第46話 騎士団の裏事情
「いかんな。話が逸れてしまった。騎士団の“裏”を語っていたと言うのに、ついついお喋りになってしまった。金の魔力とは恐ろしや恐ろしや」
などとわざとらしく語る魔王リボンちゃん。
ティオラはある程度把握していたとはいえ、他3人からすればまさに“世間の裏”を知った気分であり、あまりいい気分ではない。
汗水たらして働いて得た金も、税金として取られてしまう。
だが、国のためにと思って納税しても、本当のお金持ちは払っていない。
なんともやるせない気分だ。
そんな嫌な空気が漂う中、魔王は話を続ける。
「んで、テンプル騎士団は“喜捨”と言う形で信者や後援者から、金銭を受け取っていた。ただ、それを過少に報告して収入を下げ、逆に経費を余分に計上する事で支出を上げ、騎士団としての利益はなし。そう取り繕っていたというわけだ」
「え!? 銀行は大儲けしてたんじゃ!?」
「テンプル銀行は独立採算方式を採用していて、独自の決算を行っている。あちらは“指定口座”に政府公認されているから、監査の目が厳しくてな。不記載なんかの不正帳簿を残すのは不都合だっただけだ。だから、騎士団本体と金融部門は、“金銭的には別組織”と言っても良い」
「じゃあ、表向きは優等生を気取って、裏じゃ不正を働いていたって事か!」
「まあな。酷いところだと、下部組織である孤児院やら修道院に渡している諸費用を何倍にも計上し、実際に渡った分の差額を、騎士団幹部が懐にしまい込んでいた事例もあるくらいだ」
そう言って、魔王は腰から下げていた道具袋に手を突っ込んだ。
空間を圧縮して、見た目の容量以上に収納できる“異次元ポケット”という物運び用のアイテムであり、そこからドサッと書類の束を取り出した。
無数の数字や注釈が書き込まれたそれは、テンプル騎士団の財務帳簿であり、そこには揺るがない不正の証拠がびっしりと記載されていた。
数字に弱いデビィド、スオーラ、モロコスはともかく、ティエラにはそれがどういったものであるかはすぐに理解できた。
実際、手に取ってその数字を眺めてみても、とても正気の沙汰とは思えない内容ばかりであった。
「かぁ~! なによ、これ! どんだけ“喜捨”の現金収入を不記載にして、財産を隠匿してたのよって話だわ!」
「喜捨については帳簿にも残らんし、寄進者には“領収書”も渡さんから、実態把握はできないと言う事だ。文字通り、“喜”んで金を“捨”ててくれる皆様、感謝しておりますって感じだ。皮肉も皮肉。“信者”は“儲”かるからな!」
「まあ、お賽銭やら寄付をカードで! ってのはなんかこう、有難みが無いって言うのは分かるけどさ……。これを見せ付けられると、さすがにどうなのって思うわ」
「領収書なんかの騎士団の“外”に調べる術がない以上、そこいらは本当に野放し状態になっていたのだろうな。ペコニアの“嗅覚”がなければ、外からは分からんて」
内部からの密告でもない限りは、まず判断しようもない話だ。
歴代の王が、巨大になり過ぎた騎士団の扱いに苦慮していたのも、分かると言えば分かる事案でもある。
魔王軍との戦いにおいては、騎士団は戦力となる。
巨大な銀行は経済の発展には不可欠であり、それを生み出した騎士団は国に必要不可欠な存在と言える。
ティエラは見せ付けられた書類を他3人にも口頭で説明し、金勘定に疎い3人にも理解させた。
なお、一番怒りをあらわにしたのはスオーラであったりする。
「こ、これだけの予算があれば、もう少し子供達の食事や衣類もマシなものを用意できたと言うのに、なんという厚顔無恥で破廉恥な……!」
「ところが、そんなもんは“腐敗”の一部なんだよな~、これが」
「え……?」
「聖女スオーラ、孤児院の子供って、“成長”したらどこへ行く?」
「どこへって、まあ、私のような魔力持ちは神職になったりしますし、モロコスのような偉丈夫ですと、騎士団に“従士”として登用されたりしますが」
「そんな恵まれた未来を掴めたのは、ほんの幸運な一部だけだろ? もっと他の、大部分はって話だ」
「それなら、“転職の神殿”やなんかで職業斡旋が行われ、あちこちに巣立っていきますが?」
「その雛鳥が向かった先が、“毒沼”だとは考えないのか?」
何も知らんのだなぁと、聖女を嘲る魔王。
目の前の美女にして聖なる乙女は、本当に教団の“奇麗な部分”しか見て来なかったのかと、笑い飛ばしたい気分になっていた。
同時に、“神徳”に純粋培養された聖女を汚すという、言い表せない被虐感も芽生えてくる。
「程々に熟れた少年少女の向かう先、それは教団や騎士団の“奥の院”だ。そこで幹部連中の欲望と享楽の贄となる」
「な……!」
「孤児であるから、誰も探さない。“奥の院”であるから、誰も調べられない。腐敗しているとは言え、強大な力、影響力を持つ教団や騎士団。逆らえないし、逆らう気にもならないという事だ」
「そ、そんな……! 騎士団長や修道院長も!?」
「教団の方は、どの程度の幹部かまではこちらもまだ把握しとらんが、騎士団の方は“幹部全員”だ。今、そいつらがどう報われたか、改めて言う必要もあるまい?」
そう、結果はすでに出ていた。
邪神崇拝の罪で教団幹部はことごとくが拘束され、火刑台送りとなった。
だが、それは表向きな理由であり、本当は“腐敗した巨大組織の粛清”をこそ、国王であるジャンは狙っていた。
「悪徳業者の摘発は今後の課題だな」
それはかつて、勇者パーティーが魔王討伐の報奨金を受け取った席で、ジャンの口から発せられた言葉だ。
その時は不正を働いている者を処罰する程度に考えていたが、その対象が国内最大級の組織であるテンプル騎士団を指していた事には驚きだ。
と同時に、ジャンの危うさをも感じてしまう。
なにしろ、騎士団を締め上げるために、“魔王”さえ取り込んだのだ。
腐臭漂う愚者を抹殺するため、悪魔にすら握手を求めた事になる。
毒を以て毒を制するとは言うが、それは大丈夫なのかと心配でならない勇者パーティーであった。




