第48話 腐敗は加速する
「結局のところ、今までは魔王軍がいたから、そうした腐敗をある程度抑止する事が出来た。それがいなくなった途端、抑えが利かなくなった。人間とは実に愚かしいものだな」
魔王リボンちゃんの発言に、勇者パーティーの面々は反論もできない。
実際に不正の証拠をまとめた書類の山を見せられ、現状を鑑みるに、まさに魔王の言う通りだからだ。
なお、魔王からすれば、今の環境は実に快適であったりする。
人が放つ“心の腐臭”は、悪魔にとってはこれ以上にない好餌。
毎日、御馳走を食べている気分だ。
「だが、それだと本当にジャン陛下を排斥する理由が見当たらんのだが?」
「不都合だからだよ。魔王軍にとっても、勇者一行にとってもな」
「まあ、ジャン王は不正に立ち向かっているし、腐敗した人間が大好きな魔族からすれば目障りだろうな。だが、俺らにとっては?」
「おいおい、現状、お前らは満足する状態にあるか? 魔王を倒した英雄様だぞ? それが“報われた”と言えるのか?」
「む……、それは……」
「言葉に詰まったな。それが“答え”と言うわけだ」
嘲笑うかのように声をあげて笑うリボンちゃん。
魔王の指摘は、まさに正鵠を射ていた。
自分の落ち度があったとは言え、税金で何もかもを奪われた勇者デビィド。
所属していた組織の上層部に不正があったとは言え、地位も名誉も財産も失うハメになった聖戦士モロコス。
子供達の未来のために戦ったというのに、その孤児院が騎士団解散の余波を受けて潰されてしまった聖女スオーラ。
そして、そのとばっちりを受けてしまった大魔導士ティエラ。
その“全て”が国王ジャンの差配である。
一時的な不利益は事情が事情だけに甘受できたかもしれないが、追加でやって来た指示が“不穏分子扱い”だ。
それを弁明するために、ティエラとモロコスは“レベル”さえ失った。
立て直すのに時間がかかるし、そもそも立て直させてくれるかどうかも不明だ。
今や救国の英雄である勇者パーティーは、王国にとっては目障り極まる存在に成り果てていた。
「それになぁ、ジャン王自身も“腐敗”に染まりつつある」
「なんだと!?」
「おいおい、魔王と握手を交わすような男だぞ。毒を以て毒を制すると言えば聞こえはいいが、程々にせねば自身もまた毒に冒される。道理ではないかな?」
「そ、それはそうだが……」
「特にこれ。ペコニアが調べて来てくれたが、酷いもんだぞ」
そう言って、リボンちゃんは書類を数枚、提示してきた。
そこには“意味深な接待”の記録や“汚職”に関する情報が事細かに示され、4人を唖然とさせるに十分な内容だった。
「おいおい、毎晩、建築関係の人間呼んで、宴会三昧って」
「しかも、それを秘匿するために、豪華な大型馬車を設えて、そこで接待!?」
「あ~、そう言えば、冒険者の方から耳にした記憶がありますね。『居酒屋馬車』とかって言う……」
「どうみても“癒着”だよな、これって」
汗水たらして得た稼ぎが、税金として吸い上げられる。
それがちゃんと社会を循環し、国民が恩恵を享受できるのであれば我慢もしよう。
だが、その実態は“これ”だ。
上流階級の贅沢のために消え、あるいは一部の業者が不正に利益を得る。
それが示された以上、4人の方向性は定められつつあった。
「あとな、まだ確定事項ではないが、どうにも“性接待”まで及んでいるそうだぜ」
「マジかよ……。国王最低だな!」
「今は個人経営で営まれている“売春業”を、明確な組織として一本化し、全国統一の組合を立ち上げるって話が出ているみたいだ。もちろん、その新たに立ち上げるであろう特殊接待組合はお上の紐付きでな」
「何の狙いがあってそんな事を!?」
「当然、上納金やらが目当てだろうな。今の自由営業は制限され、役所の許可が無ければ営業できなくなる。当然、公認やら免状を得るために、裏では色々とある。役人に女をあてがって性接待、もしくは袖の下。当然の流れではないかな? 新聞で大きく報じられていたぞ」
今度は新聞記事の切り抜きを収集したであろう、スクラップブックを出すリボンちゃん。
その中の一つに、『国王陛下、業者と癒着!? 不埒三昧なる夜の政務!』とデカデカと見出しが躍っていた。
「てか、タブロイド紙じゃねえか! あんまし信用できんぞ、そういうのは!」
「まあ、そうなんだが、火のないところに煙は立たないのが道理だ。事実、先程の『居酒屋馬車』にそういう女衒関係者が乗り込む場面も目撃されている。もちろん、建築関係者が女と乗り込んでいる様子と一緒にな」
「この記事が事実かどうかは別として、何かしらは動いているって事か!」
「それにほれ、勇者様御用達のお店、ノーパンしゃぶしゃぶ『さくら』とか、ノーパン喫茶『センチメンタル・ジャニーさん』とかも。それとパフパフ屋『アッサラーム・アライクム』もだな」
「ちょ、おま、何バラしてんだよ!?」
まさに悪魔の所業。
この一年間の自堕落な生活の内情を、ここぞと言う場面で暴露した。
腹を抱えて笑うリボンちゃんだが、それもそのはず。
ティエラが席を立ち、デビィドの耳を摘まみ上げた。
「いててててて!」
「勇者様!? この一年、マジで何やってたんですか!?」
「浮世を離れた生活をだな……」
「むしろ、染まり切ってたんじゃないですか!」
「他にもまだまだあるぞ~。勇者の事は毛穴の数まで調べ尽くしたからな! ここ一年の交際関係なんぞ、当然、網羅している! 凸(゜Д゜) クタバレ」
勝ち誇る魔王の高笑いが響く。
勇者の株は仲間内で大暴落するのであった。




