第26話 それぞれの事情
「なるほど……。テンプル騎士団の解散で、スオーラもモロコス同様、素寒貧になっちまったって事か」
結局はそこに行きつくのかと、デビィドは腕を組んで唸る。
自堕落な一年を過ごしている内に、とんでもない事態になったものだと、今更ながらに後悔をしていた。
仲間からの手紙、新聞や掲示板の情報、それらの内、一つでも目を通していれば気付けていたであろう事態だけに、過去の自分を説教してやりたい気分になった。
「私も、モロコスも、魔王討伐で得た賞金は、残らず騎士団や修道院などに寄付しましたからね。孤児院の運営には上部組織の意向もありますし、そのご恩返しと言う形での寄付でしたが」
「いくら二人が金に無頓着だからって、自分の手元に一切の金を残していなかったのは失策だったな」
「その点では軽率との誹りは免れませんね」
スオーラは何度下げたか分からぬほどに、ティエラやその家族に頭を下げてきた。
その回数が更に一回増えた。
300人からの孤児をいきなり引き取るのは容易ではない。
そもそも、各所にある孤児院から、ティエラの農場に子供を移送するだけでもかなりの手間であった。
それこそ“大魔導士”だからこそ、【飛行】や【瞬間移動】を連発して、割とすんなりできたのだ。
馬車などで移送する事になった場合は、どれほどの労力になるか。
考えただけで、頭が痛くなる。
運び屋組合に依頼すれば可能ではあるが、そうなるとかなりの金銭的コストがかかる。
“お友達価格(というか無料)”で引き受けてくれただけでも、スオーラとしてはその身を捧げねば恩返しができないほどだ。
しかし、問題となったのは300人に及ぶ孤児の扱いだ。
運営ができなくなった孤児院に放置はできないからと、ティエラの実家に移送したのは良いにしても、問題は何と言っても“食い扶持”だ。
人は存在するだけで消耗する。
300人分の衣食住の確保が最優先となった。
「とりあえずだが、それがしとティエラが“仮面夫婦”になって、養子縁組するというのはどうだろうか? デビィドに手紙を出したが音沙汰もないし、早急に“器”を用意しない事には、子供達の立場が危ういし、こちらも危うい。最悪、人身売買の嫌疑がくるかもしれないし、養子縁組で確かな立ち位置を確保しておくべきだ」
モロコスが珍しく頭を働かせ、こう提案した。
ティエラとしては当初は渋ったが、結局は時間的猶予もなく、デビィドと連絡も付かないので、やむなくそれを受け入れた。
モロコスが所属していた“テンプル騎士団”の幹部が、少年少女にいかがわしい行為をしていた事は広く流布していた。
それからまだ日が経っていないのに、300人に及ぶ子供を公儀に触れない辺境地に移送したとなっては、本当に余計な騒動を引き起こす可能性が高い。
なんの疚しい点はないと、養子縁組を組む事で示した。
同時に、急ごしらえながら宿泊施設も作り、子供達が寝泊まりできるように整え、小作人の中から子供の面倒を見れるように人員の振り分けも行った。
一通り形が整うと、次は何と言っても“稼ぎ”が必要だ。
300人分の消費財が必要である以上、稼がねば資金がすぐに尽きる。
実際、ティエラの貯金もかなり消費してしまっていた。
しかし、そこは天下の“大魔導士”にして、“賢者”たるティエラだ。
現在の世情を上手く読み取り、スオーラに“パワーレベリング”を勧めて金策の手段を提供する事に成功。
また、宣伝広報にも力を入れ、“パワーレベリング業”なる新商売を始めたと方々に情報を拡散させると、たちまちに大盛況となった。
ティエラとしては、実家が経営する商業施設が利用され、売上に貢献してくれているので見事な共生関係を構築できたとガッツポーズだ。
孤児達の面倒、そして、新商売、いずれもが安定してきたのが、今の状況だ。
そこにデビィドが遅ればせながら合流し、しかも特大案件を携えてやって来た。
魔王リボー(リボンちゃん)の転生、ペコニアの襲来である。
「まあ、どう考えても、“金欲”のペコニアはこちらに嫌がらせしてくるよな。それも“合法的”にな」
そう言い放つモロコスの表情は暗い。
もし、ここの4名が全力で戦えば、ペコニア討伐は余裕で出来る。
魔王すら倒した4人であるので、その側近をどうこうできないはずもない。
問題は、ペコニアもそうであるし、転生した魔王もまた、“王国の国民”になっていると言う点だ。
国民同士の騒乱は厳禁であり、下手に手を出せば、傷害罪、殺人罪が付いてくる。
そのため、法律の枠内での“順法闘争”が主戦場となるが、そうなると一層不利な状況が付いてくる。
ペコニアが“徴税官”になっている、この点が最大の懸念材料だ。
根掘り葉掘り調べ上げられ、金銭的に締め上げてくるのは確実。
すでに、デビィド、スオーラ、モロコスは素寒貧、預金残高“0”だ。
ティエラもここ最近の案件で、資金がかなり目減りしている。
デビィドは王都に不動産を所持しているが、相続手続きの不備で没収寸前。
帰る家を失う事となる。
自然とマシな状況のティエラの下へと集結する事となったが、結果として彼女にとんでもない重荷を背負わす羽目になった。
「まあ、勇者様の話を聞く分だと、転生した魔王リボンちゃんは放置しても問題ないと思う。“未成年”だし、下手に手を出したらペコニア以上に危ない事になるわ」
「俺としては、早めに対処したいけどな。転生して1年で、もう5、6歳児くらいにまで成長してんだぜ? 普通の人間じゃ、有り得ん成長速度だ」
「懸念はあると思うけど、どのみち、勇者様がカードで確認した高レベルのスキルや魔術も、使うためのリソースのない“魔王の赤子状態”なんだし、無視一択よ」
「陛下と交わした“契約”もあるから、こっちにゃ直接ぶっ放せんだろうしな」
「それをあちらも弁えているからこその“順法闘争”。あくまで法律の枠内での戦いになるわ」
「結局、税に関するあれこれで仕掛けてくるペコニア対策が最優先って事か」
「力押しじゃ勝てないから、降伏して王国内に紛れ込み、“順法闘争”でこちらの無力化を図る。勝てない戦から、勝てる勝負に切り替える。切り替えの早さはさすがと言わざるを得ないわね。さすがは魔王軍の参謀役」
「なお、決戦時に魔王城を不在にしていたのは、アイドルの追っかけやってたらしいけどな」
「何それ!? ウケるんですけど!」
「だろ!? マジで笑っちゃうよな!」
腹を抱えて笑い出すデビィドとティエラ。
それに釣られてスオーラとモロコスも笑う。
つい一年前まで、当たり前のように繰り広げられた光景だ。
そうした雰囲気が、勇者パーティーの再結成を実感させた。
しかし、それもある種の空元気でもある。
正直に言えば、分の悪い戦いなのだ。
今度の戦いは“資本”と“法律”が物を言う勝負だ。
にも拘らず、その戦いに長けているのが、と言うより唯一の全力はティエラの頭脳だけと言う有様だ。
他3名は足手まといレベルの金勘定の疎さと法律への無知。
自然と重圧はティエラの両肩にのしかかる。
だが、このパーティー最年少の大魔導士は弱音を吐かない。
金貨の詰まった袋でペコニアを撲殺する気満々だ。
見ていなさいと意気込むティエラであった。




