第28話 意見の相違
「“共謀罪”が成立しないように縁切りしてから、ペコニアを攻撃する。そうすれば、他の3人は解放される」
モロコスの覚悟をそのまま表に出した意見だ。
しかし、それを受け入れる程、勇者パーティーの顔触れは薄情でもなかった。
「バカ言わないで! そんな事、出来る訳ないでしょ!?」
ティエラの叫びに、デビィドもスオーラも頷く。
この4人の連帯感は強く、魔王討伐まで苦労に苦労を重ねてきたパーティーだ。
だからこそ、仲間の犠牲を前提とした策には拒否感が強い。
だが、モロコスの意志は固く、逆に他のメンバーを睨み返した。
「安心しろ。言い出しっぺはそれがしだ。その役は引き受ける。こっそりと強化を貰って、必殺の間合いから一発かましてやればいい。愛用の“竜殺槍”は騎士団解散のゴタゴタで没収されたままだが、この鍛え抜かれた肉体がある!」
「却下よ、却下! 仲間一人に罪を被せて、のほほんって気にはなれないわね!」
「だが、一番効率的であるし、ペコニアの“順法闘争”の名を借りた王国内での暗躍を防げるのだ。やってみる価値はあると思うが?」
「やってみる価値はあっても、あたしの価値観にはそぐわない。勝利の美酒と御馳走は、みんなで味わってこそ何物にも代えられない美味になる」
ティエラもまた、モロコスを睨みつける。
有効な策ではあっても、犠牲を前提とした策は容認できないのだ。
「……生贄が必要と言うのであれば、私が引き受けましょう」
「スオーラまで!?」
「孤児を300人、引き受けたティエラに犠牲を強いてしまったのは私ですからね。それの恩返しができるのでしたら、安い代償ですわ」
「あたしが勝手に引き受けただけよ。代償とかどうとか、そういうのはいいから!」
「ですが、ペコニアを放置できないのも事実でしょう? あの悪魔は契約を盾にして浸食し、しかも契約の穴を突いてくるのもまた悪魔なのですから」
「それは分かっているわよ。いつまでも“順法闘争”をして来るとも限らないし、いずれ仕掛けてくると考えている」
「だからこそ、先手を打って潰しておくべきでは?」
スオーラもモロコス同様、意志は固い。
何しろ、ようやく手にした平和の時代にあって、地獄を見てきたのもまたこの二人なのだ。
魔王を討伐し、古巣に帰ってみれば、あらぬ罪を着せられて上司や同胞は全員、火刑台や牢獄送りになってしまった。
自分達だけが平和を享受するのは忍びない。
そう感じているのがスオーラだ。
モロコスもまた、それに賛意を示してか首を縦に振る。
この二人の覚悟はとうの昔に固まっていた。
だが、それに待ったをかけたのが、デビィドだ。
「二人揃って、自棄を起こしているようにしか見えんな」
「そう言える根拠はなんだ?」
「ちょいと前の自分自身を見ている気分になっているからだよ。まあ、俺より真面目な分、ちゃんと働いているのはさすがだが、暗い部分を抱えるいるって点じゃあ変わりねえ。だから、献身だの、自己犠牲だのと、安易に宣える」
「身近な者を理不尽に奪われればこうもなろう」
「かもな。俺も爺さんに別れを告げられなかった。あの人がいたからこそ、俺は英雄になれたんだ。その恩恵に浴する前に、爺さんはあの世へ行っちまった。それがどうにも我慢ならなかったしな」
デビィドが自棄を起こし、自堕落に陥ったのはその点だ。
唯一の身内である祖父にこそ、平和な時代を味わってほしかった。
魔王軍とはそれこそ50年に渡る闘争を続けて来て、その最前線で戦ったきた者達こそ、祖父の世代なのだ。
亡くなった先王リシャールにしてもそうであり、戦って戦って戦い抜いて、その集大成として“勇者”が存在する。
祖父からは剣技を受け継ぎ、魔王を倒す一撃を得るに至る。
先王からは数々の援助を受け、魔王討伐の冒険の際には大いに助けられた。
その意志の連続性、事業の引継ぎこそ、人間の最大の武器だ。
圧倒的長寿を誇る魔族とは違う、魂の継承だ。
「それを税金がどうのと言われる筋合いわねえってこった!」
「まあ、勇者様の場合は、完全に手続きの不備ですけどね」
「それを言われると辛いんだが、その税金を理由にペコニアに良い様にやられるのは気に食わねえって話だよ!」
「それについては同感なんですけどね」
とにかくペコニアを倒すと言う点では一致しており、この点ではブレはない。
ただ、どうやって倒すのかで意見が割れているのだ。
デビィドの場合、“納税者”であるため、“徴税官”には一切手出しができない。
当然、選択肢としては“順法闘争”の一択ではあるが、頭脳や知識がペコニアには手も足も出ない。
自然と、その思考はティエラに沿う形となる。
ティエラもまた“順法闘争”以外に有り得ない。
なにしろ、下手な行動は失うものが多すぎるため、法律に則ったやり口しかできないと言った方が正しい。
実家の農場、300人の孤児、これだけでも重すぎる。
逆に失うものが“己の命”以外に無いのがスオーラとモロコスだ。
テンプル騎士団の解散によって居場所と名誉が破壊され、道を失った。
唯一気掛かりな“孤児達の行く末”も、ティエラの手に委ねる事が出来た以上、何の憂いもなく自分を犠牲にできる。
名誉も、財産も、居場所も、同胞も、すべて失ったからこその脱法行為上等だ。
その点をティエラは危惧し、一手、“予防線”を張る事にした。
「とにかく、今は情報が不足していると思うの。ペコニアが領主様と連名で書簡を出して来た以上、あたしを標的をした何かを仕掛けてきたと判断するわ」
「だろうな。んで、当事者として、ティエラの意見は?」
「召喚された以上、呼び出しには応じないといけないから、あたしは領主様の所へ行く。勇者様とモロコスも、同行して欲しい」
「それは良いにしても、スオーラは?」
「予約の客、捌き切れてないでしょ? そのまま“パワーレベリング”を続けておいて欲しい。子供達への出費もそれなりだし、現金収入は多いに越した事はないわ」
これがティエラの策だ。
自己犠牲を口にするスオーラとモロコスを別行動にさせる。
ペコニアを前にして暴走したとしても、“片方”であれば自分とデビィドで止める事ができるという判断だ。
二人同時に暴走されては制止も難しくとも、どちらか一人だけなら何とかなる。
そして、スオーラには“何より子供達の事を優先する”という志向がある。
子供達のために稼いできてとでも言い含めれば、それには逆らえない。
実際、“パワーレベリング業”は盛況であり、予約客は何組も待っている状態だ。
円滑に回り始めた新業種、ここで止めてしまうのはあまりに惜しいし、予約の破棄などと言うものは信用問題にも関わる。
その流れを断つべきではない、それがティエラの判断だ。
結局、スオーラはこの意見を渋々ながら引き受ける事となる。
そして、この決定がなされた翌日、デビィド、ティエラ、モロコスの3人は領主の屋敷へと向かった。




