第42話 所得とは (1)
脱税、裏金、不正資金。
魔王リボンちゃんの口から漏れ出た不穏当な言葉の数々。
魔族の言葉を真に受けるつもりではないが、それでもかなり耳目を集めるのには十分すぎる程の威力だ。
勇者パーティーは驚き戸惑うが、ただ一人、ティエラだけは冷静だった。
「だいたい読めてきたわ。要するに、テンプル騎士団の上層部は、特権を利用して私腹を肥やしてきた。んで、ジャン陛下がそれを疎ましく思いつつも、組織が巨大すぎたので手が出せず、手をこまねいていた。そこに“悪魔の囁き”が入る。『あいつらをぶちのめす事が出来ますよ』と」
「さすがは大魔導士にして賢者たるティエラだ。即座に気付くか」
「巨大な資金、数々の特権、他者を寄せ付けない軍事力や組織力、それらに裏打ちされた権威や権力。これだけ条件が揃っているんだもの。腐敗しない方がおかしい」
「その通り。経営者、資本家側に立っているお前になら理解できるだろうな」
「……まあ、ね」
ティエラの表情が曇る。
あまり触れて欲しくない事は明白であり、それだけに魔王の笑みが恐ろしい。
「ククッ、まあ公にはできんだろうが、ここの農場も色々と“誤魔化し”はやっているだろうな。騎士団ほどではないが。(*≧艸≦)フフフ 」
「そりゃね。カード決済が主流になった今でも、“農家”は現金、現物での取引が多い。帳簿を弄って、“経費”に紛れ込ませている別用途の物品が結構あるわよ」
「農家であるなら、さもありなんと言ったところか。“とーごーさん”だしな」
何やら意味深な会話を交わすティエラとリボンちゃん。
他3名は完全に置いてきぼりだ。
「なあなあ、ティエラ、“とーごーさん”ってなんだ? 海獣クラーケン退治のときに世話になった、王国海軍のトーゴー提督の事か?」
「違う違う、そうじゃないです。ん~、簡単に言いますと、実際に存在する所得の大きさが“10”であるとして、そのうち税務署やら国税局なんかの公的機関が把握している“職業別の割合”の事を“10・5・3”って言うんですよ」
「職業別?」
「カード決済が主流になって、銀行振り込みが当たり前になった昨今。以前に比べて、“個人”の金の流れは把握しやすくなったですよね?」
「だよな。『個人証明札』が銀行口座と紐づけにされて、賃金の支払いも振込だし、手続きすれば、税金の自動引き落としもできるんだっけか」
「なので、“雇用人”の所得は完全把握。“10割”と言う事です」
「あ~、そう言う話か。なら“5割”や“3割”は?」
「“5割”は事業者の所得、“3割”は農家なんかの一次産業の経営者の所得」
「つまり、役所は半分以上、所得の実態を把握してないって事か!?」
「さっきも言ったけど、現金、現物取引があるから、口座振込だけの“雇用人”と違って、実態把握が難しいって事でもあるのよ」
「その状況を利用して、“ちょろまかしている”って事か!?」
「まあね。本来、売り上げに計上しなきゃならないものを“不記載”にしたり、あるいは事業外使用の物品購入を“経費”として処理したりね」
「そんな事やって儲かるのか?」
「ええ、儲かるわ。正確には、税金が安くなるって言った方が適切かしら」
「税金が安くなる?」
「事業者の場合だと、物品の販売やなんかの売上が“収入”で、物の仕入れや人件費やなんかのコストが“支出”になるのよ。そして、収入から支出を差し引いたのが儲け、つまり“所得”になる」
「ふむふむ。それで?」
「そんで、その“所得”から税金が計算される。例えば、年商1000万マネイの店があるとして、支出が800万マネイだとすると、年間200万マネイの儲け。これが所得として計算される。そして、“所得税が2割”だとすると、40万マネイが税金として支払う計算になるわ」
「なるほどね~。んで、“不記載”にするとどうなるんだ?」
「もし、何かしらの方法で200万マネイ分の収入を、帳簿に記載しなかったとします。そうなると、どうなりますか?」
「年商1000万マネイが800万マネイになる! 支出と相殺されて、一年間の所得が“0”になるって事か!?」
「つまり、“所得なし”って事で、税金を取れなくなる」
「あ……! ティエラの実家が税金ほとんど払ってないってのは、そういうカラクリだったのか!」
心にしこりが出来ていた部分が氷解し、デビィドは思わず声を上げた。
(帳簿の上で)収入を減らし、(事業外で使用する)支出を増やす。
これで税金が、正確には税金の参照値となる“所得”を減らせるのかと思い知った。
「最近はカード決済が当たり前になって、“雇用人”の給与は銀行口座への振り込みになった。だから、税金のごまかしができなくなったのよ。何かしらの“副業”でもない限りはね」
「まあ、そりゃそうだわな。全部銀行で金の出し入れやカード払いで買い物してたら、履歴が全部残っちまうし」
「だからこそ、そうした記録に残さないために、“現金・現物での支払い”が未だに根強く残っているのよ」
「記録に残らないからこそ、収支を誤魔化せるって事か!」
手間ではあるが、もし万単位、あるいは億単位での誤魔化しができるのであれば、労を惜しむべきではない。
“本当の金持ち”とは、金の為なら記録より記憶に重きに置いているのだと、デビィドは思い知らされた。
誰も知らない自分だけの金脈、それが金持ちと呼ばれる者の本当の財布なのだと。




