第44話 冒険者へ課税
税金に社会の変化、それらが色々とのしかかって来るのを、嫌でも感じてしまう。
どうにかならないのかと思いつつも、やはり世情に流されてしまうものなのかと、嘆く勇者パーティーの面々。
その表情は誰しもが硬い。
特に金勘定が得意なティエラが、よく理解しているだけに余計に辛く感じていた。
「冒険者への課税は前々から曖昧で上手く徴税できてなったのが、度々問題として挙がっていたのよね。魔王軍との戦闘もあるから、強力なモンスターと戦える冒険者には徴税が手緩かったって理由もあるし……。一時は“専売制”を利用して、課税を強化しようって動きもあったけど」
「専売制?」
「ちょっと古い徴税方法です。物品の売買を公的機関や指定された業者以外が取引すること禁じる感じですね」
「それでどうやって税金を徴収するんだ?」
「例えば、製塩業を営んでいるとしましょう。市場価格は1キロ100マネイとします。でも、売買の窓口になっている塩の公社は1キロ90マネイでしか買い取ってくれません」
「なるほど! 市場価格と買取価格の差が、実質的な税金扱いって事か!」
「税金の徴収方法が未整備だった時代のやり方ですよ。これだと、取引成立イコール徴税完了を意味しますから、税務署は各公社の収支を確認するだけでどれくらいの税を徴収できたか分かりますし、役人の手間が少なくて済みます」
「銀行やらカード決済がない時代だと、分かりやすい税金だな」
「はい。鉄、塩、酒、日常生活と密接に関わりのある物品は専売制が採用され、公社を介さない取引は違法とされ、処罰の対象になっていましたよ」
「ん~、なら、ティエラの実家みたいな農場はどうなんだ?」
「その場合は“農業協力公社”が窓口になっていますね」
「あ、それは知ってる! いわゆる“農協”ってやつだな!」
「昔は、農作物は領主に年貢として規定量を現物で納めて、残りは農家の自由にしても良かったんだけど、農作物の販売、現金化には、“農協”を介さないとダメって法律があったの」
「うわ、マジか」
「だから一時、農協が暴利をむさぼっているって、悪評が立って色々大変だったみたいよ。いつだったか、“大豆”がブームになった時に、みんながこぞって大豆を作ったんだけど、農協のお偉いさんが専売制を盾にして、とんでもない低価格で買い叩き、高値転売して顰蹙を買ったのよ。その時の買取価格、いくらだと思います?」
「さあ? それこそ、市場価格の50%とかか?」
「そんなに良心的じゃない。市場価格の6%ですよ! 1キロ100マネイだとすると、農協での買い取り価格は1キロ6マネイ!」
「税率94%!? んなの、誰も大豆作らなくなるだろ!?」
「まさにそうなったわ。翌年、農協を介した大豆の取引は見事に“0”! 農家は大豆を作らなくなったか、もしくは闇市場に流れて、大豆相場は壊滅したわよ!」
「金の卵を産む雌鶏を絞め殺す愚行だな!」
「んで、これにブチギレた先王リシャール陛下は農業行政を徹底的に刷新。結果、農作物の現金化には農協を通さなくてよくなった。代わりに、農協は“金融業”の免状を公布され、農家相手に金貸しを始めたのよ。農家の互助組織となり、低金利での貸し出しとか、農家だけが入れる特殊年金の運用とか色々とね」
「やっぱ、リシャール王すげえな。毎度、話を聞く度に驚かされる」
デビィドは老いた姿しか記憶にないリシャール王であったが、闊達に動き回っていた時はとんでもない剛腕の政治家だったのだなと素直に感心した。
「リシャール陛下のやり方は“高負担・高福祉”だからね。税金は高いけど、リターンもまた大きい。集めた税金を完璧な形で運用していたとも言えるわ」
「税金は高くとも、それに見合うだけの効果があれば、誰もが納得するもんな」
「実際、『コンクリートから人へ!』を徹底的に実践して、魔王を倒すところまで漕ぎ着けたんだから大した王様だと思う」
ティエラの中では、リシャールは王様、経営者としては完璧だと考えている。
“選択と集中”を誤らず、集めた血税を見事に使いこなして、魔王軍を倒したのだ。
初志貫徹という言葉が、これほど似合う人物というのも中々にいない。
「んで、そうした専売制による徴税と、冒険者への課税はどう繋がるんだ?」
「冒険者の収入で何と言っても、大きい収入は2つ! 分かるわよね?」
「ああ。クエストをこなした際に支払われる成功報酬と、もう一つはドロップアイテムの売却だ。……ああ、そういう話か。つまりドロップアイテムを扱う専売制の公社を設けようってのが、冒険者への課税強化だったってわけか!」
「そういう事! ドロップアイテムを売却するのを、冒険者組合と国税局の半民半官の合弁会社を設立して、そこに集中させようとしたの。ドロップアイテムを税率分安めに買い取って、それで課税した事にしようって話。そのドロップアイテム公社を通さずに売買したら、盗品扱いで即逮捕くらいの勢いで」
「でも、そういう組織は今、ないよな?」
「冒険者が一斉にボイコットしたそうよ。命懸けで戦っているのに、こうまで露骨に稼ぎを持っていかれるのは我慢ならんって言って」
「当然だな。誰だってそうする。もし、その時に現役だったら、俺だってそうする」
「なので、ドロップアイテム公社は計画倒れになって消滅。今に至るって話。今はカード決済や銀行口座からの徴税が可能になったし、高ランク冒険者の控除もあるから、まあ、上手くお上とも付き合っているって感じかな」
「その控除、消えたんだけど?」
「“転職の神殿”の惨状を見た後だと、余計に世知辛く感じちゃいますよね」
もはや苦笑いするしかないデビィドとティエラであった。
社会構造が変わり、その過渡期にあるのが今の国状だ。
それに適応できなければ、社会の爪弾き者。
“英雄”と言えども、平時に適応できなければそうなってしまうのだ。
「だからこそ、あたし達にできる事は限られる」
「税金をキッチリ払って大人しくしていろ、くらいだよな」
「“節税”も程々に! 許容できない脱法行為は控え、同時に払うべきはスパッと払う。そうすれば、お上はあんましうるさく言って来ない」
「そうだな。それは身に染みているぞ」
デビィドはわざとらしく肩を竦める。
なにしろ、その監査のせいで税金を搾り取られ、素寒貧になってしまった。
自分に手落ちがあったとはいえ、ここまで搾り取るのかと呆れ半分、怒り半分の状態だ。
しかも、その搾り取った張本人の片割れが、目の前にいる。
そう、魔王リボンちゃんだ。
無敵状態でなければ、本当に一発かましてしまいそうなほどに、デビィドの苛立ちも募る。
見た目は幼女、中身は悪魔。
それこそがリボンちゃんだ。
早くどうにかしたいと、焦りだけが蓄積されていった。




