第49話 情報を制する者は世界を制する
「いや~、面白い余興であったぞ! やはり人間関係に楔を打ち込み、仲違えさせるのは実に心地よい! ( ^皿^)=3 ムフゥ~」
魔族は人の負の感情を糧とする。
勇者が風俗通いしてましたよとバラした後はもうメチャクチャ。
ティエラはデビィドにガン詰めするし、スオーラからは冷ややかな視線で蔑まれるし、モロコスも明後日の方向を向いて呆れ返る。
今や勇者パーティーは修羅場と化した。
「まあ、話が進まなくなるから今のところはこのくらいにして」
「あ、後で俺、またガン詰めされるのか」
「誰のせいですか、誰の!? あたしがいながら風俗通いとか、勇者様、あたし、マジで怒っているんですからね!?」
「はい、スイマセン。反省してます」
実際、勇者は大人しくなり、反省している。
ホントにこの一年は何やってたんだと、今更ながらに後悔している。
もし、不貞腐れて自堕落に陥らずに、ごくごく“普通”に生活していればと思わない日はない。
今の苦境はこの一年分の罪の証だ。
高額納税も回避できたし、いくつかの真っ当な道筋もあった。
そのことごとくを潰した上に、パーティーメンバーからの信用も暴落した。
自業自得とは言え、取り戻すのは難しい。
しかも、取り戻すのには“魔王との握手”が不可欠と来た。
踏んだり蹴ったりではあったが、まずは苦境の脱出が優先であると切り替えた。
「んで、話から察するに、“監査と手土産”の状況を利用して、ペコニアはテンプル騎士団の“他者に渡るとマズい帳簿”を手にしたってところか?」
「そう言う事だ。事前の仕込みで騎士団関係者の“内部告発”と言う形にしてな」
「あ~、つまり、“手土産”の中に、その手の書類をわざと紛れ込ませ、ペコニアに渡るようにしたって話か」
「まあ、騎士団も全員が全員、不正に加担していたと言うわけでもないし、快く思っていない者もいると言う事だ。組織に属していると、しがらみもあって当然」
「あんだけデカい組織だしな。外部の監査だけじゃ時間がかかるだろうし、そもそも“事前告知”がある以上、ヤバい書類は隠される」
「そんなわけで定期的な“財務監査”が行われるのに合わせて、その国税局の調査部の派遣員の中に、“国王権限”でペコニアを紛れ込ませたというわけだ。もちろん、【変身】の術式を使って、魔族の姿を隠した上でな」
「内部告発者とペコニアの“金の嗅覚”があれば、不正を暴く事も容易か」
「あとはニュースで世間で流布されている通りだ」
そこからはまさに電光石火だ。
今までであれば“財務監査”の後に、“僅かな不正の発覚”で終わる。
だが、今回は違った。
本気で不正を正そうとする国王ジャンと、“金欲”のペコニアが手を組んだのだ。
得られた“本物の帳簿”を理由に本格介入。
大規模な不正が発覚したと、国王の息のかかった国税職員や雇われた徴税官や弁護士を総動員して騎士団への“本当の財務調査と告発”を敢行。
まさか二の矢が飛んで来る事を予想していなかった騎士団は、今までの不正を全て暴かれてしまった。
しかも、財務監査だけに留まらず、“奥の院”で行われた少年少女への不埒な行いも暴かれ、とどめとばかりに“邪神の神像”まで仕込むと言う徹底ぶり。
騎士団の堕落は、邪神への信心のせいであると世論も固まった。
騎士団は不正と腐敗の象徴とまで世間では糾弾され、その後の騎士団への処置は当然であると、誰も彼もが支持する声を上げ、ジャンは見事に不正を正した。
「で、ジャン王は徹底して騎士団を潰した。幹部連中は全員火炙り。正規の騎士も全員逮捕。モロコスや“内部告発者”なんかの一部を除いてな」
「そして、財産も全没収と」
「不正に貯め込んだものだし、当然と言えば当然だ。テンプル銀行の方は独立採算制にしてたんで、不正は騎士団本体ほどではなかったが、取締役会は全員刷新。新たな執行部は全員、国王の息のかかった者ばかりになり、実質、国営銀行に様変わりだ」
「徹底してんな、陛下も」
「腐ったものは根から絶やさねば、全体に波及するからな。当然の対応だ」
「何より、魔王が正論や不正是正に言及している事にな」
「何の事はない。“契約は絶対”だからな」
魔族にとって、契約は己自身の存在証明でもある。
現世に顕現できるのも、契約により存在証明できているからに過ぎない。
あるいは実体化できるだけの“糧”があるかどうかだ。
そう言う意味において、かつての戦争がそうであり、政治の腐敗もまた快適な寝床とも言える。
「でもさ、それだと陛下との契約に反してないか? 前に見せてもらった契約の内容だと、『王国への敵対行動』は縛られているはずだが?」
「不正を正し、王国を正しい方向に導く。どこも違反してない」
「陛下に対してもか?」
「国王自らが“腐敗の中心”に身を置くのであれば、王それ自体も排斥の対象だ。病巣は取り除くに限る。“王国”という器そのものへの攻撃ではないからな」
「ある意味、詭弁だな」
「悪魔は人を欺くものだろ? 契約に反していない以上、それは“合法”なのだよ」
「あくまで、順法闘争で勝ちを得るつもりか」
「王国の流儀に合わせているだけだ。文句があるのであれば、王国の内側に魔王軍を引き入れた、愚かな王様に言う事だな」
「それはまあ、その通りではあるな」
いくら転生に失敗して力の大半を失った魔王とは言え、それを甘く見たと言う点ではジャン王の失敗と言える。
結局、魔族は信用ならんと言う点では、勇者パーティーの認識は一致した。
「質問。シャルル様に対してもそういう腹積もりなの?」
尋ねたのはティエラだ。
シャルルはティエラの実家のある土地の領主であり、そこの動き次第では自身に大きな影響を及ぼす。
そして、シャルルとペコニアが繋がっている事も認識している。
ジャンには『王国に敵対しない』と契約し、シャルルとは『シャルルを王国の実権を握らせるように動く』という契約を交わしている。
節操なしな契約とも言えるが、魔王はそれをなんとも思っていないのか、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる。
「シャルルの方はもっと阿呆だ。あやつめ、魔王軍を密かに取り込み、こき使っているように考えているのだろうが、とんだ落とし穴がある」
「どんな落とし穴?」
「実はな、シャルルめ、魔王が転生している事を知らんのだ」
「はぁ!?」
「つまり、奴の頭の中では、“魔王軍の残党の頭領はペコニア”と言う事になっており、その上に魔王がいる事を知らんのだ」
「じゃあ、契約が端から意味を成していないって事!?」
「そう言う事だ。まあ、ペコニアは契約通りにシャルルのために働くし、実際、今は奴の下であれこれ動いている。だが、その契約では“魔王”は含まれていない。よって、程々のところで始末されると言う事だ。魔王の手ずからによってな!」
「うわぁ……」
「それにな、確かに王国の実権を握らせると約したが、時間指定はしとらん! いつやるのか分からんし、いつまで大権を持てるのかもな! 三日天下もあり得るぞ? クククッ……! ハァッハッハッハ~!!」
大笑いする魔王リボンちゃん。
たしかに、ペコニアと契約した事は聞いていたが、その際に“魔王”については一切言及されておらず、そう言う事なのだろうというのは理解できた。
やはり魔族との契約はエグいなと、寒気を覚える4人であった。




