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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第31話 結婚詐欺

「残念だけど、ティエラちゃんは勇者様と結婚できないの~♪」



 実にいやらしい口調でティエラの耳元で囁くペコニア。


 その笑みはまさに悪魔。


 じわりじわりとなぶるかのような物言いだ。



「フンッ! 何を言い出すかと思えば! 好いた惚れたは人の勝手! 結婚云々もあんたなんかにどうこう言われる筋合いじゃないわよ!」



「まあ、ティエラちゃんの言う通りではあるんだけど、あなたさぁ、もう結婚しちゃっているわよね?」



「だから、離婚するって言ってんのよ!」



「あら~、モロコスのお兄さん、捨てられるんだぁ~」



「端からそのつもりだったし、モロコスも承知の事よ!」



 実際、モロコスも頷いてティエラに賛同している。


 そもそもの話として、この2人が結婚したのも、“300人の孤児”を引き受ける受け皿を用意するためのものだ。


 “大人の難民”であれば、年季奉公の契約を結び、農場で働かせて、期間が切れたらそのまま放出。


 開墾した土地を“のれん分け”して、自営農としてやっていく道筋まで立てる事も出来た。


 しかし、引き受けた300人は“10歳未満の子供”であるので、年季奉公の契約を結ぶ事ができない。


 親、あるいは後見役とセットでなければ、ただの孤児。


 孤児院であれば、そこで働く職員が親代わりとなれたし、なにより騎士団や修道院からの援助や保護を受ける事が出来た。


 だが、それは失われた。


 新たな受け皿が必要となる。


 そこで、ティエラとモロコスは結婚して夫婦となり、その300人をまとめて養子にすると言う荒業で“器”を用意したのだ。


 重要なのは“器”であって、“夫婦の関係”ではない。


 “器”を他で用意できるのであれば、結婚と言う状態にこだわる必要はないのだ。



「なるほどね。んで、モロコスと別れて、勇者様と結婚する。あなたにとっては望むべき未来ってところかしら?」



「ええ、そうよ! 300人分の養育費や最終的な独立を考えての農地の確保は結構大変だけど、勇者パーティー舐めんじゃないわよ!」



「まあ、ここ最近の動きを見ていれば、それが口からの出まかせではなく、本当にやっちゃいそうなのはさすがと言うべきね」



 実際、4人が再集結してからの動きは凄い。


 常人の開拓団であれば、1年はかかりそうな作業も、勇者パーティーにかかれば1日、2日で片付いてしまう。


 デビィド、ティエラ、モロコスの開墾作業はとんでもない速度で進んでおり、目標である“5年後までの農場整備”は余裕で間に合いそうな速さだ。


 スオーラの手掛ける“パワーレベリング業”も順調であり、それに付随して、ティエラの実家が経営する商業施設も稼ぎが増えている。


 土地も、資本力も、十分に確保できている。


 その点ではペコニアも称賛を惜しまない。


 ただ、視点が少々、いびつなだけだ。


 「畜産物はちゃんと太らせてから(・・・・・・)食べるべきだ(・・・・・・)」と。



「申し訳ないんだけどさぁ~、ティエラちゃんとモロコスの離婚、“今”やるとかなり不利な状況になるわよ」



「不利な状況?」



「強いて言葉にするなら、“結婚詐欺”かしら。補助金や控除の略取って感じで」



「何を根拠に!?」



「ん~。これよ。ここの役所の書類、これこれ」



 そう言って、ペコニアは伯爵領の役場から持ち出した書類の写し(・・・・・)を見せ付けてきた。


 何のものかと思えば、それはティエラとモロコスの“婚姻届”や、あるいは“養子縁組”に関する事で提出した書類の数々だ。



「これが何だっての!? 書式はちゃんと整っているはずよ!」



「ええ、その通りね。書き損じなし。内容の瑕疵かしも一切ない」



「だったら、これのどこが問題だっていうの!?」



「フフッ、“完璧”だからこそ、“今の2人”を縛ってしまうのよ、これ」



 そして、ペコニアは書類の一点を指さす。


 それは“扶養控除”と“育英助成金”に関するものだ。



「こ、これ! ちょっと、モロコス、これ、署名しちゃったの!?」



「…………? これが何か? ほら、それがしとティエラで役所の窓口に行った時、窓口の人が『お子さんはいらっしゃいますか?』って」



「…………! それで『はい』って答えちゃったの!?」



「ああ。実際、養子がわんさかできるし、『それならこちらに署名をしておいてください』って」



「それはマズい! 補助金や控除を受け取った段階で即離婚なんて事になったら、そりゃ結婚詐欺だって思われるわよ!」



 法律上は可能ではあるが、それをやってしまうとお上に(・・・)睨まれる(・・・・)


 今の嫌疑をかけられている状況で、余計な火種を生む事は、延焼の恐れがある。


 扶養控除や育英補助金を貰うだけ貰って、即離婚ではスジが通らない。


 まして、通常では有り得ない“子供300人分の控除”である。


 詐欺だなんだと嫌疑をかけられる事になるのは明白だ。


 そこまでモラル欠如の露骨な行動ができるほど、ティエラは図太くはなかった。



(窓口の人も“善意”で尋ねて、助成金の手続きをしてくれたんだろうし、モロコスも馬鹿正直に“表面上の状況”から答えて署名したんだろうけど、今の状況では完全に裏目! 助成金の小金・・のせいで、離婚が難しくなった!)



 仮面夫婦のつもりで、“器”ができたら離婚するつもりであったのが、やりにくくなってしまった。


 助成金を貰うだけ貰って即離婚。


 ペコニアの指摘通り、これでは間違いなく“結婚詐欺”の一種だ。


 しかも、金品をふんだくる相手が、公的機関と言うのが余計にヤバい。


 特にモロコスはお取り潰しとなったテンプル騎士団の生き残り。


 特赦で放免という事になっているが、それが“結婚詐欺”を働こうものなら、特赦の取り消しになっても不思議ではない。


 今、離婚をすると面倒事を更に引き寄せる事になる。


 考えていたこれからの計画プランが崩された瞬間となった。

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