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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第2話 討伐したその後は

「見ろ、魔王の滅び、悪の最後だ」



 少し離れた小高い丘の上で、勇者デビィドは腕を組みながら感慨深く呟く。


 音を立ててく崩れ行く魔王の城を眺め、そして、ようやく実感を持つ事ができるようになってきた。


 ついに魔王リボーを倒した、と。



「ついにやったな、デビィド! 我々の完全なる勝利だ!」



 同じく腕を組み、涙まで流して感動するモスコロ。


 鍛え抜かれた肉体は、ついに魔王さえも倒せたのだと、まだ緊張が解けぬ筋肉がバインバインと唸る。



「これでようやく平和が訪れますね。子供達の明るい未来に祝福を……!」



 何度唱えたか分からない程の神への祈りを、今再び手を合わせるスオーラもまた、その想いは一入ひとしおだ。


 これでもう、自分のような戦災孤児が生まれてくるような事はない、と。



「いや~、魔王はやっぱり強敵でしたよね~。でもまあ、これで一件落着っと」



 ティエラもようやく終わったか、という思いが強い。


 年端もいかない少女が、勢い任せに実家を飛び出して旅と修行に明け暮れ、ついには魔王さえも倒したのである。


 これで故郷のみんなも、家族も大喜びだと、胸を張って帰る事ができる。


 そう思うと、今までの苦労が吹き飛び、自然と笑みがこぼれてくる。



「しかぁ~し、それ以上に重要な事がある! ティエラ、分かるな!?」



「モチのロン! それは……!」



 そして、デビィドとティエラは息を合わせてハイタッチ。


 パチンと良い音が鳴り響く。



「「魔王討伐の賞金! イェ~イ!」」



「現金だな、二人とも」



「ですわね」



 何かにつけて大笑いするデビィドとティエラ、それを生暖かく見るモロコスとスオーラ。


 このパーティーではおなじみの光景だ。



「お前ら、ノリ悪いな! とんでもない金額だって知ってんだろ!?」



「そうそう! なんたって、10億マネイよ、10億マネイ!」



「しばらく遊んで暮らせるよな!」



「しばらくって、勇者様。4人で分けても2億5000万マネイ。一般庶民のおおよその年収がだいたい50万マネイだし、500年分よ!?」



「100倍浪費するから、すぐに無くなるって」



「も~、ちょっとは考えて使おうよ~」



「そういうティエラはどうするんだ?」



「もちろん、あたしと勇者様との結婚式を盛大に行う!」



「そっちも大概の散財じゃねぇか!」



 呆れる勇者デビィドであったが、実のところ、なかば冷や汗をかいていたりする。


 それは見解の相違だ。


 ティエラはデビィドの事を、恋人だと思っている。


 だが、デビィドはティエラの事を、恋人だと思っていない(・・・・・・)


 旅の最中、幾度となく肌を重ねてきた二人。


 ティエラはそれを“ちぎり”と認識しており、いずれは結婚して一緒に暮らすのだと考えていた。


 一方のデビィドからすれば、それは単なる“生理現象”に過ぎない。


 溜まってたから手近な女に手を出したという、それだけの話だ。



(まあ、それなりに可愛くはあるんだけど、田舎娘だしな~)



 デビィドの目は肥えている。


 そもそも生まれも育ちも王都であり、根っからの都会派なのだ。


 王都に住んでいる富豪令嬢、貴族令嬢を見て育ってきたため、女の容姿に関しては割とうるさかったりする。


 “上の上”を見てしまうと、どうしてもそれを基準に値踏みしてしまうのだ。


 一方のティエラは田舎村出身の農家の娘だ。


 農家と言っても、いわゆる“富農”と呼ばれる大地主で、裕福な農民であった。



「あっちの山からそっちの山、その間の土地はあたしンちの畑よ」



 以前、旅の途中でティエラの実家に立ち寄る事があった際、こんな事を言われて、他3名は度肝を抜かれた事がある。


 広大な畑、数えきれないほどの小作人、本当の金持ちってこんなレベルなのかと、メンバーを驚愕させた。


 そんな裕福な農家の娘が旅に出たのは、古い土蔵の書庫に封印されていた魔導書を手にしてしまったからだ。


 好奇心旺盛なティエラは、あろうことか独学で魔導書を解読。


 自力で魔術を習得してしまえるほどに才能豊かだと知ってしまったティエラは、腕試しと称して実家を飛び出し、程なくして旅仲間を探していたデビィドと出会い、それ以来の付き合いであった。


 お年頃の男女が組になって出歩くと、当然、“恋”や“生理現象”が芽生えるものだ。


 モロコスやスオーラが加わってからも、それは変わらなかった。


 なお、デビィドより美人なスオーラに手を出さなかったのは、恐ろしい程に身持ちが固く、誘いを全てスルーされたからである。


 そのデビィドの判断基準で見た場合、ティエラのレベルはせいぜい“中の上”、胸の大きさや形を加味して“上の下”でしかない。


 十分と言えば十分なのだろうが、今の自分は違うと考えていた。


 なにしろ、“魔王を倒した勇者”という肩書を手に入れたのだ。


 そうともなれば、見目麗しい貴族令嬢の方から腰振って誘って来る。


 “上の上”さえ、余裕の射程圏内だ。


 わざわざティエラと添い遂げる事もないか、そう考えてしまっていた。



(適当言って、別れを切り出さんとな。下手すりゃ【滅びの火(メギド・フレア)】が降り注いできて、辺り一面が焼け野原だぜ!)



 それゆえの冷や汗だ。


 自分はどうにかできても、周囲を巻き込んでしまいかねない。


 魔王にも通る一撃を放てる者は、存在自体がある種の“災厄”になりかねない。


 それはそれで慎ましくしておかないとなと、デビィドは思うのであった。



「あ~、スオーラはこれからどうするんだ?」



 デビィドは話題逸らしで、他のメンバーのその後について尋ねてみる事にした。


 実際、気になるし、聞いておいても良いか、と。



「私は魔王を討伐できましたし、孤児院に戻りますわ」



「あ~、そっか。それが目的だったもんな」



「子供達の世話をして、のんびり過ごしますわ」



 スオーラは元々、修道院に併設された孤児院の出身であった。


 魔王軍との争いが激化し、それに巻き込まれて村々が焼かれ、孤児や難民が大量に発生。


 スオーラもそんな一人で、誰よりも争いの虚しさと過酷さを知っていた。


 孤児院でどうにか生き延び、大人になってからは神職を志すも、争いは収まる事を知らず、戦火は広がる一方。


 ならば元を絶とうと思い至り、平和のために魔王討伐を志して旅に出たのが、スオーラであった。


 そのスオーラの旅路に同行したのが、モロコスだ。


 モロコスは騎士修道会“テンプル騎士団”に所属する、駆け出しの騎士であった。


 こちらもスオーラと同じく孤児院の出身で、モロコスは皆を守る力を求めて騎士になる道を選んだ。


 普段は修道士としての活動に勤しみ、いざという時には甲冑に身を包んで人々を守る戦士として戦う。


 そういう集団が“騎士修道会”だ。


 年若い娘が身一つで旅立つのは危ないと考え、騎士団長や修道院長の許しを得て、スオーラと旅立つ事にした。


 そうして旅先で出会ったのが、この勇者パーティーの馴れ初めだ。


 お気楽なデビィドとティエラ、お堅いスオーラとモロコス、真逆な組み合わせであったが、妙に馬が合い、とうとう魔王討伐まで達成された。


 平和になったからには、もう旅の理由もない。


 スオーラとしては、元いた孤児院、修道院に戻り、子供達の世話と神への祈りに捧げる日々に戻るだけであった。



「まあ、スオーラは旅の目的がそれだもんな。んじゃ、モロコスは?」



「それがしも戻りますよ。スオーラ殿の護衛が役目でしたし、スオーラ殿が修道院に戻られるなら、それがしもまた騎士団に戻るだけです。神殿テンプル騎士団の方々にも報告に戻らねばなりませんので」



「ん~、そっか。じゃあ、目的も達成したし、パーティーは解散だな」



「ちょっと名残惜しいですよね~」



「ですわね」



「なぁに、思い出は“筋肉”に記憶されていますよ」



「せめて“頭”にしろ」



 体を鍛える事に執念を宿すモロコスらしい言葉に、他3名は苦笑い。


 これもまたよくあるやり取りの風景だが、それも間もなく終わる。


 魔王が倒れ、平和となったからには別れが来る。


 それは逃れられない運命か、それとも何かの意思なのか。


 それは誰にも答えを出せるものではなかった。



「まあ、湿っぽい話は後にして、今は王都に帰ろうぜ! 王様に報告だ!」



「そうですよね! 超絶歓迎されますよ!」



「おう! 酒池肉林、感謝感激雨あられ!」



「そして、賞金でガッポガッポ!」



「おう! 笑いが止まらんな!」



「んじゃ、さっさと【瞬間移動テレポート】でって、あ、MP切れてたわ」



「おいおい、シまらねえな、天下の大魔導士様は」



「しゃ~ないでしょ! 魔王もそうだけど、魔王城に陣取ってた幹部連中も手強かったんだから! 魔法薬ポーションやらアイテム類もきれいさっぱり使い切ってるし」



「ま~な。……って、あれ? なあなあ、魔王軍幹部『八つの悪意(オォト・マリーツィア)』、一人足りてなかったような?」



「あ、そう言えば……」



 デビィドに指摘され、指折り数えるティエラ。


 そして、倒した顔触れと、折れた指の数は“7”。


 確かに、一人倒していない事に気付いた。



「……あ、“金欲”のペコニア! あいつを倒した記憶がない!」



「あ~、ペコニアか。なら、ほっといても大丈夫だろ」



「ちょっと勇者様、無責任すぎませんか!?」



「いや、だって、あいつ弱いし」



「まあ、確かに、純粋な戦闘力としては幹部最弱ですよ。でも、あいつの持ち味は、悪辣な作戦を生み出す頭脳と、的確な後方支援ですよ!? これまで何度、あの悪辣な頭脳から繰り出される罠に手を焼いた事か!」



「まあ、そうだわな。……んで、補佐役としては極めて優秀だが、その補佐すべき魔王は倒れた。肩を並べる他の幹部ももういない。あいつの補助魔術や回復魔術は毎回悩まされたが、それもこれも他の幹部とセットで登場した時だけだ」



「あ、そっか。いくら優秀な参謀も、動かせる駒がないと、その能力を活かしきれないですよね!」



「つまり、あいつ単独だと、全然大した事がないってわけだ。もちろん、何か悪巧みをすれば、その時は改めて討伐すりゃいいだろ。何しろ、弱いし!」



「なるほど! さすが勇者様ですね!」



「探し出す手間を考えたら、出てきてもらうのが一番さ。ほっときゃ出て来るかもしれんし、そのときはまたパーティー再結成かな」



「はい! そうしましょう!」



 ほんの一抹の不安は残ったが、それは大した問題にはならない。


 そう考えた勇者一行は、王都への帰還に必要なMP回復のために、宿屋を求めて魔王城(跡地)を後にした。


 なお、到着した宿屋兼酒場では大いに盛り上がり、「昨夜はお楽しみでしたね」と、店主に茶化される勇者と大魔導士であった。


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