第27話 出頭命令
「出頭命令? 領主様からの?」
それはあまりにも唐突な出来事であった。
勇者パーティーのここ最近の作業ルーチンは、デビィド、ティエラ、モロコスの3名が開墾作業に従事し、スオーラが“パワーレベリング業”で『黄泉平坂の洞窟』に他の冒険者と出かけるというのが日課になっていた。
再会から1週間、毎日がその繰り返しだ。
スオーラが帰還するのを見計らい、街道沿いの宿屋で落ち合って今後の行動についての話をするという流れだ。
そして、いつものように宿屋で落ち合い、酒場の奥まった席で話をしていると、ティエラの弟ティモシーが駆け込んできた。
その手には“召喚状”と書かれた手紙が握られており、差出人はここら周辺の領主であるインジェヌオ伯爵シャルルの署名がされていた。
それだけなら特に問題もなかった。
領主からの呼び出しなど、さして珍しくもないし、何かしらの指示や相談事を持ちかけられる事もままあった。
だが、その領主の署名の横に、“徴税官”の共通刻印である“金貨を乗せた天秤”が押印されていた事だ。
「姉ちゃん、どうすんの、これ?」
「どうもこうもないわね。ペコニアめ、ここ数日、何の動きも見せてないと思ったら、領主様を抱き込んでいたってわけね!」
ティエラからすれば予想の範囲内ではあったが、抱き込む速さが尋常ではないというのが正直なところだ。
領主の下へ赴き、これを説得して抱き込んで、早馬を飛ばしてここに知らせる。
これらを時間的に逆算すると、ほぼ最速最短で動いた事を意味する。
何かしらの事情で脅されたか、あるいは利益で釣ったか、それとも甘言に乗せられてしまったか、いずれにしてもペコニアの手腕を認めざるを得ない
「ティモシー、この件は私が預かるって、父さんや母さんに伝えといて。個人的な事情もあるしね」
「分かった! 伝えとくよ!」
「んで、領主様のところへ明日から向かうから、数日留守にする件もね」
「あいよ!」
ティモシーは威勢よく返事をして、店を飛び出していった。
それを見送ってから再び顔を見合わせる4人であったが、一様に「さて、どうしてくれようか」という表情で一致していた。
暴力に訴えれば余裕で勝てるが、そう言うわけにもいかないご時世。
税金を納めるのが嫌で、徴税官をボコボコにしましたでは、余裕の犯罪案件だ。
「まあどのみち、“徴税官”のスキルもあるからな。“納税者”になっちまった俺じゃあ、手も足も出んな」
「あ~、納税者に対して無敵になったり、強力な権限を行使できるってやつですよね。実際、どうだったですか?」
「本気で殴りつけたのに、薄布みたいな“壁”に防がれて、相手はノーダメージだ」
「うは~、格闘術の心得もあるレベル50勇者の拳打をノーダメージとは、その効力は本物ね」
「それこそ、【滅びの炎】を連発しても、防げるぞとドヤッってたな」
「物理も魔術も完全耐性ってわけね。まあ、“納税者”に限定されてるけど」
範囲は狭いが、範囲に収まる者に対しては無敵になれる。
現状、ペコニアは憎き勇者に対して無敵状態である。
この一事だけでも厄介極まるというものだ。
そこにモロコスが挙手をする。
「ティエラ、仮定の話だが、現在ペコニア視点で“納税者”は、デビィド一人だけ。つまり、他の三人に対しては無敵状態ではない。この状況を利用して、ペコニアに攻撃する事はできないのか?」
「可能だと思うよ。“犯罪者”になる覚悟があるんなら。殺人、傷害、加えて徴税妨害の共謀罪、色々と付いてくるわよ~」
これが順法闘争をしてくるペコニアの優位性だ。
法律の枠内で戦うからこそ、法の保護を受ける事ができる。
国民である以上、魔族であろうとも関係なく適応される。
ゆえに、脱法行為、違法行為は厳禁だ。
“暴力”に訴えた時点で負けなのである。
お縄を頂戴して、良くて牢獄、悪くすれば火刑台へ直行だ。
だが、それを踏まえた上で、モロコスはさらに踏み込んできた。
「だからこそ、だ。“共謀罪”が成立しないように縁切りしてから、ペコニアを攻撃する。そうすれば、他の3人は解放される」
掟破り、違法行為のモロコスの意見だ。
理由なき暴行は、当然ながら罪に問われる。
それでもと考えるモロコスの、覚悟の現れる提案であった。




