第25話 再集結
「お前らなぁぁぁ!」
デビィドはまんまと騙された事に、抗議の声を上げる。
そこはティエラの実家が経営する総合商業施設だ。
それだけ聞けば、大層な施設かと言うと大した規模ではない。
宿屋兼酒場を中心に食料品店や薬屋、鍛冶場が並んでいる程度だ。
空いたスペースを利用して、行商が露店を出しているのも見受けられる。
街道沿いに建てられているため、人の出入りもそれなりといったところだ。
その宿屋にデビィドはやって来たのだが、それは旅仲間のスオーラがここで“身を売っている”と聞き付けて心配してやって来たのだ。
だが、それは完全にデビィドの誤解だ。
意味深な言葉の数々、そして、ティエラやモロコスの苦悶の表情。
それらを見て、デビィドが騙された。
スオーラは売春などやっておらず、いつも通りの“冒険稼業”で稼いでいたのだ。
ただし、少々特殊なやり口で。
「いや~、まんまと騙されましたね、勇者様!」
「あのなぁ……、普通、“宿”とか“客を取る”とかの言葉を並べられたら、想像するのは“売春”だろうが! なんだよ、“パワーレベリング業”って!?」
「言葉通りの意味ですよ。パワーレベリングを請け負う人の事」
パワーレベリング、その言葉の意味はデビィドも理解していた。
要するに、低レベルの冒険者をレベルに不釣り合いな危険な狩場に連れ出し、そこで経験値稼ぎをする行為だ。
高レベルの冒険者がおんぶに抱っこで面倒を見て、低レベルの冒険者に経験値を稼がせ、一気にレベルアップを図るやり口であり、何かしらの事情で新規加入してパーティーのレベルに合わない新人を鍛えるのに使われる手法だ。
デビィド自身、それをやっていた事もあった。
“勇者”は転職できない事になっていたが、他のパーティーメンバーは別。
基本職から上位職に転職する際には、レベルを大きく落とす事になる。
ステータスは落ち、戦力として心もとなくなるが、そこは“パワーレベリング”の登場だ。
レベルが低かろうが、お構いなしに危険な狩場に出かけ、経験値を一気に稼ぐ。
まともな戦力になるまでレベリングして、それからこなすクエストの難易度を元に戻すと言う事をやって来た。
それをスオーラが“個人”でやっているのだと言う。
「ほら、ここってさ、高難度ダンジョン『黄泉平坂の洞窟』があるじゃない。あそこを狩場にしているのよ」
「あ~、あそこは不死系モンスターが無限湧きするからな。稼ぎはドロップアイテム狙いオンリーになるけど、経験値目当てなら最適か」
「特にスオーラの【悪霊退散】が大活躍ってわけ。レベル45の浄化の一撃に耐えられるモンスターはあそこにはいない。唯一の例外は雷精霊くらいだけど、そこは電撃耐性の装備で固めておけば無力化できる」
「おまけに、仮に死んでもスオーラは【蘇生】を使えるから、その場で蘇生も可能っと」
「毒や呪いの類も、スオーラにかかればお茶の子さいさい」
「つまり、スオーラと低レベル冒険者でパーティーを組んで『黄泉平坂の洞窟』に行けば、互いにメリットになるって事か。安全に、しかも手早く経験値を稼げる」
「そう言う事! 低レベル冒険者だから、正規の報酬金は少ないけど、代わりにドロップアイテムは全部貰うって契約になっているからね。運がいいとかなり儲かる」
「『黄泉平坂の洞窟』に出てくるモンスターの共通のレアドロップ“黄泉の果実”は、錬金術の素材としては超優秀だから、結構な高値で取引されているもんな」
ティエラの入れ知恵だろうが、上手く金を回しているなと言うのが、デビィドの率直な感想だ。
酒場に併設されている商店には、『黄泉平坂の洞窟』のドロップアイテムであろう商品が並んでおり、それを買い付けに来た行商が物色しているのを見ていた。
スオーラを順番待ちをしているであろう冒険者の一団もたむろしており、宿屋や酒場は盛況だ。
そこで提供される料理も、材料はティエラの実家の農場や牧場からの仕入れであり、作物を上手く捌いているとも言えた。
また、順番待ちをしている冒険者パーティーに、仕事を出していたりもする。
順番待ちで暇を持て余すよりも、そこらをぐるりと一周して、小鬼が巣穴を作っていないか探して欲しいと言う依頼であったりする。
時間つぶしとそれなりの報酬があるので、冒険者はすんなり引き受けてくれるし、ティエラの方にしても農場の安全確保のための必要な出費と考えているため、まさに両者両得の仕事だ。
「いいな~。俺も“パワーレベリング業”、やろうかな」
「あ~、勇者様はダメ。向いてない」
「なんでだよ!?」
「だってさ、『黄泉平坂の洞窟』は地下だから、勇者お得意の風属性がまともに使えないわよ。おまけに電撃属性も雷精霊がうろついているから、吸収されるのがオチ。前にあたしらで行った時も、通常攻撃しかできなかったじゃん」
「そういやそうだったな。あそこの洞窟、俺との相性、悪かったわ」
「それに勇者様のスキルとかって、対ボス戦に適したもんですからね。パワーレベリングはとにかく経験値目当てのザコモンスター大量狩りが目的ですから、そう言う意味においても勇者様は適していません」
「ボスクラスだけを狩るのも経験値効率で言えば悪いからな。ドロップアイテム狙いならともかく」
説明を受けて、納得をするデビィドではあったが、それはそれで悩みだ。
預金残高をすべてペコニアに奪われたとあっては、とにかく金を稼がない事には始まらない。
最悪、このままでは相続するべき王都の自宅も競売にかけられかねない。
ティエラとここで暮らすのであれば、それでよいかもしれないが、今はやる気が戻っている状態だ。
もし、一年前にこの状態でいる事が出来たのなら、それこそ祖父の剣術道場を引き継ぎ、師範として流派を盛り立てていた事だろう。
その可能性も捨てきれないため、王都の拠点となるべき自宅を諦める気にもなれないでいた。
そんなこんなであれこれ思案をしていると、宿屋にスオーラが戻って来た。
いかにも低レベルな冒険者を3人連れており、疲労困憊といったところだ。
ただし、目的は達成されたようで、疲れてはいても3人は笑い合っていた。
「スオーラさん、助かりました! 今回のレベリングで“木こりマスター”の称号を得られるまでにレベルが上がりましたよ!」
「よっし、これでリーダーの転職条件揃ったな! 年内に達成できて良かったぜ!」
「念願の上位職“特殊部隊”になれるな!」
「でもさ、なんで“特殊部隊”になるのに、“木こり”の称号がいるんだろうか?」
「俺にも分からん」
「まあ、いいや! さっさと“転職の神殿”に行こうぜ!」
そう言って三人はスオーラに礼を言って、立ち去っていった。
そして、そのスオーラの手には、ドロップアイテムでいっぱいになった袋があり、ティエラの前でそれを広げて見せた。
「お~、今回の収穫もなかなかね!」
「むしろ、新記録ですわよ、ほら」
そう言って、別の袋も広げるスオーラ。
そちらの袋にはどす黒い果実が5つ入っていた。
「おお!? レアドロップ“黄泉の果実”が5つも!?」
「換金、お願いしますね」
「了解! 店やっている叔父さんに話通しておくわ!」
収穫は十分であり、金策クエストとしては成功と言っても良かった。
そして、スオーラはデビィドがいる事にも気付く。
疲れている事を感じさせず、にこやかな笑顔で再会を祝した。
「結局、また4人が揃ってしまいましたね」
「図らずも、な」
4人揃って訳ありの身になったが、それでもかつての旅の記憶が薄れていた一体感を醸していく。
徴税官に追われる勇者デビィド、地位も名誉も居場所も奪われた聖女スオーラと聖戦士モロコス、重たい荷物を抱え込む羽目になった大魔術師ティエラ。
意図せずにして、再び勇者パーティーは集結した。




