな! その手の小難しい事は!」



「同じくですわ。餅は餅屋に、と言った感じで」



「お、おう……」



 そう言えばそうだったと、今更ながらに思い出したデビィド。


 スオーラとモロコスは孤児院出身のため、そもそも金勘定する経験に乏しく、旅に出た初期は簡単な買い物すら苦労する有様だった。


 デビィドにしても、元は王都暮らしであったので買い物くらいは普通に出来たが、それもあくまで日常的な少額の買い物や飲み食いに関するレベル。


 税金云々や高額商品の売買になってくると、話は変わって来る。


 つまり、パーティーメンバー4人の内、実に3人が“金勘定に疎かった”のだ。


 しかし、ティエラだけは別だ。


 ティエラは“富農の娘”であるため、金勘定は大の得意だ。


 明晰な頭脳の持ち主であり、小さな頃から簿記や経理を覚え、実家の財務関係に携わっていた。


 旅立つ切っ掛けになった古の魔導書にしても、書庫の整理をしている際に、たまたま発見したという経緯であったりする。


 そんなこんなで“税金のイロハ”という知識・・から、“節税のやり口”などと言った知恵・・まで回り、パーティーの財務を一手に引き受けてきた。


 そんな彼女であるから、“10億マネイの報奨金”が“8億マネイ(税引)”になる事も、特段不思議な事ではなかったということだ。



「でも、20%はボリ過ぎだろ!?」



「“高額報奨金並びに高額所得税”の税率は10%から30%に定められてますからね。取得した状況や種類によって、税率が変化します」



「お、おう……」



「今回は“賞金”に分類されますから、規定によって20%。これで合ってますよ。あと、税引きされた金額はそのまま所得になりますんで、通常の所得税や住民税が引かれますよ」



「お、おう……。な、なら、せめて高額なんちゃらとか言う税金、10%とかにならないのか!?」



「10%のは、“給与所得による高額年収”にかかるものです。年収が100万マネイを超えると、確定申告の際に“高額所得者用金色(・・)申告書”を提出する事になります。一般の所得税に加えて、高額の収入がある人は特別枠の徴収があるんですよ」



「じゃあ、ティエラ、お前の実家は大地主だし、それを払っていたのか!?」



「払ってませんよ」



「払ってないの!? あんなどデカい土地持ちなのに!?」



「経費でかなりの金額を削ってますからね。なので、我が家の納税額は微々たるもんですよ」



 エッヘンと胸を張るティエラであったが、デビィドからすれば納得しかねる話であった。


 魔王軍と命懸けで戦っていた自分がごっそり税金を持っていかれるのに、お金持ちは税金を払っていないのだと言う。



「そもそもの話として、“高額報奨金並びに高額所得税”は個人・・にかかる税金ですから、ギリギリの金額まで貰えば、税金はかかりません。なので、あたしは0歳の時から法人化された我が家の農場の取締役に登録されて、“99万9999マネイ”を毎年賞与(・・)として貰ってましたよ」



「0歳で年収99万9999マネイ!?」



「99万9999マネイは賞与ボーナス扱いです。年収だと、もう少し上ですよ」



「……は?」



「ん~、こっちは“農業専従者特別控除”ですね。農作業もしくは農場経営の経理()の労働に従事し、規定の時間を超えたる者を農業専従者とし、年間65万マネイまでの給金を無税・・にするって制度です」



「無税!? 0歳の時から年間165万マネイ……、正確には164万9999マネイも収入があって無税!?」



「課税対象外になる金額、ギリギリ攻めてますんでね。条件としては、“農場経営者の3親等内の血族である事”となってるんで、小作人がそれに該当するわけではないですよ」



 つらつら述べられる驚愕の事実に、デビィドはただただ唖然とするばかりだ。


 自然と、ジャンの方へと視線が向く。



「殿下! こんな事、言ってますけど、いいんですか!?」



「税制、法律上は特に問題はないな。農業法人への給付や補助金、所得控除はかなり手厚いものになっているし、各地の役所もそれを心得ている」



「0歳児が高額報酬を受け取っていても!?」



「そこは現場の税務署やら国税局の職員、あるいは雇われの徴税官の匙加減次第だな。それこそ、『赤ん坊の泣き声が作業効率向上のBGM!』なんて言って、強引に押し通した奴もいたしな」



「なんか納得いかなぁ~い!」



「ついでに言っておくと、我が国の税の徴収は都市部は『王立国税局』傘下の『税務署』が引き受け、そこが住民から税を徴収する。しかし、地方はその土地の領主がその業務を請け負い、徴収した税の内、3割を王国中央政府に上納するようになっているぞ」



「そうなんですか。俺、育ちが王都なもんで、そこらへんは知らなかったですね」



「なので、地方の領主によったら新規で開発された“開拓地”は、無税・・に設定している場合もある。地均じならしや肥沃化などの農場整備期間を考えると、何年かは上手く作付けできるか分からんのでな」



「ええ!? じゃあ、ティエラの実家みたいな大地主って、無税なんですか!?」



「大魔導士殿の実家は、たしか開墾後何年かまでは“無税”に設定されていたはずだ」



「あんな土地持ちなのに無税!? 納得いかねぇぇぇ!」



 税金とはなんなのか。


 折角のお祭りムードが台無しにされ、世の無常を感じずにはいられない勇者デビィドであった。

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