第3話 英雄達の凱旋
王都ロンデニオンは熱狂の中にあった。
長らく続いた魔王軍との戦いに終止符を打ち、ついに魔王を打ち倒したのであるから、当然と言えば当然だ。
勇者デビィド、聖戦士モロコス、大魔導士ティエラ、聖女スオーラ。
4人は堂々たる姿で王都に凱旋し、人々からの歓声を受けた。
大通りには、何千、何万という群衆が集まり、英雄達の偉業を讃えた。
そんな人々に愛想よく手を振り、あるいは笑顔を向ける4人であったが、まずは国王への報告だと考え、王城へと足を運んだ。
城内でも、兵士から官僚、大臣に至るまで丁重に労われ、貴族からも感謝と祝福の言葉が投げかけられた。
そして、謁見の間にて居並ぶ廷臣の中を進み、跪いて玉座の主に恭しく頭を下げた。
その先には国王リシャールがおり、そのすぐ横には王太孫ジャンが侍っていた。
国王はすっかり枯れた老人であり、かなりの高齢である事は一目で分かるほどだ。
自身が長寿であるがゆえに、息子にも先立たれ、自身の継嗣に孫のジャンを指名したほどだ。
その老王が皺枯れた顔に笑みを浮かべて、その胸中の喜びようを表した。
「勇者デビィドよ、そして、その仲間達よ、よくぞ魔王を打ち倒した。その功績、大である」
「ハッ! 国王陛下よりの労いの言葉、感謝に絶えません」
普段はぶっきらぼうなデビィドではあるが、躾の方はしっかりしていたりする。
親代わりに育ててくれた祖父は、元々は近衛騎士を務めたほどに格式ある騎士で、引退する事になった後は剣術道場を開き、孫であるデビィドにも自身で伝えられる武術のすべてを授けていた。
その際に、ある程度の宮廷儀礼も指南しており、こうした王侯貴族を相手にする場面では役立っていたりする。
また、モロコスやスオーラもこうした儀礼や作法は、神殿に参拝する貴族などへの応対と言う事もあったため、修道院時代に習得しており、難なくこなせた。
むしろ問題なのはティエラであったりする。
田舎村出身で、こうした儀礼は一切やって来なかった。
とにかく周囲に合わせないとと焦りながら、落ち着かない雰囲気を出す。
何度もこうした場面はあったが、それでも慣れてはいない。
毎度、緊張で冷や汗をかく大魔術師の姿に、他のメンバーも苦笑いだ。
そんな姿を見ながら、国王リシャールは話を続けた。
「うむ。50年前、古の封印が解け、魔王が復活し、数多くの者が犠牲となったが、これでようやく平和に、ゴホッ、ゴホッ!」
「爺様、しっかりしてください!」
「ああ、すまんすまん。我が命が尽きる前に、何としてでも魔王の討伐をと考えていたが、それがギリギリで間に合って良かった」
「何を気弱な事を仰られる! 爺様は魔王討伐に尽力され、今こうしてそれが叶ったのですぞ! ようやく手に入れた平和、それを堪能する権利があります!」
「ジャンよ、その堪能する権利とやらは、これからを生きる者が手にするべき物。老い枯れたワシには、少々味付けが濃いというものだ。ゴホッ!」
いよいよ咳が止まらなくなってきたのか、ジャンは慌てて近侍に命じ、リシャール王を退出させた。
その姿はもうそれほど長くはないなと、人々に思わせるには十分であった。
「勇者一行よ、すまんな。爺様は全てが片付くまではと気力を振り絞っていたが、魔王討伐の報を聞き、気が緩んでしまったのであろう」
「国王陛下は長きにわたり、魔王討伐に尽力されたのです。自分が魔王討伐の旅に出た時、当時は15歳でした。しかし、そんな俺にも旅立ちの資金を提供され、こうして討伐することができたのです。感謝してもしきれません」
「まあ、それについては爺様の方針であったからな。王子時代は自ら前線で戦われ、数多くの武功を築いた」
「そうでございますね。若かりし日の武勇伝も相当なものでした」
「そして、王位に就かれてからは数々の改革を実行。『コンクリートから人へ!』を標語とされ、魔王軍に壊される建物より、魔王軍を蹴散らせる人材の育成に努めよと、強く推奨された。お前への援助もそれの一環だ」
実際、ジャンの言う通り、リシャールは人材育成に力を注いできた。
国民への負担、すなわち“税金”こそ重たいものではあったが、それは惜しげもなく人材育成に投入したのがリシャール王だ。
冒険者の初期資金提供は言うに及ばず、各地の武術、魔術の学校の奨学金、果ては装備更新の際の補助金など、投入された税金は枚挙に暇がない。
それほどまでに魔王討伐に熱を上げ、徹底的に“英雄”や“豪傑”を育てる土台を築き、その集大成とも言うべきなのが、現在の勇者パーティーなのだ。
もちろん、魔王軍との戦闘において死んだ者も多く、“当たり”を引くまで何度も何度も繰り返された“投資”と“戦死”。
それでもなお、魔王のもたらす闇を振り払う事ができなかったが、その闇をとうとう振り払う事ができた。
諦めずに何度も税金が投入され、“英雄選定”を回し続けた結果、ようやく現れたのが今の勇者パーティーだ。
ついに念願が叶ったのである。
リシャールがついつい気を緩めてしまうのも致し方なく、そして、“人生の目的”を達せられた老人の先がそれほど長くはない事も、察するに余りあるものであった。
微妙な空気がその場を包み込んだが、ジャンはパンと手を叩き、下がり気味の思考を元に戻した。
「まあ、それはさておき、だ。こうして魔王討伐が叶ったのであるし、勇者一行にはその英気を存分に養ってもらいたい!」
「ありがとうございます、ジャン殿下!」
「王都では三日三晩のお祭りとし、存分に飲み食いするが良い!」
「重ねて感謝いたします、殿下!」
デビィドとしては、待ちに待った“英雄の味”を堪能する瞬間がやって来たのだ。
美味い酒の豪華な食事、群がる美女に功績を讃える吟遊詩人、どれもこれも並の人間では味わえぬものであり、今までの労苦が報われるというものだ。
そして、より肝心なものがもう一つ。
「殿下、今一つ」
「あ~、あれだろ。魔王討伐の報奨金の事だな?」
「左様でございます!」
「それについては、祭りが終わってからにしよう。祭りを楽しみ、“0”の増えた預金通帳を土産に、それぞれの帰るべき場所に帰るが良かろう」
「ハッ! ありがとうございます、殿下!」
英雄の看板、多額の賞金、何もかもが輝いて見える。
勇者デビィドは今、人生の楽しみと言うものを謳歌し始めた。
無論、それは他のパーティーメンバーも同様であり、今までの苦労がようやく報われると全員が感謝と感動を共有した。
そして、祭りが始まり、長き戦いは終わったとすべての国民が喜びを分かち合うのであった。




